第233話ーー友よっ!!

 多分これでマッドサイエンティスト纐纈の件は全て片付いたはずだと、迷惑を掛けたなと師匠が俺と香織さんを呼んで頭を下げて来た。

 確かに纐纈は一全流の元組長だし、その長は師匠ではあるけれど、師匠に頭を下げられるのもなんか違うというか……モヤッとするものがあるよね。確かに第三者がこの一件を見たら正しいのかもしれないけれど、でもそうなると俺という存在が彼を暴走させたとも考えられるわけだし……全ては本人だと思うんだ。

 だから謝らないで欲しい。

 もしどうしても謝意を示したいというのならば、休日を少し多めにしてくれると嬉しいと思う、うん。

 まぁその辺は絶対に変わらないような気もするけどね。

 ただ当分は色々な事後処理が存在したりするので、ダンジョンへは潜らないそうだ……潜っている時間が取れないともいうんだけど。

 世界に発表されている表面上の現在の世界最高到達階層記録保持者は迅雷のメンバーだ。中国は滅んじゃったから、本来はアメリカのいくつかのチームが次点に位置するという話だったんだけど……今回の宇宙船サメ号襲来事件に巻き込まれたとか何とかって発表があり、日本以外の全ての国が横並びになったようだ。だから迅雷には世界中から新たなる記録への期待が掛かっているらしい……是非自力で頑張って欲しい。アイツらの保護者はなんか疲れたし。


 そうそう、アメリカは宇宙船サメ号の事は何もわからないと公式発表を出した。

 どこから、何を目的として、何故ホワイトハウスやペンタゴンを襲ったのか、何一つわからないとね。

 たださすが自由の国アメリカというべきか、それともこのSNSが発達した時代だからこそというべきなのか……同時期にアメリカ各地の軍事企業本社ビルが破壊されたり、大統領所有の有名なタワーがカットされている事を関連付けて、アメリカ政府が宇宙人に喧嘩を売ったための報復に違いないという論調がネットの中では熱く盛り上がっている。

 ただあくまでも相手は宇宙人であって、地球人が敵だとは考えられていないのは、ビルを刀でカットするのは人の為せる技じゃないという事かららしい。

 ……いつからだろう、ビルを刀で斬れるのを当たり前の出来事として捉えていたのは。

 ヤバイ、完全に師匠側の人間になっていたようだ。


 師匠たち曰く、アメリカをはじめとして事実を掴んでいる大国は絶対に今回の真実を公表する事はないそうだ。

 纐纈の件とかバラしたら日本のせいに出来て喜びそうなもんだけど……なんて思ったんだけど、どうやらプライドが問題となるようだ。つまり日本のたった数人にアメリカの中枢を完膚なきまでにやられたなんて……って事らしい。

 言われてみれば……確かに言えないよねそんな事。それにもし何も知らない国がそれを信じたとしても、同時にこれまで世界をリードしてきた大国がたった数人に落とされる程に弱い国だったなんて侮られる事になりそうだし。

 まぁ俺たちとしてはありがたいんだけどね、面倒くさくなくって。


 あぁそういえばサメ号も俺たちの物となった事で、無駄に宇宙船が3隻に増えてしまった。

 その事からじいちゃんが宇宙旅行に無駄に期待を膨らませているっぽいんだよね。

 なんか「星の海をサメで泳ぐのもありか」とかブツブツとニヤケながら呟いているし。どう考えても話題のサメで宇宙へと上がるなんて無理だと思うんだけど、少年のように目をキラキラとさせているから黙ってる。


 師匠は名古屋の本部で色々と忙しく、ハゲヤクザが伊賀や甲賀への一連の情報を伝えに行くと言うので、久しぶりにアマとキムに会おうと思って伊賀へとお邪魔している。


 アマとキムは相変わらず少し疲れた顔をしてはいるけれど元気そうだ。

 キムオススメの飲食店へとやって来たんだけど……伊賀牛専門店、しかも離れの和室で完全個室。お品書きには一切金額が載っていないし、なんか女将とか料理長って名乗る人がわざわざ挨拶に来たんだけど!?

 どれほどの値段がするのか……


「キ、キム……お前いつもこんな店利用してんの?」

「いや……来たのはまだ2回目だ。今回もヨコに会うって言ったら師匠が勝手に予約したんだよ」

「俺は初めてだ……」


 キムは店舗オーナーになった事で俺たちとは違う世界に住むようになったのかと思ったけど、どうやらまだまだこちら側の人間のようだ……うん、一安心。

 お師匠さんたちのアマとキム、そして俺へと労いの意味を含んでいるのでお金は気にせず好きに飲み食いしていいって伝言を受けたんだけど……3人ともやはり根っから貧乏性というか、孤児院暮らしで決して裕福な暮らしをしてきたわけじゃないせいか、多分稼ぎ的には余裕で払えるんだろうけれどほっとしたけれど、言われたように食べる事も出来なかったよ。


「で、若狭のクローンはいなかったのか?」

「ヨコのクローンはちょっと見てみたかった」


 アマたちには今回の騒動の全てを話した。

 まぁ全てとは言っても、人を殺害した話なんて聞かせる気もないんだけれどね。


「俺のクローンは……うん、俺に似て可愛かったけれど、性格は似ていなかったな。妙に女好きだったし」

「じゃあそっくりって事か……可愛いとか意味がよく分からないけれど」

「聞いてた?女好きだったんだよ?」

「自覚ないとか……可哀想に」


 おかしい……

 俺はずっと香織さん一筋で、全く女好きってわけじゃないと思うんだけどな。

 ただこの件はこれ以上突っ込むとなんかダメな気がするから言わないけれど。


 アマとキムの2人ともがアメリカ上空に現れた宇宙船サメ号事件はリアルタイムで見ていたらしい……ってか、仕事にならなかったそうだ。それほどまでに騒ぎになっていたらしい。俺たちは当事者で、しかも関係する一全本部の中で見ていたから気付かなかったけれど、世の中のほどんどがそんな感じだったみたいだ。

 2人は以前に色々俺から話を聞いていたし、次元世界の中で宇宙戦艦を見たり乗ったりした事から、今回の一連の出来事の全ての裏に俺たちの存在を感じてはいたらしいんだけど、当然周りにそれを言えるわけもない。お互い連絡をとって話そうと思っても、周りに少しでも人がいる時は話せない……という事で、めちゃくちゃ色々聞きたかったり話したかったりしたらしい。

 まぁ1番の質問は、エリア51には宇宙人の死体はあったのか?ってものが多かったし、食い付きがよかったんだけどさ。


 それでも、またこうやって3人で会って話せる事を喜んでくれたし、無茶はするなって心配してくれたのが嬉しい。

 こいつらの顔を見て笑えた事が、1番日常に戻った感を得られたし。


「それで……如月さんとは何か進んだのか?」

「……聞くな」

「「よかった……友よっ!」」


 良くねえ!!

 友よっ!じゃねえんだよ!


 前言撤回、嬉しいの半分腹立つの半分だ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る