第232話ーー宇宙人が襲来したらしい

 とりあえずサメ型船の中で……いや、正確にはサメ型船から次元世界へと入って一服している。


 分身たちからの情報では、地上部分どころか辺り一帯の全てが大爆発が起きたようで、俺たちが手を出していない兵士たちいたはずなのに生存者の1人さえ見つからないような状況らしい……どうやら政府は韓国国内にあった米軍基地に続きこの基地にいる自国民である兵士さえも犠牲にしたようだ。……いや、この基地は兵士ごと全て闇に葬ったって事だ。

 恐ろしい国だ……

 一部の利益を守るためにここまでするなんて。


 地下研究施設は爆破の余波がまだかなりあるようなので、落ち着くまではこちらで過ごす予定だ。

 施設に爆薬を仕込んであった事などの用意周到さを考えると、サメ型船にもきっと似たような物が仕組まれていたと思われるので、現在は分身たち総動員で爆薬などがないかを探している……師匠と一緒に。

 いや、爆薬のイメージって筒型の昔ながらのダイナマイトしか思い浮かばなかったんだよね……今時そんなアナログな爆弾を仕込んでいるはずはないという事で、でも俺にはわからないので……ってわけだ。まぁ師匠は分身たちが怪しいと見つけた物をYES・NOと判断するって形なんだけどね、師匠は1人だし。今のところ動力室からプラスチック爆弾とかいうやつが既にいくつか見つかっているらしい。ただ何故爆破されていないかというと、船をかなり深い海底へと移動させて置いた事で電波を受信しなかったおかげのようだ。


 これからの予定はというと、施設が落ち着いたところで10階にいる分身たちは瓦礫を退かしたりしながら纐纈や俺の培養器機を全て確実に破棄させると共に上下階の確認……重要な資料や黒幕に繋がりそうな決定的証拠を回収させるつもりだ。

 黒幕……まぁアメリカ政府だろう事は既に決定的なんだけどね。ただ現在アメリカ政府を滅ぼす訳にもいかないらしい……まぁそりゃそうだよね。中国が滅びた事により世界中に大混乱や経済的危機が訪れたりしているのに、ここでアメリカまで滅びたりしたら恐ろしく大変な事になるだろう事は想像に難くない。だからホワイトハウスやペンタゴンなどアメリカの象徴的な場所を、サメ型船を政府に見せつけるようにして使用ながら破壊する予定だ。俺たちの事は死んだと認識しているだろうから、きっとかなり驚いてくれるに違いない。

 で、報復はそれぐらいしか出来ないってのも腹が立つ。そこで決定的な証拠を握って今後俺たちはもちろんの事、日本政府などに難題を課して来たり、色々な政治的な案件で役立てようと考えているってわけだ。


 約1日ほど次元世界で過ごした後行動する事になった。

 やはり完全には破壊しきれてはいなかったようだ。実験体が奇声を上げつつ蠢いていたり、いくつもの重要そうな電子機器が稼働し続けていた。そして最下階……つまり地下12階に至っては入口こそは完全に塞がれていたけれど、中は全く爆発の被害はなかったんだ。そしてあろう事か、纐纈と俺のクローンらしき物が浮かぶ培養器が1つづつ。そして脳だけが浮かぶ培養器のような物が1つあったとの報告があった。


「完全に諦めたという訳ではなかったようだな」


 師匠がうんざりといった表情を浮かべながら吐き捨てるように呟いた。

 そして全ての培養器を切り捨てた後、俺に魔法で火を着けるようにと命じた。完全に燃やさなければ信用出来ないという事だろう……

 本当は炎獄を放ちたいところなんだけど、なぜ放たないかといえば更に下に階があるのではと師匠は疑っているようだからだ。

 そして分身を含めて俺たち自身で、隅から隅までコツコツと叩いて向こう側に空洞がないかと確かめたりしたんだけど何も見つからなかった。

 その代わり、軍高官の書名入り命令書などがいくつも見つかった。


「ふむ……ないか?」

「考えすぎじゃろう」


 本当にないのか?

 確かに師匠の言う通りに、ここまで来たら怪しい気もするんだよね。だけどここまでの研究施設を作るくらいだから、コツンコツンと叩いたくらいで空洞がわかるとか、そんな甘い造りでもないと思うんだ。

 そこで穴を掘ってみました……結果、100mほど下に、先程と全く同じような物があった。つまり脳だけとか、纐纈と俺のクローンらしき物の培養器が並んでいたんだ。

 更には研究員らしき人間が何人も居た……どうやらここは上からも来れるけれど、違う場所にも出入口が存在しているらしい。


 当然のように俺たちは全てを破壊しまくり、燃やしまくった。研究員は殺さずに確保しつつ尋問などを繰り返した結果、ここが本当の中枢であり先程まで俺たちがいた研究施設はダミーでもあったらしい。

 そして先程俺たちがゲットした、決定的証拠と思われる軍高官の書名入りの物もダミーだったらしい。そして本物だと研究員たちが命乞いと共に口を揃えて言った、大統領や政府高官たちの署名入り命令書や、アメリカの軍事企業との関係を思わせる物的証拠がいくつも見つかった。

 分身たちを出入口へと走らせたところ……そこは街の観光施設の1つだった事に驚いた。どうやらエリア51が陥落しているにも拘わらず街が大騒ぎになっていないのは、元々全てが政府と関係していたせいという事なのだろう。


 またここから徹底的に調べまくる事3日間。

 ようやく完全に何もないと、破壊し尽くした事を確認した後、俺たちはサメ型船に分身を必要数残してから一全本部へと帰還転移した。


 そして予定通りにサメ型船をゆっくりとアメリカ上空を泳がせる。

 アメリカは大混乱、そして世界も同じように大騒ぎ。日本も例に漏れず全てのテレビチャンネルがアメリカに現在起きている事件を報道している。


『アレは……あのサメは何なのでしょうか!?宇宙人が!宇宙人の襲来なのでしょうか!?』


 なんてみんな叫びまくっている。


 アメリカ国民の誰もが大興奮で、投光器を瞬かせてコンタクトを取ろうとする団体や人々がいたり、何かの映画で見た事があるようにビル屋上で輪になって祈ったりしているようだ。

 俺たちは本部の居間のテレビでそれらを見ているわけなんだけど、どこかのコメンテーターが我が物顔で宇宙人襲来説を語ったり、『アレは恐竜時代から生き残ってきた古代生物が、海底に出来たダンジョンから溢れ出たモンスターを食して進化した姿だ!』なんてドヤ顔で語ったりしているのを、バラエティー番組を見ている気分だ……真相を知っているって、一緒になってバカ騒ぎ出来ない分寂しいけれど、こういった面では楽しかったりするよね。


 そしてその騒ぎの中心であるサメ型船だけど、メディアの力が強いせいで撃墜する事が出来ないでいるようなので、これを機にまずはペンタゴンを船に付いている武装を用いて攻撃して半壊させた後、そのままホワイトハウスへとゆっくりと飛んで押し潰した。

 ここまでしてようやく空軍の戦闘機がいくつも飛んできたけれど、さっさと海へと戻して深海へと避難させて終わった。


 ペンタゴンからホワイトハウスへと移動させている間、師匠がスマホで何かを話しているなって思っていたら、どこから入手したのかは知らないけれどホワイトハウス中枢への直通電話をゲットして掛けていたらしい……爆破前に俺たちへと言ってきたように、『お前たちはやり過ぎた、ごきげんよう』的な言葉を伝えるために。


 サメ型船は海底へと移したけれど、アメリカにはまだ分身たちを大量に残している。今回のようにまだ隠している怪しい施設がある可能性も高いので、再度全土を虱潰しに探らせる事にした、ついでに破壊工作もね。もちろん南米の拠点も。

 更にアメリカが余計な事を考えないように、今回見つかった書類にあった全ての軍事企業の本社も半分に切り分けておいたし、大統領の名前が付いた有名なタワーの上の方を斜めにカットしておいたので、きっと静かになるだろうと思っている。

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