第231話ーー2人の結晶

「一応確認するがそれが本体か?」

「本体……何をもってして本体かそうではないかとするか。ふむ、例えばこの子らは横川くんであり、横川くんではないとも言える」


 変容した容貌の纐纈に警戒して構えながらも、師匠が念の為といった感じで問いかけたんだけど、まさかちゃんと言葉のやり取りが出来るとは思わなかった……やはりこれまでの実験結果が反映されているとかそんな感じなのかな?数十億という人間を消費した狂気に満ちた実験の……

 そしてなんか哲学的な答えが返ってきたよ……

 ってか俺がここに居るんだから、目の前の俺に似た子供2人は俺じゃないと思うんだ。多分俺に似た何かだ、きっと……うん。


「さて、御館様には久しぶりに稽古をつけて差し上げましょうかの。あぁ、山岡のや柳生のよ、昔は簡単にやられたが今回はそうはいかんぞ?」

「お前に稽古なんぞつけられた覚えはないな」

「頭でっかちがほざくな」

「儂の修行の前に泣いて逃げた小僧が吹きよる」


 どうやら師匠とハゲヤクザ、それとじいちゃん3人を相手にやるつもりらしい。

 まぁ腐っても……例え研究職であっても元一全の組長だったわけだから、それなりに戦えるって事だろうか?


「あんたたちの相手は私らがしてやるよ」

「そうだね……お姉ちゃんと呼ぶ割にはさっきから香織やうどんたちしか見ていないのはどうかと思うんだよ」


 えっ……

 そりゃ無理でしょ!?

 さすがに鬼畜治療師とばあちゃんをお姉ちゃん呼ばわりするはずなんてあるわけないでしょ!


「お、大きなお姉ちゃんより歳が近い方がいいかなって思って」

「僕はお姉さん2人もお綺麗だと思ってました!」


 ヤバい、クローン2人にめちゃくちゃ同情している俺がいる……

 カタカタ震えちゃってるしね。


「やっぱり一太のクローンだね」

「本当に……あれだね、根本的なところは変わらないんだろうね」


 おうっ……

 飛び火してきたよ。

 何をもって似ていると言っているのか……いや、考えないようにしよう。ろくな事じゃないっぽいし。


 パチンッ


 突然指を鳴らす音が聞こえてきた。

 鳴らしたのは俺のクローンだ、満面の笑みというかドヤ顔をしている。

 ってかこの光景前も見た事があるような……あぁ、若狭がやってたやつだ。


「この空間は、一切のスキルは使えなくなったよ」

「この空間は本来の場所とは切り離した場所だよ。ここで暴れる事によって大事な研究を壊されたら堪らないからね」


 やはり若狭が使用したスキルと同様のもののようなんだけど……

 ねぇ、もしかして俺と若狭って似ていたの?クローンたちが似たような言葉喋ったり態度をとるのがめちゃくちゃ気になるんだけど!?


「さて……では始めようか」

「ショータイムの始まりだ!」


 クッ!!

 言葉だけで精神が削られる……

 俺あんな事言ったことないんだけど……ないよね?


「一太くん大丈夫?」

「どうしたんだい?」


 俺の顔してとんでもない事を言っているのが恥ずかしすぎて思わず顔を両手で覆っていたら、香織さんたちに心配されてしまったよ。


 ダメだ、このままじゃ。

 とっとと終わらせよう!!


「えーお兄ちゃんがやるの?」

「お姉ちゃんたちが良かったんだけどな〜」

「一太、あんた大丈夫なのかい?」

「主様!私たちが!!」

「お兄ちゃんが居なくなっても、僕たちがいるから大丈夫だよ〜」


 他の誰にもやらせる事は出来ないと思う。

 俺がこの手で終わらせないと、このクローンたちの命は俺の手で終わらせないとダメだと思う。


「俺がやります」

「一太くん、無理しないでね!」


 香織さんたちが俺とクローンの3人から距離を取った所で、抜刀して構える。


「魔王ってね、魔法の王なんだよ。知ってた?」

「スキルが使えない空間で、魔法の王2人を相手に勝てると思うのかな?」

「僕たちの元って……頭悪いんだね〜悲しくなっちゃう!」


 やっぱりそうみたいだ。

 いや、クローンが頭が悪いのは俺のクローンだからって事じゃなくて……

 クローンは俺の記憶とかはないんだね。ただ単純に俺の顔や身体のコピーって事のようだ。

 逆に色々当たり前のように話せている纐纈さんは、きっと本体という事なんだろう……いや、決め付けは危ないか。もしかしたら何か記憶もコピーする技を確立している可能性はあるかもしれない、自分にしか使用してしないだけで。


 その纐纈さんはというと、150mほど離れた場所で師匠たちの戦闘が始まったようだ。

 うん……かなり強い。今のところハゲヤクザとしか刃を交えてはいないけれど、対等に渡り合っているように見える。


「余所見している暇はないよ」

「幽霊になってから見てね」


 横目で見ているのに気付いたらしい2人が、クローンAが火魔法を、Bが水魔法を刀のように顕現させて襲いかかってきた。

 確かに魔法の王かもしれない……

 若狭も同じ魔王だったはずなのに力で襲ってきたのに、こいつらは魔法なのは何か違いがあるのか……いや、そんな事はどうでもいいか。


 あくまでも魔法の刀だからね、刀に魔力を纏わせれば対応は可能なんだけど……何でそんなに目を見開いて驚いてんの!?

 なんか以前に突発型ダンジョンで出会ったモンスターのJOUNINさんに似てる気がするんですけど!?


「ふふふっ、じゃあこれはどうかな!?」

「魔法の真髄を見せてあげるよっ!」


 今度は接近戦じゃなくて、少し離れたところから魔法の弾を休みなく山ほど打ってくる事にしたようだ。

 だけど昔から魔法を弾いたり切ったり、跳ね返したりする練習はずっとしてきたからね。大した問題じゃない。


 やっぱりまた目を見開いて驚いてるね……

 なんだろう、本当にこいつら俺のクローンじゃないと思うんだ。あっ!でも顔はそっくりという事は……若狭のが混じったとか。うん?俺の細胞と若狭の細胞が交じって生まれたクローンって、その響きめちゃくちゃ嫌だな、なんか気持ち悪いし。

 うん、とっとと存在を消してしまおう。彼らは色んな意味でいちゃいけない存在だ。


 これまで以上に刀に魔力を纏わせて、一気に振り抜き降り注ぐ魔法を切り裂く。同時に近寄り、2人のその身を袈裟斬りにして2つに分けた。


 自分に似た顔を持つクローンと呼ばれる存在をこの手に掛けた事。

 何か特別な感慨があるかと思ったけれど、特にはなかった。ただ少しの虚しさがある……まぁこれはクローンだからって訳じゃなくて、人を斬った時はいつもなんだけどね。


 師匠たちも既に戦闘は終わっていたようだ。

 今は近くにある資料らしき物を手分けして収集しながら、培養している容器をどんどんと壊しているみたいなので、俺たちも合流して手伝う。


『ガタッ……あぁ〜聞こえるかな?Mr.オダ、ヤマオカ、ヤギュウ。そしてその仲間たちと勇者とヨコカワ。君たちが始末をしてくれて助かった。彼の発想は面白いものが多かったが、それ以上に少しやり過ぎた。軍部の暴走と共に、まさか中国や朝鮮半島を瓦礫に変えるとは思ってもいなかった。だが同胞にまで手を出すのはやり過ぎた。そしてその施設で今日までにまたやり過ぎたんだ。だからこれで終わりにしようと思う……君たちはそのままそこで眠ってくれたまえ。まぁ、ヨコカワ、君が手に入らないのは残念だが仕方がない。ではごきげんよう』


 監視カメラの全てを破壊したと思っていたけれど、どうも残りがあったみたいだ。そしてそこから今回の騒動を全て観察していたヤツがいて、そいつが本当の黒幕だったって事みたいだ。


『ごきげんよう』という意味を考えていると、ズズズッと何かが響く音が聞こえたと思ったら、まるで地震のように研究施設が震え出した。


「このまま生き埋めにするつもりのようだな」

「一太、まずは消えてしまった分身を出してここに数体潜ませろ。次に我らを次元世界へとしまって、外のどこでもいいから転移しろ」


 師匠の言葉に頷いて、みんなを仕舞ってから海底に逃したサメ型船に転移した。

 直後大きな音ともに研究施設の階の入口付近の壁が火を上げながら崩れたと思ったら、きっと最初から仕込んであったのだろう……部屋の壁全てが引火し続け爆発していった。

 そした全てが瓦礫に埋もれた。

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