第230話ーーやっぱり違うんじゃないかな!?

 


 もう相手の動きを待っているのは危険だ。次に何を企んでいるのかはわからないが、確実に受け身では良いようにやられてしまう可能性の方が高い。

 その事から、伊賀の密偵さんが纐纈さんを見つけたというブラジルに頼れる分身を900体派遣する事にした。再度潜入する密偵さんの影にこっそりと仕込ませて貰い……ね。


 ブラジルの首都であるブラジリアから放射線状に、正しくローラー作戦といった体で昼夜関係なく走らせ続けた。

 見落としがあってはいけないと、本来なら避ける場所……つまり民家も軍事施設も関係なく南アメリカ全土をくまなく虱潰しに。


 結果、怪しい研究所っぽい場所はいくつか発見したが、纐纈さんやクローン体は見つける事は出来なかった。その箇所は南アメリカ内に約6箇所。そこには分身を残してマーキングだけはしておいて、次に北アメリカ大陸へと分身の足を伸ばす事となった。

 そして探し初めて2ヶ月後、アメリカ合衆国ネバダ州にある空軍基地地下に南アメリカで発見した物とは比較にならない程の研究施設と、そこには問題のマッドサイエンティスト纐纈と俺のクローンがいた。更に明らかに人体実験を主目的としているような施設や器具、拘束された人々、中国から流出した実験体とそっくりな人々が大量にいたりもした。


 その場所の名はエリア51。

 そう、エイリアン系の映画などによく登場したり、近くにUFOが墜落したとかで有名な基地である。

 色んな噂があってその中には宇宙人を捕獲して研究しているとかあったけど、そんな事を思わせるような物は一切なかった……噂って当てにならないものだね。エリア51と知った時はめちゃくちゃテンション上がったんだけど、ちょっとガッカリしちゃったよ。まぁそのガッカリの中には、俺のクローンが山ほどいたりした事でテンションが下がったのもあるんだけどね……ようやく目当ての場所が見つかったわけなんだけどさ。

 あぁ、あともう1つわかった事がある。あのサメ型の船は決して海専用とかではなくて、俺たちが持つ船と同じく空海両用の物だって事だ。つまり基地内にあのサメが半地下になったドックのような場所に収まっていたのを発見したんだ……ここはそれなりの内陸部だからね、空を飛んで来たとしか考えられない。


 本来ならすぐにでも始末をつけに行きたかったが、そこはアメリカとしても最重要施設と考えられる事から何があるかわからないので、分身で調べれる事は最大限まで調べておいてから向かう事となった。

 なんたって施設の隅から隅まで、ほんの少しの死角すらないほどに監視カメラが設置されている……それは重要だと思われる研究施設の中までだ。更には銃を持った兵士が山ほどそこら中に立って見張っていもする。

 どうやら地下施設は12階ほどあるようなのだが、全く人の出入りのない階も多々あったり、監視カメラや兵士たちのせいで、分身たちを潜入させてから約2週間経つが未だに全容が掴めていない。

 だけど纐纈や俺のクローン作成場所はどうやらここのようだという事。影から出られず机の上の書類などはしっかりと確認出来ないけれど研究員たちの会話から推測すると、ダンジョンへ影響を与えるであろう魔法陣の研究もここで行われており、実験は同じ敷地内にある10階層しかないダンジョンを使用している事などがわかった。また以前俺と香織さんを襲ってきたような、骨などをモンスター由来の物に変えたりする手術も、基本的にここで行われている事。

 ……つまりここは全ての元となっているという事だ。ここを二度と使用できないほどに陥落させる事が出来れば、かなりの大ダメージを与える事が出来るであろうともいえるだろう。


 どうやって攻めるか。

 まず分身を目標として転移するわけだが、監視カメラが撮影している情報がどこへ流されているかはわからないため、下手に研究施設内に転移して次元世界を開けて師匠たちを呼び出すのはリスクが大きい。そのために基地近辺を巡回している警備車両の陰へと転移する事にした。

 次に色々な物を持って逃げられては困るので、サメ型船を奪取して分身に操縦させて海底深くへと移動させる事も重要だ。未だに宇宙戦艦らしきものが出来たとの発表は聞いた事がない事から、サメ型船も俺たちの宇宙戦艦と同様にダンジョン産だと推測出来る事から操縦も問題はないと踏んでいたが、やはり大丈夫だったようだ。

 その後はまず本来の空軍基地としての部分の制圧だ。サメ型船と同様に飛んで逃げられたりするのも面倒なので、戦闘機やヘリの破壊や兵士たちの無力化を行う。

 ただサメ型船奪取の時からになるが、全ては時間勝負でもある。連絡されてこちらが把握していない逃げ方などされた場合、色々後々大変な事になりそうだし……潜入している分身たちにもちろん対処はさせるが、それももしもという事があるからね。なので基本的には全て分身たちに動いて貰い、俺たちは纐纈や俺のクローンたちがいる場所へと全速力で向かっている。


 いくつもの厳重で分厚い扉を事前に調べてあったやり方や、師匠とじいちゃんを先頭にした強引な方法で無理矢理押し通り、同時に山ほどに設置された監視カメラなども破壊し続け走る。


 纐纈と俺のクローンがいたのは地下10階だった。

 そこに至るまでに見た物は、正直目を背けたくなるような物も多かった……

 分身を通じて既に確かに知ってはいた。だけど自分の目を通して見たそれらは、まるで人の狂気や欲望を具現化したような……おぞましい物ばかりだった……ダンジョンにいるモンスターの方がよっぽど美しいとも思えるほどに。

 ここに至るまでにすれ違った研究員や兵士たちの事を師匠たちは殺せと言っていたけれど、どこかでそこまでする必要はないんじゃないか?元凶である纐纈を今度こそ始末して、実験資料などを残らず燃やし尽くせば問題ないんじゃないかとさえ思っていたんだ。

 だけどそれは甘い考えだったって思い知らされた……

 このような光景を当たり前のように受け入れて……いや、更にそれに喜んで手を貸しているような人々などが、生きていていいとは思えない。俺は神でも何でもないただの人間だけれど、それでもこの光景を許してはいけない、このままにしておいてはいけないと、俺の中の何かが強く叫んでいたように思えるほどだった。


 地下10階に待っていたのは、纐纈と俺のクローン2体だった。

 後ろには纐纈や俺と思われるクローンの培養装置らしきものが所狭しと並んでいる。


「おぉ〜御館様に横川くんまで。ようこそ我が城へ!」

「「お兄ちゃん会いたかった!」」


 以前より更に狂気に満ちた目で俺たちの姿を確認すると、まるで驚いた様子など少しも見せる事もなく歓迎するかのように笑って見せた。

 その隣に居た俺のクローン2人は、俺の事を兄と教えられているのかお兄ちゃんと笑いながら呼んできた……


「纐纈……どこで道を間違えた」

「道を間違える?はて?何を言っておるのか……この研究が確立すれば、我らは神に近付く事が出来る。そしてそれは一全流のためになるであろう……初代様の願いである天下布武も可能になるであろう!儂は何も変わっておらん!!」


 ハゲヤクザが悲しそうに呟いた言葉に、纐纈は満面の笑みを浮かべて答えた。

 韓国で対した時も思ったけれど、やはりハゲヤクザは纐纈さんと仲が良かったとかなのかな?めちゃくちゃ悲しそうな表情を浮かべている。


「あぁ、横川くん。やはり君は特別じゃったよ……ほれ、お兄ちゃんにjobを教えてやりなさい」

「僕ね、魔王だよ!!」

「僕も……僕も魔王!!」

「……魔王?若狭と同じ?」

「若狭?……はて?誰の事を……」


 連れて行って実験体にまでしたのに、名前すら覚えられていないとか……

 若狭は若狭で自業自得だとは思うけれど、それでもあまりにも不憫すぎる。この調子だと巻き込んだ人間の事なんてほとんど覚えてはいないんだろうな……秋田さんも相田くんも……きっと自分の娘すらも。


「お喋りはここまでだ。お前はやり過ぎた、あまりにもやり過ぎたんだ。死んで償って貰う」

「お兄ちゃんたちが遊んでくれるの?」

「僕はお姉ちゃんたちと遊ぶー!!」

「えー!?僕もお姉ちゃんたちがいいよ〜!」


 師匠が刀を抜きながら口を開き、その場はシリアスな雰囲気だったのに……

 これ本当に俺のクローンなのかな?

 ちょっと場の雰囲気を読まなさすぎじゃない?


「御館様や柳生の爺さんはいい実験体になりそうじゃのぉ」


 纐纈は懐からビー玉大の3色の何かを取り出すと口に放り込んだ。

 すると額から真っ黒なツノが2本飛び出し、更には全身の筋肉がボコボコと盛り上がり大きくなった。


「お姉ちゃん遊ぼ〜!」

「僕こっちのお姉ちゃん〜!」


 ちょっと!

 だから空気読んでって!!

 やっぱり違うんじゃないかな!?

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