第212話ーー微笑ましき師匠の会話
先代さんたちを牢から出して、簀巻きにしていた現頭領と腹心を牢へと押し込んで地下駐車場へと戻ったら、大変な事になっていた。
何故ならボイラー室へと今にも踏み込もうと、フル武装の集団がこれでもかというほど待ち構えて居たからだ。
きっと強引に最上階から地下駐車場までやって来た俺たちを目撃した誰かが助けを求めたのだろう……普通にどこからか侵入した怪しい誘拐犯に見えただろうから納得出来る話だ。
先代頭領とその腹心たちが少し窶れた表情で誘拐犯と目される怪しい集団と出てきたものだから大騒ぎになった。
刀や剣、銃などをこちらに向けて投降や降伏しろと口々に怒鳴りつけてくる集団、それに対して一全と伊賀の近衛が前に出て一触即発といった緊迫した雰囲気だ。
「鎮まれっ!!武器を降ろせっ!!」
っと、怒鳴りつけたのはもちろん甲賀の先代さん。
戸惑う集団から「操られている?」とか「お助けせねば」なんて声も聞こえてきた。それを先代の腹心さんたちが前へと出て、突入しようとしていた集団の中の1番偉そうな人を呼んで説明したりする事でようやく包囲網は解かれる事となった。
その後は先代さんたちと共に最上階の執務室へと戻り、そこでまた政治的な話し合いが行われた……師匠と服部さん、それぞれの近衛たちだけが参加で、俺とじいちゃんとハゲヤクザは高そうな革張りのソファーに座って茶菓子とコーヒーをゆっくりと頂いているだけだったけどね。
師匠たちの話し合いが終わったのは数時間後だった。
要約した話を端的に聞かせて貰ったところによると、現頭領及びこの件に関わった者たちは、全権限の剥奪と被害を被った迅雷メンバーや俺たちへの慰謝料として個人資産の接収、更には甲賀が持つダンジョンでの強制労働が課せられる事となったらしい。あと他にも政経財界に関わるような話があったらしいけれど、俺にはあまり関係ないしよくわかんないので聞いていない。
あぁ、あと今回の件の黒幕……つまりバックに付いていると言われる大企業や有名政治家については甲賀の全力をもって情報収集してくれるそうだ。
結局のところ、何故俺の身柄を求めたのかという理由がわかっていないからね……このままだとまた似たような事件が起きる可能性が高いんだよね。
ただ黒幕はかなり狡猾で危険な存在なんだろうなって思う。甲賀の現頭領……いや、元頭領なのか?まぁアイツが功を焦るあまりに甘言にのったのは否めないと思うけれど、それでもこうして失敗しても一切の証拠を残していない事。もし私兵たちが失敗した時用に、甲賀の頭領たちに私兵の体内に仕込んだ爆弾のスイッチを渡していた事。訓練や改造を施した私兵を使い捨てのように扱える事などを考えると、人の命をなんとも思っていないのが透けて見えるし、圧倒的な財力を持っているのも感じる事が出来る。更にやり取りしていた無名企業なんだけど、調べた所ペーパーカンパニーだったようだ。話し合いの最中にアメリカ国内にいる甲賀の配下に探らせたけれど、登記のあるビルは謎の火事にあって焼失していたという話だ。
話し合いが終わり、用も済んだという事で帰るわけだが、次元世界に全員を押し込んで転移で帰る事は出来ないのでどうするのかと思っていたら、ビルの前には一全と伊賀のワゴン車が迎えに来ていた。いつの間にか近衛の人が連絡していたようだ。
2台で伊賀へと移動して、そこで今度は師匠と服部さんだけでの話し合いが行われる事となった。そこで何が話し合われたのかは知らない。
ただ今度はアマとキムが狙われる可能性が高いという事で、2人に10体づつの分身を影に仕込んでおく事となった。以前なら時間制限があったけれど、今はないから問題ないしね。更に影からの護衛だけではなく、わかりやすく近辺に屈強な護衛を常時付けるようだ。
だけど当の本人たちからは「プライベートが!!」なんて悲鳴が上がっていた……そんな2人が危惧するような、何か面白い弱味を見つけてやろうとか、彼女とか出来そうになったら邪魔してやろうなんて思っていないのに……あんまり。
名古屋へと戻って来たのは夜中だった。
結局黒幕がわからずだったのでスッキリはしないけれど、香織さんとのデート中に端を発した事件はこれにて一応の終わりを迎えたって事になる。
襲撃犯の処遇だけど、どのような改造が施されているのか?それがどのような効果をもたらしているのか?が気になるために、全員人造魔晶石の分析などを行っていた研究室へと引き渡された、移送車にはこれでもかというほどの電波を妨害する装置を付けたそうだ。研究ついでに更に引き出せる情報がないかも探らせるらしい……どんな事をするのかはわからないけれど、せめて人間らしい扱いをして欲しいと思う。そうじゃなかったら、それは中国や纐纈さんたちと同じのような気がするし……やっぱり甘いんだろうとは思うけど。
今回迅雷の3人が誘拐され、他のメンバーも襲撃にあったから大事をとって来週からの名古屋北ダンジョンでの修行が延期されるかと思ったら、まぁそんな訳ないよね。予定通り潜るらしい……拐われた甲賀のアレの娘さんも含めた全員でだ。
なので翌日からは食糧の買い出しなどに時間が費やされる事となった、次元世界内の食糧が少なくなってきていたってのもある。新鮮な魚介類を求めて日間賀島ダンジョンへ取りに行ったり、卸市場へ行って野菜などを箱で買ったりとね。
そうそう、その日間賀島ダンジョンなんだけど、アムリタと毛生え薬騒ぎの影響は既にもう薄くなっていた……まぁそれでも髪の薄いシーカーの影を多く感じはしたけどね。買えるといってもそれなりに高額だから、きっと安く……そして自力で手に入れたいとかそんな理由だろう。
買い出しばかりをしていたわけじゃない。もちろん次元世界内で日々修行は行われていた。ただ師匠だけは今回の事件や潜っている間の事を考えて、事務作業に結構な時間を取られていたのでそこまで参加はしていなかった。ただたまに来る時の激しさといったら……ストレスの多さを感じさせるものだった。だから「俺でよければ事務作業手伝いましょうか?」って聞いてみたら、めちゃくちゃ優しい顔と目になって「ありがとう気持ちだけ頂いておく」って言われた。ここだけ聞くと師弟の微笑ましい空気感があるかもだけど、その後にボソリと「仕事を増やしたくない」って呟いたのを俺は聞き逃さなかった……どこまで頭が悪いと思ってるのか……本当に失礼しちゃうよ!!
修行中の香織さんはあの捕物の時のように荒ぶってはいなかった……もしあのままだったらどうしようかと怯えていたからよかったよ。あぁなった理由を本人に聞くのは怖いので、ばあちゃんや鬼畜治療師にそれとなく聞いてみたら……ニヤニヤと俺の顔を見て笑うだけで何も教えてくれなかったのでわからずじまいだ。
そしてあっという間に時間は過ぎて、迅雷と共に名古屋北ダンジョンへと潜る日がやって来た。
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