第211話ーー会社訪問を致しましょう

「確定ですか?」


 甲賀衆が立ち去った出口を見ながら俺がそう聞くと、師匠とじいちゃん、そして服部さんは苦々しい表情で頷いた。


「あとはお前の分身からの報告待ちだな」


 まだ影に潜ませているからね、きっと新たな情報を伝えてくれるだろう。


「あれだな、うちと一全の所が儲けすぎたのが問題だろうな」


 儲けすぎた?

 服部さんと師匠の会話を聞いたらどこか納得出来る話だった。

 どうやら蘇生薬について甲賀も噛ませろって話や、アムリタについても師匠に何度も探りを入れてきたらしいのだ。娘さんが拐われたという話をしている最中だというのにも拘わらず。

 でも、それなら何で俺の身柄を求めたんだろうか?


「お前の能力の一端は見ているからな、まぁ出先の検討は着くだろう」

「ではあの外国人たちは?」

「問題はそれだ。あれらがどこの国の者で、何を目的としているかだ」

「やはり手掛かりになるような物は一切身に付けていなかったのか?」

「あぁそういうのは一切なかったな、銃やマシンガンなども当てにならんしな」


 装備品の製造国とかじゃダメなのか……

 本当に目的は何なんだろうか。


 とりあえず夜も遅いという事で寝る事になったんだけど、俺にはまだ仕事があるんだよね。それは死んでしまった襲撃犯たちへの時戻しスキルの使用だ。

 たまには本部屋敷に泊まれと、服部さんが次元世界に泊まる事を希望するのを押し留め部屋へと案内した後、襲撃犯15人を次元世界のフィールドに近衛の人と共に持ち込んで、残りの分身全てを出して九字印を切らせながら魔力を回復しつつせっせと時戻しを掛けて蘇生に励む。

 わざわざ次元世界へと運んだのは、脳内の電子機器がもたらす事の判断が付かないためだ。人質奪取の際のことを考えると、念話ではないがそれに似た効果をもたらすのではないかと思えるのだがあくまでもそれは予想だ。だがもしそうだとしたらどこかに時戻しスキルを連絡されても困るので電波の通じない次元世界へと運んだという訳だ。


 一気に生き返らせても面倒になるのでと、1人を尋問し終わったら蘇生……そんな感じでタイミングを見計らって。

 尋問後は針の一刺しでシロナガスクジラさえ眠らせる事が出来るという麻酔薬を撃ち込んで眠らせて牢獄用の穴に放り込まれる。

 俺が時戻しスキルを使っている場所と尋問場所には例の如く土壁が建てられているので、中でどんな尋問をしているのかはわからないけれど、悲鳴や絶叫が聞こえてくるのできっと恐ろしい事が行われているのだろう。ぶっちゃけ地下牢でも尋問風景見ちゃったし、既にもう何度も人をこの手に掛けているわけだから隠さなくてもいいと思うんだけど、師匠や近衛の人に言わせれば「まだ未成年なので配慮だ」という事らしい。見ざるを得ない場合以外では、わざわざ見る必要はないとも言われた。


 地下牢からの15人と、隠していた3人の尋問全てが終わったのは、開始から8時間経った頃だった。

 そして聞き出された内容は、アメリカのとある名も知らぬ無名企業の私兵であるという事と、甲賀の頭領とは協力関係にあるという事だけだった。肝心の俺の身柄を要求した目的などは一切聞かされておらず、ただ日本に行って甲賀衆と接触して事を為せと命令を受けただけのようだ。


 蘇生作業&尋問を繰り返している間、甲賀衆の影に潜らせて探らせていた分身からの報告もあった。こちらからの情報も尋問結果を裏付けるような内容だった。ただどちらから話を持ち掛けたのかはわからなかったが、目的は俺の能力というだけで、どの能力なのかは一切口にしなかったのでわからなかった。あと、甲賀頭領が代替わりした事についてだが、どうやら先代の長男……現頭領による謀叛のようで、先代及びその腹心はどこかに閉じ込められているというような事を口走っていたようだ。謀叛故か、それとも元々なのかはわからないが、現在の頭領の力を誰も認めていないので、俺を拐って大きな利益を上げる事で認めさせたいというような事も言ってたかな。

 ……何か甲賀のお家騒動に巻き込まれた感がハンパない。


 襲撃犯15人を蘇生させた事は言わず、3人の襲撃犯への尋問と分身からの情報という事を服部さんを含めた全員と共有したあと、俺と師匠は3時間程の仮眠を取った。


「一気に片をつける」


 新たにまた俺を手に入れようと策を練る前に、甲賀へと乗り込んで関係者を制圧すると師匠が言い切った。

 手順は昨日一全へとやって来た甲賀衆だけになる瞬間を見計らって分身による拘束と共に転移して身柄を確保するのと、閉じ込められている先代頭領たちを救出するという事らしい。

 行くのは俺と師匠、じいちゃんとハゲヤクザと近衛から5人ほど、更に服部さんとその護衛4人だ。召喚獣を含めた女性陣は次元世界の中にはいるものの、討ち入りには不参加となった。不参加の理由はよくわからないけれど、昨日の香織さんの荒ぶり方からじゃないかと推測している……血の海にしそうだもん。

 伊賀の護衛4人はよく顔を合わせる人たちで、先日服部さんたちを匿った時にも居合わせた人たち……つまり次元世界の存在を知っている、口が固く信用の深いメンバーなので問題ないという事だったのだが、その4人はずっと次元世界の中が気になっていたらしく、これから討ち入りだというのにめちゃくちゃテンション高かった。そしてその4人をドヤ顔で屋敷内を案内する服部さんが居たりして、ちょっと面白かった。

 でも案内し終わった後に4人全員が俺と師匠の所へと走り寄ってきて、「伊賀を本日限りで抜けますので、ここに住まわせて下さい」って言いに来たのには困ったけどね。服部さんはそれを見て「だろっ?その気持ちはよく分かる」とか笑っているだけだし。

 大事な部下なんだから止めようよ!!


 討ち入りのチャンスがやって来たのは昼過ぎだった。執務室のような所に運良く全員が集まったのだ。

 分身たちに全員へ影操身の術を発動させた後、死角へ分身を通じて転移した。まずは師匠に出て貰って全員を気絶させたあと、服部さんと護衛、じいちゃんと近衛の人に出て貰って、関連すると思われる資料を片っ端から接収した。

 気絶させた7人へとスキル封じの枷を嵌めた上で紐で縛り上げた後、護衛の1人を気絶から回復させて尋問となった。目的は先代が閉じ込められている場所だ。例の如く俺には見せないと言って次元世界へと戻っているように言われた。そして10分後に呼び戻された時には尋問された人はまた気絶していた。一見怪我などはないように見えたけど、執務室に敷かれたふかふかな絨毯の所々に血のシミが見えたような……うん、俺は何も見ていない。


 一全と伊賀の近衛と分身で手分けして担ぎあげながら執務室から外へと出たんだけど……甲賀の本部って巨大な高層ビルで、執務室はその最上階なんだよね。そんな場所から入った形跡のない見知らぬ怪しい集団が、自らの頭領たちを縛り上げて出てきたら「どこから来た?」とか「何者?」って当然なるよね……うん、大騒ぎですよ。

 ちなみに俺とじいちゃん以外はみんな高そうなスーツにサングラス姿だ。その理由は「会社訪問だからな」ってわかったようなわからないような答えだった。

 俺は背中へではなく腰へ差しての黒装束&仮面、じいちゃんは着流し姿。俺とじいちゃんの場違い感がハンパない。


 会社訪問とか平和的な事を言っているクセに、騒ぎそうな甲賀の社員さんを物理的に黙らせながらエレベーターへ。向かった先は地下2階駐車場……その奥にあるボイラー室の更に奥にある鍵の掛かった重厚な扉を近衛の人がピッキングで開けた先にある階段を降りると、そこには鉄格子の牢屋が並んでいた。


 救出と聞いていたから牢屋からすぐ出すかと思っていたんだけどそうじゃなかった。

 先代が囚われている牢屋の前に担いできた7人を放り出してから声を掛けた。

「助けないんですか?」って小声で確認したら、もしかしたら先代も噛んでいる可能性もあるから確かめてからという事らしい……そりゃそうだよね、同じ甲賀な上に親子って話だもんね。


 底冷えのする打ちっぱなしのコンクリートの地下牢で、2時間ほど話し合われる事となった。

 まずは先代甲賀頭領へ今回の事件のあらましを全て説明し話し合われた後、現頭領たちを起こして更に話し合いだ……まぁ話し合いっていうほど穏やかではなかったけれど。中々口を割らない護衛の数人には自白剤を飲ませていたみたいだしね。


 どうやら現頭領が以前に担当していた事業を失敗させて社内での立場が悪くなっていた。蘇生薬やアムリタを得る事が出来れば挽回出来ると思ったが、武力では一全に太刀打ち出来ないのでなにかいい方法はないかと悩んでいた所にアメリカの企業から接触があったらしい、提携&共同研究をしないかと。アメリカの企業の狙いはわからないが、俺の身柄を抑える事に熱心で、今回の誘拐劇の脚本を書いたのは企業の方だったようだ。

 無名企業の案によく乗ったというか、そこまで追い詰められていたのか?って疑問に思ったけれど、相手は「とある大物政治家や大企業がバックに付いている」と言っていたし、私兵を抱える事が出来ているのがその証と思ったそうだ。ただその大物政治家や大企業が誰でどこかは知らないようだ……俺の身柄を確保出来たら引き合せると言われていたらしい。

 ただ予定では迅雷参加の他の配下が巻き込まれるはずだったらしいが、手違いで娘になってしまったようだ……あの激怒の様子だけは芝居じゃなくて本気だったってのがまだ救いかな。


 今回の落とし前をどうつけるかだが、まずは現頭領と護衛やら絡んでいる人間の身柄引渡し。更に一全と伊賀に数千万づつの詫び金などなどだ。


 そこまで決まってから先代頭領たち今回の件で囚われている人たちを牢から出す事となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る