第213話ーー妖怪大集合!
迅雷は例の如く、名古屋北ダンジョンで前であらゆるメディアを集めて探索にあたっての目標とか心意気なんてものを語っている。
今回の目標階層は200階層だ、階層更新などは考えていない。それなのに何故メディアを前に語っているかと言えば、先日の襲撃事件について質問状などが各メディアから寄せられたからのようだ。場所が場所だけに、襲撃事件が結構騒がれてしまったみたいなんだよね……現に探索者協会や警察も出動する事態となっていたわけだし。
ただ真実を語るわけにもいかないし、さらに言えば日本を代表する世界的TOPパーティーメンバーが拐われた挙句助け出されるまで気絶していたなんて、広告塔である価値を失くしてしまうのでとてもじゃないが公表出来ない。だから「敵を知るために拐われた振りをしまして……えぇ、そうです、自ら囮となってです」とかナル森が髪をファサファサしながらドヤ顔で語っている。ちなみに犯人は国籍不明の外国人集団で、今警察が全力で身元確認を急いでいるって事になっているようだ。
本来なら俺たちは先に7000階層から潜って、期日が来たら101階層で迅雷と合流する予定だったんだけど、昨夜遅くに犬山城敷地内に突発型ダンジョンが発生したとの連絡を受けたために、急遽マイクロバスで向かっている最中にテレビで迅雷の記者会見を見ている。
移動中はいつもなら次元世界内で準備運動とかをしているんだけど、今日は師匠が記者会見を見たいと言ったので俺も一緒に見させて貰っている。師匠がテレビを見る理由は、迅雷が広告塔としての役目をちゃんとこなしているかなどのチェックや他のニュースなどを確認するためだ。
俺の理由はただ1つ……面白いからだ。迅雷メンバーが1人1人意気込みなどを語ったりするんだけど、まるでボディービルダーが筋肉をアピールするかのように武器防具を見せてはキメ顔をするんだよね……これがめちゃくちゃ笑える。それに迅雷のリーダーでもある伊賀の東雲さんの腰にある刀のロゴがキムの工房の物だったのも発見出来たのはいい収穫だった。世界的TOPパーティーの宣伝ってのはかなりの効果があるんだろうね、キムにスマホで見た事を連絡したら「その件で今問い合わせ電話とメールが凄い!!」って所々文字化けした返事が返ってきたし。
そういえばアマとキムの2人には非公式ファンクラブなんてものがあるらしい……師匠さんたちから教えて貰った。
当の本人たちの反応はというと、「困るんだよね」とドヤ顔で言っていたのがこれまた……ね?
かなりイラッとしました。
まぁキムにくるファンレターの中にはかなりの数男性が混じっているらしいけれど……。やはりその道へ進んでしまうのではないかと、親友として少々心配です……少々ってのは面白くも思ってるっていう事だけど。
迅雷の記者会見が終わり、彼らが肩で風を切りながらダンジョンへと突入する後ろ姿が映し出されている頃に、ようやく俺たちも犬山城ダンジョンに到着した。
準備を整え突入したダンジョンの中は、異様な光景が広がっていた。
田畑に山川、水車小屋があったりと田舎の原風景のような風景だ……ある一点を除けば。何故なら見える物全てが薄黄色や灰色、白色の人骨のような物で構成されているのだ。畦道も木々も何もかも全てが人骨を繋ぎ合わせた物のように見える。川や田に流れる水は赤黒い……きっと他から考えると血を表しているだろう。
「趣味が悪い場所だな……」
ボソリと呟いた師匠の言葉が、俺たちへと吹き付ける生暖かい風にと共に消えた。
その風のせいで転がる髑髏が紡ぎ出すカラカラという軽い音が、そこら中から聴こえてくる事がまた不気味さを演出している。
うどんによると、ここも全てのモンスターの殲滅が攻略条件らしいのだが、辺りを見渡してもモンスターの影1つ見えない。
「ここでぼーっとしておっても仕方がない。とりあえず敵が見えるまで進むか」
道路らしき場所を警戒しながらゆっくりと進んで行くと、突然どこからともなく鈴の音と笑い声のような物が聞こえてきた。
少しづつ大きくなる音に警戒を更に強めつつ音の出先を探っていると、ろくろっ首や大きな骸骨などが列を成してこちらへと進んで来るのが見えた。
「百鬼夜行か……」
「百鬼夜行?」
「あぁ、まぁ簡単に言うと妖怪大行列みたいなもんだ」
師匠の説明を受けて改めて見てみると、確かに妖怪っぽい集団だが、旗や太鼓、笛などを持ち鳴らしながら練り歩いているように見える……その数はパッと見で数百〜数千いるようだ。
百鬼というのに、数千いるのはどういう事だ?って少し心の中でツッコミを入れたのは内緒だ……まぁダンジョンだからって答えだろうけど。
妖怪か……
これはきっとじいちゃんがハゲヤクザに「ほれ仲間じゃぞ」とか揶揄うんだろうな〜
「うどんよ、仲間がいるようだぞ」
「仲間なんかじゃありませんよ!!」
じいちゃんじゃなくて師匠だったし、ハゲヤクザじゃなくてうどんだった。
でも確かに尻尾がいくつにも別れた狐のような姿も見受けられるから、仲間というか同類?っぽく感じる。
妖怪の大行列が約100mほどにまで接近した時だった、突然立ち止まり横へと拡がり始めた。
こちらを敵と認識して迎え撃つような体勢へと移ったのかと思ったら、どうやらそうでもないようだ。何故ならその妖怪たちそれぞれの手には、武器ではなく楽器らしき物を持っているのだ。
「うどんよ、アレはなんだ?ちょっと聞いてきてみろ」
河童が……っと違った、ハゲヤクザがうどんにニヤニヤして言い出した。
きっといつもからかわれているから、ここぞとばかりにって感じなんだろうな〜。残念ながら本家河童らしき妖怪も所々に見られるから、じいちゃんがからかい出すのも時間の問題と思うんだけど……あぁ、そうならないように先にうどんをからかっているのか。
「違うと言っているじゃないですか!!自分だって仲間に聞いてみてくださいよ!河童もいますよ!!」
あっ……
うどんが口にしちゃったよ……
「なんじゃと?……どの口が言った」
ハゲヤクザが殴ろうとするのを避けるうどん。
向こう側に妖怪、こちらでも妖怪。
どこもかしこも妖怪だらけだ。
2人でじゃれ合い?ながら本家の妖怪たちの50m手前まで近付いた時だった。妖怪たちがそれぞれ手に持った楽器を激しく鳴らし始めたのだ。
突然の行動に驚いていると、うどんとハゲヤクザが音色に導かれるようにフラフラと無防備な姿で1団に近寄り……一緒に踊り出したのだ、恍惚とした表情で。
2人の影に潜ませていた分身に影操身の術を使用させて踊りを止めさせようとしても、一切踊りを止める気配さえ感じられない。
「距離か?」
「どうでしょう……ただ確かめる術はないので」
初めての体験に師匠を含めて全員で驚いて、あれやこれやと推論を話していると、妖怪たちは突然楽器を鳴らすの止めて大声で笑いだした。だがうどんとハゲヤクザは先程と変わりなく踊り続けている。
……これはなんなんだろうか。
「2人をこちらへと連れ戻せば治るのか?」
師匠の問に答えられる者はいない。
だけどこのままにしておくわけにもいかないし、もし妖怪たちがこちらへと歩みを進めてきたら俺たちも危険だという事だけはわかっている。
そこで大鷲を出してその影に分身を潜ませ、近付いたら妖怪たちが楽器を持つ前にハゲヤクザたちをこちらへと連れてくるという作戦を俺が出したんだけど……
みんなの反応を見ようと振り向いたら、そこには目を疑う光景があった。じいちゃんがいやに静かだなって思ったら、まさか使い捨てカメラを出してうどんとハゲヤクザの様子を映しているなんて思いもいなかったよ!!
「これは面白い物を撮れたのぉ」
確かに笑えるけど、空気を読んで!!
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