第193話ーー戦場の中心でゴザを敷く

 1月3日未明、沖縄にある米軍基地から軍用飛行機に乗って一路韓国上空まで。同行しているのはいつものメンバーと既に顕現させている分身300体だけだ。アメリカ空軍のパイロットたちは俺たちの降下を確認したらそのまま沖縄へと戻るらしい。


 この作戦が決まったのは、12月31日になってからだった。師匠やじいちゃんの政治的なやり取りによって話が付いたらしい。詳しくは聞いてないけれど、今回は在韓米軍の全てと連絡を取れない事から、アメリカは一切引く気はないどころか核兵器さえ使用する事を考えているようだ。ただすぐに核兵器を使用するのは世論的にマズイ。だがたった一晩で韓国全土を陥落させるだけの力を持つ相手に、どこまで対抗出来るか……そんな事を悩んでいる時に師匠たちの話が舞い込んだというのがアメリカの内情のようだ。

 アメリカが世界各国、そして世論を元凶である中国への攻撃を正式に認めさせるように働きかけ誘導している間に、俺たちはアメリカの傭兵として先行潜入する。そしてある程度の敵を片付け危険を減らした後にアメリカ本軍が乗り込むという形だそうだ。

 今回俺たちはアメリカ軍の傭兵扱いではあるが、れっきとした日本人であり日本政府を通している話のために、以降で日本政府へ自衛隊を出動させる事や多大な金銭協力を求める事もしないという密約がなされたらしい。その代わり日本政府も領土的野心などを出さない事も交換条件としてあるらしいけどね。


 元旦はいつものように過ごした。

 幹部全員を集めた新年の挨拶において今回の事が話され、尚且つ俺たちが戻ってくるまで幹部を含めて多少なりとも戦える者は全て本部詰めする事が決まったらしいけど。

 ただ、近隣の住民への奉仕?……まぁいつもの餅つきなどは、そんな緊迫した雰囲気を一切出さずに緩やかに行われていたんだけどね……俺や香織さんは少しナーバスになりそうだったのに、改めて師匠たちの精神の強さに驚いたよ。


 香織さんのお父さんとお母さんは、やっぱり今回も家族3人でしっかりと話し合ったみたいだ。そこで何が話し合われたのかはわからない、わからないし何も聞いてはいないけど、お父さんとお母さんの頬に涙の跡が見られたので、香織さんを無事に返せるようにしたいと強く思った。


 次元世界に籠り暮らす伊賀のお師匠さん2人は、俺たちの行動に合わせて伊賀の本部へと戻るらしい……まだあくまでも隠れてではあるみたいだけどね。

 当然アマとキムも一緒に行くんだと思っていたら違った。2人はこのまま次元世界で過ごすらしい……俺がもし死んだら、そのまま次元世界に閉じ込められて二度と出る事が出来なくなるとわかっていてだ。


「俺たちの輝かしい未来のためにも死ぬなよ」

「ヨコが死ぬとは思っていない」


 ……だってさ。

 親友2人の命まで預かって戦うとなったら、ますます気合いを入れて望まないとだよ。

 なんか嬉しいね……「重いわっ!」って思わずツッコミを入れてしまったけどさ。

「あと少し休みたい……」ってボソッと呟いたのが、1番の本音のような気もするけど。


 翌日である昨日の朝、顕現させた分身たちと共に自衛隊機に乗り込んで沖縄へと移動し、師匠たちがアメリカ軍の司令官なのかなんなのか、とにかく偉い人と話をしていた。

 そして今日、作戦決行となったわけだ。

 ちなみに分身を顕現させているのは、各国が情報を取ろうとするのはわかっているために、現地でいきなり大量に増えるのは問題のため先に顕現させてある。更に言えば、300体は表に出しているが、他に500体は影に入れてある。

 あと師匠たちを含めて全員がお面をしている状態だ……俺は例のカオナシのアレで、他の人たちも7000階で購入したモンスターなどの顔の物だ。ビジュアルはともかくとして、性能はいいからね……俺がめちゃくちゃ推した事により買う事になったってわけだ。

 あっ、さすがに偉い人と話している時はお面は外していたみたいだよ?俺と香織さん、そして召喚獣たちはつけっぱなしだったし、俺たち以外の人がいる時や、監視カメラや盗聴器がある場所では絶対に声を漏らす事さえなかったんだけどね。

 ただ俺や分身の姿を見たアメリカ兵たちが毎回顔を真っ青にしたり、銃を向けてくるヤツがいたりしたのは納得出来ないけど……


 そして今日に到るってわけだ。

 軍用機にちょっとすし詰め状態で乗り込んでる……


「5……4……3……2……GOGOGOGO!!」


 ファイブカウントの合図と共に次々にパラシュートなしでのスカイダイビングだ。

 目的地はハガキにあった韓国ソウル、冷たい風を切りながら一直線に向かう……


 って、人生初めてのスカイダイビングなのに、パラシュートなしの上に極寒の中で行うとか悲しすぎるし、怖いんだけど!!

 いや、パラシュートなんかでゆらゆらと降りて行ったら狙い撃ちされるからダメなのはわかる、わかるんだけどコレはないと思うんだよね……忍び装束の表面とかが凍りついちゃってるし!!


 目標地点を目視出来る距離になり、そして地上数百mになったところで各々空歩を使用しながら地表へと無事降り立った。無事誰一人欠ける事なく。


 降りて来る時も思ったけれど、めちゃくちゃ静かだ……まるで映画のワンシーンのような、無人の世界にも見えるほどだ。

 民間人の姿は1人とさえ見えないが、その代わり山ほどの数の異様な気配が俺たちを何重にも囲んでいるようだ。


「纐纈や若狭たちの姿は見えんな」

「じゃが囲まれておるのう」

「まずは実験体での小手調べといったところか」

「儂らを試すとは……偉くなったもんですな」


 ハガキを送ってきたくせに、確かにその場所だと言うのに若狭どころか一全関係者の姿はどこにも見えない。

 ……そういえば日付指定はあったけど時間指定はされてなかった事を思い出した。


「時間指定なかったですね」

「ふむ、それもそうか……では我らも朝食とするか」

「そうじゃな、婆さんが出る前に作ってくれた握り飯を食べようとするかの」


 ちょっ!

 なんでゴザを拡げて何座って本当におにぎり出してんの!?


「とりあえず分身たちに任せる。ここを囲むように円になり、魔法スキルで掃討してやれ」


 以前相対した実験体のような個体や、流れ着いたような不格好な個体が、じりじりと見える範囲まで近寄って来ているようだ。

 前回は遅れをとった分身たちだけど、あれからかなりの修行をした事もあるから大丈夫かな?……まぁ師匠たちは動く気はないようなので、指示に従って分身たちに任せてみるか。


「あっ、デカいのぶっぱなすと、建物とか色々瓦礫に変わっちゃいますけど大丈夫ですか?」

「ここはもう戦場だ、気にせんとやれ。それに壊してしまってあとから何か言われたとしても、今回の我らはアメリカ軍だ、アメリカが何とかするだろう」


 おおうっ……

 確かに戦場だろうけど、めちゃくちゃ他人事だったよ。

 少し申し訳ない気もするけれど、「はよやらんか」と急かされているし、実験体も迫って来ているので全力でやりますか。

 久しぶりの魔法スキルの合技の出番だ!


「合技!炎爆台風!」

「合技!氷爆台風!」

「合技!雷爆台風!」

「合技!闇球台風!」


 300体が放つ合技は圧巻だった……

 家屋その物や、屋根や看板などと共に実験体だちを巻き上げ外へとどんどんと拡がっていく。


 そしてたった1回放っただけなのに、囲んでいた実験体は4分の1以下にまでなっていた。

 でも、まだ残っているから手は緩めない。以前と違って魔力量が格段に増えたから、まだ分身たちはデカい合技魔法放つ事が出来るからね。


「合技!炎爆台風!」

「合技!氷爆台風!」

「合技!雷爆台風!」

「合技!闇球台風!」

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