第194話ーー条件付き即死攻撃
歴史的に価値がありそうな建造物から、一般家宅に高層ビルまでの全てがキレイさっぱりになってしまった……
罪悪感が少しある。
ちょっと調子に乗って合技を放ちまくったからね……合計4回も分身300体がバカデカいのを放てばこうなるよね、うん、わかってた。2回目を放った時点で動いている実験体なんていなかったんだけど、まばらに残るビルが気になって、ついついその後2回も打っちゃったんだよね。
まっ、全ては若狭たちや実験体、師匠たちが悪いせいだよ、うん。俺は悪くない、命じられて仕方なくやったんだよ……
補償とかするアメリカの偉い人、ごめんなさい。
まぁ、やってしまった事は仕方ない。
それよりも、やはりここまでしても民間人の1人でさえ見受ける事が出来ない。
えっ?一緒に吹き飛ばしたんだろって?
いや、一応注意深く見ていたけれど、普通の人たち1人もいなかったんだよね。
「一太の好きな鮭もあるぞ」
「熱々の味噌汁もあるよ、今日は八丁味噌にしたからね」
師匠たちは全く気にしていないね、それどころかめちゃくちゃくつろぎながらおにぎり食べてるよ。香織さんだけは少し戸惑い気味みたいだ……あの人たちに染まりきっていない事を確認出来て良かった。
なんでこんなにくつろげるのかわからないけれど、勧められるのでおにぎりをいくつか食べていると、また実験体が数百と現れたようだ。先程と同じような個体に見える。
「またか……どれほどの実験を行ったのか……まさか民間人が見えないのは、陥落させてから今日までの数日の間に全てを実験に使用したのか?」
「いえ、違いますよ。この辺り一帯全て現実世界を模しただけの違う世界になっているようです」
「んっ?どういう事だ?」
「多分私たちが降りて来る途中で発動したのでしょう、わかりやすく言えば主様の次元世界のような場所という事です」
「だから人が居ないと?」
「はい、主様の世界ほど広くない数十km四方といったところでしょう。ただこれがスキルなのか、魔道具を使用してのものなのかはわかりませんが」
うどんの説明に納得と安心した。
壊しても全く問題なかったみたいだ……ってかもっと早く言ってくれよ、無駄に気を病んじゃったじゃないか。
それに民間人は生きている可能性が高くなったわけだから、喜ばしい事だよね。
まぁとりあえずあのレベルの実験体ならば魔法が効くようなので、座って九字を切らせて魔力を回復していた分身たちに命じて合技を放ちまくる。
……結局おかわりが後2回あったけど、俺たちはゴザの上で分身たちの魔法の結果を見守るだけに終わってしまった。
「さて、静かになったが……うどんよ、ここから出るにはどうしたらいい?」
「魔道具であれば壊せば出れるでしょう。スキルの場合は術者を殺せば……」
ん?
という事は俺がもし死んでも、アマとキムは外に出れるって事なのか?
疑問をうどんにぶつけてみたら、どうやら違うらしい。理由を説明すると長くなるからって省かれたけど、とにかく俺が死んだらアマとキムは閉じ込められてたままになるらしい。
あと万が一、この世界を作り出した術者が死んでも出れなかったとしても、転移すれば出れるから問題ないようだ……名古屋に戻っちゃう事になるけれど。
「まぁまだ出る必要はないじゃろう、先程までの実験体を指揮して分けて寄越しておった者もいるじゃろうしな」
そう言われてみればそうか、確かに指揮個体らしき者はまだ見ていない。
それにここが魔道具で作られたのかスキルなのかはわからないけれど、閉じ込めて終わりって事もないだろうしね、あんな挑発ハガキを送ってくるくらいなんだし。
計4度の実験体の襲撃を掃討してから、コザでくつろいで待つ事約30分、ようやく新たな敵が現れたようだ。
北方向からゆっくりとこちらへと歩いて来ている、数は約30名ほどだ。
俺たちの手前30m程まで来た面々を見れば、懐かしい顔が4つ……若狭、秋田さん、相田くん、纐纈さんの4人と、あとは知らない人だった。師匠たちがボソリと呟いたのを聞いてみれば、纐纈さんの娘や若狭の叔母さん、他にアメリカ・ロシア・中国をはじめとした各国の有名な科学者など、昔じいちゃんが戦場で戦った事のある人や見かけた事のある人などのようだ。他はわからないみたいだけど、流れからすると科学者か戦闘員なのだろう。
それぞれが戦闘衣装や白衣などを身にまとっているのだが、中でも異彩を放っているのは若狭と秋田さんだ。なぜなら……2人はまるで戦場には場違いな黒いタキシード姿と肩を出した白いドレス姿なんだよね。
結婚式でもしていたのだろうか……なんかドヤ顔してるし。場違い過ぎるというか、滑稽にしか見えないけど。
仮面していて良かったよ……顔が歪んで仕方ないもん、声を出してしまわないように奥歯を噛み締めているくらいだし。もし声を出して笑ったら、また逆ギレして大変な事になりそうだよ。
パチパチパチ……
あっ、なんか若狭が拍手し出したよ。
もしかしてラスボス気分なのかな?
ラスボス気取っちゃってるのかな?
ヤバイ……この攻撃はキツイ!
よく師匠たちや香織さんは耐えれるなって思って横目に見てみたら、みんな俺と同じように限界のようだ……脇腹とかつねってるし!!
「完全にやられる側のボスじゃないですか」
うどんよヤメロッ!!
「きっと何か変な物を拾い食いしたんですね」
しみじみと呟くんじゃないあられっ!!
「ハロウィンはもうだいぶ前に終わったのを知らないんですかね?」
「仮装大会か何かあるんですよ、もしかしたらさっき襲ってきたのはフランケンシュタインで参加するつもりの人たちだったんじゃ?」
「蝶ネクタイが死ぬほど似合ってませんね……腹話術師にしか見えない」
なんでこんな時だけ無駄に召喚獣たちは饒舌なの!?
つくねもハクもだけど、ロンのせいで若狭が腹話術師にしか見えねえじゃねぇか!!
若狭の左隣にいる白衣姿の相田くんは、背が少し小さくて初めて見る丸いメガネを掛けているせいで、腹話術の人形に見えて来ちゃったよ!!
ってか、本来なら相田くんが予想通りにいる事に驚くべき状況なのに、もう笑いそうになるのを我慢する事しか出来ないじゃん。
「やぁやぁ皆さんお久しぶりです、私の招待にご参加頂きありがとうございます」
本当に勘弁して欲しい……
若狭の気取りっぷりがヤバイよ。
そんな若狭を熱い視線で見つめている秋田さんもヤバイし、羨ましそうな目で見ながら無駄にメガネをクイックイッとしている相田くんもヤバイ……
めちゃくちゃ動画で撮りたい……
アマとキムに見せてあげたい、絶対に腹を抱えて爆笑してくれるはず。
いや、もういっその事SNSにあげてもいいと思う、絶対にバズる、バズりまくるはずだ!!
「そうそう、御館様……以前私にjobは何かと聞かれましたね。答えましょう、魔王ですよ、フハハハハハハハッ」
ここはきっと「ま、魔王だと!?」って驚く場面なんだろうけど、誰も声を上げない。……いや、じいちゃんが「アホウと自分で言いおったか?」ってボソリと呟いてる。
ダメだ、笑うな俺!!
耐えるんだ、俺!!
きっと笑ったら即死するとかそんな攻撃に違いない!!
「聞こえませんでしたか?魔王ですよ、魔王……フフフフフフ」
反応しないから念押しして来たーー!!
「アホウなんてjobがあったんですね、初めて知りました」
うどんーー!!
「ゴフッ……」
「横川わらう……な……ククククッ」
「たえ……ておったのに、ブハハハハハッ」
「ブハハハハハッ」
「フフフフフフ……」
「フヒッ……」
「もう無理……ブフッ……うどんちゃん止めてっ!」
うどんの一言に俺が耐えきれずついに笑いを漏らしてしまったら、それを皮切りにみんなが笑いだした……香織さんなんてお腹押さえて蹲っているし。
「ふ……ふ……ふ……ふざけやがって!!」
若狭の声が響き渡った。
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