第192話ーー届いた一通のハガキ
香織さんへのクリスマスプレゼントは7000階層で買った魔道具で、1度だけ致命傷になり得る傷を弾くというネックレスだ。分身に装着させて実験してみたところ、確かに全力で刀を振り抜いたのにも拘わらず傷1つなかったので本当らしい。よく目を凝らして見れば、常時結界のような物を二重に張っていて、1枚目の結界で威力を感知判断しているようだ。
召喚獣たちには同じ魔道具店で購入した、宝石がゴテゴテと付いた若干悪趣味とも言えるような箱だ。これはどうやら魔法袋の箱版らしいが、宝石を宝石の付いた箱に仕舞うという良く意味がわからない事になってしまうが、本人たちは飛び上がって喜んでいたので良かっただろう。
逆に香織さんから俺が貰ったのはまさかのプレゼント被りで、全く同じ効用を持つネックレスだった。
……同じ考えだなんて、最高だよね!
そして俺の身体の事を気遣ってくれてるなんて……めちゃくちゃ嬉しい。
召喚獣たちはだいぶ前から用意してあったらしく、マフラーにコート、手袋にブーツという冬物の衣装一式だった。全員で考えて購入したらしくて、コーディネートもバッチリだった。ただ……嬉しいんだけど、基本的に今は外に1人で出かける事はないからね、いつか着れたらいいなって思うよ。出来れば香織さんと2人で出掛ける時に。
肝心のクリスマスはというと、香織さんのお父さんとお母さんがケーキや料理を沢山作ってくれて、次元世界でちょっとしたパーティーになった。参加者は香織さん一家と俺と召喚獣、そして次元世界に籠りっきりのアマとキムだ。伊賀のお師匠さん2人も次元世界に居たけれど、師匠が7000階層で買ってきた新たなポーションや剣に夢中でそれどころじゃないらしい……アマとキムもその研究にかかりっきりだったんだけど、クリスマスの2日だけは許されたって感じだ。
ちなみに屋敷のコックゴーレムもケーキやクリスマス料理のレパートリーはあったんだけど、やっぱりたまには人の手で作られた物が食べたいというか……なんか味が違うような気がするのは、思い込みなのかそれとも本当に違うのかは俺にはわからなかったけれど、でも確かに美味しかった。
ただ外に出る事が出来ないとやる事もないので、結局は例の戦艦や装甲車?で飛び回ったりしていたよ……未だ次元世界の中に見える星には届いていない。まぁ地球から月までの距離は38万kmらしいから、たった1〜2日程度で着けるものでもないだろうから当たり前の事かもしれない。いつか時間を多く取れたら目指して行ってみたいけれど、その時はじいちゃんたちをちゃんと誘わないと怒られそうだ。
そんなじいちゃんをはじめとした師匠たちのクリスマスはというと……
師匠はじいちゃんの玄孫とハゲヤクザの娘の婚約者2人を本部へと招いて過ごしたらしい……婚約者2人同時にとか修羅場の予感しかしないけれど、なんか話しがついているらしくて揉め事もなかったみたいだ。
じいちゃんとばあちゃんは今年はクリスマスやその後に控える正月も鎌倉へと帰る気はないらしくて、名古屋近辺を2人で観光していたようだ。
ハゲヤクザと鬼畜治療師は例年通り、自宅で過ごしたりサンタ役をやってたみたい。
楽しいクリスマスを過ごし、このままいつものように正月を迎えると思っていたんだけど、そんなに上手くはいかなかった。
なぜなら12月27日未明に、政府を通じて全ての駐韓米軍からの連絡が一切途絶えたとの一報が入ったのだ……『モンスターからの襲撃を受けている、流れ着いたモンスターに似ている』との一言を最後に。
更に北朝鮮・韓国両政府や民間の全てとも連絡が出来なくなった。
中国が朝鮮半島へ侵略したのか、それとも北と南の両国が協力関係となって駐韓米軍を攻めたのかはわからない……だが確実にわかっている事は、駐韓米軍は中国の実験体により壊滅した可能性が高いという事だ。
慌ただしく情報収集に励んでいる中、一通の国際郵便ハガキが件の韓国から届いた。そのハガキは俺宛で、裏には言葉は一つもなく写真があるだけだった。そしてそこに写っていたのは、日本にいた時の姿と変わらない若狭と秋田さんが、韓国ソウルの南大門前で10日ほど前の新聞と1/3と書いた紙を持って笑っていたのだ。
そのハガキは届いてすぐにまずは師匠へと渡されて、そしていつものメンバー全員が呼ばれて見せられた。話題の韓国からのハガキで、写真が写真だからね……いくら俺宛だとしても、異常性から師匠へと届けられたってわけだった。
写真を回し見しながら、俺たちは首を捻らざるを得なかった……
その理由はいくつもある。
まずはあのテレビの隅に映っていた時と姿が違いすぎる件だ。今の写真を見る限り、アレは人違いだったのか、俺たちの勘違いだったのかと思ったが、201階層で襲われた際の実験体の様子などを鑑みるにそうとも言いきれないのだ。それにあの時の映像から切り取った写真を今見てみても、やはり2人の特徴を大きく残していてそうとしか思えない。ではどういう事なのか……可能性として1番高いのは、実験が成功したという事だろう。きっと先日襲ってきた抜け忍のようなカタコトで話すモンスターと人間の間の子ではなく、モンスターの力を取り入れた人間とでも言えばいいのだろうか……そんな風に考えられる。
もう1つは、このハガキを俺へと送ってきた真意だ。『俺たちは幸せにやってるから安心してくれ』的な意味ではないのは明白だ……若狭は俺を勝手に逆恨みして憎んでいたわけだし、そもそもステータスが発現する前も取り立てて仲が良かったわけじゃない……いや、それどころか俺やアマとキムは孤児院育ちという事で、いつも卑下して見られていたのだから。そうなると駐韓米軍壊滅前にわざわざ韓国からこれみよがしに送ってきた事から考えると、宣戦布告と捉えるのが1番妥当なのだろう。
「これは1/3に来いって事ですかね?」
「まぁそうだろうな、わざわざ居場所を知らせて来たわけだからな」
「どうしますか?」
「ふむ……」
師匠に問い掛けると頷いた後しばらくの間、目を瞑って微動だにしないで考えていたようだ。
そしてだした答えは……誘いに乗るというものだった。
その答えに辿り着いた理由は、攻めて来られるのを待つという手もあるが、待つとなるとどうしても後手に回ってしまいがちだという事。また攻められると日本中が火の海になる可能性がある事などらしい。誘いであり陽動である可能性もあるが、執着具合から考えると待ち受けている可能性の方が高いし、朝鮮半島は地続きだったから乗り込むのも容易だったかもしれないが、海を渡るのにもそれなりに力が必要となる上に、それにより無駄に戦力を減らす可能性を考慮すると、やはり待っている可能性の方が高いと考えたようだ。
万が一陽動だった場合を考えて、何体かの分身をこちらに待機させておくらしい。
「では俺は根回しをする、政府を通じてアメリカ軍などにも話をつける必要があるからな」
「儂らも根回しに走ろうかの」
「如月くんはどうする?……今回も対人戦だ、わざわざその手を汚す必要も無い、ここで……もしくは次元世界で帰りを待っていてもいいが」
「私は……」
師匠に問われた香織さんは、しばらく目を瞑って考えていたようだけれど、俺たちの顔をぐるりと見回したあと、正座し直して口を開いた。
「私も参加させてください。人間をモンスターに変える実験も許せないし……それに私も守りたいので……守られるばかりじゃなくて」
「そうか……わかった。ただ無理はしなくていい、それだけは覚えておいてくれ」
「はい、ありがとうございます」
「横川はどうする?」
「もちろん行きます。俺も守りたいですし、俺が行かないと若狭たちも出てこない気がしますし」
「そうか、お前も無理をするなよ?」
「はい」
「では各々動こうか……2人は決まるまでゆっくりとしていていい」
「「はい」」
師匠たちがスマホを耳に当てながら去って行く後ろ姿を見ながら、俺と香織さんは次元世界へと戻り各自修行をする事にした。
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