第177話ーー嫉妬と対決

 世間は今大騒ぎだ。

 今回はアマも迅雷も関係ない。

 そう、先日師匠が言っていたように、3歳若返るアムリタと毛生え薬の2つオークションに売り出したのだ。


 合体ゴーレムでの修行を20日ほど続けた後、地上へと戻って来た俺たち。その後直ぐに師匠が連絡したのは協会会長だ、しかも話があるからと呼び出した模様。

 すぐ来るかと思ったら、どうやっても2日後という事で、その間は伊賀に転移して服部さんを初めとした薬師チームに会ったりしていた。


 まずは服部さんや伊賀の幹部だけに、1000階層に行った事もそうだけど、そこには街があったとか、アイテムが購入出来るとかの話をした。それはもうね……「はっ?」って声が怒涛の勢いで俺たちを襲って来たよ。そしてその後は、厳ついおっさんたちが揃ってしばらく完全に固まって口を開きっぱなしにして惚けていた事はなかなか見物だった。


 その後薬師チームを呼んで貰って、購入してきた蘇生薬やアムリタ、毛生え薬を渡したんだ。理由は違いがあるのかどうかの確認のためだ。

 蘇生薬は精製に成功している事もあり、違いは全くなかった。

 そして問題はアムリタだった。蘇生薬は成功発表したのにアムリタは未だ成功していない理由は、そこまで手が回らないとか探索における重要性が低いから後回しにしているというわけではなく、ただ単純に原材料が未だ発見されていない事が原因らしい……しかも必要材料は5種類あり、その内の3つが未発見というまだまだ精製発表は先が遠そうである。

 ただ今回購入してきた物と、八岐大蛇の際に得た物の原材料の中身に違いはないとの事だった。


 ……毛生え薬は探索に関係ないから研究は後回しらしいけどね。一応確かめたら、これも材料は一緒で変わらないらしい。

 ただその説明を聞いている時、問題が起こった。薬師の何人かがチラリとハゲヤクザの頭を見て、申し訳なさそうな顔をしたんだよね。「早く発表して欲しいかもしれないけれどまだなんです、すみません」的な心情だろう。そして「何か言いたい事でもあるのか?あ"あ"っ?」と殴られていた……またなぜか俺も一緒に、しかも1番激しく。

 ちなみにアマは学習していたらしく、毛生え薬の話題が出てきた時には目を逸らして下を向いていた……まぁ知った顔という事でか殴られてはいたけれど。


 そんな話を聞いてから、精製発表前にオークションに出す事の了解を取ったというわけだ。

 そもそも八岐大蛇の時の蘇生薬やアムリタ、そして毛生え薬も元々俺たちが得てきた物なので、伊賀の人たちとしては全く問題ないどころか、わざわざ見せに来てくれた事だけでも感謝なのに、了解まで取ってくれるなんてと感謝されたよ。


 そして本部にトンボ帰りして、師匠は溜まった事務仕事を、ハゲヤクザと鬼畜治療師は自宅へ、ばあちゃんは香織さんと召喚獣たちを連れて呉服屋に着物を見に、じいちゃんと俺だけやる事もないので修行したり碁を教えて貰ったりして、協会会長が来るまでの時間を過ごしていた。

 ちなみにじいちゃん以外に碁を指せるのは、意外にもうどんだけだ。そしてうどんはどうやらめちゃくちゃ強いらしい。遥か昔に囲碁を指していた事があり、古い定石がどうとか何とかと言っていた。

 で、じいちゃんとうどんが当初は対戦していたんだけど、どうやらじいちゃんは下手の横好きのようなんだよね……本人には絶対に言えないけど。

 それに対してうどんは優しく教えるとか、レベルを合わせて対等を装うとかが出来ないようで、圧倒的大差で毎回勝つもんだからじいちゃんとしてはツマラナイ……そこで俺に教えて、いつか楽しもうという考えのようだ。

 俺としてはクリスマスの時に趣味という趣味がない事に気付いたばかりだからね、ちょうどいい機会なので教えて貰う事にしたんだ。次元世界の屋敷には囲碁セットもある事だしね。


 そして協会会長がやって来た、部下らしきスーツ姿の男性を2人連れて。

 スーツ姿の男性は上級鑑定士と東海地区統括本部長らしい……上級鑑定士なんてあるの初めて聞いたんだけど、どうやらjob名ではなくて、組織の中での鑑定士試験みたいなのがあって、その中のTOPらしい。そして2人ともに幹部で信用出来る人だと紹介された。


 新年の挨拶やら何やらが終わった後、今回の用件は?と本題になった。

 そして師匠が出したのがアムリタ(3歳)と毛生え薬の1本づつだ。


「ポーションですかな?」

「上級鑑定士とやらまで連れて来ているんだ、まずは鑑定したらどうだ?」


 会長が訝し気な顔をして師匠へと尋ねたが、師匠は苦笑いをしながら顎をクイッと動かすだけだった。

 まぁ会長の気持ちもわかる。緊急案件として呼び出しておいて、出してきたのがポーション……しかもたった2つとか、そりゃあ首を傾げたくなるってもんだよね。


「……はっ?」

「こ、こんな物が存在するのですか?」


 ロマンスグレーの渋い上級鑑定士のおじさんは、眉間に皺を寄せて何度もポーション2つを見つめては首を横に振っている……見間違いかとでも思っているのかな?

 東海地区統括本部長の方はサザエさんの波平タイプのハゲなんだけど、こちらは声を震わせながらお盆の上に鎮座する2つに伸ばしかけていた手を慌てて引っ込めた……きっと触れて割ってしまう事を恐れたのだろう。


「なんだ?どうした?」

「……会長、2つとも未発見の物です」

「未発見か……それで中身は?」

「……アムリタ……3歳分若返る液体と、毛生え薬です」

「……はっ?毛生え薬?」


 会長さんはどうやら鑑定出来ないみたいだ。2つの内容を聞いて、こちらも固まってしまったよ。口にしたのが毛生え薬だったのは、アムリタについてはじいちゃんばあちゃんの件があるからだろう、チラリと視線を一瞬だけど2人に飛ばしていたし。


「こ、これらについての実験というか……その、臨床試験などは行われているのですか?」

「アムリタの方はな」

「け、毛生え薬の方は?」


 本部長さんの食い付きが怖い。

 本来なら騒ぎになる方であるアムリタには目もくれず、毛生え薬の方をガン見している。


「そちらは試しておらんが……鑑定結果として出ているのだ、問題はないと思うが?」

「そ、そうですが……売りに出すのであれば試された方が……もし何でしたらわたく「毛利!!」し……し、失礼致しました」


 本音ダダ漏れじゃん……

 さすがに会長さんが途中で遮ったよ。

 それにしても本部長さんの名前は毛利さんって言うんだけど、名前の中にってあるのに本体にはがないのは可哀想だね……きっと日々悩んでいるんだろうね、部下に陰口叩かれたりしてるとか。


「ククク……試してみるか?」

「えっ?よよよよよよろしいの……い、いえ失礼致しました」

「……儂は剃っておるだけだ」

「えっ?いや、そん……ヒッ!し、失礼致しました!」


 師匠の言葉に一瞬歓喜の表情を浮かべて手を伸ばしかけた本部長さんだったけど、ハゲヤクザの光輝く頭に気付いて引っ込めた。

 その様子にハゲヤクザがムッとした表情で、いつもの言い訳を言ったんだけどさ……ハゲヤクザの頭って、どう見ても剃ってるソレじゃないからね。本部長さんは素直な人らしくて、「そんなバカな」的な事を言おうとしたっぽいんだけど、ハゲヤクザの殺気の前に撃沈……小さな悲鳴と共に気絶した。

 そんなやり取りをただ見ているわけがないのがじいちゃんだよ。


「ふははははははっ!何を本当の事を指摘されて苛立っておる!可哀想に……むっ!アレか?毛利の方は横にまだ完全にはなっとらんから嫉妬しておるのか?んっ?」


 いつもならハゲヤクザは黙って顔と頭を真っ赤に染めあげているだけなんだけど、今日は様子が違った。


「もう我慢ならん!爺さん表へ出ろっ」

「ほう、図星を突かれてヤケになったか……まぁ良い、少し揉んでやろうかの」


 おうっ……

 実力行使に出るようだ。

 これはもしかして時戻しをガンガン使う事になるのか?蘇生薬も用意しておいた方がいいのかな?


「横川、立ち会ってやってくれ。あぁ、他の者も行って構わんぞ」

「はい」


 立ち会ってとは言うけれど、目的は次元世界なんだろう。

 師匠たちに頭を下げて座敷から出ると、師匠と協会関係者を残してみんな出てきた。どうやらつまらなかったようだ。


「小僧早く来んか!」

「はいっ!」


 俺の部屋の前でハゲヤクザが怒鳴っているので、慌てて走って部屋へと行って次元世界の扉を開けた。


 じいちゃんとハゲヤクザの戦いは……木刀と棒だった。さすがに真剣ではやらないらしい……ブチ切れていても、そこはさすがに理性が残っていたようだよ。


 フィールドはよくアニメとかの決闘シーンに出てくるような、天高くそびえる巨岩2つにしてみた。

 これもダンジョンさんの趣味なんだろうね、2人が別れて巨岩の上に立つや否や、空には暗雲が立ち込め始め……周りには雷が迸っているよ。


 そして始まる決闘……手合わせだけど。

 2人とも意外にノリノリなのかな?巨岩と巨岩の間の宙で打ち合い、お互いの足場を入れ替えたりし続けている。


「さて、見ていても仕方がないね。せっかくだから私たちもやるよ」

「そうですね」


 おっ、珍しくばあちゃんと鬼畜治療師の手合わせか〜なんて思っていたら違ったよ。俺対ばあちゃんと鬼畜治療師だった……

 ボコボコにされたけど、それなりに当てる事も怪我を負わせる事も出来たので成長はしていると思う、うん。


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