第178話ーーこんな日が来るなんて……
俺たちが次元世界の中で手合わせをしている間に、アムリタと毛生え薬の件は話がついていた。
アムリタは香嵐渓ダンジョンから、毛生え薬は日間賀島ダンジョンからのドロップとしたようだ。理由は不人気ダンジョンへの人集めだ……香嵐渓はあの虫や爬虫類だらけの、嫌われているゲテモノダンジョンだからね。日間賀島も苦労の割には金にならないと、漁師さんとか物好き以外は中々人が来なくて困っているようだし。
ドロップ場所を偽るだけのために会長以下2人を呼びつけたわけではない。誰が出品したかなども完全にトップシークレットにさせるためらしい。いくら探索者協会が箝口令を敷いたとしても、勤務しているのは人間だからどこからか漏れてしまう可能性は高い。だから知る人間も少なくし、更には出品者を職員が見る事も出来ないようにさせるとの事だった。それでも気付く人間はいるだろうけど、出品者を見る事が出来ない限り、確信は合っても確定は出来ないからね。
そしてオークションへと登録されたんだけど、暇人なのかただの金持ちなのかは知らないけれど……すぐにその2つに気が付いた人がいて、その人が驚きの声と共にSNSに上げたりした事で一気に世界は沸いたわけだ。
テレビでは連日『謎の出品者は誰だ?』とか『香嵐渓ダンジョン、日間賀島ダンジョンとは?』とかを飽きもせず流し続けているし、その中で外国のテレビでも盛り上がっているって紹介したりしている。
あと迅雷の面々がなぜか呼ばれて「皆さんですよね?」みたいに聞かれてたりもしたよ。まぁ、普通に苦笑しながら否定していたけれどさ。
テレビ局によっては探索者協会本部に突撃して、会長にインタビューを試みようとしたり、『国民の知る権利が〜!世界的発見が〜』と喚きたてたりしているのもあったかな。
そんな中オークションの方はというと、尋常ではないほどに金額が跳ね上がり続けている。期限は10日で、今はまだ半分の5日しか経っていないんだけど、既にアムリタは5000億円を超えているし、毛生え薬はそこまでではないけれど2000億円を超している。
師匠たちが言うには、どちらも海外の有名な研究機関や大金持ちたちが競っているらしい。そしてそんな人たちは、やはり俺たちだと当たりを付けているらしくて、問い合わせがいくつかあったそうだ……もちろん出品者ではないと否定したらしいけどね。
ちなみにオークションには伊賀や一全も入札していたりするらしい。もちろん競り落とす気はないけれど、フリだけでもしないとバレバレになっちゃうかららしい。
件の香嵐渓ダンジョンと日間賀島ダンジョンは師匠の企み通り、日本各地……いや、世界各地からシーカーが押し寄せているようだ。その辺もテレビで放送していたけれど、混み合い過ぎてシーカー同士での小競り合いが絶えなくて、警察が出動して入場規制を行うまでになっているみたいだ。
みんな単純というかなんというか……
二匹目のドジョウという古くからの諺を体現しているよね。
まぁそれで不人気ダンジョンが、人気になるんだから良いんだけどさ。近隣住民の人たちもこれで一安心だろうから……まぁいつまでブームが続くかはわからないけれど。
それにしてもアムリタはたった3歳なのに、そんなに大騒ぎになる事?って思ったけど、よく考えてみると、もし量産出来てそれを沢山摂取し続けたら不老になるって事だよね……そりゃあ大騒ぎにもなるってもんだって、ようやく合点がいったよ。
俺たちはオークションの様子を見守りつつ、今は地上にて修行をしていて、当面はダンジョンへは潜らないらしい。
理由は競り落とせなかった国や研究機関が、連絡だけではなくて押し寄せてくる可能性があるかららしい。いくら否定しても疑惑は残るし、あわよくばと襲ってくる可能性も捨てきれないとの事だ。
なので、分身200体ほどを常時本部を囲むように配置しているし、本部に通う人員の家や本人たちにも分身を付けてある。
ただあくまでもこっそりと警戒だ。あからさまに警戒すると、今度はそこを注視して勝手に確信を深めてしまうからだ。
バカな事を考える人たちがいないと良いんだけどね……
そんな日々を過ごす事10日……つまりオークションが終了した。
結果、なんとアムリタは1兆8千億円で落札。毛生え薬は9千億円での落札だった。
両方とも落札したのはアメリカの研究機関だった。
アムリタ1本に約2兆円って……
いや、わかるよ?重要性はさ。でもさ、限度があると思うんだよ。
そして意外に毛生え薬も高かった。こちらはまぁ、世界のハゲの救世主となるわけだし?量産化して売り出せばすぐに元を取れると思ったんだろうね。
それにしても……うーん、わからん。
そして怖いよ、なんだよ約2兆円って。
もし、もしも10歳の方を出していたらどんな事になっていたんだろうね?考えるだけで怖い。
師匠たちも、まさかここまで値が跳ね上がるとは思ってもいなかったようで、金額を知ってこめかみを押さえて首を振っていたよ。
代金だけど、協会からすぐにお金を動かすとバレバレになるために、1年ほど経ってから日本内外にあるいくつものダミー会社を通してからとなるらしい。
「待ち遠しいだろうが数年ほど待ってくれ、すまんな」
って師匠に謝られたけれど、待ち遠しいどころか困るんだけど……
しかも1人3500億円づつで、残りは全部召喚獣たちの分として俺に上乗せって言われてもさ……
お金を貰える事に困るってあるんだね、少し前では考えられなかった事態だよ。
困っているのは俺だけじゃなくて、香織さんも「3500億円ってナニ……」って虚ろな目をしてた。
もう引退でいいんじゃないかな?
潜る必要ある??
まぁ逆に身を守るためにダンジョンに潜って、鍛え上げないとダメなのかもしれないけれどさ。
問題のアムリタと毛生え薬は既に協会へと渡してある。だけど受け渡し場所は内緒にされていて、あまりにも高価であり重要性が高いためにアメリカは軍を投入して運ぶという話だ。原子力潜水艦が既に数隻横須賀近辺に既に潜んでいるとかいないとか、テレビでやっていた。
そして恐れていた一全本部への襲撃だ。
週刊誌記者と名乗る男2名が勝手に表玄関と裏口から侵入しようとした件。サクッと捕まえて引き渡した。黒い笑みを浮かべた近衛の人がどこかに連れて行った。
シーカーと見られるグループが侵入しようとした件が13件……合計164名。その人たちは武器を構えて侵入して来た……まぁそれらもサクッと捕まえたんだけど。
こちらも近衛の人たちの手により、どこかへと連れて行かれた。後ほど聞いたところロシア・アメリカ・オランダ・フランス・イギリス・スウェーデン・ドイツ・インドなどだったらしい。個人を襲おうとした人もいたけれど、そちらもしっかり返り討ちにして捕獲した。
ちなみに柳生本家でも襲撃があったらしい。こちらは多分じいちゃんばあちゃんが若返った事を認識していて、その線から出品者も柳生だと踏んだと思われる。あちらでも被害は一切なく、大捕物となったとじいちゃんに連絡があったようだ。
一全・柳生に襲撃があったのはオークション終了後から約3週間だ。
その後約1ヶ月様子を見てみたけれど、どうやら諦めたようで襲撃や不審者がうろつく事も無くなった。
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