第124話ーー男の子の夢は叶わないようです

 今回の探索も名古屋北ダンジョンだ。

 既に5日前にまた東さんたちは進入しているのだが、またテレビで「今回も軽くと行った感じで行ってきますよ」だなんて何食わぬ顔でインタビューに答えていた。もはや滑稽としか言いようがないけれど、ある意味すごいなってやっぱり感心するよ。ぶっちゃけシーカーより役者の方があってたんじゃないかな?イケメンだし。


 先に進入して、どうやって俺たちを襲うつもりなのか?とこで待ち伏せするのかが問題だが、まず風魔と戸隠の2人とあと2人の賛同する流派の人間は一行から離脱して、本隊……つまり流派ごと押し掛けてきている団体と合流したらしい。彼らが待ち構えているのは60階層だ。

 次に東さんたち一行が待ち構えているのは61階層で外国勢力は挟むようにして俺たちの後ろからくるらしい。風魔と戸隠が成功したら上層でそこを攻める、失敗した場合は上に戻るか下に行くかわからないために東さんたちとで挟み撃ちといった感じらしい。ただ東さんたちは足止め要員のようだけれどね、実力的に。


 田中さんはその身柄を既に伊賀に取り押さえられていて、今回の探索には参加しない。次に秋田さんも体調不良を理由に、一全の五男グループと合流しているために参加していないのだが、ダンジョン内には進入していないようだ。まぁ1番の目的は師匠の排除なので、2つの勢力の結果を待つといった様子らしい。


 さて俺たちなんだが、柳生さん夫妻も一緒に行くのかと思ったら、どうやら一全本部屋敷で守りを固める要員らしい。2人はガチガチの戦闘タイプなので、鬼畜治療師とハゲヤクザがその補助として残る。ハゲヤクザもバリバリの戦闘系じゃんって思ったんだけど、これは2人が信用出来ないからとかそんな理由ではなく、あくまでも柳生さんは違う流派の人間のためという処置らしい。その代わりに近衛の数人が次元世界に入って着いてくるようだ。

 香織さんのご両親は万全を期して、安全のために1週間前から俺の次元世界の中で暮らされている。レベルも3になり、そこそこ大きい屋敷へと変化しているので、なかなか暮らしやすいらしい。どういう仕組みか、水道なども通っているようで、トイレも流れるからね。


 鬼畜治療師とハゲヤクザが一緒に行動しない事で、周りに不信感を抱かせるのでは?との懸念があると思うが、そこは俺の新たなスキルが大活躍する。

 その名も【変化の術】だ。

 これは名の通りに姿形を対象人物そっくりに変化するのだ。いかにもNINJAって感じだよね!?そんなのが今更って感じで発現した事に驚いたが、性能で納得した……レベルが存在しないのだ、そのため時間制限がない。更に声まで変化出来るのだ。

 さて……誰にでも変化出来るとわかったら、男の子ならば誰もが考えると思うんだ、女性へと変化したらその身体を見てみたいと!!だがそうは都合よくいかなかった……何故ならば、どうやら魔力で全身を覆う事で他人からの視覚情報を騙すらしく、俺本人には自分の身体にしか見えないんだよね……

 あと他の制約としては、化ける対象の身体の1部を触りながらでないと、変化は出来ない事だ。故に想像上の人物とかは無理らしい。まぁ過去の人物とかの場合は、遺骨などでも可能なんだけどね。だから例えば俺が香織さん100人に囲まれたいと願った場合、分身100体が代わる代わる香織さん本人に触らないと無理という事だから、実質不可能に近いって事だ。

 まぁ今回はハゲヤクザと鬼畜治療師に変化して、その2人と一緒にダンジョンへと向かうって事になった。

 そして香織さんは……やはり自分の目で言葉で本人たちに確認したいそうだ。だから次元世界の中で籠るのではなく同行する事になった。そして俺もだ。俺は別に確認する気はないけれど、香織さんを1人戦場に立たせるわけには行かないしね。ただ精神的な面から、香織さんは50階層のボス部屋までは次元世界の中で過ごして貰う。


 現在40階層をひた走ってあいるのだが、めちゃくちゃ人が多い。特にこの40階層から多くなった感がある。しかもテントや拠点の様子を見るに、明らかに数日前から泊まり込んでいるようなので、きっと今回の騒動に関連するのではないかと思われる。

 そして50階層ボス部屋で1時間ほど休憩&香織さんを出して気持ちを落ち着かせてから、一気に60階層へと向かう事となった。

 ちなみに現在のところ、本部に置いてきた分身からの情報では何も起きていないようで、柳生さんとしては張り切っていた分つまらないと言って、ハゲヤクザ相手に手合わせを行っている模様……手合わせというよりほぼ一方的に痛めつけられているハゲヤクザの姿が見えるけど。初めて見たよ、ハゲヤクザが地を這い血を吐く姿なんて……ストレス溜まって、全てが終わった後に俺の修行で発散する事がない事を祈るばかりだよ。


 そして遂に59階層まで来た。

 探索社の数は更に多くなっていて、そこらかしこでテントをはっているようだ。これまでで類を見ないほどにシーカーがいる。もちろん外国勢力も多数いるんだろうけれど、これだけの数が日々探索に励めば、多大なる成果が出ると思うんだけどな……無駄に策謀を張り巡らせて、人間同士血で血を洗うような事をしなくても。


 60階層へと降りて中ほどまで進むと、前方に数百人のシーカーが行く手を阻むように立っていた。更に後ろから59階層に居たと思われる集団が走ってこちらへと向かってきている。


「止まれっ!!ここは通行止めだっ!!」

「くくくっ……一応聞くが、風魔と戸隠、それに黒鍬くろくわ神道しんとうまでもが揃い踏みで何用かな?」


 前方の人が手を広げて叫んだ事に、師匠はあからさまに白々しいといった感じの表情を浮かべながら笑った。

 黒鍬も神道も東さんたち一行の中に組みされている流派の1つだ。知る人ぞ知るといった流派らしいが、世間的にはあまり有名ではない。この2つが風魔と戸隠に賛同して共闘する運びになった理由には、その辺の事も絡んでいるようだ。


「チッ!全てお見通しと言うわけかっ!!まぁいい……たかが一全如きが力をつけすぎたんだよ!」

「その通り!そこにいる勇者とバケモノは俺たちが管理し扱う事こそが正解だ」

「たかが名古屋の片隅で活動していたような、柳生の庇護の元でないと生きていけぬはずの一全如きが持つものではない」

「然りっ!!」


 前情報通りの理由のようだ。

 それにしてもバケモノだって?そして管理して扱うって、まるで俺たちを人間として見ていないんだね……


「大人しくそこの2人を渡せっ!」

「俺をコケにしたバケモノの配下の女あぁっ!!てめぇはそのバケモノの前で犯し殺すがなっ!!」

「そのたかが一全に大した出迎えのようだな……弱い犬こそよく吠える……くくくっ」


 師匠と4人の流派TOPが話し?……話している中も、彼らの配下はじりじりと俺たちを包囲するように広がって行っているようだ。

 でも本当に師匠の言う通りだよね。「たかが」を連呼しているくせに、たった8人にしか居ない俺たちを数百人で包囲するなんて、自分で自分たちがそれほどまでに弱いと言っているようなものだ。


「横川と如月くん、一応確認するがあの者たちの元へと向かう気はあるか?」

「絶対にお断りします」

「同じです」

「という事だ……くくくっ」

「その言葉後悔するなよ!?」

「生きていればいい、生きていればな……俺たちの力を思い知らせてやれっ!!」


 顔を真っ赤にしたオッサンの言葉と共に、俺たちを包囲していた集団から魔法が放たれた。

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