第114話ーー誰だよ、あんな事言った奴は!!

 武器防具をそれぞれが魔法袋やアイテムボックスにしまったところで、宝物庫へと向かう事になったのだが、ここでハゲヤクザが突然叫び出した。


「先程から感じておったがやはりっ!!これは、この泉は全てが酒ではないか!?」


 淵に膝をつき、今にも泉に飛び込まんばかりに顔を近付けて匂いを嗅いでいる。


「えっと……鑑定では龍泉って出ています」

「香織の言った通り龍泉ですよ。つまりお酒の湧き出る泉です」

「やはりかっ!!」


 マジかよっ!?

 この泉……半径20mはある大きな泉全てが酒?しかも真ん中辺りがコポコポしているから、どんどん湧き出ているって事だよね。


「美味いっ!!小僧っ空き瓶など全て出せ!汲んで帰るぞっ!」


 いつの間にか魔法袋からアルミカップを取り出して、それで汲んでガブ飲みしたハゲヤクザは満面の笑みだ。

 その様子に「どれどれ」だなんて言いながら、師匠と鬼畜治療師が同じようにカップで汲んで飲み始めた。

 あれだね……毒耐性が高いと、恐る恐るとかそういうのがなく飲めちゃうから考えものだね。普通少し毒味してから飲むよね?


「確かに、これは飲んだ事のない美味さだな」

「魔法袋に直接酒を入れれないのが悔しいところだね」


 どうやら2人の舌にも合うようだね。

 ドカりと地面に腰を下ろして、酒を飲み始めたよ……


「宝物庫はどうしますか?」

「ふむ……横川と如月くん、開けて見てみて来てくれて」

「「はい」」


 どうにも動く気がないというか、酒に夢中のようだとわかったところで、香織さんと顔を見合わせ宝物庫の扉を開けに向かう事となった。

 危険はないとは思うが、一応念の為に分身に扉を開けさせる。それはまるで家庭の床下収納のような雰囲気だが、規模が違う。何で出来ているのかはわからないが、かなり重いために片方の扉づつを3人掛りで持ち上げ開けると……そこには更に地底へと続く階段が待っていた。


 慎重にゆっくりと降りさせて行く。先程まで閉められていた宝物庫内のはずなのに、何故か壁にはロウソクが立てられており、金色の壁を明るく照らしていた。

 1段30cmほどの階段をゆっくりと20段ほど降りると、そこにはとても広い部屋が広がっていた。宝物は見ないで分身を解く。感動は香織さんと一緒に味わいたいからね。


「危険はないようです、香織さん行きましょう」

「うん、下見ありがとう」


 ハッ!?

 もしかして師匠は俺に香織さんと2人きりになるプチデートをプレゼントしてくれたのか!?

 初めての場所だというのに、珍しく一緒に来ないなんてよっぽど酒が美味いんだろうな〜なんて思っていたけれど、そういう事だったのか!!

 さすがのお師匠様です!!

 召喚獣たちも気を利かせたのか、着いてこずに師匠たちの酒盛りに参加しているようだし……獣形態のままだけど。


「階段ですので気を付けて下さいね」

「うん」


 おおっ!

「うん」って言いながら、先に行く俺の肩に手を置いてくれましたよっ!!

 ヤバい!!宝物庫へのドキドキよりも、肩から伝わる香織さんの体温にドキドキしてしまうっ!!


 少しでも味わっていたくて、ゆっくりと降りる……くそっ!なんでたった20段しかないんだよ!!


 階段を降りきった先にあったのは、部屋の両脇にこれでもかというほど並べられた宝物の数々。それらは金色の壁から照らされているのもあって、全てがキラキラと光っているかのように見える。


「スゴいっ!ねぇ、スゴいねっ!」

「で、ですね」


 おおっ!

 なんという事でしょう!!

 香織さんが俺の左腕をギュッと掴んでいるではないですかっ!!

 正直、目の前の宝物の数々よりも、この状態の方が最高に興奮します。


「これ、お師匠さんたちにも見せてあげたいねっ!」

「そ、そうですね」


「いや、見せなくていいです。このままずっと2人でいたいです」と言いたいところだけれど、さすがに恥ずかしくて言えなかったよ。その代わり分身で呼びに行かせる事にした。


「スゴい、スゴいねっ!一太くんのお陰だよっ、こんなの見れるなんてっ」


 未だ興奮して、声を上げる香織さん。俺の腕を掴む指に力が込められるに連れ、次第に抱き抱えるように密着してきて……くぅっ!鎧が邪魔だっ!無ければもっと柔らかい感触さえ味わえたというのに!!


「おおっ!!これは壮観だな」

「これほどの宝物庫は初めてですな」

「こりゃあスゴいね」


 チッ……意外に早く来たな。もっと酒盛りしていればいいのに。


「あるのは……宝石の原石が山ほどと、何かのインゴット、先ほど出た武器防具に似たものが数々、あとは樽や箱にポーション類か。よし、全て横川と如月くんの空間庫に収納して、上へと持ち出してくれ。そこで改めて検分を行おう」

「「はいっ」」


 ああっ、師匠たちが戻って行くと同時に、収納するために香織さんの腕が俺から離れて行っちゃったよ……

 名残惜しいけどしょうがない、俺も収納するとしますか。


 数十分掛けて2人で全ての宝をしまったところで上へと戻り、また酒盛りをしている師匠たちの傍に収納した宝全てを外に出して、片っ端から鑑定していく事となった。


 まず武器防具だが、刀剣は龍の骨から削り出した物のようだ。先程のドロップの刀は龍の牙から削りだされた物らしい。他にも龍鋼銀なる龍の鱗を鍛治の際に混ぜ込んだ物で作製した刀剣やフルプレートメイルなどがあった。また龍鋼布なる、龍の鱗が練り込まれた布の巻物が幾つか……こちらはきっと師匠たちや俺の忍び装束へと変わるだろう。どちらにしても、八岐大蛇のように魔法のほとんどを減衰させ、物理にもかなり強いらしい。

 宝石は原石のままで、大きさは全てが拳大ほどだが、量が多かった。ざっと数えて数千は越していると思われる。これには鬼畜治療師が大喜びで、片手に酒、片手に原石を持ってうっとりとしているようだ。

 ポーションだが、なんと蘇生薬なるものがあった。死後1時間以内なら、死から蘇る事が出来るらしい……本当かどうかはわからない、なんたって試してみる言葉に出来ないからね。また他にエリクサーが100本ほど。最高レベルのキュアポーションも100本ほどあった。キュアポーションは毒や状態異常を治す事で有名だが、レベルの高い物はどんな難病も治す事が出来るらしい。他に目を引いたのはアムリタという若返りのポーションと、毛生え薬だ。内容が判明した瞬間に、そっとうどんがハゲヤクザに差し出してぶん殴られていたのは笑いそうになった……笑ったら同じ目に合うのはわかっているから、けっして笑わないけどね。

 そして樽の中身は、これまたお酒だったのだが……竜泉らしい。どうやら今師匠たちが酒盛りしている酒の劣化版というか、少し味が落ちる物のようだ。そしてワインの革袋と同じように、尽きる事なく延々と湧き出る樽との事だ。これが5つあった……うん、取り合いにならなくて良かったよ。「これはこれで美味い」って3人とも叫んでたし。

 では箱はというと、高さ1m×奥行1m×横幅2mほどのものなのだが、中にぎっしりと様々なインゴットが詰まっていた。金・銀・プラチナ・魔銀・魔剛銀などなどだ。だからめちゃくちゃ重くて1人では持ち上げられないほどだ。


 全ての鑑定が終わったところで、分け前は地上に戻ってから改めて行うという事になった。そして酒盛り&龍肉祭りだ。

 龍肉はただ焼いただけだというのに、めちゃくちゃ美味かった。口の中で蕩けるというかなんというか……とにかく表現出来ないほどに美味かったよ。そしてとにかく量もあるために、召喚獣たちは獣形態のままに貪り食って喜んでいるし、俺たちも腹いっぱいになるまで食べた。それでも食べきれなくて、俺の空間庫へと仕舞う事になった程だ。


 酒盛りは続く……

 そしてついには我慢できなくなったハゲヤクザは泉の中に飛び込んで飲み始めた。夢だったらしいよ?酒の泉で泳ぐ事が。鬼畜治療師は気に入った宝石を周りに置いて、宝石に話しかけながら酒を飲み続けている。その宝石を物欲しそうに見つめながら酒を飲む召喚獣たちの姿が少々気になるところだ。まぁ鳥のつくねはわかるけれど、他の動物?も光り物が好きなのかな?師匠は俺にもご機嫌な様子で勧めてきたので、ついつい思わず飲んじゃったんだんだ。確かに美味しいとは思った、だけど飲みやすい口当たりだが腹が一気に熱くなる感覚……


 俺たちは毒耐性を持っているから、酒には酔わないなんて信じていたんだけれど、どうやらそれは違うらしい。曰く、「酒が毒となるならば、薬とてまた毒となるのと同じだ。大量に飲めば酔う」らしい。

 すっかり騙されていたよっ!誰だよ、毒耐性あれば酒には酔わないなんて!!

 そのせいでついつい飲んでしまったせいで、俺は酔ってしまい……香織さん相手に延々といかに俺が香織さんを好きかを語っていたらしい。しかも香織さんを逃さないように腕を掴んで、数時間熱く愛を語っていたらしい。

 このらしいってのは、後から召喚獣たちに聞いて知ったんだけどね。


 いち早く事態に気付いたのは師匠だった。そしてハゲヤクザを泉から引き上げ、鬼畜治療師を叱り、俺を香織さんの前から引きづって来て……終わらぬ説教が始まった。


「ジジイはもう少し自重というものを覚えよ。近松まで酔いに任せてどうする?んっ?横川は……愛を語るなら相手の事も考えよっ……ゴクリ」


 酒を片手に説教されても、説得力ないんですけどっ!!


 一体いつこれ終わるんですかっ!?

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