第115話――いつから気付いてたんですか?

 うぅ……脛が痛い。

 そして顔が熱い……


 俺たちはあのまま寝落ちしたらしい……つまり正座したまま前に突っ伏して。

 それを起こしに来たのは香織さん、俺は寝ぼけたままに、隣に座って俺を揺り起こそうとする香織さんの膝を捕まえ頭を置いた……そう、無理やり膝枕をしたというわけだ。そしてふと目を開けたら、真っ赤な香織さんの顔があったわけで、俺も事態に気が付いて顔が一気に熱くなっているというわけだ。


「香織っ!起こして来いと言ったのに、何をイチャイチャしてるんだいっ?」

「えっ?あっ……いやっ」


 俺が原因だとはわかっているけれど、無理やり振り落としたりせずに顔を赤くして困る香織さん、可愛い。


「横川っ!とっとと起きろ!これからの予定を話し合うぞっ」


 ああっ……

 師匠の声が掛かってしまったよ。名残惜しいけれど、起きなきゃだ。


「香織さん、すみません」

「あっ……ううん」


 ヤバい!!

 可愛すぎるって!!

 何この生物!?本当に俺と同じ人間なの!?クラスメイトの女子たちと同じ性別だとは、とても思えないよ!!

 心のシャッターを押しまくって、アルバムに永久保存だねっ!!


「コラっ!早う来んかっ!!」


 あまりの可愛さに見蕩れて身悶えしていたら、ハゲヤクザから小石が飛んできたよ。


 2人揃って師匠たちの元へ行くと、また片手に酒を飲んでいた。昨日あれだけ……文字通り浴びるほど飲んだというのに、未だ飲み足りないらしい。それに要請通り空き瓶という空き瓶、それにスープが入っていた鍋とかにも酒を詰めたというのに……どんだけ好きなんだよ。確かに美味しかったけどさ。


「ようやく来たか。飯を食いながらでいい、今日の予定を話すぞ」


 ここは7800階層、ちょうど100階層区切りなので1階に戻ってから、また走って行くのだろう。きっと予定というのは、1階層に出たら1度探索協会に顔を出すとか、その際に配下の方たちに指示を出すとかそんな事だろう。


「横川よ、昨日は頑張ったな。考えればここ最近ずっと毎日修行ばかりで楽しくなかっただろう。故に本日は休みとする。出発は18時間後、1階層に出たら俺はそのまま本部へと戻るが、お前たちは東たちを助けに行ってやってくれ」


 うん、まるで俺のためみたいに言っているけれど、どう考えても酒を飲むためだね。まぁ師匠たちも色々ストレスとか溜まってそうだしね……更にここを出たら東さんたちの問題が目に見えているわけだし。たまにはいいと思う。

 それにここはボス部屋、中に生存している人がいる限り新たなボスが出現する事もないから、久しぶりに見張りとか必要なく気ままに過ごせるんだよね。


「ありがとうございます」

「うむ、如月くんも好きに過ごして構わないからな」

「はいっ」

「よしっ、では解散だ」


 突然の休日は困るね。

 地上でならアマやキムに連絡て予定を合わせてみたり、テレビ見たりなど色々やれる事はあるけれど、ここはあくまでもダンジョンのボス部屋だもんな。


「香織さんはどうしますか?」

「うーん、うどんちゃんたちの毛皮に埋もれて寝ようかな〜」


 未だうどんを筆頭とした召喚獣たちは獣形態のままだ。どうやら本来の姿の方が楽らしい。そしてそんな毛皮たちに埋もれてのモフパラか……ブレないね。って早速うどんの9つのモフモフした尻尾に包まれているし。


「一太くんは?」

「うーん、どうしようかな」

「あっ、お酒はダメだからねっ!?」

「あっ、はいっ」


 ちょっと考えていたんだよね。少し飲ませて貰おうかな〜なんて……


「昨日の主様は大変でしたからね、香織の腕を掴んで延々と、延々と語ってましたもん」

「そうですね、初めて出会った幼き日の想い出から、今まで抱いてきた熱い想いを繰り返し語っていましたし」


 えっ!?

 一切そんな事覚えてるいないんだけど!?

 そして俺は一体何を語ったんだろう!?

 聞かれちゃマズイ事言ってないよね?あんな事とかこんな事とか……


「また香織は顔を赤くして……本当にウブですね〜。こんなんじゃ先が思いやられますよ」

「そうだな……我らが男に変化して耐性をつけさせようか?」


 うどんの言葉には頷くところがあったけど、つくねよ、ちょっと待て。


「お前たち男に変化出来るの?」

「ええ出来ますよ」

「じゃあなんで女性に変化したの?」

「うどんは元々メスの狐からのあやかしになったのですが、我ら四神にはそもそも性別はございませんので。主様が男性であるが故に、親しみを持って頂くために女性へと変化したのでございますよ」

「それって一太くんが女の子望んでいたって事?」


 ちょっと!?

 まるで俺が女好きみたいな感じになっちゃってない?少なくとも香織さんの質問はそんなニュアンスだし!!


「望んでなんていませんよ!?」


 冤罪、冤罪だ!!

 ここは断固としてその考えには抗議しますっ!

 まぁ確かに男で、更にイケメンとかだったら親しみは持てなかっただろう事は否めないけれどさ。


「いえ……我らを呼ぶ者が男性の場合は女性型という事です。もしも香織が主様だったとしたら、我らは男性の型になっていたと思いますよ」

「そうなんだ?」

「はいっ、主様がどうしてもと望むのなら男性になりますが……せっかく買って頂いた洋服が無駄になるのもですし」

「端末の事もあるからもう男性型になるのは無理だろうけれど、1度変化してみてよ」


 ちょっと見てみたい。

 でも嫌な予感もするんだよね……だって、美女に化けるって事は、イケメンじゃない?


「では……」

「やっぱりイケメンになるんだね」

「我らはあくまでも主様のスキルの1つでございますので、この姿は主様が望む理想の姿でございます」


 つくねは細身のイケメン、ハクは体格のいい男っぽいイケメン、あられは2人の中間といった感じだ。

 チッ……やはりイケメンは敵だな!!香織さんの視線を奪いやがって!!

 それに俺の理想って……別に男には興味ないんだけど!?そしてその言い方だとまるで俺が、イケメンに憧れているみたいに聞こえるから抗議したいところだ。


「香織さんの好み……あっ、なんでもないです」


 聞きたくないけれど聞いてみたい……と、つい口にしちゃったよ。「男はやっぱり顔だよね」とか言われたらショックだから、途中で止めた。


「うーん、私は別に顔とかはどうでもいいけど。3人の姿を見たら、友達とか大騒ぎしそうだなって思っただけ」

「そうなんですね」


 ほっとしたよ。

 別に答えが俺を指して言っているんじゃなくてもさ。


「主様の女性の好みは香織一択でしたので、中々難しいところでしたね」


 おっ、いい事言ったぞハクよ。後でさりげなく物欲しそうに見ていた宝石を俺の取り分の中から1つを上げよう。


「そうなんですよっ!俺は香織さんしかずっと見てませんからね!!」

「あっ……ありがと」


 ハクの発言に乗って、しっかりと告白させて貰いましたっ!!

 そしてまた顔を赤くする香織さん……可愛すぎるっ!!


「あのね……一太くん」

「はっ、はいっ!!」


 ますますうどんの尻尾に身を沈めて、モジモジしながら顔を更に赤くする香織さん……こ、これは期待していいんですかっ!?


「気持ちは嬉しいし、伝わって来ているんだけど……」


 えっ?

 けど?けど?

 けどってなんですか?その言葉に続く場合は否定ですか!?


「答えはもう少し待ってね」

「はいっ」


 良かった、良かったよ……否定じゃなくて。


「それとお願いがあるんだけどいいかな?」

「何でしょうか!?」

「うん、あのね……最近はないけれど、以前は良く家の前を何度も通ったりしたよね?あと、庭先に烏を飛ばすのは止めて欲しいかな」

「……えっ?」


 も、もしかして俺は昨日言ってしまったのか!?

 いや、今の口調だと、家の前の散歩とか気付いていた!?


「こうやって話すようになったし、一緒に探索もするんだから……ねっ?」


 あわわわわわわわわわ……


「すみませんでしたーーー!!」


 ジャンピング土下座です。

 昨日の正座で脛が痛いとか言ってられませんよ!!


「本当にすみませんでしたーーー!!」

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