第113話ーーこれはいい物だ

 再生能力もあるらしい……

 ようやく首の半分ほどまで傷を与える事が出来たと思ったら、白い煙と共にシューシューと奇妙な音をたてながら肉が盛り上がりくっついていくようだ。


 ほんと、これどうしたらいいんだろ……

 とりあえず出来る事をしよう。


 何度も刀を振り続けている内に、刀が肉に食い込んで抜けなくなってしまったよ!!まぁ骨に当たっているのか、刃もボロボロになりつつあったんだけどね。

 こうなったら、もうアレしかないだろう。


「ハク、うどんはそのまま正面から噛み付いたり、爪で攻撃して!!つくねとロンは刀になってくれ!!」

「「「「はいっ!!」」」」


 つくねとロンが変化した刀だけれど、これを装備した状態で分身しても、分身には装備されていないんだよね……だから引き続き分身たちは刀でチクチクと傷付けるしかない。


「つくね、ロン!全力で攻撃するから力を解放して!」


 全力でクビへと斬りつけると、さすがと言うべきだろうか、炎と雷が迸りなが8割りほどまで斬り進める事が出来た。首の後ろから攻撃しているために、ここまで斬る事が出来ればあとは自重で前へと倒れるように斬り落とす事が出来た。


 これならイケる!!


 次の首へと取り掛かり同じ作業を繰り返し、更に次へ次へと刀を振る。


 ……っと、4本目を斬り落とした瞬間だった。

 ズズズズズっという音とシューシューという音をたてながら、1本目に斬り落としたはずの首がムクムクと生えてきているのが見えた。


 えっ?

 斬り落としても復活するほどの再生能力持ってるの!?

 どうなってるんだよっ!!

 その再生能力の力の元は何なんだ?

 きっとこれだけの能力だ、限りがあると信じるしかない。同じ事を繰り返して、復活出来なくなるまでやるしかないだろう。


 各首の口からは魔法の球が吐き出されているのを横目で観察していると、どうやら1つの首あたり、1つの属性のようで、右から闇・火・風・雷・水・氷・土・光だ。もし闇が俺の闇球と同じような効力を持っていると怖いので、闇の首をすぐさま斬り落とす。


 4つの首を斬り落とす事を繰り返す事、5回。未だに復活スピードが変わらない。ほんと、どこにそんな力があるんだろう?ただブレスは最初の1回以外は吐いていないから、同じ元だとは思うんだけど。


 このまま繰り返していたら、本当にいつか倒せる事はあるんだろうか?

 もしかして終わらなかったり??

 ダメだ、不安になっている暇はない。やれる事をやるしかない。


 でも、八岐大蛇もこちらの意図に気付いたのか、正面から攻撃するうどんとハクにはあまり構わなくなり、残った首の噛みつきや魔法を俺に集中させるようになってきたので、避けながら弾きながらで、結構大変だ。


 もうこれどうしたらいいんだ?なんて思っていたら、師匠たち3人がこちらへと走ってくる姿が見えた。きっと千日手のようになっているのがわかったんだろうね。


「横川は3本、俺とジジイは2本、近松は1本を合わせて落とすぞっ!」

「はいっ」

「「はっ」」

「今だっ!」


 声に合わせて、一気に3本を斬り落とす。

 っと……ええっ!?師匠たち、なんで一刀で完全に斬り落とす事が出来るの!?俺みたいに自重を利用する事もなく、スパッとやっちゃってるし!!

 俺が3本目に手を出そうとしたら、既に2本斬り終わっていた師匠がサクッとやってくれた。

 早い、早すぎるっ!!


 だが、ほぼ同時に首を斬り落とした事が功を奏したのだろう……一向に首が生え直して来る様子はないようだ。


 でも、このままなの?

 ここからどうしたらいいんだ?この分厚い身体を引き裂いて、魔晶石を探し出して潰すしかないのか?

 そんな事を悩んでいたら、尻尾からゆっくりと……ゆっくりと光へと変わり始めた。

 そのまま見守っていると、約20分ほど掛けて巨体全てが光へと変わり消えた。

 そして大きな池?泉?と、その奥の地面に煌びやかな扉が現れていた。


 全てが変わるのを見守っていると、香織さんがあられに乗ったまま近寄ってきた。ハクとうどんも身体の大きさを3mほどまで小さく変えて寄り添っている。


「横川、よくやった」

「いえ、来てくれてありがとうございます」

「だが、初手からすぐさま状況を見極め、攻撃を変えたのは良かったぞ」

「魔法を弾かれたとはいえ、なかなか良かったと思うぞ。あとは刀の修練だけだな」

「あのブレスがこちらに直撃していたらと思うと肝が冷えたからね」


 師匠たちは褒めてくれるが、やはりこうなんというか……1人でやると言ったのに、結局助けて貰って何とかなったのが悔しい。やはりまだまだ弱いな俺は。


「横川、己の反省は程々にして、共に戦った配下の者を褒めてやれ。それもお前の仕事だ」


 そうだった、師匠たちが来るまでも俺1人で戦っていたわけじゃなかったんだよね。


「あっ、はい。うどん、ハク、つくね、あられ、ロン、よくやってくれた、ありがとう」

「うむ、うどんとハクの敵を引き付けようとする動きは中々だった、つくねとロンも横川の指示に直ぐに反応し変化したのは素晴らしい。あられも我らをしっかりと守ってくれたな」

「「「「「ありがたきお言葉っ」」」」」


 俺の言葉は足りなかったようだ。そうだよね、それぞれをしっかりと褒めないとダメだよね。さすが師匠だ。


「一太くん怪我はない?」

「大丈夫です。香織さんも怪我がないようで良かったです」

「一太くんたちのお陰だよ」


 うん、今は香織さんを守り戦えた事を喜ぼう。反省と修行のやり直しはまた後だ。


「よし、横川が一息ついたらドロップを見に行くぞ」

「「はっ」」

「「はいっ」」


 緊張してたのだろう、師匠の言葉に頷き息を吐いたら……今更ながらに手と足が震えてきた。


「あれほどの敵に1人で向かい、諦める事なく最後まで己の全てを出し切っていたのだ、誇っていい」

「ありがとうございます」


 震えを見た師匠が、俺の背を軽く叩きながら褒めてくれた。

 ……うん、よくやったよね俺。山のようにデカいモンスターと戦ったんだもんね。


 10分ほどその場でゆっくりとしてから、ドロップを見に行く事となった。

 泉の前に転がっていたのは、直径1m高さ2mほどのバカデカい魔晶石だ。更に隣には長さ1mほどの刀が5振り。大きな和弓が5張。龍肉の大きな塊が5つ。一抱え以上ある大きさの鱗が50〜60枚。その鱗で作られているっぽい鎧や具足などが5つあった。

 どうやら部屋に突入した人数分の数だけ、武器防具はあるようだ。


「うーむ、中々いい拵えだな」


 いち早く刀を抜いて刀身を検分した師匠が唸った。


「横川、今回もお前の頑張りがあってこその結果だ。お前の時空間庫にしまえ」


 えっ?

 人数分あるのに俺の総取り?

 いやいやいや、それはないでしょ!

 それに俺1人で戦ったわけでもないし。


「武器防具は1人1つづつあるので、分けませんか?」

「そうだが……いいのか?」

「もちろんです、俺1人の力じゃないですし」

「良いのか?」

「いいのかい?」

「はいっ、受け取ってください。香織さんもね」

「でも……」

「俺1人こんなに貰っても仕方ないし」

「じゃあ、貰うね?ありがとう」


「悪いね」とか言いながらも、明らかに師匠たちの目の奥は刀身を見て惚れ惚れしている感じが丸見えだから良かったよ。それに本当に俺1人では倒せなかったし、こんなにあっても仕方ないからね。しかも和弓とか鎧なんて、明らかに使わないし。


 早速その場でハゲヤクザが鎧を着込んで試して見たところ、八岐大蛇の同じとはいかないが、かなりの魔法の攻撃を防ぐようだ。きっと鱗単品は加工用に役立つだろう。


 さて次は泉の向こう側にある宝物庫らしき扉だ。

 一体何が入っているのだろうか?ドロップだけでかなりの物だったから、これは期待しちゃうね。

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