第86話――ダンジョンさんごめんなさい
うどんのストレス解消事件から更に5日経った。
帰りの徒競走は何とか追いつかれずに済んだよ……僅差だったけどね。後ろから足音が聞こえる程度の所に迫ってきていたのは確かだけど、追い付かれなかった事も確かなので問題ない。うどん?うどんは……
「ほれ後200回じゃ」
「無理ですよ〜」
すぐそこでキツネが2本足で立ってスクワットしているよ。少し前までは逆立ちしての腕立て伏せを強要されていた。あれに果たして意味があるのかどうかはわからないけれど、頑張って欲しいものである。
俺は相変わらず分身は魔法を延々とぶっ放し、本体である俺は木々の間を飛び回りながら、クソ忍者と鬼畜治療師と手合わせを行っている。ただ1つ違うのは、先輩も一緒に修行しているって事くらいかな。
今回先輩は結界の使用はOKだけど、使うのは己を守る一瞬……盾がわりにする時だけという条件だけどね。あと魔力を貯め込むために当分は修行中は他の魔法は使用不可だ。
それを踏まえての修行なのだが、今回は更に制約があるのだ。
「ほれ、25かける83引く73はなんだい?」
「……えっと……2000?」
「間違いだよっ!2分!!」
「189かける22はなんだ?」
「……430くらいです!」
「くらいとはなんだ……しっかり考えよ!」
そう、算数問題が追加されている。クソ忍者の声の時は俺に対して、鬼畜治療師の声の時は先輩に対しての問題だ。答えが合っていればいいのだが、間違っている時はその間違っている数の分数片足での行動を強いられる。その間に足を着いてしまったり転んだりしたら、カウントは0に戻されそのまま片足での修行続行となる。俺は以前に似たような事をさせられた事があるから大して問題はないけれど、先輩は初めての修行なので大変だ。だからその間は俺が近くにいて、先輩への攻撃を全て凌ぐという事を繰り返し続けている。
これ結構しんどいんだけど、先輩からの感謝の視線や労いが心地いいので中々楽しい。ただクソ忍者の質問のレベルをもう少し下げて欲しいところだ……今日始まってからずっと片足でいるんだよね。先輩の頭脳レベルと俺のレベルは違う事をわかっているはずなのにこの仕打ち……さすがにちょっとだけ恥ずかしいからさ。
………………
…………
……
「待たせたな、何とか宝玉は手に入れる事が出来た。お前たちはどうだったか?何かあったか?」
「お待ちしておりました。1度大きなキツネのような獣が襲ってきたのですが、弄んだ後どこかに消えました」
「ふむ……不思議だな」
修行をひとまず終え、扉の前に移動してきたんだけれど、クソ忍者と東さんの会話が可哀想で泣けてくる……よくあんな事を言えるよね「何かあったか」とか。自分でうどんをけしかけておいて、しかも襲っている最中2人して声出して笑っていたくせに。
「ええ……本当に不思議で。ただ人間の声のようなものが聞こえたような気がするんです」
「ふむ……それはまた不思議だ」
うん、東さん何となく気付いているよね。ただうどんを知らないから、確信を持てないだけっぽいみたいだね。俺の方をチラチラ見てくるし。
「まぁその話はいい。明日宝玉を嵌めて進入するが良いな?」
「はっ、かしこまりました」
「あと、宝玉の出現方法だが紙に纏めておいたのでそれを読んでおけ、外に出た時に必要だろう」
「ありがとうございます」
4箇所同時というのは伝えないようだ。ただ4箇所を順次巡って軍団を討伐したという事になっている。また一軍団の数が1200体な事も伏せるようだ、あまりにも多すぎるので無理を感じてしまうだろうという配慮らしい。
その無理がある数を俺と先輩2人にやらせたのってどうかと思うんだけどな……何とかなったからいいけどさ俺たちにもっと配慮して欲しいところだよね。
翌日早々に扉内突入の運びとなった。
宝玉を穴にはめ込むと途端に虹色に光だし、扉が自然に内側へと開いていった。
中を覗いて見ると、真っ直ぐ通路のようなものが続いており、両脇にはまるで仁王像のような半裸の大男の石像が、それぞれ剣や斧などを持って等間隔で並んでいる。仁王像と違うのは頭に大きなツノが生えているのと、額にも目がある事だろうか。片側10体、合計20体が200mほどに渡ってまるで侵入者を見張るかのようだ。
更にその奥にはドームのようなものがあり、その最奥には数体のモンスターが居るのが見て取れる。
「ふむ、通路のは守護者で奥にいるのはその主といった感じか」
「ガーゴイルの鬼版といったところでしょうな」
「鑑定は出来ません……」
「動き出すまでは石像という扱いなんじゃろう」
「ガーゴイルと同じように通り過ぎたら動き出すのか?それともドームに入ったら後ろから来るのか?」
「御館様、私たちが先行致しますか?」
「うーん……まぁそうだな」
「ではそのように。おいっ、前に盾を2人、後ろに2人で警戒しながら進むぞ」
「いや、最後尾に我らが行く、お前たちは前だけを固めて進めばよい」
「はっ!」
あの「うーん」はもしかして俺だけを行かせる気だったような悩み方だった気がするな……怖い怖い。明らかに強そうだよね通路の石像でさえ。身長なんて3mはありそうだし、筋骨隆々だしさ。
「えっ?……何でだ?」
「どうした?」
「進めません!」
東さんたちが盾をしっかりと構えて、4人が 並んで突入しようとしているが、まるで何か見えない壁があるかのように一切前へと進めないようだ。思いっきり体重を掛けているようで、4人が4人顔が真っ赤になっている。
「まだ他に仕掛けがあるのか?……どれ少し代わってみよ」
チラリと俺の方を見てから、東さんたちをどけてクソ忍者が前へと躍り出た。
あの視線はうどんに聞けという事だろう。当のうどんは『仕掛けはないと思います〜』とか呑気な声を俺の体内で言っている。
「んっ?入れるぞ……ふむ、山岡、近松、横川に如月くんも来てみろ」
手招きされたので扉内に足を進めると……うん、普通に進入出来た。
「東よ、来てみろ」
「はっ……くっ!進めません」
東さんはまるでパントマイムのように、壁に張り付いているかのようになっている。
「これはつまり宝玉を手にする戦いに挑んだ者だけが入れるという事かもしれんな。念の為全員試してみよ」
俺たちだけ入れるという事はそういう事なのだろう。っていうかそれくらいしか思い当たらない。東さんたちは全員がカエルのように壁にへばりついているし。
「しょうがないな……では我らだけで行ってくる。東たちは帰りの準備でもしておれ」
「はっ!ご武運を!」
「帰りも長い道のりだからな、進んでおっても構わんぞ?」
「よろしいのでしょうか?」
「あぁ、もしお前たちがダンジョン入口に着くまでに我らが追いつかなかった場合は、全滅したものと考え報告しろ」
「かしこまりました、そのような事にはならないと思っておりますが……ではご武運を!我らは荷物をまとめ、帰還するぞ!」
結局……というか、やっぱり俺たちだけで行くこ事になったのか。まぁ今回はダンジョンのシステム的なものなので仕方がないんだろうけどさ。
「よし、我らも進むぞ。横川よ、歩いて行け」
「……はい」
うん、わかってた、こうなるだろう事は。
「横川くん気を付けてね」
「はいっ!」
あぁ、先輩だけが癒しですよ。モフモフたちが居ないのに声を掛けてくれるとは、嬉しい限りです。
分身を出しつつ、恐る恐る刀を構えて一対を通り過ぎてみたけれど石像に反応はない。これは全て通り過ぎないと何もアクションは起きないのだろうか?
そのまま慎重に10対を通り越し、ドーム入口まで到達したが何の反応もないようだ。
「ここの入口と同じように、全員が通り越さないとダメなのか……横川、1度戻ってこい!」
クソ忍者の言う通りなんだろうけど、なぜ戻すのか?みんなが来ればいいだけだと思うんだが、何か考えあっての事なのだろうから、素直に戻る。
「戻っても反応はないか……ふむ……斬れるな」
何が斬れるのかと思ったら、石像の1つの上半身がズルリと別れ落ちた。どうやらいつの間にか斜めに斬っていたようだ……全くそのような動作は見えなかったんだけど。
「横川は左の石像を斬っていけ、ロックゴーレムよりも柔らかいから力加減に注意しろよ」
「これ斬るとどうなるんです?」
「ガーゴイルの場合は生体になった瞬間に、光へと変わるな。これの場合はどうなるかわからんが」
「わかりました」
後ろから襲われるよりはいいと思うんだけど、なんか反則な気がするよね……
ダンジョンに意思があるのかどうかは知らないけれど、もしあったらきっと「ズルいっ!」とか叫んでいそうだ。
まぁ今はダンジョンよりもクソ忍者の方が怖いので、もちろん斬らせて頂きますけども。
10体の石像を半分にしたり、細切れにしたりしながら進む。
ドーム入口に全員が到達しても反応はないようだ……もしかして骨折り損?ただの置物だったとかなのかな?
そう思いながらボスたちの手前50m程まで進んだ。
「エンペラーオーガ、ステータスはオールA、取り巻きはパレスガードオーガ、ステータスはオール3Bです」
エンペラーオーガは軍団の最後に出てきたジェネラルオーガよりも更に豪華そうな鎧だ、所々に宝石が光っているし。武器は金の斧?……金って武器にするには柔らかいんじゃなかったっけ?まぁ金色に光っているだけで、中身は金じゃないのかもしれないけどさ。
パレスカードオーガは、全身を鋼鉄の鎧に身を包んで盾と剣を構えるモノが6体、剣ではなく杖を持つモノが6体いる。
ただエンペラーもパレスガードも、オーガの名が付いているが、これまで見てきたオーガとは違い、石像と同じように額に目がある三ツ目で、ツノが3本あるようだ。
「パレスガードとエンペラーか……さしずめここは宮殿と言うわけか」
クソ忍者の言葉に辺りをよく見てみると、確かに壁などに美しい彫刻などが施されているようだし、隅には調度品のような物も並んでいる。
「エンペラーというのだ、きっとドロップは豪華そうな気もするが、横川よどうする?」
すっごい黒い笑みで言われた……
これは1人で倒せば俺の物になるという事なのだろうか?
どうなんだろう……
あぁっ!悩むっ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます