第85話ーーハゲてないよね?

 ――世界的パーティーリーダー東視点――


 年末は散々な目にあった。

 風魔と戸隠のが横川くんに喧嘩を売ったのが全ての原因だ。確かにあの魔法攻撃にはビックリしたしシャレにならないとは思ったけど、喧嘩を売っちゃダメだよ。

 横川くんの化け物っぷりに拍車がかかっていたんだけど、どうなってるんだ?

 まぁあいつも素手での手合わせというのに、当たり前のように盾を持ち込んでいたのはどうかと思ったが、まさかその鋼鉄の盾を素手で簡単に割るとか……普通じゃないだろう。その上一切あの巨体を空中に蹴りあげるとか、それをもう1人をボーリングのピンのようにぶつけるとか……正気の沙汰じゃない、しかも少し笑いながらだったし。

 本当に、俺が相手とかじゃなくてよかった。あいつらは心折れたみたいで、年明けすぐにチームからの脱退を申し出てきたけれど、うん、俺でもあんなんされたら心折れるわ。しかもバカにしていた、一回り以上歳下のガキにやられたとか……


 あの後も酷かったからな。

 ロックゴーレムをスキルなしで斬り伏せるって本当だったんだな……

 というか、横川くんは素手でロックゴーレムに挑んでいたんだけど。

 それを俺たちにもやれって?

 いやいやいや……それは人間業じゃないですよ。

 まぁ拒否権はないんですけどね。

 しかも山岡の元組長曰く、横川くんは俺たちの実力を誤って理解しているっぽいんだよね。


「東さんたちは真剣を使っているはずなのに、どうしてわざわざ斬らないんですか?あっ、もしかしてハンデを背負って?さすが世界的有名なパーティーですね!俺もその高みに早く近付けるように頑張らないとっ!」


 なんて言っていたらしいんだ。

 いやいやいや、そろそろ気付こうよ!?どう考えても御館様たち……いや、既に横川くんとでさえかなりの力の乖離かいりがあるって事をさ!!

 だいたいあの2人を軽くノシた時点でわかると思うんだけど!?

 えっ?

 あの2人は強さに驕って油断しているから勝てた?いやいやいや、あいつマジで横川くんを殺す気で挑んで、あの結果だよ?

 クッ……純粋な尊敬の眼差しが心に刺さる……


 居なくなって戻ってきたと思ったら、俺たちの頭上で御館様と空中戦を繰り返しているし。

 本当に16歳なんだよね?

 年齢偽ってないよね??


 カニを木刀で斬り伏せているのも驚いた。あの爪ってさ、鋼鉄の盾を軽く凹ませるし、下手すると破る事が出来るほどの脅威の相手だ。殻も硬くてもし倒すなら魔法のみでが必須と言われているのに、何で木刀で軽く斬り伏せる事が出来るの?えっ?練習したから?うん、普通は練習してどうこうなる話じゃないんだよ。そもそも殴られて痛いで済むのもおかしいからね?

 依頼のあったカメもそうだ、こちらが必死に欠片を集めているのに対して、御館様たちは甲羅を丸々と落とさせているし、横川くんでさえ真っ二つではあるけれど大きな甲羅を手にしていた。思いっきり面目丸つぶれなんですけど!?


 トドメは外に出てきて探索者協会での事だ。俺たちの稼ぎが少ないだろうという配慮で、横川くんが1人で討伐して得た魔晶石1200個余りを渡されたのだ。

 大の大人12人が、たった1人の未成年……しかも16歳に恵まれるとか最悪で情けなくなったよ。俺や他の幾人かもこころがポキリと音をたてて折れそうになっていたのは間違いないね。でも俺はチームを脱退なんて出来ないしな……

 どうして俺はリーダーなんて引き受けたんだろうか。

 これまではよかった……いや、違うな、御館様たちと関わらない限りは良いんだよ。どこへ行っても尊敬されて、チヤホヤされているしね。命の危険がない程度のダンジョンに適度に潜り、テレビや雑誌に出ていれば簡単に大金が入ってくるし、遊べているんだけどな。

 あぁ……胃に穴が開きそうだ。

 俺、髪の毛大丈夫だよね?ハゲてないよね?


 3月までは合同探索の予定はないと聞いてほっとしていたのだが、それがまさかこんなに早く一緒になるとは思ってもいなかった。

 しかも御館様たちと横川くんが一緒に修行をしていたのは理解できるが、まさか勇者の如月くんも一緒だとは思わなかった。しかも自ら修行を申し出たらしい……名古屋北ダンジョンでの横川くんの修行の様子を見ていて、よくそんな事を願い出れるというものだ。可愛い女の子ってイメージだったが、どうやら化け物の仲間だったらしい。

 こちらは年始早々に脱退した盾職の交代人員がようやく来たところだっていうのに。


 俺たちパーティーの性質上、メンバーになるにはいくつかの条件がある。

 1つは古くからある流派に所属しており、なおかつその組織の長及び幹部の推薦がある事。

 1つは前者と被っているがある程度の武力を持つ事。

 最後は自分で言うのも何なんだが、広告塔となるべくある程度の魅力的な容姿をしている事だ。いわゆるメディア映えしなければならないからね。

 今回の新しい人員ももちろんその条件をクリアしているのだが、job限定は厳しかったようで、本来盾職ではない者が送られてきたのが少々気になるところだ。

 まぁ風魔も戸隠も面子があるだろうから、俺たちがそれに文句を言える訳でもないのだがね。


 当分は軽く潜りながらの連携確認にしようか……なんて話していた直後だけに、今回の探索は怖い。

 しかも広大なダンジョンで、横川くんのスキルによる偵察では大きな謎がありそうだ。



 ひとまず俺たちは拠点作成の任務を言い渡された。約600km先の扉近くまでは移動する事となった訳だが、横川くん情報によると目に見える範囲にモンスターはいないという事なのでほっとしている。


 んっ?

 なんだ?この地響きは……

 遠く離れた場所の空が赤く染まっている、あぁ空から何かが墜ちてきているようだ。御館様たちには火魔法スキルはお持ちではないはずだから、横川くんか如月くんが戦闘なり修行なりを行っているのだろう。

 かなり離れたここまで伝わってくる戦闘の余波……どんだけ派手な事をやっているのだろうか?

 正直なところあの方たちと横川くんと如月くんがいれば、世界征服なんて簡単に出来るんじゃないか?もう俺たちを隠れ蓑にしなくとも、表に出ていてもあんな集団襲うようなアホはいないと思うんだけどな。

 あっ、そういえばそんな人たちに喧嘩を売ったアホが、俺たちのパーティーメンバーにいたんだったな。全く信じられん……本当にアホだ。


 いかん、アホの事を考えていても仕方がない。俺たちは早く扉近くまで移動して、拠点を作らねば怒られる。600kmならば遅くとも5〜6日で行けなければならないのだから、ゆっくりとしている暇はない。


 ………………

 …………

 ……


 ふぅ……

 ようやく山がすぐそこに見えてきた。あともう少しで到着だ。あの方たちに追いつかれずに済んだようだ。


 コォーン!!グルルルルッ!!


「な、なんだ?」

「後方からバカでかいモンスターが迫ってきている!」

「陣を組めっ!」

「キ、キツネか?」

「慌てるな、陣を組んで守りつつ相手をするぞっ!」


 慌てるメンバーを叱咤し、構えを取る。

 確かにキツネのような姿だが、尾が8本あるように見える。ん?あの有名な妖狐かと思ったが、そうではないのか?


 くっ!!

 様々な属性魔法を同時に放ってくるだと!?

 速くて動きが捉えきれない……

 前足で殴りつけ、踏みつけてくる。

 あの牙に噛まれたらヤバイ!!


 なっ!!

 回復魔法を掛けてくるのはなぜだ!?

 もしかして俺たちを弄んでいるのか?まるで猫がネズミをとるかのように……


 えっ?

 逃げて行った??

 なぜだ……なぜなんだ……

 助かったが、屈辱だ……


 だが気のせいだろうか、どこからともなく人の笑い声が聞こえたような気がしたのは……まるで俺たちの様を見て笑う、あの方たちの影を感じたのは気のせいだろうか……

 でもあんなモンスターを飼っているとは聞いていないし……だが、横川くんの召喚獣に居そうでもあるんだよな。


 俺の被害妄想だといいのだが……

 もし真実であったなら、また誰が抜けたいと言い出すかわからないからな。


 あぁ、胃が痛い。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る