第4章 3学期
第84話――ストレス解消しましょう
宝玉を得てから3日ほど経った。
すぐに扉まで向かうのかと思っていたけれど、先輩の疲労が激しいという事で、未だ入口から10kmほどの地点でテントをはっている。東さんたちと合流しないのは、偏にうどんを顕現させておくためだ。全ては先輩の癒しのためでもある。
これ程の長期間になると、外で待つ者たちが不安に感じるのではないかと思うが、最後の連絡から2ヶ月経っても何も反応がない場合は第2陣が進入してくる運びとなっているらしい。なので、俺たちが扉に向かう際には1度入口に烏を飛ばしてから向かう必要があるようだ。
うどんといえば、師匠たちにも口寄せの残り4匹の事を強い口調で聞いて貰ったけれど、頑なに答えなかった。クソ忍者が刀を取り出して、脅迫ともいえる口調だったにも関わらず答えなかったのだ……
とんでもないモノが出てきそうで怖い。師匠たちの予想も四聖獣だが、本当にたかが人間のスキルに神の名を持つモノたちがいるのかと?疑いもやはり大きいままだ。まっ、先の話だし、いつか答えは出るわけだから今考えても仕方がないんだけどね。
「横川、烏を飛ばして東たちの様子を見よ」
「様子ですか?」
「うむ、どの辺まで進んでいるかによって我らの予定も決まるからな」
「わかりました」
そうか、先に着いちゃうのもまずいんだね。4つの穴の謎を解いてから追いかけると言ってあるのに、全て解決して先に着いているとか、まるで最初から答えを知っていたかとの疑念を抱かれかねないもんね。
もういっその事うどんの事を話したら?とも思うけど、前代未聞の話せる召喚獣な上に、かの有名な九尾の狐だから問題になる気もする。特に妲己とか名乗って大陸で悪さをしていたわけだから、かの国を祖先に持つ国が「賠償を!」とか「我が国のモノだ」とか言いそうな気もするしね。
「さて遊んでいるのも勿体ない、修練をするぞ」
「……はい」
そう、疲れているのは先輩だけじゃないのに、俺はこの3日間いつものように修行を受けまくっていた。
先輩と2人がかりでオーガ軍団に挑んだにも関わらず、誰よりも討伐スピードが遅かった事を原因としている。更には口寄せの残りを早く見てみたいという欲のためでもある。とっととスキルなどを上げろという事だ。
なので、分身たちは全て森の中に入って一日中ずっと魔法をぶっ放し続けているし、俺はその間クソ忍者とハゲヤクザを相手に延々と手合わせを行っているのだ。木々の間を走り抜けたり、足場にして跳んだり跳ねたりしながらずっとね。
2人は木刀と同じように木を削って出来た苦無のようなモノをガンガン投げつけてくるし、魔法も放ってくるようになった。俺も影沼の術と極炎以外は放っているんだけどね……火球・水球辺りは木刀で斬られたり、跳ね返されたりするんだよね……
俺も同じように斬ってみようと思ったけど、うん、普通に直撃して吹っ飛ばされたよ。
どうなってるんだよ!!
特別な木刀なのかと思ったけど、交換してもらっても同じだったし!!
何故そんな事が可能なのか、理解できないんだけど??
「飛斬で斬れる、この世にある物は全て同じ物だと考えよ」
とか言われたけど……
いや、仰る意味はわかります、わかりますけど……うーん、これもイメージって事なんだろうね。
とりあえず跳ね返すのは後回しにして、斬れるようにならないと、死んじゃう!!
前回の名古屋北ダンジョンの探索の時から思っていたけれど、クソ忍者にもセクハラとかそういった感覚があるのか、先輩たち女性への指導は基本的に同性である鬼畜治療師に任せている。
それに伴い、俺の回復役はいなくなるので九字による自己回復しかなくなるわけで、特に今回は分身たちは別行動だから回復時に少しばかりの休憩を行えるかと思っていたんですよ。なのに……
「主様お喜び下さいっ!うどんは回復魔法が使えるようになりました」
なんて言い出したのですよ……最悪です。
その為に血反吐吐くまで痛めつけられるのが決定したんだからね。自己回復の時はもう一歩手前の怪我で済むのに……まっ、どっちにしろ大怪我なのは変わんないだけどさ。
当初は「うどんも攻撃にも参加しろ、魔法を放ち牙などを使え」とかクソ忍者が恐ろしい事を言っていたんだけど、どうやら召喚獣は主である俺をどうやっても攻撃は出来ないらしい。本当によかった……もし可能だったら、うどんのやつは躊躇なく攻撃を放ってきそうで怖いし。
軍団を相手取った時にうどんの様子も見ていたけれど、7本ある尾からそれぞれ違う属性の魔法をガンガン放ち、牙で噛み砕き爪で引き裂いていた。身体を大きくして踏みつけもしていたかな……それにクソ忍者たちほどではないものの、それなりのスピードもあるしあれは厄介そうだと思ったからね。
それにしても2人は容赦がない。上下左右から同時に魔法と苦無と直接攻撃が襲ってくる。どこに本体がいるかどうか、どこから何が来るのか全くわからない。それほどまでにとてつもないスピードで動き回っているのだ。俺の分身と違って実体はないはずなのに、まるで本当にいるかのように感じるほどだ。
これ、正直なところ軍団を相手にしていた時よりツラいんですけど!?
攻撃が当たらないのがストレスが溜まる!!
………………
…………
……
烏の報告によると、東さんたちは未だに扉には着いていないようだった、約150kmほど手前をゆっくりと前進している。
その事をクソ忍者に報告すると、「のろいな……亀よりものろい。広告塔にしても少々甘やかし過ぎたか」とボソリと呟いた姿が怖い。
東さん逃げて!!
この人、何か仕出かしますよ!!
「うどんよ、少々大きくなれ……そうだな、ゾウの2倍ほどの大きさになれるな。お前の姿を奴らは知らん、その身体をもって全ての魔法を使い襲ってこい」
「えっ?……お仲間さんをですか?」
「主たる横川は襲えんでも、奴らなら可能だろう?」
「……はい」
「あぁ横川、お前も影に入って行け。死なん程度に痛めつけたら戻ってこい。まぁ俺たちも近くまでは行くがな」
なんて事を思いつくんだ……悪魔かよっ!
しかも俺まで加担させるとか……軽くにしとこうと思ったら着いてくるらしいからそれも出来ないし。
「横川くん、うどんちゃん頑張ってね」
おおうっ……
先輩は全く東さんたちの事を心配していないし……それどころかうどんを応援するとか酷いな。まぁこの様子では東さんたちの中に好意を持っている相手はいなさそうなので、それがわかっただけでも良しとしよう、うん。
それに、なんと言っても俺の名前を先に呼んでくれたし!!
「では奴らの近くまでは走るぞ!」
モンスターも何もいない場所だからか、2人のスピードが速いっ!
あの2人に勝てないのはわかるけど、うどんにだけは負けたくないっ!もし負けたなら「自分のスキルに負けるとは何事か!」とか怒られそうだし、「主様に勝ちましたー」とかドヤ顔でうどんに言われそうだしね。
約6時間半ほど掛かって、ようやくクソ忍者たちに追いついた。
2人は30分以上前には到着して待っていたらしい……まだまだ差は大きいようだ。
でもでも、うどんには何とか勝ったよ!!その差は100mくらいだけど、勝ちには違いないので問題ない。
「妖狐とは言っても、大して速くないんだな」
ってバカにしてやろうと最初は思っていたけれど、走っている途中……特に2人の姿が見えなくなるほど引き離されてから『あの2人は本当に人間ですか?どうしてあれほど速いのですか!?』っていう驚きの念話がガンガン飛んできていたし、俺もそれには大きく同意するところなのでちょっと仲間意識が芽生えたので、言わない事にした。
本当にどっちが妖怪なのかわからないよ。
「まだまだ遅いな……うどんもこれからは鍛えるか」
「わ、わたしは魔力で形成されているために鍛えても効果が出るかどうかは……」
「ふむ、ではそれがどうかは実験してみてから判断しよう」
「……はい」
うどんが泣きそうになって震えているよ……
わかるよ、その気持ち!!
「よし、帰りは2人とも俺たちより30分前に出て走れ、もし俺たちが追い付いたら……わかるな?」
わかりたくないけど、わかりたくないけどわかってしまう……
恐怖の修行が、更にハードになるって事を!!
『主様助けて下さい……』
『無理だ、全力でやるしかないんだ』
『うぅ……』
「ほれ、目的を忘れておるようだが、東たちと遊んでこい」
「はい……」
『こうなったらストレスをぶつけて来ますっ!』
久しぶりにうどんの悲鳴のような助けを求める声を聞いたよ。多分初めて顕現した時以来のような気がする……
そして東さんたちゴメンなさい!!
俺にはうどんの気持ちを止める事など出来ません。
悪いのは全てクソ忍者たちなので、頑張ってください!!
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