第66話ーーベニヤって鋼鉄でしたっけ?
凄いなあの盾職の人たち、よくクソ忍者に文句言えるな……
「織田さんの力は、まぁ認めますよ。うちのお館様も言ってますしね。ですがそこのガキはまだ認めるわけにはいかないんですよ。まだステータスチェックしてから半年しか経っていない、スキル頼みのガキじゃないですか。そんな奴と共に最下層を目指す?負担しかないんですけど?」
スキル頼みと言われたら、確かにそうかも……だから今日も60階層で素手でロックゴーレムと戦わされているんだよな〜
言っている事はもっともなんだけど、もっともなんだけど、さっきからチラチラと如月先輩の方を意識しているように見えるんだよな。
俺をバカにする事で、如月先輩にアピールしてんのか?
「ふむ、ではお主自身が横川の力を試してみたらどうだ?」
「おお、そうですな。得物なし、スキル不使用の上で手合わせをしてみたらどうだ?」
「いいですけど……そのガキが使い物にならなくなっても知りませんよ?」
「構わん」
えぇ……
また俺の意見とか聞かずに話が進んでいるし。
「使い物にならない」って、殺す気なの?
クソ忍者も「構わん」って何ですか!?可愛い弟子の心配しましょうよっ!
でもまぁちょうどいいか……
どっちみち手合わせを申し出ようかと思っていたし。
一回り以上歳下の俺を相手にして、如月先輩にアピールしようと思っているようだけど、そうはさせないっ!
相手はパーティーの中でも1番身体の大きい人が相手のようだ。全身フルプレートの上に身丈ほどある鈍色に光る盾を構えている。
えっと……盾って武器に入らないの?
「横川、ちょっとこちらへ来い」
クソ忍者が手招きするので近寄ると、また真っ黒な笑みを浮かべていた。
「胸を借りるつもりで思いっきりやれ」
「えっと、盾はありなんですか?」
「あんな物ベニヤと一緒だ、気にするな」
「ベニヤって、あのベニヤですか?」
「あぁ、考えてみろ、もしあれが全部鋼鉄で出来ているとしたら、ずっとここまでそんな重い物を構えて持ってこれるか?あれはな、ベニヤの上に薄い鉄を貼り付けているだけの物だ」
「そう……なんですか?」
本当にそうなのかな?
そんな盾、全く役にたちそうにないんだけどな。
でも重要視していないって事は、本当なのかもしれない。
「それよりもだ、あれらはお前を当て馬にして勇者にアピールするつもりだぞ?」
そう、そこだよっ!
ここは俺のチャンスに変えさせて貰う!!
「思いっきりやって構わん」
「はいっ!」
待ち構える盾の人の前に行くと、右手を前に出して近付いて来た。恨みっこなし的な、握手を求めてきたのかな?もしかしたら、そこまで嫌な奴でもないのか?
「勇者は俺が可愛がってやるから、安心して死ねよ」
「あぁっ?」
「ふんっガキが凄んでも怖くないんだよ」
なんて言ったこの野郎。
俺の如月先輩を可愛がってやるだと?ふざんけんなこの野郎がっ!ぶっ殺す!!
「では用意はいいかっ?……始めっ」
クソ忍者の開始の合図と共に、盾へと一直線に向かう。カメみたいに隠れているようだが、ベニヤだってわかっていれば怖くない。
中心部分へと力を抜いた掌底をぶつける……おっ本当だ!簡単に真っ二つに上下に割れたよ。
んっ?なんで驚いた顔をしているんだ??まさか俺がベニヤだと知らないとでも思っていたのか?残念っ!
すぐさま後ろへと回り込む。
あの盾がベニヤなら、この堅くて重そうだと思っていたフルプレートもアルミだとしか思えないよね、いや多分きっとそうだ。
膝裏へと蹴りをいれ、バランスを崩して背中から倒れ込んできたのを、背中を蹴って真上へと押し上げる。
ついさっきまでロックゴーレムを相手にしていた事を考えると、柔らかいし、軽い。
あっ、今ならあれが出来るかも!?
以前ハゲヤクザに訓練施設でされた、地上と空中で蹴ってお手玉のように扱う技がっ!!
っと、この高さではまだダメだな、落ちてくる前にもう一度宙で真上へと蹴りあげるか……もう少し高さが必要かも……よしっ、3撃で15mほどの高さまで上がったな。
ではジャンブして、腹へとかかと落としを食らわせて……地上へと急いで降り……あっ、空歩使っちゃった……
止めは入らないみたいだな。
胸を借りる立場なんだから、これくらいは見逃してくれるっぽいね。
「よいっしょーっ」
おっと、声がつい出ちゃったよ。
落ちてくる物体を蹴りあげるのって、意外に速度と合わさってか重いんだね。
今度はもう少し高くあげよう。
これ結構難しい……
ハゲヤクザのように、まるでお手玉というよりもパチンコのようにあちこちに飛ばしながら遊ぶなんて出来そうにない。
んっ?
この人いつの間に白目剥いてたんだ??
ってかこれくらいで白目剥いて気絶するとか、弱すぎない??
うーん、そしてどうやったら決着になるんだろう??
こうなったら如月先輩へのアピールのためにも、圧倒的な力の差で終わりにしたいんだけどな……
あっ、いい事を思い付いた。
さっきこの盾野郎と一緒になって、俺の事をガキだとか何だとか騒いでいた奴にぶつけてやろう。
あの野郎の位置は……ちょうど1人ぽつんと立ってこっちを見ているな。
よしっ、射程に入るように少しづつ蹴り上げながら近付いてっと!
今だっ!!
「オラーッ!!」
ナイスシュート!俺っ!!
見事にあの野郎に当たって、2人して吹っ飛んでいった。
「そこまでっ!」
おっ、やっと声が掛かった。
如月先輩っ!俺の勇姿見てくれましたかっ!?
視線の先の先輩は……
あれ?なんか引いてる??
もしかしてやり過ぎた??
「近松、見て来てくれ。横川はこちらへ来い」
鬼畜治療師が地面で伸びている2人に近寄って行き、何故か割れた盾を持って戻ってきて、クソ忍者へと手渡した。
「ほらこれを見てみろ」
見せられたのはベニヤ盾の断面。
あれ?ベニヤじゃない??
「お前はベニヤだと思い込んで行った結果、このように簡単に割れた。だがこれは鋼鉄製だ。これでわかったな?イメージ次第で出来るのだと」
「騙したんですか?」
「コラ人聞きの悪い事を言うな。それにお前はベニヤだと信じる事で、簡単に割れたのだろう?」
「そうですね」
「お前はもう大理石など軽く割れるって事だ。近松よ、どうだった?」
「生きております」
「そうか」
まさかベニヤじゃないなんてっ!
でも確かにクソ忍者の言う通り、ベニヤだと信じていたからか簡単に割れたんだよな……ちょっと納得はいかないところもあるけれど。
「さて、他に横川の実力とやらを試す者はおるか?」
「いえ、私たちは認めております」
「確かにまだ半年しか経っていない、スキル頼みの半人前だが、これからも厳しく修練をさせるので温かく見守ってやってくれ」
「「「「「はっ!」」」」」
良かった〜!
最悪後10連戦もあるのかと思ってたんだよね。
それにしても「厳しく」??これまで以上に?死んじゃうよ??
「如月くん、金山くん、田中くんもそれでいいかな?」
「あっ、はい……私たちの方が足を引っ張ってしまうかもしれませんので、ご指導お願いします」
「「「お願いします」」」
「あいわかった、お互い切磋琢磨しようぞ」
秋田さんの名前も呼んであげて!!
仲間外れみたいで可哀想だから!!
まぁ一全の人間だから、選択肢なんてないのかも知れないけどさ。
「横川くんよろしくね」
「はいっ!こちらこそよろしくお願いします!」
うおおぉっ!
如月先輩から声を掛けて貰えたぞっ!
やる気が出てきたー!!
「ではお前たちはここまで歩いてきて疲れておるだろう、見張りは俺たちがいるから必要ない、全員休め」
「よろしいのですか?」
「あぁ、構わん」
「ではお言葉に甘えさせて頂きます!全員テントを用意しよう」
「「「「「ありがとうございます」」」」」
優しいですね……
私も朝から一切休憩を頂いていないのですが、その優しさは向かないのでしょうか?
「横川は先ほどの続きだ」
「……はい」
ですよね〜
わかってました、わかってましたとも!
ってかそれはまぁ予想の範囲内だったのでいいけど、盾職2人は未だに気絶したままだけれど、放っておいていいの?
東さんたちメンバーさえ近寄ったり、治療しようともしていないけれど。
チラチラ気にしているのは、如月先輩たち4人と俺だけ何だよね。
「あの……あのお2人はあのままでよろしいのでしょうか?」
「んっ?あぁ、大言壮語の上に丸腰の相手に盾まで持って挑んだ挙句に、一当ても出来ずに伸びている阿呆どもか。その内気付く、お前たちが気にする事はない」
「そうですか……わかりました」
さすが如月先輩は優しいな〜
そしてクソ忍者の言い様……でも確かに言っている事は的を得ているんだよね。
「こりゃ小僧っ!何をぼーっとしておるっ!」
ハゲヤクザの声に振り向いたら、またもやロックゴーレムの大群を引き連れて走ってきていた。
「さあやれっ、先ほど鋼鉄を割れたんだ、大理石など紙のように破れるわ」
いやいやいや、石は紙じゃないからね?
でもまぁ鋼鉄割れたわけだし、先輩たちも見ているからね、ここは張り切って行きましょうか!
「分身!!」
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