第67話ーーロデオライダーハゲヤクザ

 あれから何時間経ったのか?

 数を相手にするうちに、何とかロックゴーレムの腕を折ったり、胴体に大きなヒビを入れる事は出来るようになってきた。

 ただまだ貫手とかでは無理!

 どれほど相手は豆腐、俺の腕は伝説の金属とと思い込んでも無理ですっ!

 だから未だに寝ていません……

 でね?まだ、まだ寝れない事はいいんだ、いや良くないけどいいんだ、もうそれはいつもの事なので諦めている。だけど、東さんたちのテントから、地響きのような野太いイビキが聞こえてくるのが腹が立つんですけどっ!最初新たなモンスターかと身構えちゃったくらいのイビキですよ?誰だろうか……絶対に許さない!


 あとね、先輩たちが見ていたのは最初の1時間くらいだけだった。

 そして初めて成功したのは、4人がテントへと消えてしまった直後……成功している姿を見て欲しかったのに残念です。


「とりあえずはここまでだ、1時間ほど寝て来い」


 やっとの休憩タイムだよ。

 そして1時間も休みをくれるという事は、その後更なる修行が待っているという事なんでしょうね。

 ってたった1時間の睡眠で体力回復するかよ!!

 テント張る余裕なんてないから、もう地面でいいか……

 あっ、そうだ!

 新たな召喚獣のトラを出そう。モフモフしていて柔らかそうだし。


「召喚、トラ」


 おおっ!ちゃんとした大きなトラだ、動物園やテレビで見るようなやつだ。そしてモフモフだっ!

 これはいい抱き枕になるね!!


「横川、1頭貸してくれ」


 挟まれて寝たかったけど……まぁいいか。クソ忍者の訓練相手にするのかな?

 指示をして行かせると、クソ忍者はおもむろに跨った。


「よし走れ」


 えっ?なんで??

 なんで俺が指示をする前に、トラ自らクソ忍者の言葉通りに走り出しちゃってるの!?

 キミ、俺の召喚獣だよね?

 もしかして怖いのかな……うん、勇敢な顔付きだったのが、なんか悲しそうに見えるよ。


「ほう、面白そうだ。儂にも貸せ」

「これは俺のマク……ちょっ勝手に行かないで」


 ハゲヤクザの言葉に、トラが自ら歩いて行っちゃったよ。どうなってんだよ!!


「私の分はないのかい?」

「まだ2頭しか出せないので……」

「使えない子だね〜」


 自分たちの遊びの為のトラを出せないからって、そんな言い方……


「召喚!鼠……絨毯のようになって近松さんを乗せてあげて」

「鼠かい……まぁいい」


 坐禅のように座った鬼畜治療師を乗せた鼠が揃って駆け出した。

 それはまるで走る絨毯……いや、絨毯よりも機敏に曲がったりジャンプしたりしているよ、めちゃくちゃ揃っているし。

 やはりキミたちも召喚主じゃなくても言う事聞くんだね……


 3人とも楽しそうだなぁ〜

 珍しく黒くない満面の笑みで、純粋に騎乗を楽しんでいるようだ。

 ちょっと羨ましい。


「召喚!烏」


 やりたくなっちゃったよ。

 烏だったら空も飛べるかな?

 ……どうもダメのようだ、重たくて飛べないらしい。

 クソ〜っ!


 って、寝なきゃっ!

 少しでも身体を休めないと、死んでしまう。


「えっ?なにあのトラ……可愛いっ」


 横になって目を瞑ったら、直後に先輩の声が背中の方から聞こえて来た。


「おはようございます!あれは俺のスキルで出したトラです」

「あっ、おはよう。そうなんだ!?いいな〜」


 そういえば好きでしたよねトラ。

 本当に好きなのは某ネズミの国の黄色いクマに出てくるトラだと思っていたけれど、リアルトラでもいいんですね。


「近くで見てみます?」

「いいの?」

「もちろんですよ!」


 トラよ主の大チャンスだ、乗っているハゲを振り落として来るんだっ!

 乗せてこっちに来ちゃダメだって!

 そんなばっちいもんは捨てて、可愛いお姉さんに一生に愛でられるぞっ!


 俺の指示を聞いて、宙返りとか色々しているけど落ちないな……何だろうあのハゲは、逆に楽しんでいるようにも見えるし。

 こうなったら奥の手だ!


「召喚解除トラ!召喚トラ!さっ、どうぞどうぞ」

「触ってもいいの?」

「もちろんです、思いっきりモフモフして下さい」

「柔らかーい!フワッフワだよ」


 幸せそうな顔をしている先輩……可愛い。

 その姿を見れただけで大満足ですよ、眠たさなんて吹っ飛びます。


「ほう、横川よ元気そうだな」


 ……振り向くと満面の笑みを浮かべたクソ忍者とハゲヤクザが俺の肩を掴んでいた。


「ほれ、如月くんにいい所を見せたいんじゃろう?用意してやったぞ、たんと戦え」


 ひいっ!

 20体ほどのロックゴーレムがこちらに押し寄せて来ているんですけど!?

 分身と合わせても、こちらは12人しかいないのに!!


 クソっ!

 やるしかないのか!?

 こうなったら……素手で倒して、いい所を見て貰えると思うしかない。


「分身!」


 振り下ろされる石の腕を半身になり交わしつつ、掌底を関節へと当てへし折り、肘を胴へと打ち付ける。

 よしっ!割れた!

 素早く割れた隙間へと手を差し込み、魔晶石を引き抜く。


 どうですかっ、見てて貰えましたか先輩っ!?

 ああっ……トラ2匹に埋もれてモフモフしていて、こっちを見てもいないし……っていうか、こちらの戦闘自体に気付いていなさそうだ。


 痛っ!

 よそ見していたら、ロックゴーレムが俺の気持ちも知らないで殴ってきやがったよ。

 ふざけんなよ、てめぇっ!俺の幸せ時間を邪魔しやがって!!

 もうお前のような柔らか生物なんて怖くないんだよっ!!


「よし、とりあえず飯を食え」


 迫ってきていたモンスター全てを倒しきったところで声が掛かった。

 おかわりはないようだ、良かった。


 今日も食事はレーションだ。

 先輩を見ながら食べれば、こんな味気ない物でもまるでご馳走のように美味しく感じるってもんだよね。


「香織〜!?ご飯出来たよ〜」

「はーい、触らせてくれてありがとうトラちゃん、横川くんもありがとうね」

「いえ、いつでも言って下さい」

「うん、またモフらせてね」


 金山さんの呼び声に、名残惜しそうにトラを何度も撫でてから走っていった。うぅっ、トラと立場を代わりたい……いや、感覚を共有でもいいけど。

「横川くんありがとうね」だって!あの可愛い口から俺の名前が出てくるのがこんなに嬉しいだなんて!!

 危うく「今なら俺を選んで頂けると、もれなくトラが付いてきます」ってオススメしちゃいそうになったよ。

 危ない危ない……こういうのはもう少し待ってからじゃないとね。

 いそれにしても先輩がこんなにもモフラーだったとはな〜。自宅ではペット飼っていないから、思いもしなかったよ。


 先輩がモフった場所を触りながらレーションを食べて少しウトウトしていたら、ザワザワとしだした。


「本来は本日中に80階層で修練をする予定だったが、風魔と戸隠のが言っていたようにスキル頼みの戦闘とならんよう、本日はここでスキルなしでの戦闘訓練をする」

「スキルなしですか?」

「あぁ、そうだ。横川のように素手で倒せとは言わんが、現在の武器を以て倒せ。パーティーは東たちは6人づつに別れて、如月くんたち4人は別々に行動する。東の所には山岡と俺、如月くんの所は近松が指導する」


 あれっ?俺は??

 それになんで俺だけ素手で倒させたの??

 まぁ東さんたちはきっと既に出来るからなんだろうけど……まっ、如月先輩の綺麗な指が血まみれになるのは嫌だからいいか。


 そういえばいつの間にかあの盾職2人はしれっとパーティーの中に混じってるな。俺が気付かない内にクソ忍者に謝罪したんだろうけど、よくいれるよね。

 っと、目が合った……おおぅ、若狭と同じようなねっとりとした目で俺を見ているよ。逆恨みされても困るんだけど!?この人たちも面倒そうだなぁ〜また何か喧嘩吹っかけられたりするのは嫌なんだけど。


「師匠、俺は休憩ですか?」

「阿呆が、そんな訳なかろう。お前はとりあえずスキルのレベルを上げる事を優先する。ちょっと一緒に来い」


 ですよね……

 もしかしたらっていう仄かな願いだったけど、まぁありえないよね。


 60階層のボス部屋にいたロックゴーレム6体をサクッと倒して、連れて行かれたのは61階層だった。そこは朽ち果てた洋風の舘が建ち並ぶホラー仕立てで、出てくるモンスターもゾンビ・スケルトンなどアンデッドばかりで、人の形をした物から、動物やモンスターの形をした物まで様々いる。


「これを持て」

「魔法袋ですか?」

「あぁ、空の魔法袋だ。それに1,000の魔晶石を貯めるまで戻ってくるな。あと分身や召喚獣のトラと烏は全部出して、未だMAXになっていない魔法を使用して戦え」

「1,000ですか?」

「そうだ、65階層までは同じようなモンスターばかりだからな、行っても構わんぞ」

「わかりました」

「時折見に来る、ではな」


 俺だけぼっちで戦闘らしい。

 でもぼっちなのにサボれない……まるでサボったらわかっているな?と言わんばかりの「時折見に来る」だったし。


 あぁ、先輩と一緒にキャッキャしながら戦闘出来ると思っていたのに!!


「分身!召喚!烏、トラ!」

「「「「「火矢!」」」」」

「「「「「「炎雨!」」」」」」


 もうヤケだ!

 一気に集めて、早く戻って如月先輩を見るんだ、俺は!!


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