第65話ーー見栄をはるのも命懸け

 ――世界的パーティーリーダー東視点――


 探索者協会でメンバーと今回から探索を共にする勇者一行と待ち合わせをした。

 今回の目標到達階層は80、それに合わせた依頼票を受付で確認する。80階層にいるのはマジックビッグタートルという名前の、全長3m高さ1.5mほどの巨大なカメだ。それの甲羅の破片が大きさにより値段は変わるが、50cm四方の大きさで約5万円、肉は100g辺り3,000円で取り引きされている。肉は知っての通り腐るためにドロップがあったら直ぐに凍らせなければ価値が生まれないために、高級肉としてお高めなレストランなどで重宝されている品物だ。


「東さん、先週の土日に未確認の新種と思われるモンスターが低層にて確認されていますのでご注意下さい。もし発見及び討伐した際には情報をお願い致します」


 受付の男性の言葉に驚いた。

 名古屋北ダンジョンで新種のモンスター?しかも低層で?

 たった4日で80階層まで潜らないとならないというのに、全く忌々しい事実だ。だが文句を言っていても始まらないし、それに予定を変えれるわけでもない。俺たちだけの予定ではなく、若からの命令だからな。


 全くクリスマスイブだというのに、嫌になってくる。学生の休みが今日からだって理由もわかるが……少しは俺たちのプライベートも考えて欲しいものだ。俺を含めたメンバーそれぞれが恋人たちに文句を言われたらしく、その不満を俺にぶつけられても困るんだよな……


「あの……お待たせしましたか?如月、金山、田中、秋田到着しました。今日からよろしくお願いします」


 いら立つ俺に恐る恐るといった表情で声を掛けてきたのは、件の勇者一行だった。

 話には聞いていたが……女性ばかりか。

 うちの女性メンバーは全員が美女と呼ばれる見た目麗しい者ばかりだが、それに匹敵する……いや、若さなど考えれば凌駕する美少女ばかりじゃないか。

 これは少しばかりやる気が出てくるな。

 俺以外の男性メンバー5人も同じらしく、先程までの不貞腐れた顔が一気に変わって、目を輝かせているし。


「こちらこそ、よろしく。では細かい話は探索しながらするとして、時間が余っているわけではないからね早速潜ろうか」


 新種モンスターの情報を考慮して、盾職を2人づつ前後に分け、真ん中に他の人間が固まりつつ体勢を低くして注意深くゆっくりと前身する。


 俺たちの名前は売れている。世界的にも有名になっている日本最高パーティーだし、頻繁にメディアには露出しているからな。

 ただそのせいで俺たちに普段寄ってくる……まぁ声を掛けてくるのは欲望に塗れた者が多い、男女問わず媚びるように近寄ってくる奴ばかりだ。適当に遊んで捨てるにはちょうどいいと言えばいいのだが、こんな時代だから下手な事も出来ずにいる。油断すればすぐにSNSなどに写真をあげられたり、スキャンダルとして雑誌に売り込まれてしまうためにな。

 だから、美少女ばかりの勇者一行が目を輝かせて、男女問わず純粋な質問などをしてきてくれるのは心地いい。

 一緒に長い時間を共に過ごすんだ、もし男女の仲になってしまっても問題ないだろう。俺たちパーティーの管理者、つまり若たち上層部からも手を出すなとは言われていないし、それどころか戸隠や風魔のお館様たちにいたっては、落としてしまえとまで言っているからな。


 それにしてもなかなか進めないな、やっと11階層か……明明後日に80階層に到達しなければならない事を考えると、一日あたり20階層は最低進みたい所なんだが……


「すみませーん、先に行きたいんですけどいいですかー?」


 後方から声がしたので振り向くと、そこには横川くんと友人らしき2人がそこにいた。


 3人とも同じような軽装防具しかしていないが……もしかして彼ら2人も横川くん並なのか?

 あっ、違うのか、そうだよな、そうそう横川くん並の新人とかいるわけないよな……そういえばあの時伊賀の幹部2人がお見えになったな、という事は横川くんの生産職バージョンがこの2人という事か?……恐ろしい。


 っていうか、明明後日合同探索するはずなのに、横川くんはどうして友人と小遣い稼ぎに潜っていられるんだ?

 えっ?知らなかった?

 止めてくれっ!マジで、勝手に話したとかバレたら何をされるかわからないから!

 あの方たちの楽しみを取ったとバレたら……

 わかってくれるか、うん、横川くんならわかってくれると思っていた。同じ恐怖を味わっているはずだものな。


「東さんたちは横川くんたちと知り合いなんですか?」


 んっ?

 この子たちも知り合いなのか?


「うん、先日知り合ってね……あと横川くんは明明後日合流する……メンバーの1人だから」


 メンバーどころか主力メンバーなのだが、ここはカッコつけて振舞っておこうか。


「横川くんは彼女たちの事を知っているのかな?」

「はい、如月先輩には告白しましたし、秋田さんは修行を共にしました」


 ひっ!

 何だこの殺気は……

 もしかして俺が如月くんたちに邪な感情を抱いているとわかったのか?

 全員と知り合いだが、特に如月くんにご執心だという事か……うん、わかった、わかったからその殺気を収めてくれないか!?


 あぁ、怖かった。

 それにしても軽装だな……しかも生産職の2人を連れた戦闘職たった1人でとか、いくら自信があるとしても凄いな。新種のモンスターは怖くないのか?


 えっ?

 知らない?

 何だかんだ言っても、所詮は半年前にステータスが出たばかりの初心者か。

 ふっ、ここはお兄さんが説明してやろうか……


 えっ?

 何で突然土下座した?

 そんな事されたら、まるで俺が苛めているように見えるじゃないか、美少女たちに印象悪くなるから止めてくれよ!


 はっ?

 モンスターじゃなくて自分たちの仕業?

 4人で1日で60階層までトップスピードで駆け抜けた?

 り、理解出来ないんだが……?

 それは可能なのか?いや、可能なんだろうな、あの方たちとこの子なら……


 それで60階層なんかに何しに行ったんだ?あそこは何の得にもならないロックゴーレムしか居ないはずだが……


 はっ?

 剣で斬り伏せる??

 相変わらず無茶な要求をする方たちだな。

 いやいやいや、俺たちが出来るわけないよ?どうしてそんな事思っちゃうの?

 おおう、美少女たちの視線がキラキラしているよ、否定出来ない……曖昧に頷いとくか、うん。

 えっ?君は切れたの?マジで?


 嵐のように去って行ったな……

 なんなんだよ、アレは。

 うちのメンバーの精神的ダメージが大変な事になっている……比較的軽傷なのは伊賀の2人と、聞こえていなかったのか無傷そうなのは最後尾の盾職2人か。

 よし、場所をローテーションで交代して、新種のモンスターもいない事も判明したし、先を急ごう。


 ………………

 …………

 ……


 やっと60階層だ。

 43階層で、突然目に見えぬ攻撃があった以外は比較的順調に来れた。

 ただあれだけは未だに何があったのかわからないが、俺だけに攻撃が集中していたのと、衝撃2回と毒魔法という事実から考えると……横川くんは今日から潜ると言っていたし、もしかしたらあの方たちの報復か?それともただの遊びか……どちらにしろ、勘弁して欲しいところだ。


 それにしてもあの時最後尾にいた盾職、戸隠と風魔の2人は勇者一行をガチ狙いに行っているな。

 しかも「あの小僧に大人の魅力ってやつを分からせてやる」とか言って、横川くんを敵視し、横川くんの意中である勇者の如月くんを何とかかっさらうつもりのようだ。

 この2人は5年前に若たちと探索したわけではないせいであの方たちの恐ろしさを知らないから、いまいち横川くんの強さも理解出来ていないっぽいんだよな。

 スキルさえなければ同等だと勘違いしているっぽい……あの知事息子たちとの手合わせを目の当たりにしていたはずだが、なぜ勘違いなんて出来るのか……

 余計な問題が起きない事を祈るばかりだ。


 んっ?

 前方にいるのは横川くんと分身たちか?


 くっ!

 こんなスキルを持っていたのか!?

 拳大の炎が雨のように降ってきたっ。


「盾を上に!」

「魔法障壁をはれ!」


 なんだこの勢いは……

 魔道士3人の魔法障壁で勢いは削がれてはいるが、それでも大量の炎が降り注いでくる。


「結界っ!」


 これは勇者のスキルか!?

 さすが……完全に弾いているな。


 何とか凌げたか……勇者様々だな、悔しいがかなりの強度だ。俺たちだけであったら、かなり被弾して傷を負っていただろう。


 どうせあの方たちに命令されたんだろうが、容赦ないな横川くん。それと突発型突入時より、更に強くなっていないか?戸隠と風魔のやつはあんなの相手に本気で勝てるとでも思っているのだろうか……


「来るのが遅いわっ!」

「お約束では明日80階層でというお話だったと思うのですが」

「もしや日付が変わる前までに到達すればいいとでも思っておるのか?」


 思っていた……思っていたが、ここで素直にそれを認めるのは許されないだろう。


「いえ……」

「ならば今ここにいる事が遅い事くらいわかろう」

「申し訳ございません」

「まぁ良い……見えぬ新種のモンスターとやらに不安がっていたようだからな、くくく」


 横川くんをチラリと見たら、必死に俺に向かって手を合わせている……

 あぁ、ネタバレしてしまったんだね。やはり43階層での見えぬ攻撃もこの方たちだったんだろう。


「織田さん、さっきの攻撃はなんですか?」

「んっ?炎の雨か?対応力を見るためだ」

「対応力?もしあれを受けたのが俺たちじゃなかったら、とんでもない事になっていましたよ?」

「おい、止せっ」

「東、お前は自分のところの上層部だから言えないかもしれないがな、俺は違うんだよ。ここはハッキリ言わせてもらう」


 風魔の言いたいこともわからないでもない、ないが……お前はその方の恐ろしさをわかっていない。それにチラチラと美少女たちの視線を気にしているのがバレバレだ。


「ふっ、俺たちね……くくくっ」


 そう、俺たちの力じゃないんだよ。

 凌げたのは勇者1人の力だ、それを見誤る方たちではないんだぞ?

 そのちっぽけな見栄は、命懸けでする程の事なのか!?


「そうか、ではそのチカラ見せて貰おうとするかのう」


 何をさせられるんだ?

 あの笑みは……あぁ、嫌な予感しかしない。

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