第64話ーー全身鉄か何かで出来ているんですか?

 現在せっかく斬る事が出来るようになったロックゴーレムに対して、なぜか素手で挑み続けています。分身10体も含めて、大理石の身体に殴りかかっては殴り返されたりしています。


「柔よく剛を制すだ、相手の力を利用せんかっ!」


 それって柔道の言葉じゃなかったですっけ!?毎度の事ですけど、突然そんな事言われても困るんですけど!?


 事の発端はステータス見比べからだった。3人にあって俺にないものなんて山ほどあるんだけれど、注視されたのは<格闘術>だ。もし何らかの理由で刀が手元になかったら?もし破損してしまったらどうする?と聞かれて、俺の出した答えは「魔法で何とかします」だった。だがモンスターの中には魔法無効の敵も多々いる、先日の突発型ダンジョンでも相見えた。そこで導き出されたのは、格闘術を磨くという事だったのだ。

 そして今、硬いロックゴーレム相手に素手で挑み続けているという訳だ。


 そう言えば、クソ忍者たちのスキルを見て思った事があった。それは金は持っているし、深くまで潜れるんだからスキルスクロールなんてたくさん手に入りそうなのに、意外に所持スキル少なくない?だ。

 その答えは意外な事実だった。


「ふむ、確かにそう思うだろう。だがそうなると世界の大富豪やら何やらは世に出ているスキル全てを所持していると思わんか?いや、他国もそうだがもっとダンジョンを深く潜っていてもおかしくないか?」


 確かにそうなんだよね。

 例えばそれがシーカー用jobではなくとも、金さえあればスキルを山ほど買えるはずだし、世界に名だたるシーカーたちは実用的スキルを手にしており、もっと成果を出しているはずだと思う。だけど実際はそんな事はなさそうだから、わからない。


「スキルはな、その人間に合うか合わないかがある。つまり適性がないとスクロールを使用出来ん。でなければ、そもそもスクロールが市場にでは数はもっと少なくなるだろう、前線の人間が使用するであろうしな」


 クソ忍者の説明で納得出来た。だがそんな情報はどこにも載っていなかったし、話を聞いた事もなかったんだけどな〜


「この話が世に出ていないのはな、この事をあまり広めると、買い手が減るからだな。適性がなかったら無駄銭となる、それが怖くて買うのを躊躇するようになるだろう。そうするとスクロール相場が下がる、それ故に探索者は広めないし、手数料で商売をしている協会も大きな声では言わんという訳だ」


 な、なんて汚い大人の世界。利益のために黙っているとか……。まぁ俺も買取価格下がったら嫌だから言わないだろうけどね。


「そう言えば未だスクロールが落ちたのを見た事がないんですけど、どこで出るんですか?」

「どこででも落ちる可能性はあるとしか言えん、全ては運次第だな。決まった物を落とす可能性の高いモンスターなどの推測は数多に研究されたりはしているが、あくまでも未だ推測の域は出ておらん。例えば150階層以降でしか出ないと思っていたら、突然1階層のスライムからいくつも出たなんて話もあるくらいだ」


 運なのか……

 これまで結構な数のモンスターを倒していると思うんだけど、未だに1度も見ていない俺は悪いのかな?


「物欲センサーという言葉を知っているか?」

「はい、欲しがれば欲しがるほど出ないとかそういう事ですよね?」

「まぁそういう事だ。そのような事に囚われず、己の修練に全てを注げ」


 うーん……

 そう言われても、これまで意識してなくても出ないんだけどな〜

 まぁ出たらラッキーくらいに思うしかないか。


「さあ雑談はここまでだ、拳でその敵を割るまで休みはないぞっ!」


 格闘術って何だっけ?

 素手で大理石を割るってさ、刀で斬るより難題な気がするんですけど!?

 だがこんな反論をしても無駄だろう……何故かって、3人ともがロックゴーレムを投げたり、拳で粉々にしたり、貫手ぬきて穿つらぬいたりしているんだよね。あぁ、あと切り刻んだりも普通にしているよ、素手でね。

 もしかして皆さん、全身鉄……いや伝説の金属か何かで出来ているんですか?


「力の使い方さえ覚えれば出来る」

「修練あるのみじゃ」

「か弱い私でも出来るんだ、あんたも出来る」


 鬼畜治療師の発言を含めて、理解を超えている。

 何をどうやれば、そんな事出来るのか……


「スキルに飛斬術が生えていな。あれは斬撃による衝撃を飛ばすとあったと思うが、それは得物の斬撃だけではないという事だ」


 確かにそう書いてあった、だけどそれを素手でやれって?無茶言わないで欲しい……


「あとだな、先日の事をもう忘れた鳥頭のようだが、目の前にいる敵は豆腐のように柔らかいものだと思ってやれ」


 簡単に言ってくれるよ。

 豆腐だと思っても、硬いものは硬いんだよ。貫手でやってみろ?……さっきから突き指どころか指の骨折りまくってるんですけど!!


「イメージは何事においても重要だ。お前は我らが空歩スキルを所持していないにも関わず、空を蹴っているように見えると言ったな?それはそこに空気という塊があると思って蹴っているからだ」


 そう、不思議だったんだよね。スキルもないのに、確かに空を蹴って移動しているように見えていた。

 でもその答えは禅問答か何かですか?

 えっ?イメージであると思えば出来るって??そんな無茶な……


「出来ないと諦めたら何も出来ん、出来ると思えば出来る、ただそれだけの話だ」


 いやいやいや、仰っている事は確かにもっともです、その通りでしょう。

 だけど、それでも出来る事と出来ない事があるという事もわかって欲しい。

 まぁ言えないんだけどねっ!!


「そうだな、お前はなぜ空歩が使える?」

「スキルがあるからです」

「うむ、なぜスキルがあると使えるのだ?」


 えっ?また禅問答?


「それはスキルがあるから使えると思い込んでいるために使えるに過ぎなくはないか?現にスキルが生えるまでは出来なかったのであろう?」


 確かにそうだ、ステータスをチェックしてみて発見したから使えるようになった。


「スキルを所持していても、使えると思うまでは使えん。では逆に持っていなくとも使えると思えば使える事もありうると思わんか?」


 そうなのかな?


「という事で、お前の腕は鋼鉄で出来ている。そしてお前は石のゴーレム如き引き裂く事も突き破る事も可能だ。さあ思い込め、出来るっ!やるんだっ!」


 ………………

 ……………

 ……


 もう何時間ロックゴーレムに素手で挑み続けているんだろうか?

 出来ると思い込みやり続けているが、イメージが足りないのか、相変わらず割る事も斬る事も出来ない。その代わりに受け身だけは上手くなったと思う。なんせ受け身が失敗すれば1発で骨を折られるし、分身は消える。そうなると再度分身を発現させると魔力を消費するためか、疲れが増加するので更に動きが悪くなるという悪循環なのだ。

 だから上手くなったというよりも、上手くならざるを得なかったと言うべきだろう。ただそこでわかった事は、斬る時もそうだったけど、無駄に力んでいたという事だ。力を抜きなるべく自然体で挑む事で、相手の力をいなす事が出来る。折るとまではいかないが、いなすついでに力点?などを考えてテコの原理的な感じで攻撃も出来るようにはなってきた。


「ここまでだ」


 未だ何一つ出来ていないのに、ストップが掛かった。

 珍しく休ませてくれるというのだろうか……


「ようやくノロマたちが来よったわ」


 ハゲヤクザの視線を追うと、59階層から降りてくる1団の小さな姿がそこにはあった。

 ノロマとは東さんたちの事だったらしい。

 という事は、彼らが少なくとも10階層以上探索している間ずっと俺はロックゴーレムにボコボコにされていたという事になるのか。


 とりあえず傷付いた姿を如月先輩には見られたくないから、九字を切って回復しよう。これで体力も回復出来たら最高なんだけどな……いや、ダメだ。そんな事出来るようになったら、延々とぶっ続けで修行させられるはめになるのは目に見えている。


「そうだった横川よ、炎雨なるスキルがあったが試してみたのか?」


 突然どうしたんだろうか。

 口元が歪んでいるのは何故ですか?

 また嫌な予感がめちゃくちゃするんですけど!?


「いえ、今日初めて知ったのでまだですけど」

「ふむ、では試してみよ。分身も全部出してな、方向はあちらだ」


 あちらと指差すのは、案の定如月先輩たちパーティーがいる方向だった。


「えっ……でも危険では?」

「何を言っとる、奴らはあれでも勇者を含む世界的なトップパーティーじゃぞ?」

「そうだ、甘く見てやるな」

「あんたは奴らより実力が上だとでも思っているのかい?」


 そう言われてみれば、確かにそうなんだけどさ……

 3人ともめちゃくちゃ笑顔なんだよね、真っ黒な。


「ほれ、やらんか」

「目標はあれらだぞ?外さないようにな」


 やるしかないか……

 如月先輩恨まないで下さいねっ!秋田さんフォローお願いしますねっ!


 東さんの上に降るように意識しながら……分身たちにも同じ事を指示してと……


「炎雨!!」


 前2人の盾職の後ろに立っていた東さんの真上、約30mほど上空に突如として浮かんだ、無数の拳大の火の塊が、言葉通りまるで雨のように降り注ぐ。

 範囲は直径約20mほどの円を描いているようだ。


 この階層のモンスターはロックゴーレムだけだ、故に攻撃は物理的距離なものだけとなる。そう思っていたはずが、突然の魔法攻撃に慌てふためき悲鳴を上げる集団……


 んっ?

 真ん中辺り……如月先輩がいる辺りの上2mほどのところで炎雨が1部弾かれているようだ。さすが如月先輩だ!


 防いでくれてよかったと思う反面、何かちょっと悔しいような……


「炎雨!」


 あっ、ついやってしまった……

 まぁ防げるからいいよね?

 結界割れないかな……割れそうにないな、うん、さすが先輩だ。やっぱりちょっと悔しいけど、先輩ならいっか。

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