第56話ーーハイテンションで豆腐斬る
「大漁じゃあ〜ふははははははっ」
ハゲヤクザが走り回りながら大量の石のゴーレムを引き連れてこちらへと戻ってくる。
本日の目的はこれだったらしい。
石のゴーレムは身長2mほどの大きさで、その名の通りに全身が石で形成された人型のモンスターだ。石は大理石らしく、ドロップも大理石のブロックが出るが、あくまでも石なので重たさもあり、人気のないモンスターらしい。
倒し方は2つ、身体の真ん中辺りに存在する魔晶石を取り出し身体から離すか、魔晶石を壊すかだ。スライムと同じように、魔晶石を壊してしまえばドロップにも落ちないために、骨折り損のくたびれもうけとなる。では取り出せばいいのだが、身体を切りまくるか鈍器で魔晶石を避けつつ叩き潰したところで、魔晶石が露になった瞬間に抜き取る事しか出来ない。
倒し方は困難な上にドロップの旨味もないモンスター、それが石のゴーレムだ。金のゴーレムもいるらしいが、それはドロップが金の塊なので、そちらは人気らしいが、名古屋北ダンジョンでは150階層近辺にしか存在しないらしい。
ではなぜそんな不人気モンスター目当てに来たか、それは俺が刀の使い方が下手だからという事だ。
知事息子&若狭一行との手合わせの際に、手足の2〜3本を斬れと言ったのに、斬れなかったのが原因とか言われたよ……
おかしくない?この無茶ぶり。
大理石を忍刀で斬れって事だよ!?
しかも大量に引き連れて来たのを……って、頭おかしいとしか思えないっ!!
俺と分身1人辺りゴーレム1体で、ガキンガキン刀をぶつける……斬るんじゃなくて、ぶつけている。
何度相対しても斬るなんてほど遠いく、引っかき傷のような物を何とか残せる程度で切り刻むなんて出来やしない。
クソ忍者たちは時折暇つぶし程度に、ハゲヤクザが引き連れて来たのが俺と分身の数以上だった場合のみに、刀を抜く事さえなく細切れにして遊んでいる。
意味がわからん!!
コツを聞いても教えてくれるわけでもなく、ゴーレムに殴られ吹っ飛ばされたり、消えてしまった分身を発現させたりを繰り返し、既に数時間。
やっと1cmほどの深さの傷は負わせる事が出来始めたけど……
朝から延々と走ってきた疲れや、分身の出し過ぎもありキツくなってきた。
「そうじゃ、もっと肩の力を抜いて自然体でやれ」
違うっ!そうじゃない、これはただの疲れなんだよ!
「うむ、お前は無駄に力を入れすぎているのがいかん。もっと力を抜いてやればすぐ石ぐらい切れるようになるわ」
もしかしてそれを体感させる為に、ここまで追い込みを掛けていたの!?
「どれか1体の手でも足でも、胴でもいいが、切り落とす事が出来たら、今日は仕舞いにしよう」
あれ?
このままだと徹夜パターン!?
刀はマッドサイエンティストの件で貰った物だと勿体ないという事で、クソ忍者曰くナマクラ刀を使っているが、既に7振り折ってしまっているんだけど……一体何振り用意されているんだろうか。
ってか勿体ないと思うんだけど、キムが打った物よりも低品質だから気にするなと言われたよ。それと、「気にする暇があるなら、とっとと斬り伏せて見せよ」って言われてしまった。まぁ確かに、折らずに済ませれるならそれが1番ってのはわかっているんだけどね……それが出来ないから、このような状態になっているわけですよ。
………………
…………
……
キツイ……
もうあれから何時間経ったんだろうか。
ここまででダメにした刀は、更に5振り。
厚さ50cmほどの胴体の半ば辺りまでは、何とか刀が入るようになってきた。
確かにクソ忍者たちが言う通りに、力を入れない事が重要なのはわかってきた……まぁ、俺の場合はただ力を入れる気力も体力も尽きかけているだけなんだけどね。
「そこまで出来たらあともう少しだ、目の前にいるのは豆腐の化け物だと思いながらやってみよ」
何言ってんだ?
どう見ても石だろうよ……
もう立っている事さえキツイっていうのに。
あっ、また分身3体が消えたよ。
「分身」
あぁ、もうダメだ……
意識が保てない。
………………
…………
……
気が付いたら、アルミシートに包まって地面に転がっていた。
「気が付いたか?」
「あっ、寝てましたか?」
「うむ、最後に1体の胴体を半分に分けていたので、約束通りそのままにしておいた」
「えっ?斬れたんですか?」
「あぁ、残った分身の何体かも成功していた」
マジかよっ!?
あんなにしんどかったというのに、その成功を覚えていないとか……
「あと、何かそれにプラスして斬撃を飛ばしておったぞ」
「えっ?」
「まぁ威力はないが、後ろにあった直径5cmはどの低木の幹を切り倒しておった」
思わぬ副次的効果だ。
まぁこれも見ていないから、いまいち喜びは薄いけどね。
ただ今思う事は、寝落ちする前に出来ていてよかった!!あの口振りからすると、もし出来ていなかったら無理矢理起こされて、未だガキンガキンやっていたと思うしね、フラフラしながら。
「よし、では軽くレーションでも食べてから、もう一度やるぞ」
「はい」
出来たといっても、奇跡みたいなもんだもんね、そりゃやるよね。ただ1度出来たというのなら、再度出来るという可能性も高くなったって事だから、最初の頃よりはやる気にはなる。
アルミ袋に入った『瞬間10秒チャージ』なんて商品名のブドウ味でゼリー状の物体を2つほど流し込む。
クソ忍者たち曰く、1泊やそこらの数日間探索では、こういったレーションが1番効率的でいいらしい。だが長期間に及ぶ探索の場合は、気力やパーティー間の雰囲気維持のためにも、火を焚いて熱を入れた食事をとる事が重要と教えて貰った。
「昨日お前が気を失う前の、身体のダルさや力の抜け具合は覚えているか?」
「はい、再現出来るかどうかと問われればわからないですけど」
「うむ、なるべくその時のイメージでやってみろ。そうすれば今回は昨夜ほどの時間は掛からないだろう」
「やってみます、分身」
「目の前にいるモンスターは豆腐だと思えばいい」
全身から力を抜いて……刀を持つ手も下手をしたらすっぽ抜けるような感覚で。
だが、刀と腕は一体化しているような感覚にして……
ダメだダメだダメだダメだダメだダメだ……
あっ、胴を真っ二つに出来た!!
「気を抜くな、その感覚を大事にして繰り返せ!」
「はいっ!」
ダメだダメだダメだ斬れたダメだダメだ斬れた……
だんだんと自分の中の何かがカチリとハマった感覚を覚え、斬れる確率も高くなってきた。
楽しいっ!
斬れるってめちゃくちゃ楽しいっ!!
なんだろう、この感覚。
まるで豆腐を切るように、滑らかに刀が通る。硬いと思っていたけれど、もう硬いとは思えない。
分身も出来るようになったようだ。ハゲヤクザが大量に引き連れて来るのが、遅いとさえ、もっともっと欲しいと思えてしまう。
「やはり後ろまで斬撃が時折飛んでいるな。よし、ついでにそれの威力が上がるように続けるぞ」
「はいっ!」
今なら何でも出来る気がするよ。
テンションがおかしい?
いやいや、これまで絶対無理って思えた事が出来たんだ、そりゃテンション上がるでしょ!
超楽しいっ!!
「もう湧いてこんわ」
ハゲヤクザが階層を走り回った挙句に、そう言ってくるまで9匹×7セット。
夢中になっていた。
「よし頃合もいいだろう、そろそろ帰るぞ」
「えっ、もう帰るんですか?」
しばらく休憩してから、湧いてきたゴーレム狩りたい!楽しいし、魔晶石ゲットでお金にもなるし!
「……忘れているようだが、お前は明日は2学期の期末テストのはずだろう」
んっ?
テスト??
期末テスト??
「ああっ!!」
「やはり忘れておったか、赤点を取ったら冬休みは雪山でサバイバルキャンプにするからそのつもりでな」
何だよ、その苦行!
何と戦わせるつもりなんですかっ!?
「では帰るぞっ!」
帰宅したのは23時……
ヤバイ、テスト勉強なんてマジでしていないのに!!
誰かもっと早く教えてくれよっ!
どうかアマとキムも忘れていますようにっ!!
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