第55話ーー目が死んでいますか、そうですか
ただいま全力疾走中です。
前を走るのはクソ忍者たち師匠三人衆。
場所は名古屋北ダンジョンで、現在52階層。半年前に12時間以上掛けて10階層まで降りていた事が懐かしく感じるよ。本日は60階層を目指すらしいです。
昨日突発型ダンジョンの出現や、若狭一行とのあれこれがあったというのに、今日も朝からダンジョン探索……少し休みがあってもいいと思うんだけどな。
そういえば、昨日貰った初宝箱の中身である宝刀の話。
若狭たちとの手合わせでも、突発型ダンジョンでの戦闘でも傷を負わずに済んだというのに、結局クソ忍者たちとの修行でボコボコにされたわけだけど、その後深夜0時頃協会施設へと向かったんだ。
探索者協会は、深夜はさすがに人数は少なくはなるけれど、一応24時間営業だからね。だってダンジョンは常時開きっぱなしだし、何が起きるかもわからないから。
そこで教官に付き添って貰って、教官の仲のいい受付の人に鑑定して貰う事となった。
ボロボロにされたから、心に癒しという意味でも綺麗なお姉さんが担当だったらよかったんだけど……少し額が広くなり始めているおじさんだった……残念。まぁ女性の受付さん自体が少ないし、居てもキムのストライクゾーンくらいの年齢層が多いんだけどね。これには当然理由がある、よくアニメだとか小説の異世界では、探索者協会と似た冒険者ギルドの受付は綺麗なお姉さんが多いって設定をよく見かけるけど、現実はそんなに甘くない。ドロップを少しでも高く買って欲しい者や、企業からの依頼条件を緩くしたがったり、色々な理由で担当者を威嚇したり脅迫まがいの恫喝を行うシーカーが少なくないからだ、まぁ生活掛かってるからね。そのためにそういう事に動じない、中年層の男性が多いってわけだ。
まぁおじさんの髪の毛の残念具合とか、シーカーに荒くれ者が多いとかの話は置いといて、鑑定結果はというと『儀礼用宝飾シャムシール』だった、うん、見たまんま。
過去の似たドロップと比較検証の結果、もしこのまま協会に買い取って貰う場合は800万円と提示された。
悩んだ、悩みまくったけど……オークションに掛ければそれ以上になる事も大いに有り得るだろうと教官や担当者のおじさんに言われて、結局協会経営のオークションに出す事にした。
最低価格を強気の800万円に設定し、期限1週間で。
もし売れた場合は入金確認や発送は全て協会が行ってくれるんだけれど、その代わりに手数料やダンジョン税など諸々合わせて、売却代金の20%を引かれるらしい……ぼったくりだと叫びたいところだけど、任せっきり何だから仕方ないのかな?
あと、税理士……まぁ総務班らしいけど、そこにクソ忍者を通してお願いした方がいいぞと忠告を受けた。税理士とか縁の遠い話だと思ってたけど、いないと大変な事になるぞと脅されたよ……どうやら税金とか色々あるらしい。
本当なら、オークション期限の1週間はずっと推移を見守りたいところなんだけどね……
昨日の手合わせ終了時の話では、「明日はちょっとダンジョンに潜る」という事だったのに、朝来たら目標60階層だと言われた……この人たちのちょっとを信じた俺がバカだったよ……
あぁ、それとその時に渡されたのがお面。
分身の無表情対策と、TOPスピードで駆け抜けるために、他のシーカーたちに顔バレするのを防ぐためらしい。
昨日見たのは、狐・天狗・般若・ウサギ・パンダだ。そこから考えるに、可愛い系か能面系かの2択だろう。
ドキドキする俺に渡されたのは、目以外を覆い隠し顎が動く黒い面だった。それはまるで戦国時代の武将が着けていた甲冑の一部のような……
正式名称は
師匠たちがしているお面は、目の部分が小さくしか空いていないために、今の俺では視界が狭く危険なためという配慮の結果らしい。
武将の甲冑に似ているので由緒ある物かと思ったら、これはドロップ品だそうだ……なんか見た目から呪いとかありそうで嫌だったんだけど、まぁ着けないという選択肢もないわけで……
着けてみたら、あら意外!とってもフィット感良く、邪魔な感じは一切ない。そして顎が動くおかげで飲食にも対応しているっ!そして何よりも結構カッコイイかも!?
って、あれ?
……そういえば紐とか耳や頭に掛けていないんだけど、なんで落ちないんだろう。
……顎や鼻に引っかかっている感覚もないな……下を向いても、頭を強く振り回しても落ちないんですけど??
「これ!呪われてますかっ!?」
「ふははははははっ」
「ぎゃああああっ!」
カッコイイけど、これで日常生活を送るのは恥ずかし過ぎるっ!!
絶対に「まだ厨二病か?」とか言われちゃうっ!……ま、まぁ、もう既にNINJAルックでそれっぽいけど。
「慌てるな、精神を落ち着ければ外れる」
「ヒッヒッフーヒッヒッフー……外れないっ!」
「だから落ち着け、九字をきれ」
「ふー臨兵闘者皆陣列在前……あっ取れた」
「滑稽で笑わせよるわ」
滑稽とか言われちゃったよ……恥ずかしいっ!
でも、無事外れてよかった!!
「要らん時間を使ったわ、全力で参るぞ」
「……はい」
と、走っているのだ。
床を壁を縦横無尽に駈ける。分身は一体だけ出して、時折避けきれないモンスターを通りざまに倒したドロップを拾わせながら進む。
10階層毎にボスはいるが、昨日のボスに比べるとかなり弱く、1度の火弾で光に変えてここまで来ている。
ちなみになぜ60階層に行くのかは、何も聞かされていない。
いつもの通りとっても嫌な予感しかないが、時折振り返っては「遅いっ!」と怒られるので、それどころじゃないのが現状だ。
遅いとは言われるが、ここまですれ違ったり追い抜いたりした人たちは、「なんか通っていった!」「妖怪じゃ!」「モンスターだろっ!」で騒いでいるほどのスピードなんだけどね。
えっ?お前も一緒だろって?人がいたらちゃんと死角になるような場所や、壁を走ってるから仲間じゃない、違うったら違う。
休憩なしの12時間連続疾走……ようやく60階層へと到着した。途中走りながら水を飲んだりはしたけど、かなりしんどかったよ。
「よし、ここなら人も少ないから分身を全部出せ」
息を整える暇も与えずの命令。
……どうしてこの人たちは息一つ切れていないんだろうか。
絶対に同じ人間じゃない、うん。
「あぁ、確かお前の生まれは69階層だったな。行きたいかもしれんが、今日はここにて修練だ。69階層にはまた次の機会にな」
俺がちょっとしんどくて分身をすぐに出さなかったら、とんでもない事を言い出したよ。
いやいやいや、確かにいつかは行ってみたいとは思うけど、今日はもうここで勘弁して欲しいのが真実だ。
行きたくて、分身出し渋っていたわけじゃねぇっ!!
「分身!」
「うむ、ちょっと目を閉じているからシャッフルしてみろ」
こいつら俺でゲームしようとしてやがる!
ただ面を被っているからもう大丈夫なはずだ。
分身と円陣を組んでグルグルと回って……さぁどうだっ!?
「ふむ、お前だな」
えっ!?
なんでわかるの!?
一瞬で見分けて、足元の石を本体に向かって飛ばしてきたよ。
「あれだ、他のはみんないつものように死んだ目をしているが、本体は愉悦の浮かんだ目をしているからな」
ちょっと!!
見分けたのはいい、それはいい。
だけどいつものように死んだ目をしているってどういう事ですか!?
もしそうだとしても、それはあんたたちのせいですからね!?
「まぁ初見ではバレんだろうから良しとしよう」
「小僧がもっと修練を積めば、面を我らのと同じような物に変更出来ましょうぞ。そうなるよう鍛えませんとな」
「あんたそんな目をしてちゃモテないよ」
ねぇ、3人組の1人は必ず俺がモテないとか彼女が出来ないとか言わないとダメなの?
久しぶりに名古屋北ダンジョンという事もあって伊東たちリア充3人組の事を思い出しちゃったよ!
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