第57話ーー多分きっと大丈夫です

 いつもよりかなり早く登校して、教科書広げて真剣に読み込む。もう問題解いたりして勉強している時間なんてないからね、脳と知力ステータスを信じて、教科書丸暗記しか手はない。

 孤児院で勉強すればいいかと思うかもしれないが、院は小さい子の泣き声とかするから集中しにくいし、何よりもパソコンとかに目が行ってしまう事が確実だからね、学校が1番なんだ。

 まぁそうは言っても……教室に来てから既に数回、支給端末でオークションの状況を確認しちゃったりしてるけどさ。

 なんと!!現在の入札価格は1,289万円!!

 1,289万円ですよ!!

 1,289円じゃなくて!何度も0の数を数え直しちゃったよ!!

 それに土日のゴーレムや道中の魔晶石での売却代金は計80,000円也!

 このままだとセレブへの道も近いかも!?

 やっぱキャバクラかな〜それもと金津園?いや、それとも名駅裏中村区に激安店があるって孤児院卒業した兄ちゃん言ってたな……


「顔が気持ち悪い」

「変態らしさが出てるな」

「気持ち悪い言うなっ!あと、ってなんだよっ!?」


 いつの間にか登校して、近寄ってきたと思ったら、こいつら朝一番からなんて事言うんだよ……

 ったく、2人も連れて行ってやろうかと思ったのに、これはよく考えた方がいいな。


「で、珍しくなんで俺たちより早く来ているばかりか、なんで勉強なんてしてるんだ?」

「またステータス下がったのか?」

「珍しくないし、下がってもいないからな?」


 そういう事言うと、シュタインこと相田くんが目を輝かせてこちらを注視するから止めて欲しい。


「今日から期末テストだろ……遅いとは思うが、記憶力に任せて覚えれるだけ覚えようとしている」

「……はっ?」

「……テ……スト?」

「そう、今日からテストらしいぞ」

「いやいやいや、ちょっ待って」

「わ、わかりやすい嘘をつくなよ……」


 やはり2人とも知らなかったようだ、慌ててスマホ確認しているし。


「マジじゃねぇかよ……」

「なぜ教えてくれなかった……抜け駆けか」


 ふふふふ……

 仲間がいるって素晴らしい!


「俺も昨日知った、しかもダンジョン60階層で。ちなみに赤点の場合は雪山でのサバイバルキャンプだそうだ……」

「って事は俺も似たような罰がありそうだな」

「だな……また白装束で滝行とか?この寒いのに?」


 キムの白装束で滝行とか、俺の雪山サバイバルキャンプと同等の苦行だな。アマは……何をさせられるんだろう。


「範囲は!?」

「わからんから片っ端から覚えてる」

「ヤバイ」


 時計を見たらあと猶予は30分……

 仲間加入で思わぬ時間を潰してしまったが、後悔はない。道連れ最高!仲間最高!!

 宝剣の事を伝えようかと思ったが、2人とも顔真っ青な上に、目がマジだから邪魔するのはやめとこう……


「はい、おはよう」


 えっ?先生来るの早くない??

 まだあと15分あるはずだよね!?

 もしかして俺たちが知らないだけで、時間変更でもあったのか?昨日の夜LINEで話した時は、川上……あぁ、ビッチなクラスメイトの事ね、川上は言ってなかったけど。


「ステータスにjobが出ていた者と出ていない者は違う部屋だとわかっているよな〜移動しろよ〜」


 えっ?

 期末テストから違うの??


 アマとキムを見ると、やはり知らなかったようでポカーンとしている。

 そういえばと周りを見渡してみると、川上をはじめとしたjobが出たっぽいやつらが誰も教室に居ないようだ。

 慌てて学校からのメールを確認してみると、確かに1週間前ほどに着ていた。


『19日より開始する期末テストに関して。現段階でステータスにjobが表示されており、尚且つ高校卒業後にその道を目指す者(大学等の教育機関を除く)は別室で内容の違うテストとなる為に、16日までに担任へ申し込むようお願い致します』


 申し込んでないぞ……

 せっかく赤点を逃れる確率が高くなるチャンスだというのに!


「先生すみません、申し込み忘れていたんですけど……」

「んっ?あぁ、天野木村横川は事前にお師匠さんからその旨を連絡頂いているから、こちらは既にそのように用意しているから、とっとと移動しろ」


 おおっ!よかった!!

 俺だけじゃなくて、2人とも行われていたのは助かった。


「すみません、どこに移動でしょうか……」

「それも事前にメールしたはずだが……」


 学校からのメールなんて、基本必要ない事ばかり着ているイメージだったから、ほとんど気にせず開くだけで読みもせず閉じていたんだよね。


「あった!俺は1組らしい」

「俺もだ」

「俺もだな」

「マジか、3人一緒で良かった」

「「だな」」

「あー、学年全体のjobが出た者は全員一緒だ」


 何だよ、だったら早く言ってくれよ。無駄に喜んでしまったじゃないか。


「早く移動しろよ〜」

「「「はーい」」」


 手早く広げまくっていた教科書を集めてから、該当教室へと移動した。

 そこには川上や同じクラスの数人と、他のクラスのどこかで見た事のあるようなないような顔が既に机に向かって座っていた。

 各机に名前が貼ってある。どうやらクラス毎に纏まり名簿順に席が配置されているようだ。

 自分の席を探していると思わぬ人物が目に入った、若狭だ、若狭が出席していた。

 そういえばこいつの処遇をクソ忍者に聞いていなかったけど、切腹とか打首じゃなくて生きていたんだね……まぁ、両親を同時に亡くしちゃったわけだから、それ以上に何かを科せられる事は酷なのかな?それとも目に見えぬ何か罰を与えられたのだろうか……本人に聞ければ楽だけど、俺が聞いてもきっと逆ギレしてくるだけだろうからね。後でクソ忍者に聞く事にしよう。


 うーん、若狭は俺の2つ後ろの席か……何か不安だな、逆恨みでテスト中に後ろから襲い掛かられてもしんどいし。

 よし、手を打っとこう。


 まだ開始までは時間があるようなので、急いでトイレへと走り、分身を1人発現させて俺の影に潜ませると教室へと戻る。その際わざわざ若狭の影を通るようにして、俺の影と交差させて移動させる。要は監視要員だ。何事もなければそれで終わるし、何かあれば影操身の術で拘束出来るだろう。


 ふと鼠とか出しておけば、カンニングし放題じゃね?って思ったけど、教室に鼠が現れてチョロチョロしまくったり、テスト覗いたりしてたら大騒ぎになるよね……

 透明化するスキル手に入らないかな!?

 そうすればカンニングだけではなくて、色々と……色々と更に役立つ事間違いなしなんだけどな〜


 そんな事を考えていたら、担当教師と監視要員らしき教員がやって来て、テストが始まった。


 危惧してしたテスト内容は、そこまで難しいものはなかった。まぁ基本的に教科書内で大きく書いてある事が、出題されているといった感じだったので何とかなっただろうというのが感想だ。これまでのような、教科書の欄外に小さく書いてあるような事や、先生の説明を細かく聞いていないと解けないような、いやらしい問題はなかったんでね。

 アマとキムも同じような感想だった。

 あとテスト期間も一般より短い。なぜなら本来は13教科ほどあり、3教科×4日に渡って続くのだが、このクラスは特別らしく英語・科学・日本史・数学・現代文・古典・情報・保健・ダンジョンの9科目しかないので、3教科×3日で1日少ないらしい。


 色んな意味で助かった!

 多分、きっと、雪山でサバイバルキャンプは回避出来ただろう!


 いや、だがまだ安心は出来ない……

 なぜならテスト期間だというのに、修行は行われるようなのだ。普通は学校の部活動とかも停止になるはずなのに。

 手合わせで頭を強く打って、色々記憶を失う可能性もあるからねっ!


 あぁ、あと若狭だけど心配は杞憂に終わった。テストとテストの間にねっとりとした視線を背中に感じはしたけれど、凶行に及ぶ事はなかったよ。ただ視線から考えて、まだ完全に安心出来るわけではないから、警戒はし続けないとだけどね。

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