第51話ーー市中引き回しの上獄門!
終わった。
反撃を許さず、全員を戦闘不能へと持ち込めた。
ただなぁ……未だ師匠たちのオーラがヤバイんだよね。
まぁ、若狭親子は固まっていたし、他のやつらもようやく事態に気が付いたのか、動きが酷く緩慢だったし、圧倒出来て当然だもんね。
「終わりました」
「うむ、よくやった」
「小僧、なぜ手足の二,三本を切り落とさん」
「手加減の意味では心臓の上を叩くのではなく、肺を叩いたのはよかったんじゃないかい」
クソ忍者と鬼畜治療師はニコリとも微笑まずに一応褒めてくれたが、ハゲヤクザがムチャな事を言ってくる。俺は木刀で鉄は斬れないんだって!
「ヨコ……何が起きたか見えんかった」
「うむ、何したんだ?」
こいつら俺の勇姿を見逃してたのかよっ!
せっかく頑張ったというのに、余所見していたとか信じられん。
お前たちくらいは褒めてくれてもよかったんじゃないのか?
クソ忍者たちの前でそんな事は言えないけど……もし言ったら、「この程度で褒めろだと?」とか言われそうだし。
それにしてもこの後どうなるんだろうか?
若狭親子はもちろんだけど、知事を含めて師匠たちをバカにしたやつらの運命は……
市中引き回しの上打首獄門とか?さすがにそれは現代においてないかな?切腹?他に何だろう……資産の全ての接収!?
その本人たちだが、知事たち2階席の人は未だ驚いた表情のまま固まっている人と、手摺から身を乗り出して必死に声を子供に掛けているようだ。
「さて、どうするかな」
うわっ、クソ忍者の笑みが益々黒くなっている。伊賀の師匠さんたちも同じような顔をしているし。
「とりあえず……近松よ、あの阿呆どもが死なないかどうかだけ確認を頼む、微かに息をしているのが聞こえるから大丈夫だとは思うがな」
「はい、小僧が手加減を上手く出来たようですね」
すみません、手加減とかすっかり忘れていました。いや、一応は致命傷にならないようにと喉や頭、首は狙わないようにはしたんだけどね。
「では一応確認しに参ります」
まるでやる気なさげにゆっくりと鬼畜治療師が歩き始めた。
「近松待てっ!東たちと職員よ、すぐにここへ集まれっ!!空気がおかしいっ!」
珍しく慌てたような声でクソ忍者が叫んだ。その様子に何かを察知したのだろう、呼ばれた人たちが勢いよく2階から飛び降りてこちらへと集まってきた。
そしてやはり居た近衛の忍び装束の人。ただ色が微妙に違う人が伊賀の師匠さんの隣に膝を着いたので、きっと伊賀の近衛か何かなのだろう。
それにしても、空気がおかしいとは何だろうか……毒?だったらそういう指示を出すよね?他に何かあるのか?
そして知事たちには声を掛けないのは、かなり怒りを持っていらっしゃるんですね。
理解出来なくてただ立かっていたら、突然知事やその息子たち一行の辺り……知事一行の目の前、息子や若狭親子たちの真上辺りの宙に直径1mほどの青黒い点が発生した。
「突発性だな、皆の者下がれっ!」
クソ忍者の声に従い、壁際まで下がった時だった。
青黒い点が瞬く間に渦を巻きながら大きくなり、近くにある物全て……取り残されていた知事たち一行と施設の一部を吸い込み壊しながら直径30mほどの穴が出来上がった。
知事たちも慌てて逃げようとはしたようだけど既に遅く、小さな悲鳴や驚きの声を上げていたが、施設の破壊音に紛れて何を言っているかはほとんど聞こえなかった。
そして穴の向こう側には、草原らしきものが見えている。
「突発型……」
「初めて生成を見た」
「こんな事が……」
「危なかった」
それぞれが驚きと安堵の声を上げる。
クソ忍者が異変にいち早く気付かなかったら危なかったもんね。
「静まれっ!職員は突発型ダンジョン発生時のマニュアルがあるはずだろう、各所に連絡しろっ。その他の者はここにて待機っ!」
「はっ!」
「はいっ!」
クソ忍者の一声と冷静な指示に、職員さんたちが足早に施設を出て行った。
「さて、ここにはちょうど戦闘要員も揃っておる事だし、各所に連絡が済んだら突入する、異議のある者はいるか?」
あーそうなるのか。
確かに東さんたちパーティーはいるし、クソ忍者たちも揃ってるもんな。
……って、まさか俺は行かないよね?半人前の俺が行ったら足を引っ張っちゃうしさ。
もしそうだとしたら、ぜひ異議を申し立てたい、実際には言えないけど……
「お、恐れながら……」
「お主は柳生の所のだな、どうした」
「はっ、これが突発型との確定はなぜに出来るのでしょうか?」
それ、俺も思っていたよ、あとこれ以上拡がったりしないのか。
他にも何人か頷いているし、みんな思う事は一緒なんだね。
「んっ?そんな事か……通常ダンジョンの場合は入口付近の縁は周りの色に同調する……まぁ大体は茶色や灰色だな。突発の場合は浮いたような色になる。あと突発型も定着型のどちらも1度拡大が止まったら、もうそれ以上は拡がる事はない」
「勉強不足で申し訳ございません、理解致しました。御説明ありがとうございます」
「いや、構わん。うちのアホ弟子も知らんかったようだしな」
へーそうなんだ〜っと話を聞いていたら、突然「アホ弟子」という言葉と共に頭を軽く叩かれた。
いや、そんな事学校で習わなかったんだから仕方ないって。
……チラリとアマとキムを見たら、俺から目を逸らして、まるで自分たちは知っていたかのように首を縦に振ってやがるっ!なんて友達がいのないやつだ。
「今日はダンジョンに潜る予定はなかったはずだろう、もし体調不良など不安がある者は正直に手を上げろ」
誰も手を挙げない……
誰か手を挙げようよっ!そしたらどさくさに紛れて俺もって可能性がワンチャンある事も……ないですね、はい、睨まなくても理解しています。
「伊賀のよ、それでいいか?」
「あぁ構わん、だが俺たち2人と弟子2人は何も出来ん。それでは申し訳ないから手持ちのポーション各種を無償で提供させて貰う。エリクサーは……3本しかないが」
「では俺は、突入前に武器の手入れを行おうか。不安のある者は持ってこい」
「助かる」
「まぁ近松さんがいるから大丈夫だとは思うが、一応な」
まぁそりゃ生産職だから仕方ないよね。ってかエリクサーなんて超高級品を3本も持ち歩いているのかよ……それだけで一生遊んで暮らせるだけの額の物なのに。
そしてレジェンドウェポンマイスターによる、武器の無償手入れなんて凄いな。何人かが早速目を輝かせて持ち寄ってるし。
「東、一応生存者確認を頼む」
「かしこまりました」
そうだった、若狭親子たち全員巻き込まれたんだったよ。事態に着いていくのがやっとで、すっかり忘れていた。
嫌いだし、かなりムカついたし、面倒くさいやつらだったけど、死んで欲しいとまでは思っていなかったので、生きているといいんだが……
「2名発見しましたが、他の者の姿は確認できませんでした」
東さんが痛みに呻く2人を引き摺って戻ってきた。その2人とは、杖を持っていた1人と、まさかの若狭だった。
「近松、喋れる程度に治してやれ」
「喋れる程度ですね、御意」
完治はさせないらしい。
クソ忍者の視線はまるでゴミを見るかのように若狭を捉えている。自分の配下の醜態だもんな……しかも東さんたちパーティーや伊賀の師匠さんたちの前での事だし、そりゃ許せないよね。
「おい、桂木。てめぇこんなところで何をしてんだよ」
鬼畜治療師が治療するのを見ていたら、東さんたちパーティーの内の1人が杖持ちの男に近付き、腹を踏み付けながら問い掛けている。
「す、すみません……お、大木くんに誘われて」
「そんな事聞いてるんじゃねぇんだよ、相手の力量も計れず喧嘩を売るとかバカなのか?しかも自分の組織のTOPにまで暴言を吐くとはな」
んっ?
話の内容からすると、伊賀の人なのかな?
「わ、わからなくて……そんなつもりはなくて……」
「なぁ、死ねよ、頼むから死んでくれよ……百地様、藤林様、申し訳ございません」
「ぼぼぼぼぼうじわげございまぜん」
やはり伊賀の人だったようだ。
杖の男は泣きながら土下座?五体投地だっけ?俯きに寝転がったまま腕を投げ出すようにして謝っている。
「それの処遇は担当部署に任せる」
「目障りだからすぐに連れて行かせるように連絡しろ」
「かしこまりました」
伊賀の師匠さんたちも冷たい……というか見る素振りさえない。
「そこに居るのは加藤紘一だな。それも回収させて檻の中に入れておけ」
「御意」
こちらは肋骨辺りを治しただけらしい、未だ痛みに呻いている若狭の襟首を掴んで、名前を呼ばれた近衛の人が引き摺るようにして出て行った。
……その光景、どこかで見た事がある。
それにしても若狭のやつ、散々これまで孤児だなんだってバカにし続けてきたけど、自分もその境遇になったわけだが、どんな気持ちかね。
「知事たち他の者たちは全て巻き込まれたようだな……」
「生きている可能性はないんですか?」
「んー、もしかしたらダンジョン内部にて万が一の可能性として有り得るかもしれんが、ほぼ無理だろうな」
そうなのか……
もしクソ忍者が兆候に気付かなかったら、俺たちも同じ運命を辿る可能性が高かったと思うと恐ろしくなるな。
それと同時にぼそりとクソ忍者が呟いた「つまらんが面倒がなくてちょうどいい」という言葉が恐ろしい。もし生きていたら一体何をするつもりだったのだろうか。
藤林さんによる武器の手入れや、協会職員の人たちが慌ただしく施設に出入りして、クソ忍者たち師匠組に報告などをしているのをぼーっと眺めたり、戦闘装束に着替えたり、アマとキムと話したりする事2時間ほど。
「ではこれより突入するっ!」
遂に突発型ダンジョンへと俺は挑む事になった。
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