第31話ーー竜宮城って別名地獄でした?
「はいっ!師匠!!」
「わかりましたっ、やってみますっ!」
妙に明るくテンションの高い声が、制作室から聞こえてくる。
漏れ聞こえてきた修行内容は、夏休み前半よりも明らかに濃く過酷なものになっているのだが、教官による訓練後からなのか、それとも仕組まれたあの寸劇ショーによるものなのかはわからないけれど、確実に錯覚しているようだ。
まぁ気付かない内は幸せだろう……
そうっとしておこう。
「素直で可愛い奴らだの」
「本当に、それに比べてこいつは」
「……本気で言ってます?」
「ふははははははははっ」
「くくくくくくくっ」
クソ忍者とハゲヤクザの楽しそうな笑い声が響く。
やはりこいつらもグルか!!
教官だけとかおかしいと思ってたんだよね!
全く笑えない、笑えるはずがない。
「よし、ステータスを見せてみろ」
「最近見ておらんかったから、楽しみじゃ」
◆
横川一太 Age16
job―[NlNJA Lv2]
体力―BBB
魔力―BB
力 ―CCC
知力―DD
器用―BB
敏捷―BBB
精神―B
◆
固有スキル―火遁(Lv1)・闇遁(Lv1)・口寄せ(Lv1)・分身(Lv4)・刀剣術(Lv8)・二刀流術(Lv1)・手裏剣術(Lv5)・跳躍(Lv9)・空歩(Lv4)・毒耐性(MAX)・麻痺耐性(MAX)・石化耐性(Lv3)・睡眠魔法耐性(Lv2)・九字印術(Lv3)
◆
火遁(Lv1)……火球(Lv5)―火の玉を前方に5つ同時に放出できる。
闇遁(Lv1)……影潜り(Lv5)―180分間影の中に入る事ができる。対象が動いた場合は自動的に動く。中から外の様子を見聞きできるが他の行動は出来ない。
口寄せ(Lv1)……鼠(Lv4)―鼠を4匹魔力によって召喚できる。鼠は魔力で出来ている為に死んでも再度の召喚が可能。念話により意思疎通が可能。攻撃は不可能。存在時間は4時間。
分身(Lv4)……分身(Lv4)―魔力で出来た分身を4体作る事が可能。簡単な命令をこなす事が出来る。存在時間は4時間
刀剣術(Lv8)……忍刀を扱う事が出来る(80cm未満)。2本装備可能。
二刀流術(Lv1)……二刀流での行動が出来る。
手裏剣術(Lv5)……手裏剣を投げる事が出来る。
跳躍(Lv9)……身体能力+9mの高さまで跳躍距離が伸びる。
空歩(Lv4)……跳躍時に空中で4歩歩ける。
毒耐性(MAX)……毒に耐性がある。
麻痺耐性(MAX)……麻痺に耐性がある。
石化耐性(Lv3)……石化に耐性がある。
睡眠耐性(Lv2)……睡眠魔法に耐性がある。
九字印術(Lv3)……九字印をきる事で、集中力を高める。
◆
また色々尋常じゃなく上がっている、上がっているけど……
ち、知力が下がってるーー!!
確かに渥美での修行が終わった時にはDDDとあったのに、何度見直してもDDになっている……
これはあれか?
体力回復のために学校では授業中ほとんど寝ていた事が原因か?
どうかこの事には気付かないで下さいますように!!
「そこまで上がってないな」
「せめて平均Aは欲しいところですな」
「ちょっと優しくやりすぎたか?」
「儂も甘くなったかの」
はっ?
何を言ってるのか、意味が理解出来ない。
平均Aって……えっ?
まだ初めてのステータス確認から、半年経ってないよ?それなのにこのステータスって結構だと思うんです、それなのに……
優しい?甘い?
それって俺の知っている言葉と多分違うと思う……
「横川よ、なぜ知力が下がる」
「はて、学校にはちゃんと行かせたはずだが、それはおかしいのう」
くっ、気付かれた……
「……何故でしょうね。日本の教育制度の見直しが必要かもしれませんね」
「ほう、難しい言葉を知っているな」
「見直しとは、全員毎日ダンジョン内で勉強でもするのか?モンスターに追われながら」
追われながらって何だよ、何そのカオス授業。
考えがいちいち物騒すぎる!!
でも本当に教育制度の見直しは必要だと思うんです。
平穏な学生生活よ、カムバーック!!
「おぉーい、伊賀のよ」
「どうした?」
「なんだ?」
「実は……」
「あぁ、それか……」
アマとキムの師匠とコソコソと話し始めた。
ヤバイ、嫌な予感しかしない。
今日は鬼畜治療師と教官がいないから、少し楽だな〜なんて思っていた数分前の俺のバカ……
「天野、木村ちょっとこちらへ来い」
「「はいっ!」」
そんな無垢な瞳をして、お前ら……
飼い主に懐く犬にしか見えないじゃないか。
「この2ヶ月間、お前たちは頑張った、とても頑張ったと思う」
「見にこなかった俺たちが悪かった。それでだ、詫びと言っては何だが、美味しい海鮮を食べに行かないか?」
「そんな……ありがとうございますっ」
「いいんですか?……あっ、でも」
目を潤ませちゃってるよ……
先程までのやり取りを見て知っている俺としては罠だと叫びたいが、「余計な事は言うな」って目で俺をクソ忍者が見ているから何も言えない。
キムが俺を見て、まるで「俺たちだけは悪い」って顔している。
その気持ち嬉しい、とても嬉しいよ。
だけど……今はそんな気持ちいらないから!2人だけで是非行ってくれればいいからっ!
「ふむ……なぁ織田のよ、こいつらの友人である横川くんも一緒にはどうだろうか?」
「あぁ、その方がこいつらも嬉しいだろうし、なっ?」
「「ありがとうございますっ師匠っ!ヨコ、一緒に行こうぜっ」」
断りたい、断りたいが信じきった無垢な瞳を向けないでくれっ!
「ふむ……」
「あぁ、行き過ぎだったとは言えども、この2ヶ月ほどそちらにはこの2人が世話になった。その礼という事で織田のと、山岡さんもどうですかな?ご一緒に」
「そうですな、たまには友達同士楽しく過ごした方がいいかも知れませんね。ではお言葉に甘えましょうか」
なんだろうか、この寸劇は……
一体何が待っているんだろうか。
ってかクソ忍者は呼び捨てで、ハゲヤクザは「さん」付けなのね。
何でだろう……歳かな?
海鮮か……
そういえば、渥美に連れて行かれた時も「海に行く」って言ってたな。
また渥美?
今回は伊賀が絡んでいるから違うのか?
「天野と木村は日間賀島って知ってるか?」
「聞いた事はあります」
「タコやカニ、フグ、牡蠣なんかが有名な島だ」
「温泉もあるな。美味いぞ〜」
日間賀島?
あの島には確かダンジョンはなかったはずだ。
もしかして俺の考え過ぎだったんだろうか?
キムのバカっ!
タコと言われた時にチラッとハゲヤクザの頭見てんじゃねぇよっ!
ほら、一瞬ハゲヤクザのこめかみがピクリとしたじゃねぇかよ……
過酷な緊張状態から解放された事で、色々抜けちゃったのか?危険意識も手放しちゃったのか!?
……あれっ?
動きがない……許され……てないな、ない。
証拠にハゲヤクザの視線がキムをロックオンしているし。
後で何があるかわからん。
「最近歳のせいか節々が痛むから、温泉はありがたいのう」
「ええ、美味いものを食って、温泉に入って英気を養いましょう」
節々痛むやつはあんな動きは出来ない。
そして妙に柔らかい声を作っているのが怪し過ぎる。
……やはり罠だ、絶対に罠だ。
「なぁヨコやったなっ」
「OKして貰えてよかったな」
やめろ……やめてくれっ!
純粋な目をこれ以上俺に向けるんじゃないっ!
期待すれば、喜べば、その分だけ絶望を味わう事になぜ気付いてくれないんだよ!
「そうと決まれば、明日の朝から出掛けようか」
「ちょうど土日だしな……文化の日が飛び休なのが残念だな」
「では明朝の6時に高校の前に集合でどうだ」
「わかった、横川もそれでいいな?」
「ほれ、伊賀のに礼を言わんか」
「……ありがとうございます」
だからありがたくないんだって!
朝6時に集合の時点でおかしいじゃん!
飛び休まで連続で何かさせるフリでしょ、あんなの。
「何を持っていけばいいですか?」
「水着とか必要ですかっ?」
「その辺は作業をしながら話そうか」
「「はいっ!」」
「では一全の、明日からよろしくな」
あぁ、2人の背中が浮ついている……
きっと頭の中では海産物が踊っているんだろうね。
きっと今の気分は竜宮城にでも行くような感じなんだろうね……その竜宮城の別の名は地獄だとも気付かずに。
「さて、お前は何を持って行くかわかっているな?」
「勉強道具と戦闘具ですね」
「お前は勉強道具はいらん、渥美の時と同じ事をするだけだからな。あの可哀想な2人に、それとなく宿題をするとか何とか言って勉強道具を必ず持たせろ」
ついに可哀想なとかこの人言っちゃったよ……
「何とかします」
「何とかじゃなくて、必ずだ。間違えるな」
「はい、必ず持たせます。ところで日間賀島にはダンジョンないですよね?」
「そう急がんでも、明日わかるわ。楽しみに待っておれ」
「さぁ今日も修行を行うぞ」
わかっているのは、明日からもろくな事がないって事だけだ……
そしてアマとキムが真実を知る時だ……
とりあえず俺は、まず明日が無事に迎えられるようにだけを考えよう。
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