第28話ーー腕は持ち運び可能らしいですよ
「ねぇねぇ木村くんって、将来はやっぱり鉱夫なの?」
「俳優とかいいんじゃない?」
今日もやっぱり、元地味系女子2人組が積極的だ。
やはりこの夏、俺が血反吐を撒き散らして過ごしている間に何かあったに違いない。
とても聞きたい、すごく聞きたい……
でも聞けないのがもどかしい!
聞いたら最後、確実にセクハラ野郎と罵られる事間違いないし。
こういう時は透明化されないから、おかしい。
昨日は若狭に絡まれてよく見えていなかったけれど、よく見てみれば色っぽくはなったのはなったんだろうけど、具体的には化粧が濃くなったのと、スカートが少し短くなったようだ。
「そんなん絶対売れる」
「だよねっ!すぐ主演ドラマ放送されるって」
この光景、昨日までだったら苛立ちと悲しみがやって来ていただろう……
だが今日は違う、なぜならキムの真実を知ってしまったからな、とても穏やかに見ていられる。
アマも同じような顔をして見ている。
きっと思う事は一緒だろう。
必死に慣れないシナを作って話しかけている2人に言いたい。
「そいつ熟女好きで、同年代になんて興味なんてないですよ!」
と、大声で言ってあげたい。
まぁ言わないけどね。
可哀想だし……俺が。
声とか聞こえなさそうだし、もし聞こえたとしても「はっ?」とか冷たい声が返ってきそうだし。
穏やかといえば、もう1つ穏やかな事がある。
若狭が来ていないのだ。
昨夜教官からメールが着たので、ついでに色々その件について話した。
謹慎とは、学業の事もだったようだ。
なので、すぐにパパとママか誰かに連絡が行ったのだろう。
今回沙汰を破って登校した事で、般若心経を2457回写経して本部に届けるまで解けないようにしたとの事だった。
気にしていないとはいえ、無駄に睨まれたり絡まれたりするのは面倒だし疲れるので、今日から当分は穏やかに過ごせるはずだ。
まぁ登校時に取り巻きとすれ違った時に「チクリ野郎が」と、ぼそっと言われたけど、些細な問題である。
ただ逆に心が重い事もある。
まず1つめはその若狭の件だ。
取り巻きが言ってきたように、チクったと確実に逆恨みしているだろう事。
そして般若心経の写経の数も問題だ。
なぜ2457回なのか?普通行う数が分からないから何とも言えないけれど、考えつくとしたら煩悩の数の108回かな……それは除夜の鐘か。
とにかく2457回って何だろうって思ったら、俺の儀での計測タイム24時間57分からきているらしい……
しかもこの理由も、本人含め若狭家に通達したとの事だった。
もうこれ完全に逆恨みを爆発させるよね!?
めちゃくちゃめんどくさい……
もう1つは、教官からのメールだ。
若狭の件の他に『明日は授業が終わり次第すぐ訓練施設まで来るように。戦闘着を忘れるな』と伝えられたのだ。
すぐ……この言葉嫌な予感しかない、ご機嫌を損ねたらマズイ人が待っているのだろう。
ちなみにこのメールはアマとキムにも着ていたらしい。
以前だったら疑問なんて何も思い浮かばなかったけれど、色々知ってしまった今は不思議に思ってしまう事がある。
それは伊賀流とか一全流などと、流派は別で鎬を削っているライバル組織同士なのに、同じ訓練施設でいいのか?という事だ。
もう色々遅いって事なのか、それとも裏で密約でもあるのか……疑問しかない。
ただその辺の事を聞いてしまうと、ますます深みにハマってしまうような気がするんだよな……
まぁ心境としては、学校では穏やかに過ごせそうだけど、その後は地獄が待っていそうだと、戦々恐々といったところだ。
授業は問題なく過ぎていく。
基本的に主要授業は2年生までにほとんどが詰め込まれている。
これはステータスチェックが関係していて、学生以外のjobが出た者は、希望によって3年生以降はテスト以外の出席は自由となっている。
もちろんテストも学生とjob持ちでは違う。学生はいつもと同じように授業を主体としたものだが、job持ちはそれまでに学んだ事の復習を主としたテストだ。
あと、2年生の2学期以降はダンジョン探索によるやむを得ない休みというものが認められている。これは潜っていて予定通りに帰還出来ないことが多々あったりするからだ。
国がどれだけシーカーに力を入れているかよくわかる話である。まぁあれだけ忍者組織やらなんやらが色々なところに入り込んでいるんだから、そうなるのも当たり前かと納得しちゃうところだけどさ。
これ、まだ俺たちにとってはまだ先の話だけど、あと半年しかない未来でもあるんだよね。
学校に通って勉強をしたいと思うやつなんてマレだとは思う、俺も以前はそのシステムに希望を見ていた。
だが現実となると……夏休みに起きたような修行漬けの毎日が待っているかと思うと……
だから文科省の皆様!?それとも教育委員会?
ともかく高校は3年間必ず出席にしてくれませんか!?
今からでも遅くないっ!
法律の改正を!!
さて、一日の内の貴重な穏やかタイムが終わってしまったようだ。
何だ?クラスメイトがザワついているみたいだけど……
まぁ俺たちには関係ない、早く荷物を纏めて急がなければ恐ろしい事になりそうだ。
「横川くーん、先輩が来てるよ〜」
先輩!?
ま、まさか如月先輩か!?
もしそうなら、明日が無事に訪れないような事態になるとしても、訓練施設に行かないという選択をする覚悟がある!
慌てて廊下に出てみると、そこに居たのは秋田さんだった。
そういえばこの人も先輩だった……
ってなんで秋田さんが?
「お呼びです?」
周りがざわめく中、恐る恐る声を掛けると秋田さんは小さく頷いた。
「師匠が逃げないように必ず連れてこいって」
「師匠?」
「うん、組長」
「俺だけですか?」
俺の気持ちなんて手に取るようにわかっているのね……
でも本気で逃げる気なんてなかったのに、後が怖いし!
どうせ同じ場所に行くのだから、親友2人も一緒のはずだよね?
是非一緒であって欲しい。
ドナドナ気分は、1人は寂しい。
「逃げなくとも、ダラダラゆっくり来そうだって言ってた」
おうっ、また顔に出ていたらしい。
「それと彼らはシーカーじゃないから、そこまで早く走れないし、伊賀だよね?」
アマたちをチラッと見て、伊賀の部分だけ小さな声で聞いてきた。
まぁ体力もスピードも確かに違う。2人に合わせて行けば、俺的にはゆっくり行けると思っていたのも、バレていたと……
「みたいですね」
「だから、すぐ行く」
「了解しました、ちょっと待っていて下さい」
アマとキムの所に戻って説明すると、可哀想なものを見る目をしていた。
「ねーねー横川くんって秋田さんとどんな関係なの〜?」
「もしかして如月先輩から変えたの?」
すごく興味津々といった表情をして、またキムに取り付いていた2人が話しかけてきた。
如月先輩への熱い気持ちを語りたいが、背中に受ける秋田さんからの視線が早くしろと言っているので、そんな余裕はない。
「ごめん、ちょっと急ぐんでその話はまた今度!……あとアマとキムよ時間ないと思うぞ?」
また今度って言っても、興味を俺にそれまで持っていてくれるか疑問だけどさ……
アマとキムよ、お前ら自分は無関係って顔しているけれど、「すぐ来い」と言われているのは一緒だからな?ドナドナか自主的かだけの違いだからな。
「お待たせしました」
「じゃあ急いで行くから」
荷物を持って廊下に出ると、どことなく焦った表情になっている秋田さんがいた。
そして踵を返して走り出した。
えっ?
まだ学校内ですよ?
『廊下は走らないようにしましょう』って標語が貼ってある前を全力疾走って、学年の先輩としていいんですか?
「コロサレル……ヤバイヤバイヤバイ……手を斬らないで下さい、持ってかないで下さい……」
早いけど、まぁ余裕で並走可能なようなので、この機会に如月先輩について色々話しちゃおう、聞き出しちゃおうって思って見てみたら……
秋田さんの目には涙が溜まり、ブツブツと悲鳴のような言葉を吐き続けていた。
そうですか、貴女も同士なのですね。
内容からすると、かなり酷い目にあっているのですね。
ってか、斬るはわかるけど、持って行くって何ですか?超怖いんですけど!?
何が待っているんですか!?
教えて下さいっ!
着いた先に待っていたのは、満面の笑みのクソ忍者とハゲヤクザ、鬼畜治療師が、玉乗りして遊んでた。
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