第27話ーー忍者はどこもえげつない
「さてどこのコメダ行くか」
「近くは却下だな、クラスメイト来そうだし」
「ダンジョン近くは避けたいな」
発祥の地名古屋というだけあって、コメダはそこら中にある。場所によっては、コンビニと同じくらいの数が街にあったりもするのだ。だからこそ選ぶという選択肢が出てくるのだが……これが難しい。
俺たち3人の孤児院と学校を線で結ぶとしたら、だいたい均等な距離の四角形となる。学校を北の基点とすると、東がアマの院、西がキムの院、南が俺の院だ。
学校から北に1kmほど進んだところに、名古屋北ダンジョンがあり、そこに先日散々お世話?……お世話になった訓練施設や探索者協会がある。
「ヨコんとこが学校から1番遠いし、クラスメイトもシーカーもいないだろうな」
「「んじゃ、そこで」」
だいたい40分の距離をゆっくり歩くとした。
今日は時間に追われていないからね、平和な空気を満喫しなければならない。
明日からはきっと……何とか院に辿り着く事だけを考えて、必死に歩く事になるだろうから。
いっその事、今日のうちに逃げるという選択肢もあると言えばあるけれど、多分それで得た自由はとても短いものとなるだろう。
この携帯端末にはGPSが仕込まれているのだ。まぁこれは俺だけじゃなくて、16歳以上の日本国民全員だけどね。探索者協会に、知っているだけでも教官や高木さんが存在しているし、きっと他にも山ほど居そうなので、すぐ居場所は探し当てられる事間違いない。じゃあ、携帯端末を外して逃げればいいって話になるけれど、そうなると身分証明書も失うし、お金も入ってるからね……
つまり国民は国に管理されているという事になる。この事に関しては、時折国会前で「プライバシーがぁー!」とか「国による横暴だー!」とかデモをやっているのをニュースで取り上げられたりしている。
まぁでもこれって日本だけの話ではないんだよね、一部を除いてほとんどの国が同じような状態らしい……
一部っていうのは、いわゆる発展途上国と呼ばれる国々だ。携帯端末をシーカー全員に与えるとなると莫大な費用が生じるからね。そこに付け込んで、大国が費用を貸し付け、払えない事を理由にダンジョンを担保として借りあげたりしている事が、最近よく問題になっている。現代における植民地政策だってね。
……まぁこれもニュースの受け売りなんだけど。
ここまで管理されるようになったのにはもちろん理由がある。
ダンジョンからは資源が産み出されている。そしてそれは階層が深くなれば深くなるほど量も質も高くなる。
現在の世界最高到達階層は、アメリカアリゾナ州南フェニックスダンジョンで、191階層だ。約11年前に到達したのだが、そこで問題が起きた。
当時順調に階層更新を続けていたTOPパーティー全員が、何者かに街中で殺されたり拉致されたりしたのだ。
これはアメリカの独走状態を阻止すべく、他の大国が仕組んだとか、金に目が眩んだマフィアが行ったとか様々な説があるが、未だに解決はされていない。
ただ確かにそれは有効だったらしく、11年経った今でも、191階層から更新出来ていないのが現状だ。
そんな事があったから、安全のためにという名の元にGPSやらなんやらが公然と仕込まれている。
ちなみに、居場所は特定しておきたいけれど、特定されては困る人……例えば如月先輩の勇者job持ちの人の場合はどうするか?これについては、勇者ではなく征夷大将軍という架空の名前で協会へと登録されているらしい。
「なぁこんなとこにパン屋あったか?」
「夏休み前まではなかったはず、俺も今朝知った。街はいつの間にか変わってくな」
「時が経つのはあっという間だ」
「こうやって時代は変わっていくんだな」
「ジジイかよ」
「「お前が言うな」」
「まぁお互いさまって事で」
でも本当に色々いつの間にか建っていたり、潰れてたりするんだよな〜
「絶品クロワッサンらしいし、詫びはそれでいいぞ」
「しかも焼きたてらしい」
「奢らないぞ?コメダだけで満足しろよ」
「ほう、つまりばら撒かれたいと」
「ちょうど孤児院の近くに行く訳だし、直接見せて欲しいと言いたいんだな」
こ、こいつら……
どこまで集る気だよ!
このままだと破産してしまうっ!
早くコメダに行って、目の前でメールを消させなければ。
「クロワッサンもいいが、アンパンもいいな」
「塩パンツナサンドが気になる」
「わ、わかった。だが奢るのは隣のコロッケ屋で勘弁してくれ」
「お前好きだよな、ここのコロッケ」
「ここは肉屋であって、コロッケ屋ではない」
「ほら、揚げたてだぞ」
色々うるさい奴らだ。
俺のイメージはコロッケ屋何だから良いじゃねえか!コロッケしか買ったことないし。
しかも30円というお財布に優しい値段だというのに、めちゃくちゃ美味しいんだから!
それに何だかんだ言っても、自分たちも大好きなくせに……
「やっぱり美味いな。人に奢って貰ったと思うと更に美味い」
「うむ」
「人を脅迫して得た金で食う飯を美味いと感じ始めたら終わりだぞ?」
「奢らせて下さいという言葉は忘れていないから大丈夫だら」
「是非にと言うから、しょうがなく頂いている」
あぁーもう!
ああ言えばこう言う。
全く口で勝てる気がしない。
それから何だかんだ話しながらダラダラと、目的のコメダへと向かう。
話題は当然、お互い監禁状況にあった時の事だ。
「切腹が怖いとはいえ、あんま無理すんなよ」
「ちょうど遺書を読んだ後にお前からメールが着たんだけど、マジで心配した」
気持ちは純粋に嬉しい。
あぁ、友達っていいなとは思った。
だけど、遺書の事はもう言わないで欲しい……
恥ずかしさが込み上げて来るから!
わざと言ってるのかも知れないけど……
もう本当に勘弁してください。
1番話が盛り上がったのは、一全流の房中術班がタレント事務所とか経営しているから、見た事のある売れっ子女優や俳優、タレントがいたって話だった。
アマとキムもそれぞれ新たなjob持ちの歓迎会のようなものが開かれたらしいのだが、来ていたのはほとんどが有名人芸人たちだったらしい。日本最大のお笑い事務所を経営しているのが、伊賀流という事だ。
もちろん日本最大の忍者組織なので、お笑い大企業だけじゃなくて、東京にもいくつかのタレント事務所など色々手を広げているらしい。
「まぁ芸人だけじゃなくて、なんて言ったっけ?えっと……日本各地の名前にちなんだグループ名のアイドルとかも来てた」
「基本的に女性はみんな若いのばっかりだっな」
んっ?
今のキムの言い方に違和感が……
まるで若いのなど興味がないような……
「なぁキム、お前リノンさんっていう人知ってる?口元にホクロがある色っぽい人。歳の頃は……三十代半ばくらい?」
「リノンさんって、あのリノンさんか?歳は45のはずだけど、若く見えるよな。あの艶っぽさがあるよな〜えっ?あの人もいたの?やっぱり色気凄い?なぁ、もしかしてお前話したりした?」
「お、おう」
「あの人の出演作品はほとんど見たけど、やっぱり今でも色褪せないというか、もう冒頭からヤバい。あの色気はヤバい。何がヤバいかって、もう全てがヤバい。中でも最近の作品が1番ヤバい」
おおうっ!
めちゃくちゃ喋るし、詳しすぎるじゃないか。
ここまでこいつが前のめりになって喋るなんて、久しぶりな気がする。
そしてヤバいヤバい言い過ぎて、どこかの芸人みたいになってるし……
まぁ確かにあの色気はパンパなかったけどさ。
それと指先とか、吐息とか……思い出すだけで、背中に電流が走るような気がする。
「えっと、リノンさんの出演作って?」
「おまっ知らないのか?アダルト業界を一世風靡した女優の作品を!」
やっぱりか……
まぁそんな気はしていたけれども。
「もしかしてだけど、あの年代が好きだったり?」
「リノンさんは別格だけどなっ」
「熟女好きか……」
「なんか納得した」
「あっ……い、いや若い子もいい」
あそこまで熱く語っておいて、今更若い子もとか言われても、もう遅い。
だいたい「若い子も」って熟女好きは否定していないし。
あれ?
こいつもしかして、クラスの女子とあまり話さないのって、コミュ障だけじゃなくて興味を持てないから話さないだけじゃ……
どうやらアマも同じ考えに行き着いたようだ、ちょっと引いた顔をして見ている。
何だか腹がたってくるな……
何もしなくてもモテるくせに……そのくせに熟女好きとか。
俺なんて……
うん、考えるのは止めよう。
悲しくなってきた。
「うちの方来ない?リノンさんいるよ?」
「うーん、行きたいけど、多分無理だ。色々世話になっちゃったし……アマは?」
「俺も同じ……なんかこれからも人に聞かれたら薬草家を名乗れと言われてさ、鑑定阻害のスキルスクロール使わされたんだけど、聞いたらその値段が裏の世界で億を越すらしいんだよね」
「同じく鉱夫を名乗り続けろって言われて、スクロール使わされた」
「お前らもか、俺も同じくレベル8のを使わされた、10億を越す事もあるらしい」
「俺はレベル6」
「同じく6」
マジかよ……
俺たちは完全に囲いこまれたという事がわかった。
やり方がえげつないですよ、忍者組織の皆さん!!
絶望を共有したところで、目的地へと着いた。
そこからはヤケ食いだよね……
お会計は5000円を少し越したくらいだった。
もちろん、メールは目の前で消去して貰ったけどさ。
痛い出費だよ……
それもこれも、全てクソ忍者たちが悪い!!
あっ、俺のことをイケメンと仰る素敵な人とは、院長先生(推定60歳)(推定58歳)だった……
どうせそんなオチだと思ってたよ!
チクショー!!
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