第26話ーー透明化スキルを手に入れたらしい
学校は始業式と伝達事項のホームルームで終わった。
素敵だ……昼からは久しぶりの自由時間だなんて!
「おい、カエル野郎」
んっ?
「アマなんか言った?」
「いや、とっととシロノワール&クリームソーダ行くぞ」
「太るぞ?」
「俺は太りたいんだよ」
うわっ、女子の皆さん聞いていましたか?
こいつ太りたいとか、ダイエットに励む皆さんを敵に回す発言しましたよ〜!!
ほら、ガッカリして文句言っちゃって下さい!
「いいな〜天野くんに私のお肉分けて上げたいよ〜」
「私も〜何で太らないの〜ズルい」
えっ?
ちょっと!!
反応がおかしくない??
以前に君たちが『飲むだけでカロリーカット』とかそんな名前の薬飲んでるから、「ダイエット?」って聞いただけで、「はっ?何?ケンカ売ってるの?」とか「ふざけんな、マジで」って言ってたよね?
俺はハッキリ覚えているんだけどな……記憶違い……もしくは別人だったのかな?
めちゃくちゃ冷たい目で見られたんだけどな。
理不尽だ……
やり切れなくて、現実逃避していたらキムが肩を叩いてきたよ。
わかってくれるか、この気持ちを……
「木村くんなんか身体引き締まった感じする〜」
「ほんと、前にも増してイケメンって感じ」
ですよね。
うん、わかってた、わかってたさ。
「おいっ!てめーだよ、横川!このカエル野郎が」
2人は女の子に話しかけられているというのに、俺は男で、しかも若狭かよ……
ってか、何でカエル?
カエル……カエル、あぁハゲヤクザがダンジョン内でカエルみたいに飛び跳ねているとか言ってたな。
あの人に聞いたのか?
いや、俺のjobやスキルは未だ極秘事項らしいから、話すわけないか。
「えっと、なんでカエル?」
「なに?もしかしてお前、俺がお前のjob知らないとでも思ってんの?」
「うん、知っている方が少ないしね」
「軽業師だろ?なに?カッコ悪くて隠してたのか?ああっ?」
えぇ……
なぜにドヤ顔なのかな。
そしてもし俺が軽業師でも、お前の草履取りは変わんないし、儀で俺が完走し、お前が棄権したのも変わらない事実なんだけど。
「どうせ戦わずにぴょんぴょん逃げまくるヘタレなんだろっ?それで鬼にはどうせ不正で勝ったんだろうが」
うん、半分正解だ。
確かにぴょんぴょん逃げまくっていたしね。
ただ不正はしたくとも出来ないだろう。
裸になって、穴という穴を見られたんだから……
うぉっ、触ってくる手つきとか思い出したら寒気してきた。
せっかくリノンさんのメロンや指先の動きで、記憶をアップデートしていたのに!
「図星かよ、顔青くしやがって」
いやいやいや、お前も同じ体験しているだろうに……
もしかしてこいつは両刀遣いなのか?
取り巻きは夜の生活も一緒だとか?
うわっ、これ以上近寄らないでくれ……そういった性癖は、人それぞれだと思うから否定はしないけれども、俺はノーマルなんだ、女の子が大好きなんだ、勘弁して欲しい。
それにしても、軽業師ってjob名を誰に聞いたんだろうか。
宴会場でやらかした時には、そんな事は一切言ってなかったから、それ以降に知ったんだろうけど……
言ったのは、依頼でダンジョンに一緒に潜ったリア充クソ野郎の伊東たちか、勉強のために行った栄ダンジョンで絡んできた名も知らぬ3人だけのはずだ。
まぁ、誰かと知り合いだったとかそんなオチだろうけど、こいつ謹慎ちゃんとしてないじゃん。
伊東たちは逆恨みしていそうだし、名も知らぬ3人はバカにして吹聴していそうだからね。
「お前ら、その2人も鉱夫と薬草家の底辺職業だぞ。将来性皆無の底辺だ」
あー
アマとキムにキャッキャと、俺が聞いた事のない声で話しかけている女の子にまでちょっかいかけだしたよ。
「はっ?それがなに?」
「ってゆうか、自分だって草履取りじゃん」
その通りっ!
よく言ってくれた。
「あぁっ?俺はそいつら3人と違って、末は天下取りのjobなんだよ」
なんだろう、この違和感。
もしかして宴会場での出来事の記憶を無くしているのかな?
それとも都合のいい所だけ覚えている、超ポジティブな感じ?
「そういうのは、天下取ってから言ったら?」
「それに2人だったら、私たちが養ってもいいし」
若狭は3人と言ったのに、2人に変わっている不思議。
あれー?
ここにもう1人居るの、見えてないのかなー?
もしかして、知らない間に透明化スキルとか手に入れちゃったのかな、俺は……
泣いていいかな?……泣きたい。
「お前ら、なに調子のってんの?」
「え〜なに〜?めんどくさいな〜」
「ごめ〜ん、パパママに言いつけたりしないでね〜」
おおっ、頼もしいっ!
これで俺がいる事も認識してくれると最高だ。
「おい、カエル野郎っ、てめぇも調子のってんなよ」
ひよった、こいつ女の子たちに勝てないと踏んでひよりやがった。
そして女の子たちは、もう自分には関係ないとばかりにこちらに見向きもしないと……
逆にちょっと面白くなってきたけど、さすがにもう面倒くさいな。
その気になられたら困るから嫌だけど、周りに聞こえないように少し近付くか。
「若様に言っておくよ、特別なお猿さんは謹慎の意味を理解出来ませんって。今度こそ切腹かなー?」
「っ!切腹ってなんだよ」
マジで記憶なくしてるのかよ……
まぁあれはあまりにもショッキングな出来事だったしね。
「お前が儀を2階層で棄権した事実は変わらないんだよ」
「それはてめぇがズルしたんだろうがっ」
「だったら、そう言って若様に言えよ」
「……てめぇ覚えとけよ。他のみんなも納得してないからな」
やっと帰って行ってくれたよ……
なんか先生に言いつけてやるーって言っているみたいでカッコ悪くて嫌だけど、どうやら若様ってワードは効果的らしい。
お猿さん事件は覚えてないけど、やはり怖いんだろうな〜。
まぁ普段からヤバイクソ忍者だし、発言とか近衛班の人たちとかヤバかったもんね……あの動きは俺のNINJAよりも、それっぽかったし。
それにしても、他のみんなもか……
あれだけ何度も叱咤されてもか〜
そんなにもクソ忍者の直弟子がいいのかね?
なんか勝手に幻想抱いている気がする。現実はドSで、訓練にあたっては「なるべく殺さないようにな」とかハゲヤクザに言っちゃうくらいなのに。なるべくって何だよって話ですよ、なるべくも何も殺しちゃダメでしょ!
あぁーヤダヤダ。
まだ昼だけど、明日が来て欲しくない。
そういえば、明日からの修行はまた訓練施設でやるのかな?明日までにメールで連絡するとか言ってたけど。
教官の顔も久しく見ていないけど、教官に戻るのかな?そう願いたい、もうあのクソ忍者と組長コンビやトリオはヤダ。
生き地獄とは正にあの訓練だと思う、本当に。
どうせの生き地獄なら……リノンさんカムバーック!!
「ヨコ、坊っちゃまとは話し終わった?」
「んっ……あぁ、捨て台詞を吐いて消えていった」
「んじゃあ、行こうぜ」
「キムは……相変わらずのモテモテですな」
「そうそう、俺はキムに近寄るためのきっかけだった……」
「そっか……」
良かった、アマもこちらの仲間だった。
その当事者たるキムは……一方的に話しかけられて困っているようだ。
「助けてやれよ」
「あの状況に入っていく勇気がない」
「大丈夫だ、ヨコなら行ける」
「……俺はきっと2人には見えていない」
「……」
何故黙るんだよっ。
そこは嘘でも、「そんな事ないだろ」とか言うべきところだろうが!
「ごめんね、ちょっとこれから3人で大切な用事があるから」
「そうそう」
「え〜それって私たちも一緒じゃダメ〜?」
「みんなの方が楽しいよ〜」
この子たちってこんなに積極的だったっけ?
1年生1年間と1学期を終えるまでは、キムの方をチラチラ見ている事はよくあったけど、こんなに自分たちから話しかけてくる事なんてなかったはずだ。
もしかして……
よくその手の雑誌には『高校2年生の夏が、1番大人への階段を駆け昇る事が多い』とか書いてあるのを読んだ気がするし……
そういう事?
そう考えてみれば、どことなく色っぽくなった気もするな……
「ねぇ横川くんもいいよねっ?」
「5人の方が楽しいに決まってるって」
この言葉……俺が透明化する前だったら良かったんだけどね。
信じて5人で出掛けても、きっと俺はひとりぼっち……だけど、ここは親友たちの為に!
「3人で用があるから、なっ!?」
決してこいつらだけを先にはいかせないっ!
そんなの許せない!
「うん、そういう事だからごめんね」
「そうそう」
そしてキムよ……お前さっきから「そうそう」しか言ってなくないか?
そんなんじゃ、いつまで経っても彼女なんて出来……あぁ、こいつは別だ。何も言わなくても、全部やってくれる彼女とかすぐに出来そうだ。
「じゃあ、今度行こうね」
「ねっ!よに……5人で、ねっ」
おうっ……
また透明化しはじめていたようだ。
3人並んでいて、俺だけ消えるとか、お前らの目はどうなってるんだよ。
「行くか」
「おう、腹減った」
「そだね……」
「何凹んでんの?まぁ俺もお前と同じ気持ちだけど」
同じ気持ちだと?
お前は見えていたじゃねえか!?
勝手に透明化される気持ちにもなってみろよ!
「うちの孤児院の職員の人はヨコの事カッコイイって言ってたぞ」
「うちもだ」
「マジで?なんて言う名前?歳は?」
「がっつき具合が怖い」
「必死すぎ」
「いいから、はよ、名前っ!」
「まぁコメダで舌を潤してからだ」
「ヒレカツが俺を待っている」
何で焦らすんだよっ!
そんな貴重な人の事を今まで黙っているとか、なんて親友がいのない奴らだ。
これはもしかしたら、俺の春が近いかも知れない。
んっ?如月先輩は?
それはそれ、これはこれだ。
高校2年生、チャンスは逃してられないんだよ!
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