第2章 2学期
第25話ーー木の枝って斬鉄剣なんですか?
「久しぶり〜」
「マジで本当に久しぶりだな」
「元気……そうでもないな」
二学期が始まった。
そして久しぶりの、約2週間ちょっとぶりで親友たちとの再会だ。
なぜならつい昨日まで温泉宿に宿泊……いや、監禁されて、クソ忍者たちにシゴかれていたからだ。
鬼教官?あの嘘つき野郎は、協会の仕事があるからと言って、あれから1日くらいで帰って行ったよ。
帰って行った時は喜んだ、これで楽になるとね。でもそれは長く続かなかった、満面の笑みのハゲヤクザが現れた時は呪ったよ。
そしてもう1人、武術班の近松さんも来た……これが最悪だった。
治癒&支援が上手って事はだ、これまで怪我で倒れる事によって回復薬などのポーションを使用するという名の、僅かな休憩が無くなり、すぐさま魔法で治されるという訳だ。
更に支援魔法の中には、敵を弱体化させる者もあるらしく、今のレベルの毒耐性では効かないレベルの毒を浴びせられたり、麻痺させられたり、身体を重くされたりと……その上でクソ忍者やハゲヤクザとの手合わせを行うとか、正気の沙汰じゃない訓練を延々と、朝から深夜まで行われていた。
おかげで毒耐性がレベルMAXまで上がったよ、麻痺耐性もレベル8まで!
全く嬉しさなんて感じないけども!!
知ってた?
よく漫画やアニメで、達人が木の枝で物体を斬ったりするのってあるよね?
アレ、マジなんだぜ……
3人が当たり前のように、色んな物をスパスパ斬ってたよ。鉄とかも当たり前にね。
知ってた?
よく漫画やアニメで、達人が高速で動き回って分身しているように見えるとかあるよね?
アレ、マジなんだぜ……
3人が当たり前のように、何十人にも別れて見えたよ。
それでいて、それらは全てスキルなどではなく、技を磨けば出来るとか、身体能力を高めたら出来るとか言いやがる。
ここで初めて知ったのは、ステータスのAAAが最高じゃないって事だ。
どうやらAAAまでしか表示は出ないが、見えないけど鍛えたら鍛えただけ上がるらしい。
つまり3人ともが、敏捷3A以上って事だ。
さすが忍者組織のTOPだって、よくわかった。
そしてクソ忍者の2B級というのも嘘でした。
それはあくまでも公表した時のものであって、端末ステータスを更新していないだけで、
3A探索者らしい。
なぜ端末情報を変更しないかというと、2Bという数値に惑わされて侮ってくれる者がいるからという事だ。
くれるという言葉に、若干の覚えがある俺はビクリとしたよ、ニヤついてたし。
結局のところ、ステータスの表記だけが全てではないって事だ。
AAA以上が表記されない事も、スキルなしで分身したり、鉄を斬ったりする事とかね。
俺はそんな毎日を送っていたんだけれど、アマとキムに二学期まで会えない事をメールしたら、「俺も監禁されている、帰れない、二学期までに帰れるかもわからない」という悲惨なものがそれぞれから送られてきた。
しかも2人とも別々な所で監禁&修行だったらしい。
同情し……なかった、ちょっと嬉しかった。
いやさ、自分だけ地獄を味わっているとかより、遠くでも友だちが同じような目にあっているとかさ、なんか安心するじゃん?
まぁ、メールでは「大変だな、頑張れ!俺も頑張るから」とか送りはしたけどね。
聞くところによると、アマが連れていかれたのは最初携帯電波どころか電気もガスも水道も通っていない、とてつもなく山奥の小屋だったらしい。
そこで同年代50人ほどの男女との共同生活が待っていた。
男女と言っても、生活は完全に分けられ、一緒になるのは外でのみで、想像するような青春はほんの少しさえもなかったようだ。
そこで1週間ほど、朝から晩までクワやカマを持っての畑作業、薬草園や田んぼ、野菜畑を耕し続ける日々。
田んぼへは沢から水が引いてあるが、他はないために桶を持って沢から汲んできては畑などに撒いたり、五右衛門風呂に使用したり。飲水はまた別の場所の湧き水を組んでくるという、昔の生活を強いられたようだ。
その後は現代的な生活へと変わったが、今度は朝から晩まで指定されたポーションを作ったり、作った即効性の毒薬や痺れ薬を持ってダンジョン探索を他の探索者と共に繰り返していたらしい。
キムも同じような感じだ。
やはり何も無い山奥へと連れていかれての修行だったようだ。
こちらは女性などほとんどおらず、ムッキムキの男に囲まれていたらしい。
そしてこちらも昔ながらの製法で、炉の前でずっと鎚を振り続けて刀を打っていたとの事だ。更には作業に入る前に滝で水行をして、身の清めまでもあったらしい。しかも明確な食事時間もなく、塩むすびと水だけが用意されているのを交代で口にしながら延々とだ。
5日ほど経った頃にようやく奉納用刀が出来上がり、それ以降は街に移動し、スキルを利用した刀を打ったり、鉱物の見極めのためと、己で打った刀の出来を知るためと刀を持って探索へと繰り出していたようだ。
その際、時折アマと組む事もあったらしいけれど、会話する余裕などなく男たちに囲まれて戦いに明け暮れてらいたらしい。
あれ?
もしかして俺が1番いい食事や、監禁環境だった?
その代わり訓練は死を幾度となく覚悟する事となったけどね。
どちらがマシなのか……
そう、どちらが良いかではなく、マシなのかを考えてしまう辺りが悲しい現実だ。
2人も同じような事を考えているんだろう、微妙な表情しているし。
でもまぁ、良かった。
2人が青春していなくて、彼女が出来たとか、大人の階段を登っちゃったとかじゃなくて、うん。
もし先を越されていたら、きっと悔しくて血の涙を流したと思うもん。
そこのところが本当によかった、それでこそ親友だ。
「なぁ若狭の坊っちゃまがめちゃくちゃお前の事をニヤついて見ているけど」
えっ?
あいつ登校しているの?
確かクソ忍者から聞いたところだと、当面自宅での謹慎を言い渡したって話だったんだが、義務教育って事で学校は別なのかな?
元の取り巻きは……
あぁ、女たちは少し遠巻きに見ていて、男たちは前とあまり変わらないかな。
こうやって客観的に他人を見ると、女は現実的というか、将来性とかを見ているだろうか、ちょっと怖い。
まぁ、ステータスチェックでのjobが表示されるということで、将来性の一端が見えてしまうわけだから、しょうがないと言えばしょうがないのかも知れないけれどさ。
うーん、わからんな。
とりあえずお猿さん騒動のことは2人には教えておこう。
「なぁあいつはヨコに、猿と呼ばれて泣いて失禁した挙句に、その儀とやらではいい所なしの2階層での失格になったって知られている事をわかっているんだよな?」
「不可解だな、逆恨みして睨んでくるならわかるけど」
そうなんだよね、キムの言う通りそこが理解出来ない。
まぁ逆恨みで睨んでこられてても、それはそれで困るけどさ。
意味不明で怖すぎるから、一応教官にはメールで問い合わせしておこう。
「それにしても、お前が俺たちの事をそんなに思っていてくれたとは感動したよ」
「名前だけ替えた、コピペメールだったのは頂けないがな」
「ちょっ!あれは死を前にしての、つい思ってもいない事を書いちゃっただけだ!それと感動とか言いながら、見せ合うんじゃないよ!」
「何だっけ?えっと……」
「木村くんに会えて、僕はこれまで楽しい時間を過ごしてくる事が出来ました。死を前にして思い浮かぶのは、3人で「止めろっ!止めてくれっ!」いっ……」
これ以上は止めてくれ!
恥ずかしい、恥ずかしすぎる!!
「僕って……ぶふっ」
「久しぶりに木村くんとか言われたな」
言うなっ!
言葉にするんじゃないっ!
あの時はどうかしてたんだ……
そして、キムよ。
なぜ暗記しているんだよ、低い知能をそんな事に使うんじゃないよ!
「もしかして若狭にも同じの送った?」
「いや、メアドとか知らないし」
「途中が抜けていた、木村くんと初めて会ったのは「止めろっ!」ぼ……」
本当に若狭のあの態度がわからん。
俺だったら、あんな醜態を仲が悪いとはいえ同じクラスの人間に見られたら、うん、切腹しているね。
少なくとも、学校に登校は出来ない。
ってキムは何で続けてるんだよっ!
その話はもう終わりにしてくれよっ……
スマホを取り出すんじゃない!
なぜ俺はあの時メールなんて、取消が効かないツールなんて使ってしまったのか……
このままだと確実に当分ネタにされる事間違いない。
「なぁ、今日は俺、修行ないんだけどさ、お前らは?」
「俺も明日からだ……」
「同じく……今日が久しぶりの休みだ」
「よし、帰りにコメダでどうだろうか?」
「ほぉ、一応聞くがなんの事だ?」
「Cの知能じゃわからんから、ハッキリ教えて欲しい」
はっ?
木村くん、君は今なんて言った?
Cとはどういう事だ……お前は元々俺と同じ3Fだったはずだ、それ以降は見る事を禁じられていた事もあってわからないけれど。
俺はあの栄ダンジョンでの地獄を過ごした事や、今回の渥美ダンジョンで戦闘しながら、算数問題を延々と後ろから問われ続けるという、苦難を乗り越えて、やっと3Dになったと喜んでいたのに……
まさかの1つ上だと?
「俺も苦労していたという事だ、鉱石の見分けとか見分けとか見分けとか……」
あっ、なんかキムの地雷を踏んだようだ。
目が虚ろになって、同じ言葉を壊れたロボットのように繰り返している。
「見分け……草なんてどれも同じに見えるんだよっ!」
おうっと、アマもか……
大変な目にあっていたんだな。
「と、とりあえずメールを消す対価として、コメダで手を打ってくれ」
「シロノワールとクリームソーダで」
「ヒレカツとブレンドコーヒーで」
女子かよっ!
シロノワールとクリームソーダって甘い物ばっかりって身体に悪いだろうが、ヒョロメガネのくせに。
ってキムも容赦なさすぎだろ……
ヒレカツなんて1番高いメニューの上に、砂糖たっぷりとミルクないと飲めないくせに、カッコつけてブレンドコーヒーとか言いやがって。
「なんだ?不満ならコピーして、張り出してもいいんだぞ?」
「孤児院にも届けよう」
「申し訳ございません、それを奢らせて下さいませ」
「よかろう」
「よきにはからえ」
負けた……
時間逆行とか、そんなスキルありませんか!?
タイムマシーンなんて、素敵なマジックアイテムの開発はまだですか!?
誰かっ!
誰かお願いしますっ!
研究班の纐纈組長のところに、今度訪ねてみようかな……
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