第24話ーービールの泡

 死にたいとは思ったけれど、やっぱり生きてて良かったよ!

 さすがは渥美半島、現在大きくて弾力のあるメロン2つに腕を挟まれております!

 この感触……最高ですっ!



 宴席だと言われて赴いたのは、前回同様の宴会場。

 今回は教官と一緒に行ったよ、クソ忍者が叱ったとはいえ、また嫌がらせが起きるとも限らないからね。

 教官曰く、長い歴史を持つ団体であるから、プライドだけが高くなりすぎていて、余所者を嫌う風潮が強い人が多いそうだ。

 俺としては、そこまでして入りたいわけじゃないんだけど……ってか、勘弁して欲しいくらいだ。


 大広間には前回の倍ほどのお膳が所狭しと並べられていた。

 どうやら今日の宴会が本番だという事だ。各地から一派の者が駆けつけているらしく、居ないのはどうしても仕事を外せない人だけ。クソ忍者の生みの親である御館様もそれに含まれている……どんな顔しているか見てみたかったけれど、これ以上のカオスが生み出されるのも怖いといったところだね。


 今回も教官の横かと思ったら、違うらしい。

 儀の参加者は、舞台前に1列に並べられた席だそうだ。

 でも俺の席はそこでもなくて、何故か舞台上のクソ忍者の横、組長たちに挟まれる感じだ。

 どうやらここは毎年1等となった者の、名誉ある席らしい……全く嬉しくなんてないけれど!!


 そして舞台上に席があるという事で、先に座れるわけもなく、全員が宴会場に着席し、クソ忍者と組長が入場してから、マイクで「今年度の儀、1等横川一太」というアナウンスの後に会場の一番端から大勢の真ん中を歩いて突っ切った後に舞台へと上がり、ようやく席へととの着席となった。


 めちゃくちゃ注目されるし、ところどころから舌打ちや「クソッ」とか「今に見てろ」「調子に乗るなよ」なんて小声が聞こえてくるとか……どんな罰ゲームだよ!!


 その後、各組長とクソ忍者からの挨拶が行われた後に、宴会開始となった。


 今回はちゃんと食事の味はする。

 草履取り若狭のような事件もなかったからね、とても食事開始までの流はスムーズだったし。

 周りの環境以外はとてもいい感じだ。


 ……なんて思ってた頃もありました。

 食事が始まってしばらくしてから、組長たちが一人一人話しかけにくるんだよ!

 そっとしておいて欲しいのに!!


「武術班組長の近松よ、よろしくね」


 武術班はハゲヤクザと一緒だけど、こちらは治癒や支援を主とした班らしい。

 長い黒髪を後ろに1つに纏めた、スリムな中年女性だ。口調こそは柔らかいけれど、どこか冷たさを感じさせるのが、やはりこの団体の組長だと納得させられる感じだ。

 如月先輩と一緒にパーティーを組んでいる秋田さんは、この班の所属との事だ。


纐纈こうけつ、研究班組長だ。今度研究所に遊びに来て欲しい、是非に」


 研究班というだけあって、白衣は着ていないけどボサボサ頭でメガネをかけ、どことなくマッドサイエンティスト的な雰囲気を持っている老人だ。

 ここではアイテムや武器防具などあらゆる研究をしているらしいのだが、どうやらスキルやjobも対象らしく、newjobである俺には興味があるらしい……

 いや、そんな場所に遊びに行けるわけないでしょ!どう考えても人体実験……モルモットとして扱われる事間違いなしだよっ!

 きっと、『jobの出なかった者は人体実験材料にされる』という噂はここが出元に違いないと思う。


 その後も代わる代わる挨拶をされた。

 製作班が2つ、ここは武器防具やポーション各種、魔法袋などのマジックアイテムまで色々製作している。

 ここの方たちにはもっと頑張っていて欲しかった……そしたらアマとキムも一緒にいれたのに。

 って、逆にお願いされたよ、2人を引っ張って来いってさ。

 でもそれは無理だろう……だってきっと今頃彼らは俺と違って楽しい合宿に違いないしねっ!


 他に資材・情報・総務だ。

 この3つは、Theサラリーマンって感じがした。きっちりとスーツを着こなして、どことなくまともそうな……まぁ違うんだろうけどさ。

 資材は物集めを主とした仕事。組長は鬼頭さん。

 情報はそのまんまだけど、探索者協会の人員もここに当たるらしい。組長は田中さん。

 総務は、あらゆる様々な事との説明だったけど、明らかに疲れた顔をしていたので、きっと色々気苦労が多いところなのだろう。組長は加藤さん。


 後は近衛このえ班、ここはあの神出鬼没な忍者たちの部署らしい。

 主な仕事は御館様やクソ忍者の身辺警護を含む様々な事らしいんだけど、印象は隠密とか、影の軍団……多くは語らない謎の組織と人物って感じ。


「房中術班、リノンよ。よろしくね」


 スケスケの扇情的な服装で、溢れんばかりの大きな胸を俺の腕に押し付けるようにして、耳元に囁いてきた。

 男好きのする顔とでも表現するのだろうか、口元のホクロがまた色気を増している。白く長い指を俺の太ももにそっと置いてくるとか……胸に這わせてくるとか……ヤバイですっ!

 男子高校生には刺激が強すぎるではないですか!!


「ぼ、房中術って何ですか?」

「ふふ……一太くんがス・キ・な・こ・と」


 な、何!?

 好きなことって何だ!?


「わからないの?じゃあ、あとで私の部屋に来てくれたら、その身体にたっぷり教えてあ・げ・る」


 ヤバいっす!

 耳たぶをカプりと軽く噛まれたよ、ゾクゾクっと背中に電流が走りまくったんですけど!

 身体に教えてくれるって何ですか!?

 もしかしてもしかして、アレですか?

 大人の階段登っちゃうんでしょうか!?


「小僧を誑かすな。それは身体を使って相手から情報を聞き出したり、操ったりするのを得意としておるから、ケツの毛まで毟りとられるぞ」


 ハゲヤクザが横から注意というか、説明をしてくれた。

 やっぱりそういう事だったんですね!

 ……全然ウェルカムですよ、いやもう喜んで毟り取られたいです。


「あそこ見てみて」


 指の先を辿ると、宴会場の一角で、あらゆる年代の美人や可愛い女の子、イケメンたちが揃っており、周りから少し浮いていた。


 ……んっ?

 どこかで見た事あるような。


「うちはね、タレント事務所とかキャバクラ、ホストクラブとか色々やってるの」


 おぉ、そう言えばそうだ。

 よくテレビで見かける女優やイケメン俳優、タレントや歌手、グラビアアイドルたちだ。


 えっ?ちょっと待って……

 彼女たちが房中術班って事は、あの清純派女優のあの人も、最近バラエティに出まくっている元モデルのあの子も、そういう事しまくってるって事!?

 そりゃあ、みんな普通の年頃の女性だから、そんな事もあるんだろうけどさ……こんな所で真実なんて知りたくなかったよ。


「その顔は……あの子たちがそんなエッチな事してるだなんてショックって感じかな〜?もちろんまだな子もいるわよ?エッチだけがお仕事じゃないからね」


 そうか!そりゃあ、そうだよね!!

 って、何だろうこのほっとした感じと共にやってくる残念な気持ちは……


「どの子が好み?」


 選んでいいんですか?

 選んだら何かいい事でもあるんですか!?


「今回の儀のご褒美をあ・げ・る」


 あのHはあるというスイカのような武器を持つグラビアアイドル……いや、背は小さいけど元気いっぱいが売りのタレントか、それとも激しさが売りのセクシー女優さんか……迷う。


「もちろん私でもいいのよ?忘れられない夜にしてあげるわ」


 ちょっ!

 そこはダメですっ、大変な事になってるから触らないでっ!


「その辺にしとけ、小僧、これからの修練は儂も参加して鍛えてやるからの、楽しみにしとけよ」

「も〜山岡の組長はいけずなんだから……じゃあ一太くん、部屋で待ってるわね」


 本当だよ、ハゲヤクザっ!

 もうちょっと夢を見させてくれよ!!


 んっ?ちょっと待って!今なんて言った?

 修練に参加して鍛える?

 これからはクソ忍者に鬼教官に、その上ハゲヤクザまで来るって事かよ!!

 これまででさえ毎日死ぬかと思う程の訓練だったのに、更に酷くなるとか最悪だ!!


「そのように嬉しそうな顔をするとは、鍛えがいがあるというものだ」


 うん、どう考えても今の俺は絶望に打ちひしがれている顔をしていると思うんだ。

 ハゲヤクザよ、何故そのような解釈が出来るのか、どうか教えて欲しい。


「横川、こちらへ来い」


 ハゲヤクザの言葉から逃れるように、すっかり冷めてしまった料理を一心不乱に食べていたら、クソ忍者から声がかかった。


「この度はよくやってくれた」


 手招きと言葉に従い、クソ忍者の前へと移動すると、お褒めの言葉を頂いた。

 この人、基本的に無表情な事が多いから読みにくいんだけど、珍しく満面の笑みなので本心から褒めてくれているようだ。


 うん、今回俺はかなり頑張ったと思う。

 こんな目に合わせやがってっと思う気持ちもあるけれど、褒められるとやはり嬉しい気持ちも大きい。


「褒美をこれへ」


 近衛所属のあの神出鬼没の忍び装束姿の忍者が、紫の布が敷かれたお盆の上に、見覚えのあるバッグと、帯がついた札束2つを持って現れた。


「この度の褒美だ」


 すっかり忘れていたけど、そういえばこんな報酬があったんだった。

 紙の帯付きの札束なんて初めて見たよ……


「まぁ待て」


 恐る恐る手を伸ばそうとしたら、空いたグラスを渡された。


「これも褒美だ、飲め」


 トクトクと音をたてて注がれる琥珀色の炭酸飲料……そう、ビールだ。

 俺、まだ17歳なんだけどいいのかな?


 躊躇っていたら、近衛の人とクソ忍者が凄い見てくる……

 うん、飲まなきゃダメなやつですね、これは。


 一気に呷る。

 うへぇ、苦い……何をもってこれを美味しいと言うのだろうか、不思議だ。


「ほれ、もう一杯」


 注がられるままに続けて呷る。


「うむ、いい飲みっぷりだ」


 やはり飲む事が正解のようだ。飲むまではいた近衛の人もいつの間に姿が消えているし。


「ではありがたく……」

「待て」


 まだ焦らすんですか?

 早くその札束を愛でたいんですけど……


「資材の鬼頭よ。この度の儀にて、こやつに支給した武器防具は幾らの物であったか」

「はっ、計360万円で御座います」

「ふむ……この度横川は頑張った、素晴らしい結果を残した。それに免じて160万円は俺が払おう」

「では、そちらにある200万円をまず頂きまして、後ほど若から残りを頂くとしましょう」

「と、いう事だ。よかったな、横川」


 クソーッ!

 そんな事だと思ったよっ!!

 無料支給だなんて、浮かれていた俺がバカだったよ。

 クソ忍者の満面の笑みは、これが理由に違いない!!

 純真な気持ちを弄びやがって……


 やってられるかよ……

 ビールだっ、ビールを飲みまくってやるっ!

 飲んでなきゃやってられるかっ!



 ……気付いたら朝だった。

 メロンで大人になる夢も、ビールの泡と一緒に儚く消えた模様。

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