第21話ーーカエルとヤクザ
銅鑼の音と、開始の号令の声と共に俺は走り出した。
問題の毒霧は……
確かに空気がぼんやりと薄紫っぽいような気もする。
深呼吸をしてみるが……うん、息苦しさとかの違和感は全くない。
これは……毒耐性レベルを強制的に上げてくれたクソ忍者師弟に感謝すべきなのか?
んっ?いやいやいや、そもそもアイツらのせいでこんな事になってるんじゃないか!
危ない危ない……ちょっと洗脳され始めている。
1階はモンスターは居らず、ほぼまっすぐ200mで下へと降りる階段がある。
ほぼというのは、途中三叉路に別れているからだ。ただそれらは全て明らかにされており、迷う事はない為だ。
階段をそのままの勢いで降りて行く……
っと、途中で足を止めた。
なぜなら階段下のすぐそこまで、三目で灰色の犬が隙間なく埋まっていたのだから。
「ヒッ」
自然発光する洞窟壁の光の中、所狭しと黒い目があったのだ、思わず悲鳴を上げてしまったのも無理はないと思う。
「何を立ち止まっておる……ほう、これはこれは……今年はまた多いのう」
あぁ、多いのね。
それなのになぜこのハゲヤクザは楽しそうなのか?
まぁ、でも言う通りに立ち止まっていても仕方ない。
予定通りの方法で行こうか。
よく夏とかに、海や巨大プールにゴールとなる島が浮かべられ、そこまでを飛び石や浮き石、丸太などの上を飛び移りながら目指すのがあると思う。
テレビで芸能人が水着でキャッキャ騒ぎながら四苦八苦する番組だ。
大抵の見ている人たちは、その無様に海や水の中に落ちる姿を、笑いながら見ていると思う。
かくいう俺も、ナイスバディな女性芸能人のその姿を、何か素敵なハプニングが起こらないかと、前のめりで前屈みになって夢中で見ていたりした。
いつか可愛い彼女と、そんな施設に行って、楽しくイチャつきながら出来たらな〜なんて可愛い夢を見ていたりもした。
それがまさか、イカついハゲのおっさんと2人で、ダンジョン内で行うとは思いもしなかったよ……
しかも落ちたら、死にはしないが大変な事になるわけだし。
……サラバ俺の可愛い夢。
穏やかだった、つい3週間前が愛おしい。
なんで夏のテレビの風物詩ともいえる光景を思い出していたか?
それは現在俺は、ウヨウヨといるモンスターたちを浮き石や丸太代わりとして、壁を固定された飛び石として、ぴょんぴょんと戦う事なく走り続けているからだ。
「ふははははははははっ」
時折後方から、ハゲヤクザの謎の笑い声が聞こえてくるのが、俺の恐怖を更に煽って来るけれど、振り向いている余裕などない。
もし落ちたら、大幅な時間ロスだし、体力も大きく削られるだろうからね。
今は階段だけが、小休憩場所だ。
現在20階層、あと半分。
思ったよりもキツイ感じがする……
足場が不安定だと、ここまでキツイものなんだね、途中ちょっと足首ぐにってなったし。
……このまま行けるのか?
ここまでのモンスターは、三目犬と俺の腰までほどの背丈しかない犬頭の人型モンスターであるコボルトだ。
これが10階層までは続き、11階層〜30階層まではこれにゴブリンが追加される。
そこまではまだいい、ある程度の高さを維持して跳んで行く事ができれば、何とかなるはずだ。
問題はそれ以降だ、魔法を使う個体が紛れ込んでいるらしいので、かなり危険となる。
更に最下層である40階層には、赤鬼とお供に河童2体がいる。赤鬼は身長2mほどで立派な体躯であり、所謂トゲのついた金棒を持っている。河童は、頭の上にはお皿と背中には甲羅、嘴に水掻きといった妖怪そのものの見た目だ。戦い方は甲羅を盾に使い、水魔法を放ってくるのが特徴とされる。
赤鬼、河童と全て妖怪というか昔話から飛び出て来たような存在だが、鑑定されたところ、そのものの名前らしい。
それ故に、31階層までに時間稼ぎもしなければならない。現在の時間経過は約11時間だから、2時間の貯金だが……スピードアップしないとまずい。
でもここらで1度休憩だ。
喉は乾いてるし、小腹も減った。
「おう、小僧休憩か?」
「あっ、はい。山岡さんも水と食糧いりますか?」
「たかが1日2日、何もなくとも大丈夫だ」
さすがだ……ってか本当に人間かよ!
途中、転びかけた時にチラッと後ろを見たら、満面の笑みでまるで口笛でも吹くかのようにぴょんぴょん飛び跳ねていたし。
少し息切れして、座りこんでいる俺と違って、汗一つ掻いていないように見える。
正体はモンスターだって、もし打ち明けられたとしても、今なら普通に受け入れる事が出来る気がするよ。
やはり魔王信長の部下という事か……
「まさか全部飛び跳ねてここまで来るとはのぉー初めてだ」
えっ?
みんな倒しながらも、このスピードで来てるって事?
やはりピクニック気分という事か……化け物だらけの組織かよ。
「遅くてすみません」
「……あぁ、気にするな」
呆れた表情されたよ……
謝るくらいなら、もっとスピード出して走れよって事ですよね。
はぁ、キムに愚鈍な生産者とか前言ってたけど、俺も愚鈍だったみたいだ。
なんか素敵なスキル生えてないかな〜
もう40階層へ一気に跳べちゃう、転移とか、飛行とか……とか……とか……
NINJAなんだから、そんな夢スキルがあってもいいと思うんだ、うん。
とりあえず見てみよう。
頼む!!
「ステータス表示、スキル表示」
◆
横川一太 Age16
job―[NlNJA Lv2]
体力―CC
魔力―C
力 ―D
知力―D
器用―DDD
敏捷―CCC
精神―CCC
◆
固有スキル―火遁(Lv1)・闇遁(Lv1)・口寄せ(Lv1)・分身(Lv1)・刀剣術(Lv5)・手裏剣術(Lv3)・跳躍(Lv6)・毒耐性(Lv8)・麻痺耐性(Lv5)
◆
火遁(Lv1)……火球(Lv3)―火の玉を前方に3つ同時に放出できる。
闇遁(Lv1)……影潜り(Lv4)―120分間影の中に入る事ができる。対象が動いた場合は自動的に動く。中から外の様子を見聞きできるが他の行動は出来ない。
口寄せ(Lv1)……鼠(Lv2)―鼠を2匹魔力によって召喚できる。鼠は魔力で出来ている為に死んでも再度の召喚が可能。念話により意思疎通が可能。攻撃は不可能。存在時間は2時間。
分身(Lv2)……分身(Lv2)―魔力で出来た分身を2体作る事が可能。本体と全く同じ動きをする。存在時間は2時間
刀剣術(Lv5)……忍刀を扱う事が出来る(80cm未満)。2本装備可能。
手裏剣術(Lv3)……手裏剣を投げる事が出来る。
跳躍(Lv6)……身体能力+6mの高さまで跳躍距離が伸びる。
空歩(Lv1)……跳躍時に空中で1歩歩ける。
毒耐性(Lv8)……毒に耐性がある。
麻痺耐性(Lv5)……麻痺に耐性がある。
九字印術(Lv1)……九字印をきる事で、集中力を高める。
◆
おおっ!
敏捷と跳躍Lvも上がってる。
そして待望の新スキルがあるけど……空歩か。まぁ転移とか飛行とは違うけど、確かに有用かも。
そして九字印術は、集中力を高める?
もしかして、スキルにまで「お前落ち着きなさすぎ、もっと余裕持てよ」とか言われているのだろうか……
「なんだ?なんか面白いスキルでも生えたか?すごい顔をしているが」
また顔に出ていたのか。
「あっ、見ます?」
「おう、若に先日までのものは見せて頂いたが、実際にこの目で見てみたいの」
「では、ステータス開示、スキル開示」
「ふははははははははっ!これは面白いなっ!毒耐性が上がっておるし、跳躍や敏捷も上がっておる……まぁこんだけぴょんぴょんとカエルのように飛び跳ねておればのう。で、空歩?九字印?」
クソー!
カエルとか言うんじゃないよっ!何となく自分でも思ってたんだからさっ。
空歩と九字印のスキル説明をすると、またハゲヤクザは笑いだした。
「あれだな、本当に外国人の考えるNINJAそのものだな。きっとそのうち身代わりの術とか、変化の術とか出てくるぞ」
「そんな気はしています……」
「出たらすぐ教えてくれな、身代わりの術のあの丸太がどこから出てくるのか知りたいでな。まぁそれも、ここを乗り切らねば叶わんが」
確かにあの丸太はどこから出てくるんだろうね。
都会のビル街で戦っているのに、何故か丸太が服を着て身代わりになる不思議。
それと、ハゲヤクザの言う通りに、まずはここを乗り切らねば。
「ついでに九字印をやってみたらどうだ?……と言っても手印なぞ知らんか」
それが出来るんだな〜
ちょっと若かりし頃に……と言っても数年前だけど、漫画で見て憧れて練習した事はあるから。
まぁ健全な男子なら誰でも1度は罹患する、巷で厨二病とか言われているやつだ。
今思えば恥ずかしい、黒歴史だが……だが……こんな所で生かされるとは。
世の中何がタメになるか、わからないもんだね。
「それが出来るんですよ」
「ほう、若いのに珍しい。さすがは若の弟子」
まさか素直に褒められるとは……
恥ずかしい、恥ずかしすぎる。
行こう、早くこの場から抜け出たい。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
踏むべき場所が、何となくわかる気がする。
「行きます」
………………
…………
……
その集中力で見えた道らしきものは、5分程で終わりました。
そのせいで1度完全にゴブリンの頭を踏み外し大きく転びかけたけど、空歩のおかげでギリギリ何とか持ち直せた。
何とか危うくも、30階層を終えた。
キツイ……
ダルい……
えっ?既に18時間経ってるよ。
同じスピードで来たつもりだったけど、疲れでスピードが落ちているのか。
貯金はもう使い果したらしい、思ったよりもマズイ状況だ。
だが、わかってはいるのだが、キツイ。
興奮状態にあるために、全く眠たさは感じないが、足が、腹筋が、背中が重い。
だが、余裕はない。
あと10階層とボス部屋だ。
切腹はしたくない、生きていたい。
まだあんな事やこんな事、何にもせずになんて悲しすぎる!
最期の想い出が、ハゲヤクザとのダンジョン探索とか最悪だ。
俺は生きて、いつか如月先輩とイチャイチャするんだっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます