第22話ーー河童のお皿は何故にある?

 何度か危ないところがあったものの、何とか39階層が終わった。

 現在既に24時間経っている、これまでの最速から考えて、あと30分でクリアしなければならないという事だ。


 心配していた魔法は、止まらずにスピードを持って走っていれば、避けて来れた。

 ハゲヤクザ曰く、「後ろから見ておったら、まるでインベーダーゲームのようであった」らしい。

 ゲームだったら、残機とかの換えがあるけれど、俺の命は1つしかない。

 ここまでの9層、モンスター溢れる通路に落ちた事6回。ほとんどが下層へと階段が見えたところで、気が抜けたのか足を踏み外した。

 前にいる数十体のモンスターを斬り伏せ、火球を放つ事で、力押しにより階段まで辿り着く事を繰り返してきた。

 火球のレベルが上がった事により、3発同時に発動出来る事となっていたのが幸いしたのと、なぜかスタンピード以外の時は階段にまでモンスターは追って来ない事が助かったポイントだ。


 さて、ここまでの反省は後にして……

 40階層の事を考えよう。

 ここは階段からボスがいる扉まで真っ直ぐの通路が約15m。通路はこれまでと違って石畳となり、左右には等間隔で3体づつの計6体のガーゴイルの石像がある。

 これは、通路の長さやガーゴイルの数に違いこそあるものの、どのボス部屋があるダンジョン全てで共通している仕様だ。

 ガーゴイルは、が近くを通ると反応し、動き出す。そして探索者に襲い掛かるという仕組みらしい。

 しかもタチが悪い事に、ガーゴイルの周り1mの範囲が反応領域なので、これまでのように飛び跳ねて過ごすのは厳しい。


「火遁・火球っ」


 石像に火球をぶつけてみたが反応はない。

 やはり生物でないと反応しないようだ。


「石像には何をしてもダメージは通らんぞ?」


 ええ、そんな事はわかっているんだ。

 問題はガーゴイルが動き出すかどうかなんだから。


「火遁・火球」


 今度は真っ直ぐに放ってみる……うん、思った通りだ。


「何をやっておるんじゃ?アレらは人にしか反応せん事は知らんのか?」

「いえ、大丈夫です。ところで、俺は一気に扉まで向かってそのまま突入しますが大丈夫ですか?」

「何をする気か知らんが、遅れる事なく同時に扉の中へは進入しよう」

「お願いします」


 さて、行くか。


「火遁・火球!闇遁・影潜り!」


 そう、考えとは影潜りで一気に通り過ぎる事だ。


 先程放った火球はギリギリだが、扉にぽすんと当たったから、1度も地上に顔を出す必要なく行ける。


「ふははははははははっ面白いっ」


 また笑ってるよ……

 そしてガーゴイルの攻撃を、否して交わしつつ、俺の真後ろを並走している。

 さすがだ……

 やはりモンスター……いや、妖怪ハゲヤクザ。


 おっと、扉だ。

 飛び出て、そのまま押し入る。


 ってハゲヤクザ!

 ガーゴイルを連れて来ないでっ!


「しまったわ、まぁこれはわしの不手際じゃ、己で片付ける」


 えっ?

 今刀抜いたの見えなかったんだけど……

 鯉口をきる音さえも聞こえなかった。

 いつの間にかガーゴイルが細切れになって、床に落ちているよ。

 恐るべし!妖怪ハゲヤクザ!!


「今のはスキルです?」

「いや、スキルなんぞ使っておらん。この位は直ぐにできるようになるぞ?」


 そんな事にこやかに言われても、信じられるか!


「今度の手合わせの際に教えてやるから、安心せい」


 今度の手合わせ?

 何ですかそれは……

 いつの間にそんな話が決定しているのでしょうか?

 安心なんて出来るか!!

 確実にクソ忍者と同じようなシゴキじゃねぇか!


「ほれ、そんな事より鬼共が待っとるぞ」


 そうだった、目の前にも鬼がいたんだった。

 こういうのって、前虎後狼ぜんここうろうっていう四文字熟語があったっけ。

 あれ?それの意味は違うか?

 えっと……次々と災難が襲いくるって意味だっけな。

 まぁどっちにしろ、状況は一緒か。

 むしろステータスチェックから、今までが正に前虎後狼だ。

 今度高木さんに会ったら、何か奢って貰おう。


 さて、行きますか。


「分身!」


 うん、俺が3人になる。

 不思議な事に、現時点の俺と全く同じ武器防具を纏った実体なんだよね。

 惜しむらくは、ある一定以上の攻撃を受けると、消えてしまう事くらいだ。

 ある一定以上とは、ゴブリンの剣攻撃を3回だ。どこに受けてもそれで消える。急所に当たった場合は1発だった。クソ忍者や教官の攻撃だとどこに当たっても、やはり一撃。

 その事から考えると、ボスの攻撃だとやはり一撃だろう。

 説明では魔力で構成されているらしいけど、質感は人間と変わらないらしく、体温さえ持っているみたいだ。これについては、以前にクソ忍者や、教官、アマやキムにも触ってもらったりして確かめた。

 その時に「ヨコが何人もいるとかヤベー」とか「世紀末だな」という心在らぬ発言があったが、なんて事を言うのだろうか!!

 まぁあまりにもそっくりで、確かに気持ち悪いけど……

 でも、でも、きっといつか俺が複数いる事を喜んでくれる人が現れるはずっ!!


「火遁・火球!」


 分身のモノと合わせて同時に9発の火球を放つ。


 河童が甲羅を盾にして、赤鬼の前に出てきて構えた。

 邪魔だな、セオリー通りに取り巻きから倒さないとだね。


「闇遁・影潜り!」


 一気に迫り、着弾寸前で地へと躍り出て、横から河童の首筋を狙う。


 ここで間違っても、河童だからといって頭のお皿を狙ってはイケナイ。もし割ってしまうと、激昂した上に2体が合体して、赤鬼と同じ大きさ強さになるらしい。

 それさえなければ、強さはゴブリン程度の弱さだ。

 これは協会のダンジョン情報のところに大きく注意として書かれていた。それによると、過去に何人も命を落としたり、重傷を負ったらしい。

 でもまぁ、デカい河童ってのを見てみたい気持ちもわかるけどね、やらないけど。


『クキャーッ』


 河童ってこんな声で鳴くんだね。

 って、そんな事はどうでもいいか……

 俺たちが河童を攻撃しているのを、鬼たちが黙って見守っていてくれるわけもなく、分身一体が金棒を頭の上から振り下ろされそうになっている。


 ヤバイッ

 分身自体が自立して動いてくれたらいいんだけど、俺と同じ動きしかしないからな……

 慌ててバックステップで金棒を避けようとしたが、どうやら掠ったらしく河童と共に光へと姿を変えた。


 掠っただけで、一撃判定か……

 思ったよりも強いらしい。


「分身!火遁・火球!」


 今度は火球の真後ろを並走する。

 目的は鬼自身の影だ。火球の影は着弾と同時に消えてしまう事で、表に1度出ざるを得ないが、鬼の影ならば、確実に隙を狙える。


 えっ?

 マジかよ……

 避けるとか、腕で身体を守ろうとすると思ったのに、まさかまるで野球のように、金棒をバット代わりにして構えているとか!

 これ、このまま走って行ったら、同時に俺もダメージ受けるやつだ。


「闇遁・影潜り」


 危なっ!

 金棒を振り始めていたよ。


『グオッガッガ!』


 まぁ火球は1個じゃないから、何個かを金棒で吹き飛ばすことが出来たとしても、着弾してダメージは与える事になるよね。


「分身解除!召喚!闇遁・影潜り」


 鼠を出して、鬼の気を引きつけておいて鬼の影へと潜る。

 分身はこれ以上いると、なんか邪魔そうだからね。同士討ちになりかねないし。

 その点鼠は意思疎通が可能だからいい。

 2匹別々に指令を与え、動き回らせる。1匹は足元を走らせ、もう1匹は鬼の足や身体に飛びかかるようにと。

 攻撃自体は出来ないが、引き付け役にはもってこいだ。


 思惑通りに、金棒で鼠を叩こうと必死になって振り回す鬼。

 うん、単純バカで良かった。


 鼠に指示を出し、鬼の顔へと登らせる。

 嫌がった鬼が、背を仰け反らせた時が勝負だ。背後に出来た影から飛び出て首へと渾身の力をもって刀を振り抜くっ!


 ふぅ……

 何とかなった……

 首だけを床に落とす事となった鬼が、身体を光へと変えていく。


「おうっ、お疲れだの」

「ありがとうございます」

「鬼のドロップを拾え」


 ドロップは、黒光りした2本のツノと、5cmほどと2cmほどの魔晶石、河童の甲羅が1つ落ちていた。


「外に出ると若がダンジョン前に居られる。なので転移陣を出たら真っ直ぐ若の元へと向かい、膝を着け。すると、近くにいる検分役がお盆を持って近寄ってくるから、その盆の上にドロップである鬼のツノを置け。それにて儀の完了となる」

「了解しました」


 疲れた……

 時間は、24時間55分だ……危ねっ!


 部屋の真ん中に現れた魔法陣の上に乗り、ドロップである5cmの魔晶石をその中心にある小さな円の中へと置く。

 これにより、魔法陣内の人間は外に排出される仕組みだ。


「転移」


 外に出るとハゲヤクザの言う通りに、ダンジョン前に入る時にはなかった屋根だけの行事用テントが設置され、真ん中に椅子に座ったクソ忍者がいた。



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