第14話ーー日頃の行い

 あれ?

 いつの間にアマとキムはここを離れて教官を呼びに行ってたの?

 いや、まぁさ、近くにいて3人のターゲットとなってしまうよりはいいんだけどね。


「3人がかりでたった一人を襲うとはどうゆうつもりだ?しかも、その理由が、職業差別だと?バカなのか?」


 きっとバカなんだと思う。

 しかもこんな公衆の面前で殴り掛かるとか……


「なんでこんな奴らがここにいるんすか?クソ底辺職じゃないっすか」

「ここは選ばれしエリートしかいないんじゃないんですか?」

「こいつらと同列に思われるとか、納得いかないんですけど」


 こっちこそ同列になんて思われたくないって。

 ってか自分で自分の事を選ばれしエリートとか言って、恥ずかしくないんだろうか……


「何を勘違いしているのかは知らんが、そのエリート様ばかりじゃないぞ?じゃなきゃ、お前ら来れないだろ?」

「はぁっ?俺は十人隊長ですよ?こいつは拠点士だし、そいつも拠点結界士の稀少職のエリートですけど?」


 十人隊長っていうのは、10人以下のパーティーの指揮をする場合、基礎能力を上げる事が出来るらしい。ただ他に、百、千、万人っていう単位の職業もあり、十人隊長はその一番下にあたる。基本的なスキルは変わりないが、数が大きいほど、基礎能力の上昇幅が大きいという話だ。

 拠点士は、名前の通り拠点を作成出来る。ただ拠点士にも2種類あって、ダンジョン専用とそれ以外でも可能なタイプだ。後者の方が稀少性は高く、登山家のチームなどで引っ張りだこらしい。職表レベルやスキルレベルが上がると、大掛かりな砦のような物も作れると聞いた事がある。下層に潜るには、喜ばれる職業だ。

 拠点結界士は、拠点士が作った拠点にバリアを張る事が出来る。これもレベルが高ければ、ドラゴンの一撃でさえ防ぐらしい。それゆえに、拠点士とセット扱いされ、最前線チームに喜ばれている。夜通しの見張りが楽になるもんね。


 まぁ、十人隊長はともかくとして、拠点士と拠点結界士が仲間にいたら、確かにエリートっていうものわかる気はするな。

 ただその傲慢さはどうかと思うけどね。


「だからなんだ?それとお前らが暴力を振るおうとした問題とは、何の言い訳にもならんぞ?」


 そう、そこなんだよ。

 俺じゃなくて、アマとかキム相手を殴ってでもしていたら、危うく傷害罪だったしね。


「だから、こんなクズ底辺殴ろうが何しようが、俺らはエリートなんだから何の問題もないだろ」


 えっ?

 何その論理……

 ヤベー、エリート意識拗らせまくってるじゃん。


「何言ってるんだ?」

「だ~か~ら~!エリート職は探索協会が守るはずだろ?底辺職なんて山ほどいるんだからさ」

「いや、そんなわけないだろう。犯罪者など庇うわけあるか」

「おっさん、本当に職員か?政府の指針はダンジョンの深層開拓だぞ?俺らみたいな稀少職は保護するのが決まってるんだよ」

「どうされました?」

「おっ、いいところに来たっ!市川さん聞いてくださいよっ」


 どうやら3人組の担当者が騒ぎを聞きつけ、駆け付けたみたいだ。

 ヒョロ眼鏡だけど、アマとは違って冷たそうな眼をしている人だ。この人がこいつらに選民思想を植え付けてるって言われたら、納得してしまうような鋭利さがある……って、協会職員がそんなわけないか。

 必死にここまでの説明をしているけど、怒ってくれて終わりだろう。それにしてもこの3人はアホだな。まさか、本当の流れをそのまま言うとは……難癖付けて殴りかかった事まで言ってるよ。


「それは災難でしたね。おいそこのクズ、謝りたまえ」


 えっ?

 もしかしてクズって俺の事?


「底辺職はエリート職に養って貰う立場だという事を理解出来ているか?そこの職員のお前も、当たり前の事をちゃんと教えておけ」


 マジか……

 まさかこの考えが主流なのか?


「お前こそ何を言ってるんだ?」

「どこの支部だ?」

「名古屋北の風間だが、お前こそどこだ」

「南の市川だ、北の風間だな。指針を理解出来ていないアホがいると、報告させてもらう」


 うーん……

 北と南ってそんなに遠くないと思うんだけど、交流とかないのかね?

 めちゃくちゃ雰囲気悪いんだけど……なんかうちの教官と、アホたちの担当者の間でバチバチと火花散ってる感じするし。


 居心地悪くて、キョロキョロしていたら如月先輩一行が食事から戻って来たみたいだ。なんか楽しそうに話している……可愛い。

 って、こっちに気付いた!?

 あれ?なんか目が冷たいような……

 もしかして、もしかして、「ねぇ、あの子たちにめちゃくちゃ胸見られたんだけど、最悪〜」とか何とか田中さんが愚痴をこぼしちゃったりした?

 もしかして、もしかして、「うわっ、何それ最悪〜キモッ」とか言われちゃったりしてるとか?

 ヤバイヤバイヤバイッ!

 それは最悪だっ、何とかしなきゃっ!


 焦った俺は、職業差別の事なんてくだらない事は放って、いつの間にか走り出していた。


「如月先輩っ!つい先輩の事が気になってチラチラ見てしまい、すみませんでした」


 俺が告白したことは覚えていてくれたからね、これだったらお胸を見ていたのではなく、如月先輩を見ていただけだと思ってくれるだろう。


「えっと……」


 なんか困った顔をしている先輩……うん、その顔も可愛い。

 ってそうじゃない、セクハラ疑惑を解消せねばっ!


「あいつらは田中さんの……えっとアレを見ていたみたいですけど、俺はっ、先輩を見ていたんです」


 遠くで「おまっ」とか「ちょっ」とかアマとキムの声が聞こえてくるが、すまん!これからは公式おっぱい星人として生きていってくれ!


「へー、もしかして立たされて連れていかれていたのってその所為?」

「そうですそうですっ!俺は先輩を見ていただけなんですけど、あいつらは田中さんを……エロガキの2人を許してやって下さいっ」

「そんなこと言って、横川くんも気になったりしちゃったんでしょ?このマシュマロパイ」


 自分の疑惑を晴らしつつ、友達2人の罪を謝罪する……我ながら完璧だ。


 って金山さん、田中さんのお胸を後ろから抱えるように持ち上げたりしないでくださいっ!

 女っ気のない男子高校生には目の毒ですっ!


 ……マシュマロなのかぁ〜柔らかそう。


「いやさ〜なんで戦闘服なんだろうね?とか狩り要員かーなんて話していたんだけど、連行タイミングがそれだったとはね〜。まさか3人でマシュマロパイに夢中だったとは」

「いやいやいや、俺じゃなくて2人がです」

「うん、そういう事はその釘付けの視線を止めてから言おうね」


 くっ!罠にかけられた……


「しょうがないよ〜このボリュームは女の私でも気になるし」

「ですよねっ」

「はい、自供頂きました〜」


 くそっ、誘導尋問に引っかかるとは……


「セクハラだからね〜妹助けてくれたから、今回は多めにみてあげるよ、ねっしーちゃん」

「……うん」

「次はないからね〜あと、後ろ見た方がいいよ」


 守って良かったルール、やはり日頃の行いは大切だね。

 金山さんの妹さんがイケメンとメガネしか見てなくて、勘違いしてたのはどうかと思うが、お姉ちゃんに伝えてくれていてありがとうっ!


 って後ろって何?


 ……とてもにこやかな、教官とアマとキムが立っていました。

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