第13話ーー職業差別
「よし、昼飯の時間だぞー。1時間後の13時以降にここに戻ってくるように」
教官の声と共に、あちらこちらから椅子に座り続けていた身体を伸ばすような声が聞こえてきた。
この号令はもうチラ見しなくても大丈夫な合図でもあると言う事だ……如月先輩たちの方向を向いたら、田中さんがめっちゃ睨んでいるんですけど!
も、もしかして……お胸を見ていたとか思ってる!?
違うよ?……そりゃ確かに視界には入ったけど、それは如月先輩との間に居たからだし。
どうしよう……
誤解は解きたいけれど、面と向かって大勢の前で「お前の胸など見ていない」なんて言えるわけもないし……
教官が金山さんに近寄って行って、こちらを指さして何か言っている。
聞こえはしないけれど、是非まともな事でありますように!
願わくば、俺をパーティーにオススメしていてくれるように!!
「横川くん?」
田中さんの視線に気付かないふりをしながら勉強道具をまとめていると、いつの間にか金山さんが目の前に来ていて、声をかけられた。
「はいっ」
「あれ?前に会った事……あっ、香織に告白した子だっ!私にもお礼の手紙をくれた」
「そうですそうです」
やはり手紙を渡したのは正解だったようだ。
なぜこの知謀がステータスに反映されていないのか!?
「昨日、うちの妹へのナンパ阻止してくれたんだって?」
「あっ、はい」
本人はキムにしか感謝していなかったけどね、コミュ障全開にして立っていただけの奴にね。
「うーん、イケメンに助けられたって言ってたんだけどなー」
やっぱりか……
ってか自宅でそんな報告してたのかよ。
もしかしてキムに一目惚れしたとか?
そんなマジマジと俺の顔を見て首を捻らないで下さい……凹むので。
「あーっと、多分こいつの事だと思います」
「そういう事か」
答えを教えるように、キムを指さすと納得してくれたようだ。
「んっ?イケメンの人とメガネの人に助けられたって言ってたんだけど、君もそこにいたの?」
なっ!!
もしかして目にモブをカットするフィルターでも付いてんのか!?
「違いますよ、横川が止めたのであって、僕たち2人は立っていただけです」
ナイスだアマ、さすが親友である。
「えっ?そうなの?……なんかうちの妹がゴメン」
謝らないで欲しい。
その気の毒そうな目で見ないで貰えませんかねぇ……
アマもキムも俺の肩をそっと叩くんじゃない!
泣くぞ?泣いちゃうぞ!?
「と、とにかくありがとう」
「いえ、当然の事をしたまでなので」
「まぁそうなんだけど、それも出来ない男多いからさ。じゃあたしたちご飯行くから」
ちょっと……いや、かなりショッキングな事実を突きつけられたけど、好感度はこれでアップしただろうから、よしとしよう。
「ヨコ、飯食おうぜ」
「うむ、外の空気を吸いながらがいいな」
俺たちは来る前にコンビニでおにぎりをいくつか買ってきているので、それを持ってダンジョン前の広場で食べる事にした。
ちなみにどこのダンジョン前にも、大きな広場が存在する。
これは観光スポットという訳ではなく、もし万が一だけどスタンピードが起きた際に、モンスターが市街地に出てくる前に迎撃する為という話だ。
その広場とダンジョン入口を囲むように、高さ3メートル程の壁が立っており、入口から斜め45度の所に頑丈な鉄門が設置されている。
門前には商魂逞しいというか、恐れを知らないのか、商店が立ち並び、飲食店もそこにある。
俺たち以外にも弁当組はいるようで、ちらほら広場に座り込んで楽しそうに食事をとっている様子が見受けられる。
「お前のせいで散々な目にあったわ」
「うむ……宿題が進まない」
「いやいやいや、お前らも何度も見たじゃねぇか!だからあんだけ狩りに行かされたんだぞ?」
自分たちの行いを無視して、俺に全て擦り付けるとはどの面下げて言ってやがるんだ。
狩りに行かされた事で証拠は上がっているんだぞ?
「ヨコが何をそんなに見ていたのか、それが気になって見てしまっただけだ。だから俺は悪くない」
「同じく」
「うん、それだったら1回見ればそれで終わるよね?何回もチラ見したから、何回も狩りに行かされたんだよね?」
「「……」」
「それにしても、重そうだったな」
「柔らかそうだった」
「机に嫉妬した」
「ほら見ろっ!めちゃくちゃ見てるじゃねえか」
「くっ……ヨコのくせに誘導尋問だと」
「……不覚」
ヨコのくせにとか、どういう意味かと問いただしたい。机に嫉妬とか言っておいて、不覚とは笑わせる。
「なぁ、お前らなんで戦闘服なの?」
「そーそーそーそー、それとなんで勉強中に連れ出されてんの?」
「お前ら3人パーティー?職業なに?」
飯食ってギャーギャー騒いでいたら、知らない制服を着た男が3人話しかけてきた。
「さあ?俺たちもよくわからないです。職業は軽業師に鉱夫と薬草家です」
名乗るなと言われているので、先日伊東たちに伝えたのと同じ職業を名乗った。
それに、俺たちだけ戦闘服の理由は未だわからないし、連れ出された理由なんて言えるか!
「はっ?えっ?お前らそんなクズ職業なの?」
「毎年将来有望な者だけが、ここで勉強を許されるはずなのに……」
「俺ら、こいつらと同レベルだと思われてんの?如月のとこの1人と話してるから、稀少職かと思ったのによ」
クズ職業呼ばわりとかこいつら酷いな。
そして栄ダンジョンで勉強するのには、そんな条件があったのね……同じクラスのヤツを見かけないな〜とは思ってたけど。
「あのさ〜ここは選ばれし者だけが、ステータス上げるために勉強する場所なの。わかる?」
「だからさ、歩を弁えて帰ってくれない?」
「目障りだから帰れ、そして死ね」
こいつらめちゃくちゃ言うな……
そうそう簡単に口に出来ない稀少職だとは思わないのかね?
「わかりました……ただ僕たちが勝手に帰ると怒りそうなので教官に言って貰えますか?」
「あっ?そんなん知らねえよ、帰れよ」
「ちなみにお前らクズをここに来るように言った職員の名前は?」
「目の前にいた
「あいつか、じゃあ言ってやるから素直に帰れよ?」
面倒くさい。
職業差別が激しいのはわかっていたけれど、ここまで言うかね。
「じゃあ……なっ……クズ職業のくせに避けてんじゃねえよ!」
唾を吐いて俺たちから離れると同時に、蹴ってきたけれど、あまりにも予備動作が大きすぎて普通に避けてしまったよ。
避けられると思っていなかったのか、顔真っ赤にしてキレてるし。
「ふざっ……さけ……る……んじゃ」
悔しいのか何度も殴りつけてくるけど、クソ忍者や教官に比べたら、遅いし単調だし余裕で避ける事が出来る。
こうやってみると、あの地獄のようなシゴキもタメになっているのかな……?
1人じゃ無理だと思ったのか、3人で殴ってくるけど……それでも余裕だ。
ってなんで俺だけを襲うんだよ、アマとキムはよ。まぁ2人はシーカー用職業じゃないから、確実に殴られる事になるからそれはそれで困るんだけどさ。
「てめぇら、何やってる!」
怒鳴り声が聞こえたのでそちらを見てみると、額に青筋をたてた教官とアマとキムがこちらに走ってきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます