第11話ーー優しさってなんだろう

「おう、座れ」


 教官がそういうけれど、席は全部で6つしかない。大人3人が座るとなると、この場合は護衛対象者のアマとキムが座るべきなのか?

 まだ完了って言われてないから、この仕事終わってないだろうしな。


「えっ?」


 考えていたら、伊東くんたち3人組がさっさと座ってたよ。

 思わず声出ちゃった……


「横川、なんだ?何が言いたい」

「あっ、はい。この場合は対象者である2人が座り、私たち護衛は周囲に立っているのかと思ったからです」

「ふふっ……よく勉強しているな」


 褒められた!

 しかも初めて褒められた気がする。

 これは何か嫌な予感がする。


「まぁ今回はもうこのままでいい」


 そう言うと、教官と受付のおじさんが3人組の対面に座った。


「おう、じゃあお前ら3人組はここにそのリュックの中身とポケットの中身を全部出せ」


 椅子にゆったりともたれ掛かりながら、机を指さした。


「えっ?ドロップ品は全部俺たちが拾ったりしていますけど」

「あー、そうなんだがそうじゃないからこいつらに言ってるんだよ」


 どういう事?

 ちょろまかしてたって事かな?

 依頼料貰えるくせに……その上俺らの貴重なお小遣いを奪ってたって事か!?


「そんな訳ないじゃないですか」

「そうですよ、全部渡してました」

「だったらリュックぶちまけろ、ポケット空にしろ」


 教官に言われても、ぐだくだと言い訳しながら動こうとしなかったら、もう1人の謎の男性がリュックを奪い逆さにして机の上にぶちまけ、片山く……もう呼び捨てでいいや、片山と弓田を立たせてポケットをまさぐって中身を取り出した。


 そしたら出るわ出るわ……

 肉の塊×3・魔晶石×27・小汚いショートソード×6本。


「何だこれは?あっ?」

「そ、それは最初から持っていたんですよ」


 いやいやその言い訳は苦しいでしょ。

 だいたい最初から疑っていたっていうことは、何かしらの確証があっての事だろうしさ。


「今お前らを立たせた男だがな、最初からずっと付けていたんだよ、お前らをな」

「おう、ずっと見てたぞ?矢を拾う振りをして肉塊を裾に入れたり、深夜見張りをせずにずっと狩りをしてドロップを全てリュックに入れているのもな」


 えっ?

 そんな事してたの?

 肉塊を裾に入れるとか、服生臭くならない?気にならないのかね……って、それはまぁいいか。

 それよりも付けられていたなんて、全く気づかなかったよ……

 道理でどこかで見た事があるような気がしたわけだ、納得。


「あと、通路で嫌がる相手にナンパもしてたな?しかもこれは今回だけじゃなく、一昨日もその前の日もやったな?苦情がきてるぞ」

「しかも注意されたのに悪態吐いた挙句に、護衛対象者を放って帰還」


 ちょっ!

 前科ありなのかよ!!

 なんでこんなヤツらとパーティー組ませたんですか……


 さすがに言い訳しようがないのか、顔を青くしているよ、3人組。


「という事でだ、今回の依頼は失敗。信用性ゼロ、他探索者に迷惑をかける可能性が高いために全ダンジョンへの入場制限ありとする」

「ちょっと待ってください!依頼失敗ってお金貰えないんですか?」

「入場制限ってなんですか?」

「失敗なのになんで金払わなきゃならんのだ。制限は制限だ、週一入場位かもな」


 おぅ……

 結構キツイな〜

 依頼料なしだと、弓田なんて矢を撃った分だけ損しまくりじゃん。

 これからで回収しようにも、制限ありだとキツイだろうしね。

 ふふふ……ざまぁ!


「ではそういう事でよろしくお願いします」

「はい、了解しました。では預かった端末情報を打ち込んできますね」


 受付さん、ずっと黙って座っているから、何の為にいるんだろう?って思っていたら、この為だったのね。

 そして俺たち3人こそ、何の為にここに呼ばれているんだろうか。


「お前ら3人はもう行っていいぞ」


 教官の言葉に顔を真っ青にしたまま出ていく伊東たち。

 さすがに反省……してないね、すれ違いざまに睨んでったし。

 全員もげてフラれてしまえばいいわ!


「で、お前らだ……まぁ座れ」


 なに?

 なんか怒られる事したっけ?


「話は聞いたが今回の仕事はまぁまぁ及第点だ」


 おう……良かった。

 さっきの3人を見た後では怖すぎるよ。


「だがだ、まず3人全員があいつらがちょろまかすのを見てないって観察力が無さすぎる。あと横川、交代で見張るにしろ、何ぐっすり寝込んであいつらが狩りをしているのに気づかないんだ?寝てても感覚を鋭くしろっ!」


 えぇ……

 そんな無茶な……

 どうやって寝ている時に感覚を張り巡らせるっていうんだよ。


「「「……はい」」」

「で、話は変わるが学校の宿題はやってるのか?」


 うん、話変わりすぎ。

 そしてそんなのやる暇を与えてから言って欲しい。

 世の健全な高校生は、やれ海だ、やれカラオケだと遊んでいるというのに、俺たちは毎日朝から晩までダンジョンと修行に明け暮れて……

 あとはちょっとジョギングしたり、自主的にスキル訓練として口寄せで鼠を召喚したりしか出来ていない。

 偶然にもいつも同じ場所だけど、特に気にしないで欲しい。あくまでも訓練の一環でやましい気持ちはない……ないからね?


「その顔だと予想通りやってないみたいだな。そこでだ、俺たちも学校に迷惑をかける訳にもいかんので、明日は勉強会にする」


 も、もしかして初めての休日をくれるのか!?

 高校生の夏休みを満喫できるのか!?


 アマとキムの顔をチラリと確認したら、口元が緩んでいるから、どうやら俺と同じ考えのようだ。


「っと言ってもお前らは勉強なんてせんだろう。そこでだ、優しい俺たちが場を設けてやるから、明日は勉強道具を持参してここに集合だ」


 ……期待させて落とすとか。

 優しいと言うならば、もっと他にあると思うんだ。


「よし、では施設に移動して修行だ」


 ドロップを受付で出して精算して貰ったあと、優しさの欠片を微塵も感じない、いつも通りのシゴキがそこには待っていた。


 ちなみに2日間の報酬は、一人あたり8,300円でした……


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