第10話ーーその笑みは危険です

 結局1度もキャンプに敵が襲ってくるとかはなかった。

 たった4時間の睡眠とか……眠い、まるで疲れが取れた気がしない。

 それに比べアマとキムはめちゃくちゃスッキリした顔をしている。

 それなのにドロップ販売金は3等分……何か納得いかないけど、考えるだけ無駄だ。


 キャンプ近くの森や岩肌から素材採取を護衛し、予定量を確保してから地上を目指す。


 重装歩兵の伊東くんが真ん中でどっしりと盾を構え、その後ろから魔法使いの片山くんと弓士の弓田くんが敵を撃つ。

 アマとキムはその2人の後ろに待機していて、俺はその更に後ろで後方や周辺を警戒をしつつ、時折伊藤くんたちが撃ち漏らした敵に棒手裏剣を投げたり、接敵して斬付けるってスタイルだ。

 これは10階層までは罠がないとわかっているからこそでもあるけどね。


 そんな訳だから、ほぼ伊東くんたち3人が敵を討つわけなんだけどもさ。

 盾が敵を逃したら、後は後衛職しかいないっていうのに片山くんが紙防御なのは理解できない……

 もしかしたらとてもお高い防具で、打撃とか斬撃耐性があるのかもしれないけれど。

 でもそれにしては片山くんも弓田くんも、盾の横から出てきた敵にあわあわしまくっていたし……うん、理解できない。

 まっ、もう二度と一緒にパーティー組む事もないだろうし、今日は楽だからいいんだけれどね。

 だってこいつら全員彼女持ちらしいし?

 お忙しいでしょうからね……ケッ!


 モンスターが全滅したら、その隊形のまま進み、ドロップアイテムをアマとキムが拾う。後弓田くんの矢もついでに拾って渡す……モンスターに無事当たった物は曲がっていたり、矢先が潰れていたりするからお金掛かりそうだなっていうのが印象かな。

 手裏剣は鉄だからね、ほぼ曲がったりしないから、その点はよかった。


 それにしてもさすが夏休みだからなのか、なんなのか、すれ違うパーティーは俺たちと同世代らしき人たちの多い事多い事。

 昨日まではそこまで多い感じはしなかったんだけどな〜

 パーティー探しに手間取ったとか、そんな理由なのかね?


「ねぇねぇ、今日は学生パーティーが多いみたいだけどなんでだろ?」

「えっ?そりゃあ、夏休み始まったらとりあえず遊びまくって、ひと休みしたらちょうど今ぐらいの時期だからだろ?」

「そうそう、それが俺たちみたいにちょっと早いか、遅いかだけの違いだろ」

「海とかバーベキューとか、デートとかなぁ」


 …………あれ?

 もしかしてこいつらもそんな感じ?

 あぁ、そういえばこいつら全員リア充クソ野郎共だった。


 それに引き換え……俺たちずっと訓練かダンジョン探索しかしてないんですけど?

 アマとキムを見たら、遠い目をしている……どうしてこうなった!?


 後方3人組はちょっとどんよりした雰囲気になっちゃったけども、先頭が重装なのもありゆっくりと進んでいた。

 そして1階層へ戻る階段まで来た時、問題は起こった。


 ダンジョン内で、それほど広くない通路でパーティー同士がすれ違う場合においては、お互いが壁際に寄って過ごす事がルールとして教えられている。

 その際に挨拶程度の声掛けはあるが、それ以上の事は基本的にしない。パーティー全員が友人同士ならば、壁際のままに軽く話す程度は許されるけど、基本的には他のパーティーの邪魔になる行為は避けるべきとされている。


 ここまでが前提。


 それなのに、対面から向かってきたパーティーが女性3人組だとわかった瞬間に、伊東くんたち3人が声を掛けやがった。

 しかもそれは挨拶じゃなくて、「可愛いね」とか「何階行くの?」「どこ高校?」といったナンパだった。


 当然相手はムッとした顔で黙ってる。

 それなのに執拗に聞き迫ろうとする3人組。


「おい、止めろ!ルール違反だろ!」

「あっ?それってあくまでも協会の推奨ルールであって、法律的には関係ないから」

「こういうとこで出会いを求めなくて、どこで求めるんだよ」

「だから彼女いないんだよ、お前」


 えっ?なんでドヤ顔なの?

 めちゃくちゃ相手嫌な顔して、黙って睨みつけてるんだけど?

 それと、俺に彼女がいないのは関係ない。

 なぜなら俺の心は如月先輩に捧げてるからな!


 そしてその先頭の女性剣士さんは、[告白管理委員会]のNO.2の金山さんの妹君であらせられるのだ!

 ちなみに俺が告白した時に、手紙を渡した相手が金山さんである。


「俺の事は関係ないだろ!とにかく皆さん嫌がっているんだし、ルール違反でもあるんだから止めろ」

「うるせーなー」

「こいつうぜー」

「だから彼女いないんだよ」


 だからなんで俺に彼女がいるかどうかが関係あるんだよ!?


 3人組が俺の方を見ている隙に、金山さんパーティーはするりと交わし、何も言葉を発していないキムに向けて頭を下げて2階層を走って行った……


 あれ?

 なんで?

 いや、無事逃げてくれたのはよかった、よかったんだけどさ……

 釈然としないんですけど!?

 顔か?顔が全てなのか!?

 クソー!!


「チッ……シラケたな」

「1階層なんてほとんどモンスターいねぇし、とっとと帰ろうぜ」

「だから彼女いないんだよ」


 おい弓田、お前は俺に彼女がいないとなんか不都合でもあるのか?

 何度も何度も同じ事言いやがって。

 弓を撃つ時に弦で耳を怪我しちまえっ!

 いや……彼女にこっぴどく振られてしまえ!


 俺を睨んだかと思ったら、勝手にスタスタと先へと歩き始めた3人。

 護衛対象であるアマとキムとの差は、もう既に50mはある。


「どうする?」

「あー、このままでいいんじゃね?」

「うむ、そして受付にてこの事を伝えればいい」


 俺たちだってあいつらとこれ以上一緒にいるのはゴメンだし、何より護衛が宿題であり依頼だから、対象者の言葉に従う事にする。


 あいつらの愚痴への言いながら、地上に出たのは30分後の事だった。


 協会受付に行くと、3人組は受付前でたむろっていた。

 そりゃそうだよね、3人だけで完了報告なんて出来るはずないし。

 そして何故か、俺の戦闘指導教官様とその横にどこかで見た事のあるような探索者の人が立ってこちらを見ていた。


「遅いんだよ……クソが」


 伊東くん、それ受付の人にも、教官や横の人にも聞こえてるよー?


「「「依頼完了でーす」」」


 3人組が携帯端末を受付へと提示した所で、教官が口を開いた。


「6人ともこっちへ来い」

「はっ?おっさん誰?」

「この依頼の依頼者だ、だから来い」


 その人はあのドSクソ忍者の弟子だぞ?

 なんて口をきくんだよ!

 ほら、口元には笑みを浮かべているけど、目は全然笑ってないから!

 俺のこの後の戦闘訓練の為にも黙ってくれ!!


 指示に従って連れてこられたのは、協会内の小部屋だ。受付のおじさんと教官の横にいた人も一緒に着いてきた。


 3人とも目が笑ってないんですけど……

 この後何が起きるんですか!?

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