第12話――眼福は狩りへの誘い
久しぶりにまたやって来ました、名古屋栄ダンジョン。
朝からどんよりした気分で訓練施設へと向かったら、入り口で教官がお出迎え。
昨夜遅くにメールで連絡のあったように、なぜか勉強道具以外に戦闘訓練用具と共に、停めてあった黒いワゴン車に詰め込まれ、問答無用でここまで連れてこられた。
僕らの気分は、ロバが売られて馬車に載せられ走る感じ……ドナドナが流れていた。
ちょうど入り口近くにいた職員さんの目が、可哀想なものを見る目のように見えたのは、きっと気のせいじゃないだろう……
「お前らも知っているとおりに、ダンジョンで勉強した方がステータスも伸びやすく効率がいいからな。今日は特別にここで勉強する」
戦闘服は2階3階の掃討をさせるためかな?
未だ目的がハッキリしないが、ダンジョン内で勉強をさせてくれるのは嬉しい。
ワゴン車内で着替えて、小部屋へと行くと長机4つと、パイプ椅子が12個所狭しと立ち並んでいた。
他にもここに来る人がいるのだろうか?
説明がないからわからないので、とりあえず1箇所の机の前の椅子に並んで座り、勉強をし始める事にした。
渡されているプリントを、3人それぞれ別の教科から解いていく。これをすれば一気に3教科は終わるからね。
「なぁお前ら、3人なんで違う教科なんだ?もしや後で写し合おうとか思ってないよな?」
「「「……」」」
「わかってるか?ステータスを上げるのも目的だぞ?」
「「「はい……」」」
なんで部屋の隅から見えるんだよ。
そして暇そうにぼーっと座っているから、見ているなんて思わないし、もし見ていてもそんな細かい事に気がつくとは思わなかったよ。
「あと、今日から3日間はここだからな、安心してやってくれ」
何を安心すると言うのか……
そして未だ戦闘服の理由判明せず。
教官がいる為に、ほぼ無言でプリントをやり続けて1時間ほど経った頃、女子の賑やかな声が聞こえてきた。
そしてその声はそのまま僕たちが居る小部屋へと入ってきた。
そっと振り返って見ると、如月先輩と管理委員会の金山さん、同じパーティーを組んでいる魔導士の田中さん、治療師の秋田さんの4人だった。
如月先輩のjobは勇者だし、金山さんは弓道士だからバランスの取れたいいチームだ。
その上みんな可愛い!
如月先輩はその中でも当然ダントツなわけだけど、金山さんは金髪のショートボブが似合うスポーティーな美少女、田中さんはふんわりパーマで推定Fカップのお胸をお持ちのふんわりカワイイ系女子、秋田さんはキツネ目のクールビューティー系女子だ。
勇者というjobは、この世のいつの時代も1人しか存在しない超稀少なjobだ。前勇者はロシア人、その前はアメリカ人、イギリス人、オランダ人等々……外国人ばかりだった、如月先輩は日本人初となる。
ちなみに勇者は固定スキルはなく、その人によって変わるらしいので詳細は明らかにされていない。
そして勇者が生きている限り、次の勇者は現れないという事で、命を狙われる危険性もある為に氏名や所在は明らかにされる事は無い……要はトップシークレットって訳だ。
俺がなぜ知っているかって?
まぁその辺は……たゆまぬ努力とだけ。
如月先輩パーティーは俺たちの隣の長机へと着席、秋田さんだけ1人後ろの列みたいだけど、これはしょうがないだろう。
金山さんはと田中さんに囲まれるように先輩は真ん中に座っているのは残念だけれども、半径1mくらいの場所にいるなんて……
それに田中さんの大きな持ち物が机の上に載っているのが、目の端に映るのも悪くない。
今日って日は素晴らしい!
俺が感動に打ち震えている間にも、続々と同年代らしき男女が小部屋に入ってきていた。
どうやらみなここで宿題をする為に来ているのだろう、自主的かドナドナかはわからないけれど。
そして何故かみんな普通の学生服だ。
制服が違うので、色んな学校なんだなってのは分かるけれど。
俺たち3人だけが戦闘服なので、めちゃくちゃ浮いている。
疑問に思っているのは俺たちだけなのか、誰も声をあげることも無く、カリカリと鉛筆の音だけが小部屋に響く……
カリカリ……チラッ
カリカリカリカリ……チラッチラッ
ダメだ、気になって仕方がない。
大きなアレの向こうにチラつく如月先輩が。
カリ……チラッ……カリ……チラッ
「横川、天野、木村の3人!武具持って着いてこい」
教官の声が鳴り響いた。
突然すぎて、みんなびっくりした顔をしている。
「何ですか?」
「いいから着いてこい」
連れて行かれたのは、ダンジョン2階層。
ここのモンスターは牙の長いウサギ、それがそこら中にぴょんぴょんと跳ねている。
「3人で15個の魔晶石を集めろ。わかったら行け」
なぜ俺たちだけなのか?
なぜこのタイミングなのかはわからないけれど、きっと聞いても答えてくれそうにも無い様子で階段に座っているので、素直に狩るしかない。
このウサギもどきは突進にさえ気をつけていればいいので、遠距離から火球を放つか、死角から一気に近寄って斬り伏せるのが基本だ。
数匹までは1匹づつ狩っていたけれど、面倒くさい。
アマとキムも武装はしているけれど、あくまでも生産職だからね、あまり当てにならないし。
早く先程までいた楽園に戻りたいし。
そこで、口寄せで鼠を呼び寄せ、そこら中を走り回らせ囮とし、集まってきたところで火球で一気に仕留めるという手法を試したところ、大成功!
約30分で指定個数を集める事が出来た。
「集まりました」
「おう、じゃあ戻るぞ」
「教官、なぜ俺たちだけなんですか?」
教官の後ろを歩きながら、アマがいい事を聞いてくれた。
「さぁな?」
「なぜこのタイミングで狩りを?」
「さあ?何でだろうな」
やっぱり答えてくれなかった……
眼福祭りだったのに……
まぁ戻ればまた開始されるわけだけれども、やっぱり連続して楽しみたいじゃないか。
さて、プリントの続きをしますか……
カリカリ……チラッチラッチラッ
カリカリ……チラッチラッ
「3人とも行くぞ〜」
今度は名前を呼ばず頭を軽く叩かれた。
ってか戻ってきて5分も経っていないんだけど?
「今度も15個だ、行けっ」
意味がわからないけど、とりあえず先程と同じ手法で集めた。
そして戻って目を癒し……また数分で狩りに行かされる事6回。
「教官、全く宿題が進まないんですが……」
「何で俺たちだけなのか?タイミングを教えて下さい」
肉体的には日々のシゴキのせいで何ともないけれど、さすがに意味不明のままに同じ事を繰り返すのは、精神的に疲れてしまうので、再度聞いてみた。
すると、教官は振り向いてニヤニヤと呆れを含んだ表情をしながら俺を指さした。
「5回毎だ」
「5問解いたらって事です?」
「違う、お前が隣の子の胸を見た回数だ」
「……えっ?」
「ちょっ!お前のせいかよ」
「どんだけ見てるんだよ……」
「な、なんの事か……」
「お前な……あんだけ見といてバレてないつもりか?」
そんなバカな……
目の端でさりげなく見ていたのに……
そして見ているのは胸じゃなくて、如月先輩だ。
でもそれを言うわけにはいけないしな……
「……」
「ヨコ、お前戻ったら俺の席な」
「端からヨコ、俺、アマの順だな」
「おう、そうしろそうしろ」
くそっ!
幸せな時間が奪われた。
その後戻って席を交代し、勉強再開。
キムの身体が邪魔で何も見えない……わざとらしく俺の視界に入ってくるし。
なんて友達がいのない奴なんだ。
その後昼までに、アマとキムの席交代があった……そして7回2階層に狩りに行かされた。
お前たちも見るんじゃないかよっ!
やっぱり友達だよ、お前たちは!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます