第6話ーー誘惑

 無事学校に戻ってきた俺たち34は、携帯端末を受け取り渡されたバーコードを登録し終わった。

 そう、若狭のヤツは本当に家に帰ったみたいだった。もちろん放火魔は帰ってきてるはずもないが、先生からも説明がないので何もわからない。


 携帯端末には名前、職名、そして現在のステータスの最低表示……俺の場合は力と知力との項目のFFFが出ている。これはもしダンジョン内で言葉も話せないほどの重症を負ったり、最悪死んでしまった際に探索者協会から身内などに知らせる為のタグの役割を成す。また各企業などからの依頼を受け付ける際の目安としても使用される。

 ステータスは日々の鍛錬などによりする訳だが、変更したい場合は探索者協会に申し出て確認して貰うことにより可能となる。

 上下なんだよね……つまり鍛錬をサボれば下がってしまう。B級まで上り詰め、下層にてお宝を発見して一攫千金を得た事により数年遊んでいて、いざお金が無くなってもう一度潜ろうとしたらD級まで落ちていたなんて話はよく聞く話だ。

 日々の運動でも維持向上も可能だが、そこはやはりダンジョン探索の方が効率的だ。それはこれからの行動で何とかなるとして……問題は知力だ。知力はなかなか上がりにくい、ダンジョン内で魔法を放つのも1つの手なのだが、地上でも勉強しないと上がらない。効率的なのはダンジョン内で勉強する事だけど、そんな事をしていたらモンスターに殺されてしまう……上手くいかないものである。

 その為もあって、高校までが義務化されているんだけど……まさか3Fだとは思わなかった。


 ちゃんと31万円も入金されているかを確認しようとしたら、探索者協会からメールが届いている事に気が付いた。

 この携帯端末は電話機能はないけれど、探索者協会専用スマホともいうべき代物なのだ。ステータス登録と共に国民全員に与えられる専用口座へのアクセス、現在判明している各ダンジョン内地図、国内外のドロップアイテムオークションの閲覧、公認支援企業のアイテムの購入サイト等などがほんの一部として紹介出来る。そしてメール機能もその1つで、協会が関係しているメールだけを送受信できる。


『登録ありがとうございます。この度newjobを発現させた横川様には、当協会が所有する訓練施設の優先的使用権を送らせて頂きます。使用したい場合は下記アドレスから予約サイトに移動して頂き、日付、入場時間と使用予定時間、人数を入力下さいますようお願い致します。なお当訓練施設には生産職の訓練用機器もございますので、ご友人とお誘い合わせの上是非ご利用下さいませ』


 さすがnewjob!

 だてに数十年ぶりの発現と喜ぶわけじゃないな……まぁ向こうも監視カメラとかでスキル内容を知りたかったり、仲良くしたいって事だろうけどね。


「なぁアマとキムは明日からの予定は?」

「うーん、訓練施設の予約しようと今してるんだけど、どこも全部埋まってる」

「俺も……このままだとどっかで勉強するか?」


 黙って端末ポチポチ押してるな〜って思ったら、やはりだったか。


「そんな君達に朗報だ。何とこの横川様が施設に連れて行ってあげようじゃないか」

「そういうのいいから、予約が必要なんだよ、よ・や・く。お前もとっとと探せ」

「明日から夏休みだし、うちが1番最後の学校だからな。どこで勉強会する?」


 キムの言う通りに夏休みは明日からだし、ステータス登録が1番最後って事は、即ち端末を使用しての予約も1番最後って事だからね、まぁ普通ならば無理だろう……普通ならば。


「まぁまぁ2人ともこのメールを見たまえ、そして読んだならば横川様と讃えたまえ」

「どうせ迷惑メールだ……おっ?これマジ?」

「ほう……これはこれは」


 面倒くさそうな顔で俺が差し出した端末を覗き込んだ2人が、目を見開き顔を驚いている。


「ほら、横川様だ」

「下僕よよくやった」

「うむ、褒めて遣わす」

「おい、誰が下僕だ!あとお前はどこのお偉様だよ」


 まったく……そういうのは懐で草履を温めてたヤツとかに言えよ。

 そう言えば草履取りってnewjobなのか?

 端末で検索してみたら、既存の職みたいだね……

 基本スキルは<草履を適温に温める・草履修理>らしい。これは専門職なんだよね?多分。どこで活躍するのかは分からないけれどさ。

 是非鍛錬して足軽を目指して欲しいところだ。


「ねぇねぇ、横川くん施設予約出来るの?」

「出来れば私たちも連れて行ってくれると嬉しいな〜」


 3人で騒ぎ過ぎたせいか、若狭グループとはまた違う、自分をイチゴ部分だと思い込んでいる、髪を真っ茶色に染めて化粧が派手な女2人が話しかけてきた。しかも口では「横川くん」とか言ってるけど、目は完全にキムを見てるし。

 施設予約で俺を利用して、ついでにキムに近寄ろうとする魂胆が丸見えだ。


「私たちもぉ〜いいよねぇ?」

「クラスメイトなんだし協力とかって大切だと思うしぃ」


 うぉっ、さりげなく机に置いた俺の手に手を重ねてくるとか、俺の視線の先に無駄に緩めたネクタイとボタンをあけたシャツから見える谷間を置いてきながらも、視線はキムに向けるとかすげー器用だな、おい。

 だが残念ながら俺はビッチの色気には惑わされん……視線を外せはしないが……ちょっと指を谷間に入れてみたい気もするけど……惑わされん!

 俺の心は如月先輩に捧げているからなっ!


「悪いんだけど、3人しか入れない施設みたいなんだよね」

「え〜そんなのある〜?」

「ねぇ〜そんな場所聞いた事ないし」


 うん、俺も初めて聞いたわ、3人限定施設なんて。


「ちょっとだけならもう少し先まで見せてもいいよ?」

「少し触るくらいなら許してあ・げ・る」


 くっ!

 胸元をさりげなく更に開けながら囁くんじゃないっ!触るって何を触らせてくれるのかちゃんと言えよっ……ってそうじゃない、術中にハマるところだった危ない危ない……どっちかは確実にくノ一かなんかのjobに違いないな。


 そしてアマとキムよ、ご主人様を助けろよ!


「孤児院から協会に入社した先輩からのお誘いで、その2人も知り合いだから借りれるんだよ。だから無理なんだ」

「そうそう、出来れば一緒に行きたいんだけどね」


 俺の必死に目配せが通じたのか、やっとアマの援護がきた。


「え〜そうなんだぁ〜」

「天野くんがそう言うなら本当に無理なんだねぇ〜」


 なっ!

 俺の言葉よりもアマの言葉の方が信じられるだと……!?

 何故だ!こんなヒョロメガネの方が信用されるなんて……

 メガネかっ!?メガネが知的に見せているのか!?


「普段の信用の差だな。決してメガネじゃないから掛けても無駄だからな」


 この野郎、さらっと心の内を読みやがって。

 メガネをかち割ってやりたいっ。


「で、お前がマヌケに見えるとかはどうでもいいから早く予約してくれ」

「うむ、早く事実を受け入れて、予約だ」


 言いたい事を言いやがって!

 明日目にもの見せてくれるわ。


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