第5話ーー天下取り
「警察呼ばれなかったから犯罪者じゃなかったのか?」
「いや、相手がわからない限り逮捕出来ないから、厳重注意されてたんだろ」
いつも通り勝手な事言ってるな〜
でも今は許せる、なんとでも言うがいい!
「反論しないどころかニヤけるとは……」
「発覚した事で頭にキタか……ご愁傷さま」
「っておい!手を合わせるなっ!」
南無南無じゃないんだよ、全く。
「で?何が出た」
「その様子だと学生以外か?」
「聞いて驚け!newjobだ。しかもシーカー用だぞ」
「そこは聞いて驚くなだろ!?」
「笑いの基本がわかっていないとは……これではいつMー1が取れるか」
「って取らんわ!」
「まぁどの師匠に弟子入りするかはまたにして、おめでとう」
「それで長かったのか。若狭が嬉しそうに騒いでた」
2人には驚かされた分、驚かす事が出来て良かった。それに3人中2人だけ稀少jobとか仲間外れ感激しいしね。
キムの言葉に若狭の方を向いて見ると、あいつもこっちを見ていたみたいで目があった……俺がなんか出たのがそんなに悔しいのか、苦虫を潰したような顔をしている。
くくっ、ざまぁ!
これであいつが何も出ない……うん、さすがにそれは可哀想だから、学生とかニートとか出れば面白いのに。
「若狭っ!先程から呼んでいるのに聞こえんのか!?」
「あっ、すみません」
実を言うと先生が仁王立ちで若狭の後ろに立っているのは気付いていたんだよね〜
でもあいつらはこっちを見ながらこそこそ話してたから怒られたわけだけども。
「あいつ何出ると思う」
「親のせいか槍の練習しているって話聞いた事ある」
「じゃあ槍士?」
「いや、噂によると騎士狙いらしいぞ」
騎士っていうと剣と盾を持っているイメージだったけど、槍持ちもありなのか。
練習の成果が素直に出る人もいれば、全く出ない人もいるから分からないんだよね、こればっかりは。
俺も回復職がアリだと思って孤児院で小さい子達をしょっちゅう手当とかしていたのに、全く関係ない、しかも不思議職のNINJAだったし。
まぁ他人の事はいいや、しかも俺を嫌ってる奴の事なんて特に。
そんな事よりも、明日からはシーカーとして潜れ……あれ?親友2人が製作職って事は、パーティーメンバーがいない!?
ヤバイヤバイヤバイ!!
「……よ!なん……が……んだよ!?」
ん?
何か声が聞こえてくる……小部屋からか?
という事は若狭に何かあったのかな?
「もしかして出なかったのか?」
「さすがに違うだろ……」
「いや、気に入る職業じゃないとかそんな程度じゃねえか?」
「ふざけんな!何でっ!侍のパパと弓術士のママの息子の俺が草履取りなんだよ!」
どんだけ感情昂らせているんだよ、ここまで丸聞こえとか……
ってか職業が出るだけマシだし、侍と弓術士から考えたら草履取りも納得できる職業なんだけどな。それにかの秀吉も織田信長の草履取りから始まり天下を取ったっていう話もあるくらいだし。ただシーカー用なのか、一般職なのか……もしかしてnewjob!?俺と一緒なのか?
そんな事よりも、いつも偉そうに威張っているあいつは家でパパママ呼ばわりしている方が笑えるんだけど。
周りもみんなクスクスしているし……
いつもの取り巻きの女の子達まで笑ってるし。
パンッ
「ほら、静かにしろ!……っぷ」
手を打った先生が大声で笑う僕達を諌める。
って先生も笑ってるんだけど!?
「待ちなさい君っ!」
「うるせぇこんなjobで登録なんかするかよっ!」
「あぁー申し訳ないが、我らには既に君のステータスは見えているから登録自体は出来るんだ」
登録の終了宣言を待たずに若狭の奴出てきたみたいだけど、それには意味がないんだよね。
あくまでも円滑に登録作業を進めるために、俺達に開示してくれと言ってるだけであって、彼らは探索者協会の職員、即ち鑑定士のjob持ちだから見えている。最初にステータスを本人が言葉にして発する前までは、鑑定士さえ見えないらしいけれど、1度発現すると見放題。ただ例外もあってスキルは本人の承諾なしには見れないらしい。
これは3年前に孤児院から探索者協会に入社した兄ちゃんに、秘密の話としてこっそり教えて貰った話だから確実だ。
「っ!!」
「だからこのまま登録もさせて貰うし、君のその態度や暴言などももちろん周知登録させて貰う」
あちゃ〜
バカだな……
探索者協会に悪印象を与えた挙句にそれを周知登録は最悪だ。いくら公務員といっても彼らは人間だからね、一般職として生きていくなら構わないけれど、シーカーだと査定を厳しくされたり、下手をすると企業からの依頼も回してくれなかったりする。
「はっ!やれるもんならやってみろよ!テレビでパパ達に名指し批判して貰うから」
うわぁ出た、圧力宣言。
それ以前にあいつ、クラスメイトの前でパパ発言しているって気付いているのかな……
「コラ若狭っ!職員さんに迷惑をそれ以上かけるな!ステータスを受け入れ鍛錬に励めば変わる事を忘れるな。パパとママが…ぶっ…悲しむぞ」
ちょっ、先生。
途中までさすが先生とか思っていたのに、最後で台無しだから!先生が煽ってどうするんだよ!
「お腹が空いたのでちゅかね〜」
「ぷっ」
「ママのおっぱいが恋しいんだろ」
「ぶふっ」
アマにキム巫山戯んな!
俺にだけ聞こえるように言うんじゃねえ!
「早く家に帰ってパパママにヨチヨチしてもらわなきゃだな」
「ぶははははっ」
「なっ!てめえ笑ってんじゃねぇぞコラ!」
クソっ!
耐えきれなくて笑っちまったせいで、若狭がめっちゃ睨んできてるじゃねえかよ。
このままだと俺の平穏な学生生活に翳りが訪れる……何とか誤魔化さなきゃ。
「いや、お前を笑ったんじゃなくて……」
「ヨチヨチ」「ヨチヨチしてやれ」
「ぐふっ……ヨチヨチ」
「て、てめぇ!絶対殺すっ!」
ちょっ!
アマとキムが囁くから、つい口にしちゃったじゃねぇかよ。
終わった……俺の平穏な学生生活終わった。
って、2人を見たら、何ひと仕事終えた的な顔で親指立ててやがる。
「ってアマとキムが言ってるよ」
「っ!!てめぇら3人とも殺す」
「ちょっ裏切り者」
「ふざっ」
道連れにしてやった。
2人のせいなのに、俺もまた殺されるリストに含まれているのかは納得できないけれど、1人じゃないって素晴らしい。
「それくらいにせんか!若狭は職員さんに謝罪しろ」
「はっ!?巫山戯んな、早退する」
「何だと!?」
「おい、お前らも帰るぞ」
「「「「…………」」」」
「ッチ……クソがっ」
取り巻きに声を掛けたけど、みんな下を向いて無視している事に気づいた若狭は、顔真っ赤にして1人で帰っていった。
さすがの取り巻きも、状況のまずさを理解しているみたいだ。彼らの職業が何にしろ、学校と協会の両方を敵に回すのは愚かでしかないもんね。
「ごほんっ……えー本日はお疲れ様でした。先程小部屋で申し上げた通り、学校に戻り次第携帯端末を受け取りバーコードから登録をお願い致します。そこで個人ページを確認して、もし間違いがあった場合は栄にある支部まで御足労ですが起こし下さい。今回は喜ばしい事に36名全員がステータスを確認する事が出来、更に11名の職業持ちが出るという非常に優秀な結果でありました。この結果に慢心せず、更なる鍛錬をして頂けると幸いです。では長時間お疲れ様でした」
「高木さんありがとうございます。あーでは学校に戻るぞー!来る時に乗ったバスが来てるはずだから、それに順番に乗ってけ」
11名ってのは凄いね。
俺とアマキム、そして坊っちゃん若狭で4名で、他にあと7名もいるのか……
誰かシーカーいたら組んで欲しいけれど、さっきの若狭とのやり取りで、その可能性が消えた気がするな……
でもまぁとりあえずは、NINJAのスキル確認が先だから近くの訓練施設予約しなきゃだな。
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