第4話ーー31万円

 クッ!何で俺の名前は横川なんだよ……

 誰だよ俺が拾われた時の場所が、横に川が流れていたからって安易に横川なんて苗字にしやがって!

 このクラスでは後ろから3番目に呼ばれるとか、待っている時間が長くて怖い。


「なんか騒がしくないか?」


 アマの言葉に騒ぎが起きている方を見ると、浜岡っていう男が警官に両腕を掴まれていた。


「離せよっ!無実だっ!弁護士呼べよ」

「弁護士は呼んでやるが、職業に出ている以上無実はありえない」

「うるせぇ黙れっ」


 もしかしてこれは犯罪者的な職業が出たっぽいな。

 これも不思議な事の1つなんだけど、法律に違反する事を犯すと、職業が自動的にそれに固定される。裁判で判決が出て罪を償う事が終わると他に戻るんだけど、それ以外では隠しようがないらしい。


「レベル3のくせに無実なわけないだろうがっ」

「知らねえよっ」

「後の話は署で聞く……放火魔を連れてけ」

「誰か助けてくれよっ、先生っ」


 マジかよ……よりにもよって放火魔レベル3とか最悪だ。

 そういえば学区内で放火と見られる火事が数件あったけど、こいつだったのかよ……全部人のいない公園の納屋とかだったから、被害者は出てないからまだマシだけどさ。


 みんな冷たい目で見てるなー

 先生はゴミを見るような目で見てるし、仲良くしていた若狭とかまで無視してるよ……

 まぁ庇ったら一緒に疑われるからそれも当たり前だけどさ。


「あと5人か……」

「ヨコはアレだろ、ストーカー確実だろ」

「うむ、だが大丈夫だ安心しろ、ストーカーは被害者が訴えでない限りその場逮捕はないからな」

「はっ?んなわけないだろ!」


 何でストーカーが職業に出る前提なんだよ。失礼な!


「お前が如月先輩に告白した時の質問って、自分が調べた内容がおかしく思われない為の布石だろ?」

「そうそう、公の場で質問する事によって疑われないようにしたんだろ」

「なっ!」


 何でそんな事わかるんだよっ!

 アリバイは完璧だと思っていたのに……


「お前いつも帰り道先輩の家の前わざわざ通るだろ」

「朝晩のジョギングも通ってるだろ」


 な、なんで知ってるんだよ……

 はっ!違う、違うんだストーカーでは無い!断じて違う。俺は先輩の安全を確かめているだけだ、家の周りに不審者がいないかどうか、罠がないかどうかを。

 って、俺は誰に言い訳をしているんだよ……


「……違う」

「大丈夫だ、俺達以外はまだ知らないから」

「まぁそれも時間の問題だが」

「……クッ」


 ステータスは出て欲しいけど、ストーカーは嫌だ。


「まぁマジな話、ストーカーか記者とかじゃねぇか?」

「何で記者」

「そりゃ色々調べてるからだよ、もしくは探偵」


 2人に比べるとかなり格落ち感が激しいけど、まぁ職業が出てくれればそれでいいのかな?

 って、夢は大きくだ!


「横川っ!いないのか!?」

「あっ、います!」


 ちょっと話に夢中になっていたら呼ばれていたらしい。


「どうせ出ねえんだから行っても無駄だろ」

「だよなぁ」


 また絡んできたよ、無視だ無視。



 小部屋に入ると中には机があって、向かい合わせになるように椅子が3脚、スーツを着た人が2人いた。


「どうぞ座って下さいね」

「私は日本探索者協会名古屋支部探索者管理課課長の高木、こちらは課長補佐の大阪です。よろしくお願いしますね」

「横川一太です」

「はい、一応確認の為に生年月日と住所電話番号を言って貰えるかな」


 The役所って感じだなー

 公務員だから仕方ないんだろうけどさ。


「確認できました、ではこれからステータス表示をして頂きます。その際にも唱えて下さい、そうすると私達も確認出来るようになりますので。もちろん私達には守秘義務があるので内容を漏らしたりは一切しませんので安心して下さい」

「まぁ先程の犯罪者のような職業が出て来た場合は別となりますが……」


 いよいよだ……

 頼むっ!


「ではどうぞ」

「ステータス表示っ!」


 ◆

 横川一太 Age16

 job―[NlNJA Lv1]

 体力―E

 魔力―DD

 力 ―FFF

 知力―FFF

 器用―D

 敏捷―DDD

 精神―DD

 ◆

 固有スキル―火遁(Lv1)・闇遁(Lv1)・口寄せ(Lv1)・分身(Lv1)・刀剣術(Lv1)・手裏剣術(Lv1)・跳躍(Lv1)・毒耐性(Lv2)・麻痺耐性(Lv1)

 ◆


 出た!

 そして職業は……忍者ではなくてなぜ故にNINJA!?


「その様子だと出たようですね、おめでとうございます」

「開示は出来ますか?」

「あっはい、ではステータス開示」

「ありがとうございます」

「では拝見させて頂くのと、記録させて頂きますのでご了承下さい」


 僕が頷いて開示させると、頭を軽く下げながら覗き込んできた。


「これは……newjobかな?」

「はい、ワールドベースにも登録はないです」


 世界初職業なのか……

 これは喜んでいいのか、どうなのか悩むところだな。

 前例がないって事は、スキルは自分で確かめないと使い方がわからないって事だしな。


「横川くん、世界初職業となるのでスキルも開示をお願い出来ないかな?」

「あっ、もし君がシーカーになるのならスキル情報は隠匿したいだろう事は認識しているので、開示してくれるのならばスキル情報開示請求補償契約に従って、31万円を払う事を確約するけど」


 補佐さんが地面に置いていた黒カバンからA4サイズの書類を1枚取り出し、それに課長さんが署名とハンコを押している。


「もしこれを読んで納得がいったらサインと捺印をお願いします。親指で大丈夫だから」


 渡された書類を読むと、小難しい事がダラダラと書いてあった。

 要約すると、教えて貰った情報は世界と日本の協会が持つベースに登録するけど、君の名前は登録しないから安心してねって事のようだ。


 31万円か……

 なんか安いような気もするけれど、ここでこれから長い付き合いになるだろう探索者協会に恩を売っておくのもアリだよね。


「わかりました、サインします」

「おおっ!ありがとう」

「日本でシーカーの新職業とスキルなんて何十年ぶりだ!?」


 めちゃくちゃ喜んでるよ。

 日本固有シーカー職業で有名なのは侍や忍者かな。

 っとサインしてと……


「ではスキル開示」

「こ、これは……」

「凄い数だね……うん、これはなんて言うか……外国人っぽいね」


 そう、課長さんの言う通りなんだよね。

 外国人の憧れるジャパニメーションニンジャそのものだと思う。


 1つ1つのスキルに感嘆の声を上げながら、パソコンをカタカタと凄いスピードで打つ補佐さん。


「横川くんはこの職業に思い当たる事ある?」

「いや、僕はダンジョンでの捨て子なんですけど、拾ってくれたシーカーがアメリカ人だったらしいので、そのせいかな?くらいしか」

「あぁーごめん、嫌な事を考えさせちゃったね。でも捨て子確定ではなくて、何らかの理由で置いてかざるを得なかったんじゃないかな?」

「大丈夫です、気にしないでください」

「いや……うん、そのアメリカ人が憧れていたのかもね、NINJA」


 何この気まずい雰囲気……

 それにして何でなんだろうなー

 全く持って理由がわからん。


「はい、登録終了しました。では、このバーコードを持って帰ってね。学校に帰ったら先生の指示に従って、支給される携帯端末に探索者公式アプリをダウンロードして、その際にこのバーコードを読み込むと個人ページにいけるから。そこに31万円も振り込んでおくから確認してね」

「ご苦労さまでした」


 無事終わって良かったー

 早くあいつらにストーカーじゃない事を言わなければ!


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