Case.04 ユリ

〈Case.04 ユリ 12歳女性 小学生〉


【百合(白)の花言葉…純粋、無垢】


わ、許可でたんですか?よかったあ!

出るか不安だったんです。わたし、まだ大人じゃないから……。


……録音?あっ、先生が言ってたえらいひとに渡すやつですね!

ううん、大丈夫です。ちゃんと言えますよ。

もう撮ってるんですか?わかりました、じゃあ始めますね。



わたしが感情を捨てようと思ったのは、おにいちゃんがきっかけなんです。

やさしくて、いい人だったんです。頭が良くて、オタクだったから、お部屋におもしろいものがいーっぱいあって。いろーんなこと知ってて。わたしともいっぱい遊んでくれたんです。


……今はもう、いないんですけどね。

数年前に、自殺しちゃったんです。

おにいちゃん、言わなかったけれど……学校でいじめられてて……お金とかも、取ってくるように言われたりしてたって……そうおてがみに書いてありました。


……おにいちゃんは、怖がってたんです。

自分がいつか、恐れに駆られてお家のお金を盗むかもしれないって。

怒りに駆られていじめてきた人たちを殺して、パパやママに迷惑かけるかもしれないって……。


わたしもね。クラスのひとたち、あんまり好きじゃないの。

うるさいし、先生の言うこと聞かないし。

男の子は意地悪だし、女の子は私の方見て何か言ってるし……。

休み時間にご本よんでるのがいけないのかなあ。でも、休み時間って何してもいいと思わない?皆みたいにお外で遊ばなくたって……。


あ、話それちゃった。ごめんなさい。

それでね……わたしもうすぐ中学生なんです。

おにいちゃんが死んじゃった、中学生。

わたしもきっと……感情を怖がるようになる。

わたしもきっと……学校になじめない。

そう考えたら、中学の制服を見ても、サイズ合わせをしても、嫌だなって思うようになっちゃったんです。

それをママに言ったらすっごくすっごく悲しそうな顔をして、

「お兄ちゃんみたいに自殺しないでね」って言うんです。


……わたしね、ママが大好き。パパも大好き。

だから、わたしのことで悲しませたくないの。


だからねっ、先に感情をなんとかしちゃうことにしたの!

悲しみや怒りを取ってもらえれば、きっといじめられても、大丈夫。

私はきっと、パパもママも悲しませずに、おにいちゃんより先を生きられる!


……無理だよ、いじめられないように振舞うなんて。

わたしはね、ご本が大好き。おにいちゃんが好きだったものが好き。

それ以外はね、興味ないの……。

人に合わせるっていうのも、よくわかんないや。

だからね、だめなの。



……うん、以上です。

だからよろしくお願いします、せんせっ!




〈Case.05 カタバミへ続く〉

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