第10話 像を結ぶ少年1

それは、零香の初任務が行われた数日後、学校の下校時刻をとっくに過ぎた時間だった。


「おい、玲! 聞いてないぞ! 新しく来る奴がいるって!」


「ああ、情報早かったな。明日通達するつもりだったのに……また玲央からか? 光輝コウキ


光輝と呼ばれた少年は声をあらげ、玲に詰め寄る


「どういう事だ! 新人補充にしては会議でも一言もなかったし、早すぎねえか? 」


玲は作業の手を止め、光輝の方へ向く


「詳細は明日の予定なんだが……まあ、1人2人早くなったところで構わないだろう。1人は光輝もよく知ってる人物で、前々から目は付けていた。もう1人は今年入ったばかりの転科生だ。明日詳細を通達するから、追って待て」


「そんなこと言って、うまく丸め込めると思うなよ! 百歩譲って前々から目を付けていたやつはいいとしよう! だが! 今年入ったばかりの転科生って何だよ!うちは新人育成の場所じゃないんだよ。新人育成したかったら他でやれ! 玲だって、うちの恐ろしさはよく知ってるだろう? 入ってすぐの素人なんかに、うちの仕事が勤まるわけがない! 」


数秒の間が続く。玲は少し考えるそぶりをしてから答える


「わかった。つまり光輝は、今年の転科生のことを認めないと。そう言いたいんだな? 」


「そうだ」


「じゃあこうしよう。転科生相手に1つなんでもいい。テストをすることにしよう。内容はすべて光輝に任せる。俺は一切介入しない。うちの中で中々に頑固なお前が認めたとなれば、比較的皆も認めやすいはずだ。それでどうだ? 」


「……範囲は? 」


「この学校すべて」


「……殺して良いの? 」


「さすがに校内で死人は出したくないんだが」


「チッ。期限は? 」


「そうだな。沼渕ヌマブチが帰ってくるまでには納めておいてくれ。2人同時は面倒だ」


「了解。……叩きのめしてやるよ。転科生」


そうして夜の密約がなされ、夜は更けていった。その翌日。澪香は前と変わらない学校生活を過ごしていた。しかし、友也の態度は心なしか変わっていた。これも心を少し開いてくれたのだろうかと澪香は自己解釈することにした。

 授業は、今日になってやっと、当てられた質問を答えることができた。それもこれも玲のノートがけた外れだったからである。


その日の放課後


「山里、お疲れ」


「あ、高瀬くん。お疲れさま」


「とりあえず先に報告するわ。この前にいってきた任務あったろ? あの生体調査のやつ」


「う、うん」


「あれの報酬が今日振り込みなんだわ。一応、俺と博夢と3人でいってるから、報酬は3分割。報酬は計21万円相当になっているから、1人7万計算な。明細書いる? 」


「いや、1人7万円っておかしくない!? 」


「ああ、なんだそっち。別に多くないぜ。寧ろ安い方

方。7万だし」


「いや、多いよ! 私の昔のお小遣いより多いよ! 」


「いや、よく考えてみ。俺等は命かけてこの仕事をやらなきゃ行けない。今回だって例外じゃなく、戦闘だってしてる。命の危機にさらされたって言うのに7万だぞ? 玲と幸二なんか「やっぱ報告書書くのめんどくさい」何て言って報告書なしで報酬も無しだからな」


「そんなことあるの? 」


「いや、普通は全部書く。だって臨時収入も貰えるし。けど、玲は「俺今回特になんもしてないし。そんなはした金もらわなくても、余裕で生活できるわ。それに他の仕事がたまってるんだよ。そんなことでいちいち報告書書いてられるか。書きたきゃ幸二の名前だけにしとけ」って言うし、幸二は幸二で「いや、ほかに仕事はいって今それどころじゃない。書かなくても生きていけるし、それに……政府関係の人間が少しは困るところを見せてくれたって良いと思わないか? 」って言われたから、心の中真っ黒だった……」


友也は昨日を振り替える


「お疲れさま……。確かに、今日中村くんいなかったね、そういうことだったの……」


「そう。ちなみに、幸二も書類仕事に追われてるらしい」


「大変だね……」


「ああ、2人だけじゃないけど、どっちも比較的ワーカーホリックぎみだから。玲はまごうことなきワーカーホリックだけどな」


「意外だね。中村くん比較的サボりそうな感じなのに」


「ところがどっこい、いつも書類や任務に追われていて録に授業にも出られないぐらいのうちの学校トップを誇る最強の仕事人間だぞ」


「いや、ダメじゃん! 」


思わずつっこむ


「そうだけど、玲は仕事の効率バカ良くてな。ちょこちょこ授業に出てるぞ。そういうとこ、真面目だよな」


「……中村くんって、人間かな」


「仕事効率だけで見たら、人間はとっくの昔に卒業してる」


「だよね……」


苦笑いしか返せない


「けど、任務以外だと比較的、いやうちの学校でトップを争えるほどの普通のやつだよ。ただの優等生」


「……そうなの? 私、中村くんのことよく知らないから」


「……確かに、山里は玲の冷酷面しか見てないな……この後暇? 」


「ひ、暇だけど? 」


「じゃあ、寮に帰る前に、お茶でもするか? 」


そういって、目はちょっとからかっているが、行きなりのことに驚く


「うちの学校、個人部屋って訳じゃなけど、仕事量多いやつとか個人で仕事部屋与えられてるやつがいるんだよ。まあ、申請すれば誰でも持てるんだけどね」


「そんな学校無いよ!! 」


「いや、作るときに誰かが、「どうせ普通の学校じゃないんだし、普通の学校じゃない機能もいくつかいれてみるか」ってことで色々作ったらしい。うちの学校、設備はそこらの学校より何10倍もいいぞ」


「よすぎない!? 」


「あ、やっぱり? 」


そこは友也も自覚していたようだ。


「まあ、そんなことはさておき、来る? 」


澪香は少し考えて、玲のこと知りたさでついていくことにした。


「う、うん」


「はーい、1名様ご案内ってね」


そういった、友也の顔はちょっと楽しそうだった。数分もせずに、部屋に着いた。


「ゴメンねー。今部屋散らかってるんだけど、話ぐらいなら全然問題ないから」


「う、うん。大丈夫、気にしないよ? 」


「そう言ってくれて助かるわー」


と笑いながら、ドアを開ける。中を見て零香は驚く。アニメでしか見たことの無いような書類のタワーがつまれている。それも1つや2つではなかった。しかし、つまれているだけで確かに話ぐらいならできそうである


「いやー、この前ちょうど調査報告が入ってさ。俺の能力知ってるだろ? 俺、潜入捜査もしてたりするから」


そういって、笑いながら言う。


「いや、笑い事の量じゃないんだけど……」


「もう捜査報告の書類は提出もしてるし、後は資料室で保管に行くだけ。ただ、持っていくのが面倒でさ。空いた時間に少しずつやってんの」


そういって、そのまま奥の机に近づく。


「安心してよ。ここは扉を閉めたら完全防音。誰も聞く人はいないんだから、さあ、話すよ。玲について、俺もそんなに知ってる訳じゃないから少しだけになるんだけどさ」







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