第9話 明察の少年6
「もう一回いってやろうか? 俺が言うなって言ったんだ」
「どうして……」
「あいつの能力名だよ。自分で付けたんだ。あの名前、こんな能力要らないって。どうせなら、憎める名前にするって」
「憎める名前……」
「以外と多かったりするぞ。似たような名前を調べて、一番憎める名前にするやつ」
「それでも、憎める名前にするって……」
「誰しもが山里とは違うんだよ。あいつは、この能力が発症したときに親が、ギャンブル系に溺れてたからな。ここに来たときでもそうだろ。あいつは大人の汚い部分を多く見てからここに来た。しかも、ノンフィルター。人の本音って言うのは、思ったよりもどす黒いのさ。それに、心の中なんざ見てて気持ちの良いものなんか殆どない。子どもの頃だぞ、絶望もするさ」
「それが、高瀬くんの言ってた誰にも言えない暗い過去ってこと」
「友也にとってはそれなんじゃないか? 俺だって、友也の全部を把握している訳じゃない。だが、把握している限りはそれだ。お望み通り、友也のことを知れたぞ。コレで満足か? 」
「……」
「いっとくけど、友也が特別じゃないんだぞ。ここではそういうやつの集まりって言う部分もある。誰しもが絶望を受け入れてここにいる。ここに馴染みたかったら、早く希望を捨てることだな。ここでは希望は、雲の上の存在だ。地獄であるここには届くわけもない」
「……捨てないよ」
「……なにをだ」
「私は、捨てないよ。希望」
「……勝手にしろ。ただし、お前に付き合っている暇は俺にはない。そろそろ博夢が帰ってくるしお守りは交代だ」
玲がそう言うと本当に博夢たちが帰ってきた。
「ただいま。お待たせ、玲」
「おう。もう良いのか? 」
「おう。悪いな、山里のこと頼んで」
「別に、じゃあさっさと終わらせてこい」
「おう。いこうか、山里」
「……うん」
「じゃあな、友也」
「おう。幸二も後で」
そういって、いく3人を二人は見送った。
「そいつが例の男か……帰ってから一応本部に紹介かけるか」
「そうだな。じゃあ帰ろうぜ」
「ああ」
「それは困りますねえ。君たち」
一瞬の隙に、玲達の背後に男が出現した。落ち着いた感じでスーツを来ている。同じスーツでも、月浪とはまた違った雰囲気になっている
「ッ! 誰だ! 」
二人は、いち早く距離をとる
「そのお二人を、引き取りに来たものです」
「へえ、ってことはこいつら二人の上の人間か。ちょうど良い、連れて帰る人間が3人になったって訳だ。見たところ、空間跳躍系の能力って所か」
「ええ、そうですよ。あなた達とは、対当したくないのですが。まあ良いです、その2人は、こちらで引き取らせて貰います」
そういって、指をならすと、あっという間に、2人が消えた。
「離れたところでもお手の物って分けね。こいつは厄介な敵だな」
「ですから、対当する気は無いといったでしょう。私の役目はコレで終わりですので。退散させていただきます」
「待て! 」
玲が引き留めようとするも、止まるわけもなく消えた
「ッチ。コレだから空間跳躍系の相手は嫌いなんだよ。玲、追うか? 」
「いや、目的も分からん。とりあえずは追わない。けど、調べはする。幸二」
「ん? 」
「とりあえずこの事は他言無用で、まだ……終わらない気がするから」
「……了解」
やり取りを終了させるとまもなく玲達は帰った。その数時間後、
「……コレで終わりっと」
3人は生体調査も終わりがけになっていた。
「よし、報告は俺がしとくから2人は帰って良いよ」
「お、サンキュー友也」
「おう、その代わり、帰還の能力発動は、博夢に任せるー」
「どのみち、俺に任せてたろうが」
そういいつつも、異空間から転送キットを取り出していく
「いやー、博夢がいるとなにも持たなくて良いから楽だよな」
「人を荷物持ちみたいに言うな」
「悪かったって」
「悪びれるつもり無いだろ」
澪香は友也の顔をちらりと見る。口は悪いのに、友也の顔は、澪香と話しているときより楽しそうだ。そんなことを考えていると当然友也はわかるわけで、
「なに? 楽しいけど」
「急に、心の疑問を返さないでよ! 」
「いや、どうせ玲から聞いてるんだろ? 俺の能力。
本当に、呪いだと思った。こんな力なけりゃ良いと何度も思ったし、それを思うたびに、この力は俺自身のものなんだと絶望した。でも、今はそんなにかな」
「どうして? 」
「山里はすぐ疑問が来るな」
「え、ごめんね! 今の聞かなかったことにして貰っても」
「そういうところだよ」
「え? 」
「俺は確かに、絶望した。大人ってのはズルいもんでな、こっちはわかるって言うのに、本音を隠して、良いように言う。心はぼろっかすに言ってんのに。化け物なんて、悪魔なんていくらでも聞いてきた。でも、ここにいるやつらは、玲は、博夢は、月浪先生達は本音をいってくれるし、何より、化け物とかそういうのはここでは聞かないから……外よりは断然生きやすいんだよ。俺にとっては」
「……そっか」
「そう。その点、山里のそう言うところ案外嫌いじゃないぜ、すぐ疑問が口に出るとこ。まあ、同じ理由で、たまにうざいけど」
まあ、以降はボソッとだったが確実に聞こえている
「聞こえてるよ! 高瀬くん! 」
「おっと、悪いな」
「悪びれてないじゃん! 」
「おい、話してる間に、設営終わり」
「サンキュー。俺一番乗り! 」
一目散に友也がかけていく
「おい! 友也! ……全く、しかしよかったな山里。」
「何が? 」
「友也があっちの性格でふざけんのは中々に心を開いてくれた証拠だぞ」
「そうなの! 」
「ああ、さあ早く行け。学校の校門前にセットしてあるから」
「うん! ありがとう西宮くん! 」
「おう」
そして、澪香も扉を潜る
「山里ね……全然似てないな……光に」
また、同時刻。ある教室では、玲が先程の緊急の報告書を書き終えていた。その机の上の写真たてに玲は目を落とす
「あっちもそろそろ終わりかな。……光、お前なら、どうしてた? 」
それは、永久に答えが返ってこない疑問文だった。
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