第5話 明察の少年2
次の朝澪香が教室に行くと、友也がいた。見たことがない男子生徒と話をしている。澪香が席につくと同時に話しは終わったようだ。
「じゃねー。また後で」
「おう。じゃあな」
そう言って、男子生徒は去っていく。
「おう、おはよ。山里」
相変わらずの良い笑顔だ。
「お、おはよう。さっきの人は……? 」
「ああ、隣のクラスのやつ。
「へー」
「おう。そう言えば、今日玲と復習するって聞いたけど」
「ああ、HR終わったら、行く感じ」
「そっか。頑張れよ! 」
「……うん! 」
できれば来ないでほしいと切実に思ったが、それは恐らく無理な相談だろう。HRが終わり次第、すぐに図書室へと向かう。
図書室へと行くと、案の定玲が待っていた。HRでは見かけていないが。等の本人は、気にしていないように本を読んでいた。……絵になるのが癪なのである
「来たか、山里」
そういいながら本を閉じる。
「き、来たよ」
やっぱり、澪香にとっては、少し苦手だ。
「早速だが、山里は能力についてどこまで理解している? 」
「く……空想上のものかと」
「そっからか……」
「ご、ごめんなさい」
玲はため息をつき、少し考えてから説明を始めた。
「まず、俺等の歴史からだな。少なくともヨーロッパには中世からいたとされている。」
「そ、そんな前からいたの……?」
「まあな、中世では動きが活発でまだ表立っていた。しかし、誤処刑も多かったために隔離することにした。実際能力者じゃなかった人も多いと聞いている。ま、そもそも能力者だと捕まらないといった方が正しいんだけど」
「じゃ、じゃあ能力者の中には偉人もいたりするの? 」
「まあ、いたはいたとされてるんじゃないか? 今となっては確かめようがない」
聞かれた質問は淡々と返される。
「そっか、でもそこから歴史だとずいぶん昔からいるんだね」
「存在が確認されているのはここからだ。現時点でも調査中と言う項目は多い。しかし、能力特別科ができた理由の1つはそれだ。そっちの方が俺たちを保護できるからと言う名目上能力特別科はできた。だが、実際はもう1つの理由がでかいからだろうな」
「もう1つの理由? 」
「俺等を隔離し、いつでも処分できるようにだよ。俺等は人並み以上の何かしらの能力がある。それが、俺等がここにいる理由で、普通の人が煙たがる理由になる」
「……じゃあ私も、その何かしらの能力があるの? 」
玲は少し間をおいてから返す
「わからん」
「……え? 」
「わからん。2度も言わすな」
澪香の思考は停止した。そして、少し考えた後理解もできず玲に言った
「わからんって、そんな曖昧な理由でつれてこられたんですか!? 」
「ああ。実に曖昧だよ。それとも、偶然って言った方がいい? 」
「どっちでも良いです! どのみち曖昧な答えじゃないですか! 」
「そうだな。だが、そろそろ煩い。落ち着け、ここは図書室だぞ」
「そ、それはすみません。ですが、私はその曖昧な答えでここにつれてこられたんですか!? 」
玲は目線を合わせず答える。
「ま、しょうがないな。今ここにいるのは偶然でも、たまたまでもない。能力が出てしまうということが、病院の検査か何かで引っ掛かったんだろう? 」
「え、実は病院とかでも検査できるの? 」
思わず、その言葉に反応する。
「ああ。気づいていないだけで病院系統で必ず検査されているぞ。実はの話だがな」
「知らなかったんですけど!? 」
「ま、知らされていないからな。」
「何でそんな落ち着いていられるんですか!? 」
「逆に何で落ち着いてないんだ? 」
今はその冷静さが澪香のイライラを募らせてしまう。
玲はその事に気づきながらも、無視をする。
「……私が、私がこの数週間、どんな気持ちで過ごしたか、分かりますか? 」
「知らん。言われてないしな。」
ズバッと返す。
「……もういいです。……何で、私がこんな目に遭わなくちゃ行けないのよ。」
その一言を玲は聞き逃さなかった。
「それ、他の奴等に言わない方が良いぞ。その一言は、これで最後にしろ」
「え……? 」
玲はノートを投げて寄越す。
「それ見たら、今までの範囲は分かる。それで勉強しろ。お前は知らないから教えておいてやる。病院の検査なんかで見つかるやつは少ない。殆どは、急に発祥して訳が分からないままここに連れてこられる。言ったのが俺で良かったな。金輪際その事は言葉に出すなよ」
「……」
澪香は言葉をはっせなかった。
「ま、そういうことだ。そのノート見ても分からんのは先生に質問でもしろ。俺は仕事思い出したから、じゃ」
そう言って、玲は図書室を出る。
教室に戻りたい気分ではなく、図書室で勉強した。玲から投げられたノートを見ると、分かりやすく、時間の問題で、最後まではいかなかったが、ある程度の範囲まで、すすんだ。やがて、放課後になり、寮に帰ろうとし、昇降口に向かった。
「あれ、山里じゃん。玲との勉強終わったの? 」
「あ、高瀬くん……」
友也を見ると何も言えなくなった。高瀬はその表情を見て何かを感じたのだろ。すぐ聞いてきた
「玲と何かあった? 」
「……うん。ちょっと、ね」
「俺でよければ、話聞くけど? 」
そういって、人当たりの良い笑みをうかべた。澪香はその言葉に甘えることにし、友也についていった。
たどり着いたのは郊外の公園だった。
「で、何があったの? 」
「うん。」
そして、今日あったことを話した。
「そんなことがあったの。玲も言い方ストレートだしな」
「うん。……私が、ここに来たのは偶然だって、言われた。」
「ストレートだな。」
友也は少し困ったような顔で、ズバッと言う。
「うん。……」
「まあ、本当に、言ったのが玲で良かったな……。」
「え……」
「たとえば、教室で、そんなこと言った暁には、明日には山里の席はなかったと思う」
その一言に思わず目をぱちくりさせる
「……ウソだよね? 」
「本当」
「……」
もうなにも言えなかった。その事を察したのか、友也は話を続ける。
「ここは、お前みたいに恵まれた人間は早々いないから、例えばあの子」
そういって、目の前を通りすぎていこうとする小学生を指差す。
「あの子が、どうかしたの……? 」
「あの子は多分、両親の前で発症してしまい、そして両親に気味悪がられ、半ば押し付けられるようにここへとつれてこられた。」
「……」
「神崎は、能力を上手く隠せていたみたいだが、友人のピンチでそれを使い、恐怖の目で見られた。」
「……」
友也は澪香を気にせず話を続ける
「今、可哀想って、思った? 残念ながら、うちでそれは間違いなんだ。ここではそういうのが普通だ。傷の舐め合いって訳じゃないけど俺等はそういうやつらの集まり。ここで誰からも直接拒絶されていない山里なんかは、恵まれているんだよ。」
「……私、そんなこと、全然知らなかった」
「当たり前だよ、誰も言わないんだから。でも、これでわかっただろ? ここでは、無知=生きていけないだよ。次から気を付けろよ? 」
「……うん。」
澪香は浮かない顔である。
「ま、急に言われてもついていけないよな。誰だって混乱するさ。それは玲もわかってる。明日、謝れ?玲だし、許してくれるさ」
「……うん。ありがとう」
そういって、澪香は微笑んだ。
「笑えるなら、もう大丈夫だね。さ、帰ろうぜ」
「……うん。ねえ、聞いて良い? 」
「何を? 」
「高瀬くんは、能力者が生まれたこと、私たちが今ここにいること、偶然だと思う? 」
「んー、偶然か。どうだろうな。少なくとも俺は、蓋然、かな? 」
「蓋然? 」
「ああ。能力者が生まれたのは蓋然、俺等が生まれたのは偶然、俺等が今ここにいるのは必然。かな」
それからまもなく、澪香を寮に送り届けた友也はすぐさま、玲のもとへと向かった。
案の定玲はいつもの場所にいた。
「やっぱり、ここにいた。」
「……友也か」
「はーい。友也君でーす。聞いたよー? 山里にきついこと言ったね」
「……どうだって良いだろ。そんなこと」
友也は玲の前の席へと腰かける
「明日からどうすんの? 」
「しばらく、教室いかないし」
「気まずいんだ。山里と」
「バカ言うな。仕事が溜まってるだけだ」
机の上には、言うほど書類は溜まっていない。
「ふーん。ま、さっさと仲直りしなよ? 」
「ほっとけ」
そういって、玲はそっぽを向いた。玲は、しばらくしてから言葉を続ける
「それより、明日は頼んだぞ。」
そういって、目線は机の上にある写真たてへと、目は注がれた。
「わかってるよ。」
やはり、玲といるときの友也の目は笑っていないことが多い。だが、玲はそんなこと気にしている様子は1つもなかった。話が終わると友也は教室を出ていった。玲の手には、澪香宛の1つの書類が来ていた。
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