第4話 明察の少年1
それから数日、澪香はうろたえながらも、毎日を過ごしている。明里がいるお陰で、なんとか学校に来ようと思えるのだ。あの日以来、おかしいと思えるような光景はほとんど見ていない。そう、授業中を除けば、
「はーい。授業始まーす。日直、号令」
「はい。起立、礼、着席」
みんな着席していく。
「じゃ、前回の復習から。じゃあ、教科書6ページから開いて」
そう言って、日栄の授業が始まる。ここまでは、普通の授業なのだ。
「じゃあ、前回の復習ね。”第1次能力者パニック”の所から」
「……」
訳の分からない単語を出すのは止めてほしい。そう、ここでは、普通教科とは別に、こういう変な科目もあるのだ。普通教科も、座学は普通科の時よりも、スピードが早く、ついていくのが精一杯だった。問題は、体育もあった。
「はい。じゃあ今日は、新学期間もないと言うことで、”護身術”の復習をしまーす。」
教科担当の一人である高橋は、笑顔で、とんでもないことを言う。体育の授業とは、こんなものだっただろうか……嫌、明らかにスポーツがない。
ちなみに、もう一人の教科担当である月浪は普通に、訓練と変わらないような授業になるらしい。
困ったときに、いつも助けてくれるのが、友也である。
「山里ー、さっきの範囲分かった? 分かったところから、復習しない? 」
「す、する。ありがとう! 」
それは、体育でも変わらず
「山里。できそう? できるところから少しずつやっていこうか」
友也は絶妙なタイミングで澪香をフォローする。
友也には、それに加え、社交性があり、いつも、誰かといるような気がする。特に、毎朝同じクラスの、玲、前田、西宮という3人の誰かが、ランダムで話しかけているのを見かける。思わず澪香は、明里と話す
「高瀬くん。凄いね、毎日誰かが話しかけてるよ……」
「あー。高瀬くんだからね。あの3人以外にも、いろんな人が話しかけてるのを見るよ」
「そっか。やっぱり、高瀬くんは凄いな」
「誰が、凄いって? 」
明里と話していると、後ろから、友也が話しかけてきた。
「た、高瀬くん!? 話、終わったの? 」
「おう。朝の挨拶とあんまり変わらないし。すぐ終わるよ」
そう言って、友也は笑う。朝、友也と話したは良いが、授業が分からないまま、1日がたった。澪香は教室に残って、1人勉強をしていた。今日は何となく、1人で、勉強したい気分だったのである。すると、玲が教室に入ってきた。確か、今日も1日教室には顔を出していないはずである。
「何だ、お前か……」
声には出さないが、何で居るんだと目が言っている。
一瞬で目線をそらすと、ため息をついて、自分の机へと向かう。
「あ、えと……」
玲は、自分のロッカーから教科書を1つ取り出すとちらりと澪香の方を見る。
「それ、今日の授業範囲か? 」
「う、ううん。前々回辺りの復習……」
「だろうな。今日、司馬先生だったろ。司馬先生、分かりやすさは、平均より、2倍くらいだけど、進むスピードは3倍くらいと、スピードの方が早いから」
相変わらず、人の心をグサグサ指していくのが得意のようだ。
「で、その範囲は理解してんの? 」
「ま、まだ……」
「そう。……明日なら、見てやれるけど? 」
「何を? 」
「勉強以外なんかあんの? 」
心なしか、初対面の時より、少しだけ優しい。と、思いたい。
「お、怒ってない……? それに、今日居なかったけど……」
「俺をどういう人物としてとらえてるかは知らないけど、会って数日の人間に怒る趣味はない。んでもって、俺は学年1位だから勉強の心配はされなくても大丈夫だ」
興味のなさそうな顔をしているが、本心のようだ。ここは彼に頼んでみるのもありかと思い、澪香はお願いする。
「よろしく、お願いします」
「ん。じゃあ、明日朝のHR終わり次第、図書室な。場所は教えたろ? 俺は直接図書室に向かうから、教室から案内はしてやらんぞ」
「え! 朝!!」
「朝。お前の学力で、授業についていけるとは思ってない。先生に話せば、月浪先生には話しておくから、気にせず来い。じゃあな」
用件だけ伝えると、玲はさっさと、帰っていった。
「う、嘘……」
澪香は1人教室に取り残される。一方の玲は、別の教室へとたどり着いた。中には友也がいる。
「玲は優しいねー。仕事、まだこれだけあるのに、あの子に付き合ってあげるとか。ほっておくと思った」
そこにいる友也はいつも教室で見る友也とは違い、目が笑っていない。玲は気にせずに、奥の事務机の上に、山積みになっている書類を手に取る。
「茶化すな。ただの気まぐれだ。それより、何故ここにいる? 緊急の用件か? 」
「そういうのじゃなく、ただの質問。何であの子、ここにいるの? 意味が分からないくらい”なにも知らない”」
「知らん。政府が勝手にほりこんで来たんだ。俺の知る所じゃない。」
「ふーん。でも、心当たりはある。俺的にはその心当たりが知りたいな」
そう言って、興味は完全にそちらへと移る。
「友也が知らなくていいことだ。どうせ後で知るだろう。話の内容を知ってるなら分かるだろ? 明日は教育係はお休み。1日自由にして良いよ。」
「はーい。……あの子は、玲のお気に入り? 」
友也はもう1つの本題を聞く。玲は、書類を片付けながら答える。
「まさか。」
「ふーん。じゃ、あの子に構うのはあの子が
一瞬玲の手が止まる。
「図星かな? 親友の妹だからって、そんなに過保護になるの? 」
「……まさか、俺が親友の妹だからって、構う理由になるとでも? ただの気まぐれだよ。」
少しの間、沈黙が続く。先に折れたのは友也だった。
「……いまはそれで良いや。玲って、そう言うところ頑固だし。だけど、いつか聞かせて貰うからね。」
「そのいつかが来れば良いな。 」
「俺の根拠のない勘だけど、多分来るかな? 」
「そうか、来ると良いな。」
「はいはい。じゃあまたねー」
そういって、教室を出ていこうとする。
「友也の事だから大丈夫だと思うけど、出ていくとき、気を付けろよ」
そういうと、友也は笑う。
「誰にいってんの? 大丈夫に決まってるじゃん」
玲の無言を肯定と受けとり、友也は外へ出る。友也の目には、いつもと違い光がともっていなかった。
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