第2話 能力

生き地獄という意味がわからない澪香は首をかしげる。それを予想していたように、玲は続けた。


「まあ、時期に分かるだろう。このまままっすぐ行けば学校だ。職員室までは案内してやる。そっから先は月浪先生に聞け」


それだけ言うと、またもや澪香を置いて先に行く。

澪香も慌てて玲を追う。

道中は基本的に沈黙だった。何を話かけていいものやらわからない澪香は黙って玲について行く。

学校には、以外と早くついた。


「現在時刻七時四十五分頃か、ほぼちょうど良い時間だ。一応ここからは場所覚えろよ。」


「は、はい。」


言われた通りの教室の場所などを大まかに覚えていく。主要教室を教えて貰ったと同時に職員室についた。玲は、躊躇なく扉を開ける。


「失礼します。月浪先生いますか? 」


「来たか、ありがとな玲。戻って良いぞ」


それを聞くと、玲はうなずいて職員室を出る。澪香は月浪に呼ばれる。


「ケーイ。この子誰―? 」


先生より先に、別の先生が話しかけてきた。


「この前職員会議で言ったはずだ。アオ。昨日付けで能力特別科こっちに転科となった山里澪香だ。配属は4組になる」


「あー。そういえば、言ってたような……。とにかくは、新しい生徒さんか。始めまして日栄 碧ヒエイ アオです。1組の担任してます。よろしく」


そう言い、人当たりの良い笑みを浮かべる


「改めて、昨日自己紹介したから要らないと思うが、月浪だ。4組の担任は俺。教師つっても、少ないから、すぐ覚えられるだろう。普通科と違って、生徒数も少ない」


そう言いながら、指をさす。指した方には、糸目の眠そうに立ってる白衣の人がいた


「2組の担任はあいつ。梶湊カジ ミナト。養護教諭も担当してるから、怪我したりしたらあいつを探せ。HRが終わったら、基本保健室の方にいる」


「よろしく。」


「次行くぞ。その隣。メガネをかけていて、キリッとしている方が、司馬 鋭司シバ エイジ。3組の担任だ。いかにも出来そうって顔してるが、昔はめんどくさかった。」


「酷くないですか! 」


咳払いをし、続ける


「司馬です。わからないことがあれば、聞いてくださいね。月浪先生の手を煩わせないように」


すぐさま、月浪先生が訂正する。


「訂正。今もめんどくさい。最後、もう1人のメガネかけている、ホワッとしてる方。5組の担任高橋新太タカハシ アラタだ。今年は言ったばっかの新任だが、ここのOBだから特に問題は無し」


「よろしくね。高橋です。君の同級生に、俺の弟がいるから新太先生で構わないよ。」


「2年の担当はこの5人だ。他の学年とはそれぞれ職員室が違うから、とりあえずはこの5人の教師を覚えといてくれ」


「は、はい。」


月浪は時刻を確認する。


「以外と時間あるな。何か質問とかあるか?ある程度は答えてやれるだろう」


澪香は少し考えた。わからないことと言われても、わからないことだらけだ。


「ここは、何なんですか? 」


「能力特別科だよ。日本に7校あるうちの1校だ。聞こえは良いが、実際は、常人とはかけ離れた能力をもつ人間たちが集められ、学校を中心に作られた都市だと思ってくれれば良い」


そう言いながら、右手を前に出す。


「さわるなよ。」


そういった瞬間、月浪の右腕は猫の手になった。


「こういったことができる人間たちが集められて、ここにいる。」


澪香は目の前のことが、信じられなかった。

手品に近いものだろうか。

考えている間に、月浪の腕は、人間の腕に戻っている


「他にも異なる能力をもつ人間たちがここにはいる。能力特別科とはそういう場所だ。」


月浪の目は、まっすぐ澪香を見ている。嘘はついていない。澪香も信じるしかなかった。


「今まで、そんなこと知らなかったんですが」


「だろうな。俺等のことは普通の人間には、二十歳になるまで知らされることはない。二十歳になれば無条件で教えられる。職場しかり、家で親から教えられたり、学校で教えられたり、成人式なんかの行事でも知らされることがあるらしい。成人してる奴はみんな知ってる。二十歳まではなにも知らされない。そうでないと、自分の子どもが関わってしまうからだろうな」


気分が重くなる。月浪は、自分達の事を普通に教えてくれる。気にしていないように


「悪いな。本来なら、ここの事を説明していたり、能力が発祥してからここに来るやつらが殆どだが、山里の場合、能力が発祥しているわけでも、ここを説明しているわけでもなく、ここに連れてきてしまっている。返してやることはできないが、最大限ここに慣れるためのサポートはしてやりたいと思っている。何かあったら、いつでもここに来い」


澪香は、声を絞り出すことが精一杯だった


「はい」


「よし。そろそろ良い時間だ。教師に行くぞ。今日中に教科書類なんかは届くだろう。今日は隣のやつに見せてもらえ。」


「はい」


澪香は、次は、月浪先生のあとをついていく。

生徒数は本当に少なく、ろうかを歩いても、すれ違う生徒は殆どいなかった。

やがて教室につく


「お前ら-。ちょっと早いけど席つけ」


生徒達はすぐさまそれぞれの席につく。いように空席が多く感じる


「昨日話しただろ。昨日付けで、能力特別科に転科した山里澪香だ。わからないことが多くて不安だろうから、色々教えてやれ」


「よ、よろしくお願いします。」


「今日の欠席は? 」


すぐさま、少年が答える。


「玲と博夢がいません」


「聞いてる、ありがとな。じゃあ、山里の席はあそこ。一番後ろの窓側。あそこは空席になってるから」


「は、はい」


「じゃあ、連絡事項無しだから一時間目の準備しとけよ」


そう言って、出席簿を書いたら出ていく月浪

月浪が出ていくと少年が話しかけてきた


「俺、高瀬 友也タカセ ユウヤ! よろしく」


人懐っこそうな笑みを浮かべて自己紹介してきたのは、真ん中くらいに座っていた男の子だった。


「は、はい。よろしくお願いします」


「なに固くなってんの?俺等タメだよ。タメで良いよ」


そう言って笑っているが、目の多くは笑っていない。澪香はそれに気づかず、話を続けた。


「う、うん。ありがとう高瀬くん」


「ついでに何人か紹介しようかな? その方が早く馴染めるし、俺の右隣、つんとしてる女の子が神崎 真由美カンザキ マユミ


「……」


言葉は返ってこなかったが、ペコリとお辞儀を返してくれる。


「そんで、俺の左隣、ロングの髪の子が長月 明里ナガツキ アカリ


「よろしくね。明里で良いよ」


そう言って、笑って手を振り替えしてくれた。


「本当だったら、山里ちゃんの隣は博夢なんだけど今いないし……、あ、俺の教科書使って良いよ。」


そう言って、今日の授業分であるだろう教科書を差し出す。


「え、良いよ。高瀬くんが見れなくなるし」


「大丈夫だって。先生には言っとくし。」


そう言って、教科書を半ば無理矢理澪香に押し付け、友也は教室を出た。

そして、その日1日、友也は教室に戻ってこなかった。

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