昼夢

@zest_4147

昼夢

8月16日 13時32分

蝉の声と風の音に誘われるがままに

僕は眠りにおちた


見たことのない風景

ここはどこだろうか?

先程までは昼間だったはずだが

あたりはすっかり暗くなり

僕の座るベンチを優しく照らす街灯が

何故か寂しく思えた

夢なのは間違いない

そう思えたからだろうか

明るいベンチを離れ

暗がりの中に歩きだした

しばらくすると車が一台やってくる

僕は車を避けようと端に寄った

だが、僕の前で車が停まった

運転席にも後部座席にも誰もいない

不思議なこともあるもんだ

でも、これは夢だから


暑い、、

どうやら少し寝ていたようだ

相変わらず蝉の声が響いている

少し開けていた窓から風が入り込む

僕はまた眠りに誘われた


ここは先程のベンチだろうか?

あたりは暗い

また夢をみているようだ

僕はベンチから街灯をみつめていた

すると車がやってきて僕の前で停まり

後ろのドアが開いた

誰か降りてくる、、

女性だ、、80代くらいか?

その女性が僕の隣に座ると

ひとりでにドアが閉まり

無人の車は去っていった

怖いという気持ちはなかった

夢だからだろうか?

ただ懐かしいそんな気分にはなった


瞼が重い

蝉の声が小さくなった気がする

窓から入ってくる風は

変わらない心地よさだった


気がつくとまたベンチに座っていた

あたりは暗く

少し不気味な感じがするはずなのに

そんな気持ちにはならなかった

当たり前のように車を待つ

やはり、来た、、

運転手不在の車が僕の前で停まる

この前の女性が降りてくると思ったが

今度は60代くらいの女性が

降りてきた

僕の隣に座る

何か会話をした気がするが

覚えていない

ただ、楽しい時間だった

それしか思い出せない


空はオレンジ色にそまっていた

蝉の声がしない

窓から入る風の音が大きく聞こえた

まだ寝足りない


またベンチを訪れた

いや、夢の中だから訪れた

というのは少し違うかもしれない

続きをみたいと願ったのだろうか?

わからない、、

ただただ車を待つ

会話の内容すら覚えていないのに

無性に会いたかった

中々来ない

その間、あの女性のことを

思い出そうとしていた

顔は?声は?名前は?

わからない

それなのに会いたいと思うのも夢だからだろう

気づいたら隣に女性が座っていた

40代くらいだろうか?

前にあった2人と雰囲気が似ている

ずっと側にいたいと思うのは

何故なんだろう


着信音で目が覚めた

不在着信3件

どれも友人からだった

時刻は23時17分

今日は何か約束でもしてたっけ?

わからない、眠い、、


いつものベンチ

だが、少し様子が違っていた

見慣れない風景

住宅地だろうか?

古い家が何軒か建っている

前からあっただろうか?

気づかなかっただけか?

そんなことばかり考えていると

20代くらいの女性が隣に座っていた

今日は笑顔を見せてくれた

今日は?

前にあった女性は皆違う人だったはず

なのにこの女性達が同一人物だと感じた


着信音、、

しつこい

友人からの不在着信

いきなり現実に引き戻される

用事があるのはわかったから、、

今はもうすこしだけ、、、


ベンチがない

かわりに住宅地までの道があった

とりあえず歩いてみる

何軒か見て回ると

奥に一際目立つ古い家があった

明らかにこの時代のものとは思えない

とにかく古い

中を覗くと

18歳くらいの女の子の姿があった

いつも会いに来てくれてた人だ

何故かそう思えた

家を覗く僕に気づいた彼女は

僕を家に招きいれた

ここからの会話は覚えている

会う度に若返るのは僕と同じ時間を

過ごしたいと神に願ったらしい

この歳ではなにかと不自由だからと

だが、そんなことはどうでもいい

いつのまにか彼女に対して心を

開いていたようだ

彼女もそうだろう

若返ってまで僕と新しい時間を歩もうとしている

こんなに嬉しいことはない


縁側に並んで座った

暗かった景色が月明かりに照らされていく

彼女の声は僕に安心感を与えてくれる

「これからはずっと一緒に...」

僕の言葉を遮るように彼女は言う

「一緒にはいれない」

「なぜ?」

「あなたには帰る所があるから」

「ここが僕の帰る場所だよ」

「そうじゃないの」

「どうしたら一緒になれる?」

「貴方の帰る場所を燃やして」

彼女が指を指す方をみると

僕の家があった

僕は立ち上がりうなずいて

落ちていたライターを拾う

彼女と手を繋ぎゆっくりと歩き出した

僕の家では家族達が寝ているだろう

しかし、そこにはなんの情もわかず

家に火を放つことに躊躇いはなかった

玄関前に積まれた新聞紙に火をつける

どんどん広がる火は

僕達の門出を祝うようだ

家を包む火が夜空をオレンジ色に

染め上げる

ふと彼女をみると冷たい笑みを浮かべていた

それをみて僕も笑った


暑い、、

蝉の声が騒がしい

窓から入る風が外の熱気を運んでくる

時計をみる

8月16日 14時51分

1時間半くらいしか経っていない

背中にびっしょりと汗をかいている

先程までのことを思い返す

怖かったような愛おしかったような

朧げな感覚

途中からは現実にも思えたし不思議だ

体を起こそうとしたとき不意に

涙が溢れた

その涙が恐怖なのか愛情なのか

わからない

ただ、頬を伝う涙は

彼女の存在を証明していた

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